不甲斐ない自分の為の訓練です
「どうしてこうなった・・・。」
ゴブリライダーとの戦闘五日後、カイドウはココ村の訓練場の外周を鎧を着て走っていた。
きっかけはオルゲンの一言から始まった。
それは四日前のことである。
カイドウの見舞いに来たオルゲンは少し悩んでいた。
聞いてみれば、オルゲンは戦いのさなかにカイドウの様子を確認しながら戦っていた。
理由は罪悪感。
カイドウに強敵を押し付けて自分らは集団で敵と戦う。
このことがオルゲンの心に罪悪感を生んだのだ。
だから戦いを見守り、ピンチの時は命に代えても守ろうと考えていたらしい。
結果はカイドウが勝ったが、別のことがオルゲンの心に残った。
「こんなことをカイドウ殿に言うのは大変心苦しいが、ワシは確認しなければならないことがあるのだ。」
「何を確認したいのよ?」
「それはカイドウ殿の力だ。」
「はぁ!?」
「一度でいい。カイドウ殿、スキル無しの力比べをワシとして欲しい。」
正直に言えば、この時にカイドウは断ろうと考えていた。
だが、ゴブリライダーとの戦いでの自分自身の力量不足。
そして何よりもリリアナの言葉がカイドウの背中を押した。
「なるほどね。確かに貴方の上に立つ者として実力をわからせておくのは良いことだわ。それに・・・。」
リリアナはカイドウに満面の笑みでこう言ったのだ。
「カイドウの成長も期待できるわ!だからこの勝負、受けなさいカイドウ!」
これをきっかけに何か掴めればと思ったのだが・・・。
「ん、ん~?」
結果は惨敗。
カイドウはオルゲンに触れることもなく、追い込むこともなく、木刀でボコボコにされた。
「やはりか。カイドウ殿、お主はスキルと機転の速さでここまで戦ってこれたのだな。これで納得がいった。カイドウ殿、このままでは遅かれ早かれ負ける未来が確定だろう。」
返す言葉も無い。
前世でも戦う経験、武道などの戦いに活かせそうな経験などやったことはないからだ。
知識としてもほとんど頭に入れていない。
むしろここまで順調すぎたのだ。
「ぜっんぜんダメじゃない!!」
この情けない結果をリリアナは良しとしなかった。
「やはり、カイドウ殿にはここでしばらく訓練をすべきだな。」
オルゲンもリリアナに賛同した。
結果、現在兵士に混ざってカイドウは特訓をしているのだ。
(初めは剣術を教えてもらえると思ったんだけどなぁ。)
カイドウには邪な気持ちがあった。
それはオルゲンから剣術を教わって、スキルを駆使して戦うという考えだ。
だが、オルゲンはそれを良しとはしなかった。
「いいかカイドウ殿、剣術を覚えたところでスキル頼りの現状では付け焼き刃に過ぎんのだ。先程の打ち合いでも思ったが、カイドウ殿は基礎体力そのものから訓練をしなければいけないな。」
反論する言葉がなかったカイドウはオルゲンの指示に従い、この訓練に参加したが・・・かなり過酷だ。
ハッキリと言えば一日で逃げ出したかった。
けれどそうしなかったのはカイドウにも思うところがあったからだ。
だから現在も鎧を着て訓練場の外周を走っているのだ、新兵と共に。
「オラオラ!まだまだへばるには早いぞ未熟者ども!外周後10周!!」
(スポーツマンガみてぇだ。)
走る外周の途中には訓練について行けずに倒れている者たちもいる中、未だに走っているのはカイドウを含めて5人。
「ま、はぁはぁ、ま、はぁはぁ、まだ、だ。」
ヘトヘトになりながらも決して歩みを止めない者。
(俺は強い、俺は強い。俺は強い。)
自己暗示をかけながらひたすらトップを走る者。
「男になんか負けるかぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
気合で走る者。
「そろそろ結構きつくなってきたね~カイドウ。」
カイドウの横で笑顔で走る者のたちである。
「き、きついって、お、お前は平気、そうだが?」
「ん~体力的に後4割しか残っていないかな?」
「よ、4割!?お、お前は体力バカなの、か?」
「えぇ~。ただ単に走るのが好きなんだよ~。もちろんカイドウも好き~!」
「おい!引っ付くな!!」
「えぇ~。嬉しいくせに~。」
「嬉しくねぇ!!今は暑いだけだ!」
何故か隣で走る新兵、ビービには気に入られてしまった。
カイドウには思い当たる理由がないので、若干不気味に思っているのである。
「それにしてもテメェが英雄様なんて信じらんねぇなカイドウ。」
「う、うるせぇ・・・。」
「ニャハハハハ。そう言いながらミリンダもカイドウのこと気にしてんじゃ~ん。」
「あったりまえよ!こいつの実力はこんなもんじゃねぇってアタイは見てたからな!」
「み、みて、た?」
「おうよ!あの戦いにはアタイら新兵も招集されたんだよ。けど、アタイはビビッて動けなかった。あいつらの醜悪な顔が今でも鮮明に覚えてるぜ。」
「うん私も見てたよカイドウ。臆することなくゴブリライダーに挑むカイドウはかっこよかったな~。うへへ~。」
(ご満悦なところ申し訳ないが、ゴブリライダーに挑まなかったら別の殺され方をしただけであって逃げれるなら逃げたかったけどな。)
そんなことを今は思っているが、どんな言い訳をしても戦ったのだろう。
人を見捨てる、そのことに少しの罪悪感も感じないでいることを、カイドウは出来ないからだ。
(結局俺は、前世で人に関わることを嫌っていたが、寂しさを感じなかったわけでも困っている人を見捨てることもできなかったんだから、お人好しなのかもな。)
そんなことを考えているうちに外周10周は終わっていた。
「よーし!今から少し休憩だ。ただし、鎧を脱ぐことは禁ずる。以上だ!」
(ようやく休憩か。)
訓練場にある木の下にカイドウは寄りかかり休む。
気持ちの良い風がカイドウの疲れを癒し、少しだけ体力の回復を促す。
「カ~イドウ!」
だが、それは瞬時にビービの飛びつきで失われる。
「暑い・・・。」
「うへへ~。」
「おいおいビービ、カイドウの迷惑になってるぞ。」
「えぇ~。でも私はこの方法が体力回復方法なんだもん。」
(俺は体力奪われてるんだけど?)
「ほらよ。」
ミリンダから投げられた瓶を受け取り、中に入っている水を喉に流し込む。
「はぁ~生き返る~。」
なんだかんだミリンダは面倒見がいい。
この新兵の中で、カイドウの好感度が一番高いのはミリンダである。
「ほらよビービ。」
「ありがとミリンダ。」
ミリンダは水を飲みながらカイドウの横に座り、風を浴びる。
「それにしてもあいつは桁違いだな。」
ミリンダの視線の先には先程の外周をトップで走っていた男が素振りをしている。
休憩時間にも関わらず、訓練場のど真ん中で男は想像の剣を両手に持って一刀一刀丁寧に振っている。
同じことをカイドウにやれと言ったら怒るだろう。
「そしてあいつもなかなか見どころはあるとは思うな。」
最後まで走りに抜いたもう一人の男はその場から動くこともできずに倒れている。
横にはミリンダが置いたのであろう水の入った瓶があるが、それすら掴む余裕もない。
肩で息どころか体全体で深呼吸しているようである。
「それにしても他の奴らは情けねぇ。あんな奴でも訓練についていけてるっつうのによぉ。」
外周20周に加えて10周を制覇したのはカイドウたち5人だけである。
他の新兵35名は途中リタイアしてしまっているのである。
その新兵ですら未だに動けない者もいるのだから自分にはある程度の体力がついてきたのだろうと、カイドウの自信につながっている。
「おーし!全員集合だ!」
ある程度の体力回復での訓練再会。
弱音を吐きたいがカイドウは我慢して訓練を続ける。
「これからの行う訓練は昨日までとは違う。組み分けの為の訓練だ。これから三日間今日と同じ訓練した後に一日の休養を取ってから、組み分けされた訓練を行う。質問のある者はいるか?」
質問があってもこの場では聞けないだろう、体力的に。
その為、誰も手を挙げない。
「では訓練を行う。まずは集中の訓練だ。手本を見せるからよく見ておくように。」
皆を見回した兵士は頷き、持っていた木刀を構える。
「これが基本の構えだ。このままの状態でずっと相手を睨みつけるのが訓練だ。」
(なるほど、力量差のない戦いにおいては先に動いた方が負ける可能性は高い。集中の訓練でもあり、忍耐の訓練でもあるのか。)
「では、二人一組なってもらう。すぐに相手を探せ。」
「カ~イドウ!」
ビービはカイドウに抱き着き、頭皮の匂いを嗅ぐ。
「おい。」
「ん~男臭いけど嫌いじゃない匂い~。」
「嗅ぐな。」
適当にビービをあしらい、カイドウは剣を構える。
「・・・よし!二人一組になったな。では・・・構え!」
全員一斉に剣を構える。
「・・・始め!!」
兵士の声が訓練場に響く。
その瞬間から新兵たちは目の前の仲間を敵と判断し、睨み続ける。
睨む場所は様々で、剣を睨んでいる者、顔を睨んでいる者、足を睨んでいる者など。
多くの者が相手の出方を警戒している。
カイドウも例に漏れずビービの目を睨み続ける。
前世の本で読んだ情報では目の動きこそが人間の口より言葉を語るからである。
その様子を見回しながら兵士は新兵の構えや、視線を見ていく。
(なるほどなるほど。)
何かを納得しては持っている資料に何かを書いている。
何を書いているのか気になるが、今は目の前の敵にカイドウは集中するのだった。
「よし!止め!」
全員を見終わってから数分後に兵士は訓練を止めさせる。
筋肉痛ギリギリの腕を降ろし、木刀をしまう。
「今回の結果は大いに参考になった。明日も同じ訓練をする。その結果によっては変わることを頭に入れておけ。さて、次の訓練は・・・。」
次に兵士が持ってきた物はキラキラと光るビー玉サイズの石だった。




