決闘開始です
太陽がまだ真上に昇らない頃、訓練場の中心には簡易的な円が出来ており、その周りに兵士たちが集まっていた。
「・・・逃げずに来たか。」
「逃げませんよ。自分で喧嘩吹っ掛けてとんずらなんて格好悪い。」
「そうか・・・。」
それ以上の会話はいらないとでも言うようにムーアは槍を持つ。
それに応えるようにカイドウも槍を持つ。
「審判はワシがやろう。」
「っ!」
審判としてオルゲンが姿を見せる。
「オルゲン様だ。」
「オルゲン様!?」
(みんなの注目がオルゲンさんに・・・。)
「判定は明らかな戦闘不能、もしくは降参の宣言によって行われるものとする。両者、異論は?」
「・・・ない。」
「大丈夫です!」
「うむ。では、互いに準備ができ次第定位置につくように。」
ムーアはそのまま定位置につく。
(よし。思い出そう昨日のことを。あれだけ特訓したんだ。付け焼き刃でも少しは戦えるはずだ。)
「負けるんじゃないわよカイドウ!」
「へ?」
集中しようとしていたところのリリアナの声が聞こえ、顔をあげる。
「な、なんで?」
「当たり前でしょ!あんたの戦いは必ず見るわ!」
リリアナの周りにはララたちもいる。
「アニキさん、頑張ってください。」
「が、頑張れ!カイドウ!」
「頑張っべ!」
「がんばれー!カイドウ君!」
流石にクゥはいないようである。
それでも兵士たちにとっては異様な光景である。
リリアナの後ろにはメイドたちも立っている。
その目は獲物を狙うようにカイドウの勇姿を脳裏に焼き付けようとしている。
(や、やりずれぇ・・・。)
「ガンバレー!カイドウ!」
「やっちまえ!」
リリアナの横にはビービとミリンダの姿がある。
(何でお二人はそこにいるのぉ?)
「うぉぉぉぉ!カイドウ殿!!」
「叩きのめせよ!」
砦の兵士たちも集まっている。
(どうしてこうなった・・・。)
「・・・人気者だな。」
何故か憐みの眼をムーアに向けられているような気がする。
何かを言おうと思ったが、カイドウは首を横に振って言うのを止め、頬を軽く叩く。
「・・・よし。」
考えるのを止めたカイドウは定位置についた。
「両者、よろしいか?・・・では、始め!」
(よし行く・・・ッ!?)
カイドウが一歩前へ進む前にムーアの槍が高速でカイドウの顔を捉える。
ギリギリのところでカイドウは槍を下から当てて、軌道をずらす。
「・・・少しは成長しているようだな。」
「ま、まぁ。」
(あ、あぶねぇ!)
ムーアは競り合わずにすぐさま距離をとる。
その一瞬の攻防に兵士たちから歓声が上がる。
「今度はこっち・・・ッ!?」
カイドウが攻める前にムーアの槍がカイドウを襲う。
「くっ!」
この攻撃もカイドウはギリギリで軌道をずらす。
すると、すかさずムーアは距離を取り、また突きが放たれる。
その攻防がしばらく続く。
(せ、攻め込めないぞこれ!?守るので精一杯だと!?)
「・・・当たり前のことに驚くなよカイドウ。これでも私は槍においては誰にも負けない自負がある。」
「くっそ!」
攻めに転じれないままにカイドウは徐々に擦り傷を負い始める。
「ちょっとどうなってんのよオルゲン!このままじゃカイドウが負けるじゃない!」
「負けるでしょうな。」
「ちょっと!?」
メイドたちの殺気を感じ、オルゲンは苦笑いになる。
「ムーアはおそらく槍においては誰にも負けないでしょう。それだけの実力と実績がある。だがカイドウ殿は雛になったばかり。親が子供に負ける要素は少ないでしょう?」
「そ、それはそうかもしれないけど!そこをあんたが何とかするんじゃないの!?オルゲン!」
「そいつは無理だと思うぜ嬢ちゃん。」
「じょ、嬢ちゃん!?」
横から入ってきたミリンダにビービもつづく。
「確かにカイドウにも実力はあると思うよ。だけど、それを上回る実力をムーア先生は持っているんだよ。一日や二日訓練しただけじゃムーア先生には勝てないと思うよ。」
「じゃあ負け試合だって言うの!?そんな酷いことするの!?」
ミリンダとビービは顔を背けて応える。
その姿にリリアナは怒りそうになるが、それをオルゲンの言葉が止める。
「可能性が無いわけではない。」
「え?」
「正直、ワシも早々にカイドウ殿が負けると思っていた。だが結果を見てください。」
未だにカイドウはムーアの攻撃から致命傷はない。
「この結果にはムーアも驚いているでしょう。ワシもそうですから。」
「じゃ、じゃあ!」
「昨日の経験から何かを学んでいればカイドウ殿にも勝機はありましょうな。」
「なら応援よ!頑張れ!カイドウ!」
先程までの怒りを忘れ、リリアナには笑顔が戻った。
(何故だ。何故攻撃が当たらない?)
オルゲンの言葉通り、ムーアの中に焦りが生まれ始めていた。
(誰か助けてください!)
だが、そのことをカイドウも知らなかった。




