バルギウスとリリアナの対話です
ネネと他愛無い話をしていると、人影が部屋の中に入ってくる。
「ん?」
「失礼します。」
「え・・・ムーア先生!?」
入ってきたのはムーアだった。
「バルギウス様。リリアナ様がお見えになられました。」
「うん。通してくれ。」
扉が開かれると、リリアナが中に入ってくる。
「よく来てくれたね。ララ君も。」
ララはお辞儀で応える。
「早速話をしましょう。私は早く家に帰りたいのよ。」
「ハハッ。そう言わずに。君があの有名なアーノルド家の御令嬢だと知らなかったよ。知っていたら僕は君を妻に娶りたかったね。」
「冗談を。私はカイドウの妻よ。それに、アーノルド家の話はしないでちょうだい。あまり好きじゃないの。」
「そうかい?なら止めておこう。けど、君を妻にって話は本気だよ。アーノルド家は少し特殊だからね。」
「・・・特殊なんかじゃないわよ。」
「ま、今ではそんな思いは無いけどね。ところでカイドウの容態はどうなんだい?」
「順調に回復してるわよ。」
「それは良かった!」
バルギウスの大袈裟な反応にリリアナは少し訝しむ。
「けど、一ヶ月は戦えないわよ。」
「うん、わかっているよ。ただ順調に回復してくれてるのが嬉しいのさ。この村の英雄だからね。カイドウは。」
含みのある言い方にリリアナの眉が少し動く。
「仕事の話じゃないのなら帰るわよ。」
「そうだね。本題に入ろう。君の提案する冒険者の復活について。」
バルギウスの雰囲気が先程のお茶らけたものとは別物に変わる。
「率直に言えば難しい、かな。」
「理由を聞いてもいいかしら?」
「まず第一に人材の不足だ。この村はただでさえ人口が少ない。それこそ僕らが知っているような町や国とは比べ物にならないぐらいね。加えて兵士の養成の方が急務と考えている。探せば冒険者の経験者もいるかもしれないが、探している時間もあるかわからない今、兵士の養成に力を入れるべき。そう、考えている。」
「けれど冒険者も重要よ。ここがどう言う場所か理解してるんでしょ?」
「もちろん。けれど、人材が少ない状況で拠点であるこの村を守る重要性も君なら理解できるはずだよ。」
「・・・そうね。」
「それに情報の不透明さも冒険者復活に待ったをかけている要因だよ。」
「その情報を確かなものにする為にも冒険者が必要なのよ。こんなことは言いたくないけど、この村は魔族領にあるにも関わらず、まともな地図も無い。いつ滅んでも納得できるわよ。」
リリアナの棘のある言葉にバルギウスの側近の手が剣に伸びかけるが、バルギウスが手で制する。
「君の言葉もまたその通りとしか言いようがない。俺もこれほどまでに情報の無い場所は初めてだ。だが、無いことを嘆いている暇は無い。今あるものでどうにかするしかない。」
「だからその為に冒険者が必要なのよ!」
「どうやって冒険者を生み出す?兵士を減らすことは出来ないんだぞ!」
「それは・・・わからないけど。だけど!」
「君の言い分は理解しているつもりだ。君たちの仲間、パンプン君だったか?彼の言う通りオウゴンガの森にゴブリルークがいるのだとしたら、この村の一大事だ。」
「だったら!」
「だが、それを信じる確かな根拠はない!君だってゴブリルークを見たわけじゃないんだろ?」
「そ、そうだけど・・・。」
「ゴブリルーク。書物で読んだことはあるが、ほとんど記録には無い。最後に見られたのも大昔。付け加えて言うならゴブリルークの誕生は緑小者王と緑小者女王生誕の予兆とも言われている。だが、この二体に関しては伝説上の魔物だぞ?どこの誰ともわからない者からの話をおいそれと認めて兵士を動かせるほどこの村は裕福ではない。」
「じゃあ攻め滅ばされるのを待つって言うの?冗談でしょ。」
「攻め滅ばされないようにするためにも兵士の養成を・・・。」
「そんなこと無意味よ!ゴブリンキングどころか、ゴブリルークに勝てるはずないわ!」
「だからといって手をこまねいている暇は・・・。」
「だからその為の冒険者なんじゃない!冒険者に奴らの根城を暴いてもらい、奇襲を仕掛ける。それがゴブリルークに勝てる方法よ。それ以外にないわ。」
リリアナの吐き捨てる言葉にバルギウスは首を横に振る。
「他にもゴブリルークに勝てる方法はある。」
「あるわけ・・・まさか!?」
「カイドウなら、勝てるんだろ?」
否定したくない言葉にリリアナは言葉が出てこない。
それがバルギウスに勝てる確信を与える。
「無理、とは言わないだろ?」
卑怯な駆け引きにリリアナは唇を噛む。
「ゴブリルークについてはカイドウに一任する。ココ村では防衛のための兵士養成を最優先事項とする。ただし、人材が増え次第冒険者復活をここに約束する。それで、いいよね?」
バルギウスの憎たらしい笑みを殴りたいが、リリアナは衝動を抑える。
「その代わり、こちらからも一人だけカイドウに貸そう。大丈夫かなり有能な兵士だから。」
それ以上の対話を望まないようにバルギウスの側近は扉を開いた。




