勝利の喜びと残酷な現実です
(クソ・・・。)
カイドウは少しずつではあるが、ゴブリライダーの攻撃をガードすることが出来るようになってきている。
とは言っても、三回に一回のみである。
だが、カイドウの攻撃はゴブリライダーにかすりもしない。
「ゲギャギャギャ。」
このままでは負けるのも時間の問題である。
(何か方法は無いのかよ!?)
攻撃を受けては回復していくカイドウの体。
けれど、これが無限じゃないことをカイドウは先程知った。
(おそらくスキルは一定の時間で効果が切れる。だからスキル野生の小力は急に効果を失ったんだ。)
「ゲギャギャギャ。イツマデモツニンゲン。オレノアクセルハマダマダモツゾ。」
あからさまな挑発だが、カイドウにとっては死の宣告に近い。
未だに攻撃の届かないゴブリライダーに対し、カイドウが残すスキルは野生の威圧のみ。
一縷の望み賭けて、先程から何度もスキル野生の小力を発動しようとしているが、応答はない。
(このままじゃ勝ち目がない。どうすればいい!)
カイドウは頭の中である者に問いかけるが、答えは無い。
「ゲギャギャギャ。ヨワイ。ヨワイゾキサマ!」
「クソッ!」
ゴブリライダーの攻撃を避け、カイドウは逃げるように距離を取る。
「ゲギャギャギャ。ドウヤラキサマニハギャクテンノスキルハナイヨウダナ。」
ゴブリライダーに気づかれたが、カイドウは動揺しない。
カイドウだって相手が防戦一方だったらそう思うからである。
「・・・ドウヤラジカンダナ。」
ゴブリライダーを覆っていた赤い光が消える。
(アクセルが切れた!)
好機と思い、カイドウはスキルを発動しようと声を発しようとして止まる。
「ゲギャギャギャ。」
目の前のゴブリライダーが先程よりも強い赤い光に包まれたからである。
「ザンネンダナニンゲン。」
その言葉と同時に背中から胸にかけて剣が突き刺さる。
「イギィッ!?」
熱く燃えるような痛みがカイドウを襲う。
「オレノスキルハアクセルダケデハナイ。スキル、スーパーアクセルヲハツドウシタ。」
声が出ず、口からは血が零れ落ちる。
「ドウヤラキサマノカイフクハササッタママデハカイフクデキナイヨウダナ。」
スキルが発動していないわけではないが、刺さっている剣が邪魔で回復を阻害されている。
「ナラバコノマママテバイイ。ゲギャギャギャ。」
(本気でマズい・・・。)
意識が薄れそうになっては痛みで覚める。
(何とかしなくちゃ・・・。)
もがくが、もがけばもがくほどに痛みが走る。
「ゲギャギャギャ。ムダナウゴキハヤメテオケニンゲン。カンタンニシンデハコウカイガデキナイゾ。」
(どうすればいい。答えろ・・・答えろよ!!)
(答え。方法は一つ。ガレオンを倒すことです。)
(・・・は?)
(答え。方法は一つ。ガレオンを倒すことです。)
(いや、そうじゃなくて!あの虎死んでないのか!?)
(答え。死んでいません。)
(動いてないじゃないか!)
(答え。証拠は貴方。)
(はぁ!?どういうことだよ!)
(答え。貴方のレベルが上がっていません。)
(・・・へ?)
(ガレオンはかなりの強敵であり、ゴブリンなど比較になりません。前回のゴブリメイジと合わさり、ガレオンを倒せればレベルが上がり、新たなスキルを入手可能です。)
(本当か!?)
(答え。本当です。)
(だけど、どすればいい?このままじゃ動くこともできない。)
(・・・。)
(おい!)
(答え。確定な方法はありません。)
(でも方法があるのか?)
(・・・。)
(頼む!教えてくれ!!)
(答え。スキル野生の威圧を使用。ゴブリライダーが怯んだ後に、速攻でガレオンにとどめを刺す。・・・運任せの方法です。)
(でも、成功すれば新たなスキルが手に入るんだな?)
(答え。そうです。)
(なら僕はお前を信じる!)
「ゲギャギャギャ。ドウシタニンゲン?モウアキラメタノカ?」
「こぷっ。スキル・・・野生の威圧!」
カイドウがから今まで味わった子のない殺気がゴブリライダーに放たれる。
「ンナッ!?」
運はカイドウに味方した。
「ぐぎっ!」
自分に刺さった剣を抜き、ガレオンに向かって走る。
ゴブリライダーが我に返った時には既に遅かった。
「とどめだあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
カイドウの体重を乗せた一撃がガレオンの目に刺さり、脳を貫く。
ガレオンは悲鳴を上げることもなく、ビクッと動くとそのまま絶命した。
「キ、キサマッ!?」
(答え。レベルが上がりました。スキル:驚異の反射。並びにスキル:野生の一撃を習得しました。)
(スキル使用だ!)
「シネッッ!!ニンゲンッッ!!」
いつの間にかゴブリライダーは近くまで迫っている。
「スキル脅威の反射!」
目で捉えることのできなかったゴブリライダーの動きがスロー再生のようにゆっくりと動き出す。
それに合わせるようにカイドウの体が勝手に動く。
スロー再生のままカイドウはゴブリライダーの後ろに立つ。
「スキル野生の一撃!」
自分の右手に力が宿り、自分の想像以上の速さで剣が繰り出される。
「ゲヒッ!?」
後頭部から眉間を貫かれ、ゴブリライダーの命が絶たれる。
「はぁはぁはぁ。」
スロー再生はゆっくりと時を戻し、ゴブリライダーの伸ばされた手が力なく降りる。
(答え。貴方の勝利です。)
無機質な勝利告知をカイドウは受け取った。
「これで終わりだ!」
「ギャヒヒッ!?」
オルゲンの剣がゴブリライダーの喉元を貫いたのを最後に、ゴブリンたちは皆地に伏した。
「勝ったのか?」
兵士の誰かが問う。
「勝ったんだよ俺たち。」
兵士の誰かが現実味の無い声で肯定する。
兵士の誰かの笑みが零れた時、オルゲンの剣が天に掲げられる。
「我々の勝利だ!!」
オルゲンの勝利宣言に呼応するように兵士たちは歓声を上げた。
「勝ったのか?」
目の前の光景が夢のようでバルギウスは無意識に聞いてしまう。
「勝ったんですよバルギウス様!」
横を向けば、兵士が涙を流しながら笑う。
「・・・ああ。」
自然と涙が流れる。
「ああ。」
目の前の光景が現実であることを認めるように。
「ああ!」
勝利を噛みしめるように何度もバルギウスは肯定した。
「ぐへぇ。」
スキルの切れたカイドウは力を失った人形のようにその場に座り込む。
「アニキさん!」
駆け付けたララがカイドウの近くに座り、様子を窺う。
「大丈夫ですかアニキさん。」
「し、死ぬかと思った。」
「でも、生きていますアニキさん。」
「・・・だな。」
「よくやったわカイドウ!」
リリアナがカイドウに飛びつくように抱き着く。
「ぐへ!?」
「流石は私が認めた男よカイドウ!」
「い、いてぇ・・・。」
「でも、よかったよ。」
嬉しそうに笑うリリアナとは違い、遅れてきたカミラは嬉しそうに泣く。
「あ、あたし、無責任にカイドウに助けてって言って。もし、カイドウが死んじゃったらって今更考えて。ううぅ。」
「でも生きているわ!最も、カイドウは死なないわよ!」
カイドウの胸にリリアナは甘えるような頬ずりをするが、カイドウにとっては地味に痛い。
「全く、たいしたもんだ。」
ボロボロの姿のオルゲンが笑顔で合流する。
「まさか、本当に勝てるとはな。」
「当然よ!カイドウは強いのよ!」
(ギリギリでしたが?)
「ダハハハ!そうだな!その通りだ!」
オルゲンが声を出して笑っているように周りを見れば兵士たちが肩を組んで喜んでいる。
囚われてた人たちも涙を流しながら安堵している。
(結果的に、よかったかな。)
カイドウは疲れを癒すように眠りに着いた。
「今回、我々は勝利を掴んだ!これからもこのような戦いが起こるだろう。だが、我々は戦い続ける!」
ワインの注がれたグラスを手に差し出すように上げる。
「まぁ、今日ぐらいは羽目を外そう。乾杯。」
バルギウスの言葉の後に民たちから歓声が上がった。
「宴だ宴!」
「今日は飲み放題だ!」
「俺は食いまくるぞ!!」
皆が笑い、皆が飲んで、皆が食べて、皆が騒ぐ。
ココ村に住む全ての人々が中央通りに集まり、祭りを起こす。
「彼らは?」
「ハッ。今だ目を覚ましていないようです。」
「はは。彼は存外寝坊助だな。」
バルギウスは子供のような笑顔を見せた。
「・・・す~。」
「全く、気持ちよさそうに寝ちゃって。」
ベットに眠るカイドウの顔を覗きながらリリアナは笑う。
「仕方ないよリリアナ。カイドウは疲れてるんだから。」
「それもそうよね~。」
「お嬢様、何かお食事をお持ちしましょうか?」
「お願い。」
ララは一礼し、部屋から出て行く。
「・・・本当にやりやがったんダゼ。」
入れ替わるようにパンプンが部屋に入ってくる。
「あら?貴方何処にいたのよ?」
「おれさまはゴブリンと戦っていたんダゼ。」
「そうだったの?」
パンプンは少しだけショックを受けるが、すぐに気を取り直す。
「今のうちに話しておきたいことがあるんダゼ。」
「・・・何よ?」
真剣なパンプンの声にリリアナは少し身構える。
「嫌な話だが、いいか?ダゼ。」
「・・・ええ。」
「この森の親玉が分かったんダゼ。」
「親玉?何よそれ?」
「このオウゴンガの森を支配している奴のことダゼ。奴の名は・・・ゴブリルーク。」
「ゴブリルーク?」
「そうダゼ。ゴブリルークは城の守りを最も得意としているゴブリンなんダゼ。」
「・・・つまりあの森の何処かにゴブリンたちの城があるってこと?」
「そうダゼ。あのゴブリライダーはそこの先遣隊だったそうダゼ。」
「まだ戦いがあるのか!?」
カミラが悲鳴のような声をあげる。
「残念ながらそういうこと、なんダゼ。」
知りたくなかった現実を聞き、カミラの血の気が引く。
だが、リリアナの目の光は消えなかった。




