カミラの訴えです
「こ、こわいよママ。」
「大丈夫、大丈夫よ。」
小さな女の子を落ち着かせるように力強く抱きしめる母親。
「俺たち、どうなるんだ。」
「ばっか!んなこと考えんな!必ずバルギウス様が勝つに決まってんだろうが!」
「け、けどよ・・。」
怯える男をぶっきらぼうな激で励まそうとする男。
教会に多くの市民が避難を始め、その数が徐々に増えて行く。
「神父様、これ以上は教会には入りません。」
「ならば、私たちが外に出て積極的にテントを張りましょう。私たちが空いた分は子供たちを優先に教会の中に入れなさい。」
「畏まりました。」
シスターは上品な歩き方で急ぐ。
「・・・嫌な雲です。まるで我々を飲み込みそうだ。」
黒雲が広がる空に一瞥し、神父は外に出た。
「・・・カイドウ。」
「何だカミラ。」
教会に向かって歩いていたカミラは立ち止まって睨みつける。
「本当に教会に逃げるのかよ!戦わなくていいのかよ!」
「そう言われたからな。」
何の感情も感じさせないカイドウの言葉にカミラの怒りにさらに火がつく。
「こんなことは言いたくないけど、あたし、あんたのことが結構好きだった。」
怒りで震える手の力を緩める。
「ゴブリンに捕まってからの人生は絶望しかなくって、生きる未来を考えることもできなくて、だけどあの日、カイドウが助けに来てくれて・・・あ、あたしは!」
いつの間にか頬に光るものが流れる。
「もう一度だけ生きてみようって思えたんだ!あたしの心は一度死に、カイドウによって再び生を受けたんだよ!」
カミラの怒鳴り声は次第に悲痛な叫びとなってカイドウにぶつかる。
(カミラ、お前・・・。)
「だから、だから!ッ!あたしは、あたしのような酷い目に遭う人を減らしたいし、減って欲しい!その為だったらどんなことだってする!カイドウが望むなら喜んでこの体だって差し出す!好きにしてもいいだから!」
(覚悟在りか。はぁ~全くしょうがない。)
「カミラさん、私たちの目的はおじょ・・・。」
ララが言い切る前にカイドウは手で遮り、力のない笑顔をカミラに向ける。
「どこまでやれるかわからないが、お前の覚悟はわかった。」
「カイドウ・・・。」
「そのお前の覚悟に免じて、僕は頑張って!?」
「何やってんのカイドウ!!」
背中を全力で叩かれ、カイドウは抵抗することなく地面を少し転がり壁にぶつかる。
「おじょうさ・・・。」
「あんたもよララ!!」
笑顔を向けた瞬間、思いっきりビンタされ、カイドウの下に飛んで行く。
「カミラを泣かして何やってんのよあんたたち!そんな暇があるならゴブリンどもと戦いなさい!」
(り、理不尽だ・・・。)
「ば、バルギウス様。」
「クソッ!!」
怒りを机にぶつける。
「外道な野郎が!」
時は少し遡り、城壁上。
「サァ、ツギノニエヲ。」
「待て!」
後ろに行こうとするゴブリンを手で止める。
「わ、わかった!お、お前の要求を呑む。」
「バルギウス様!?」
「グギャギャギャ!サイショッカラスナオニシタガエニンゲン。デハサシダシテモラオウカ。」
「貴様らの欲しいものは何だ!ゴブリライダー!」
「オレタチガホシイノハフタツ。ヒトツハアタラシイナエドコトナルオンナ。カズハサイテイデモニジュウニン。」
「に、二十人だと!?ふざけるな!」
「ワルイガフザケテナドイナイ。オレタチモヒビイキノコルコトニヒッシダニンゲン。ダカラコソナカマヲヨリオオクフヤシタイ。ソレニモシカシタラオレタチノヨウナチカラノアルモノガウマレルカモシレナイ。ソノカノウセイヲオオクスルタメニハソレニアウナエドコノカズガヒツヨウダ。」
「外道が。」
「フタツハショクリョウダ。コノモリハヒジョウニタベモノガスクナイ。ヒビ、ウバイアイダ。ダカラオレタチハアンテイシタキョウキュウヲノゾム。ツマリ、エイキュウノショクリョウノキョウキュウヲノゾム。」
「ふざけるな!それではこちらの食料が無くなるだろうが!」
「ソレガナニカモンダイカ?」
「何!」
「オマエタチハコレカラオレタチノドレイトシテショクリョウヲツクリツヅケル。オマエタチニヒツヨウナショクリョウヲサイテイゲンニシテナ。シンダヤツハステレバイイダロウ?」
「貴様!人間を何だと思っているんだ!!」
「ドレイカナエドコ、ソレイジョウノカチハナイ。」
バルギウスの怒りは限界を迎えつつある。
「バルギウス様戦いましょう!こんな糞共にいいようにされるべきではありません!」
「同感です!戦いましょう!」
「そうだ!俺たちなら戦える!」
「ああ!共に戦うぞ勇敢な友たちよ!」
バルギウスの滾る心を読み取り、ゴブリライダーは笑う。
「そこで待っていろゴブリライダー!今すぐに貴様の首を!?」
ゴブリンたちは森の奥から大きな檻を担いでくる。
その中には虚ろな目の女性や、泣きじゃくる女の子が数十人いることが分かる。
「な、何を!?」
「キサマラガヘンナキヲオコサナイヨウニ、オマエタチニゼツボウヲオシエヨウ。オレタチハヤサシイ。ヨッテジカンヲヤロウ。アスノアサダ。アスノアサマデニオレタチノヨウキュウシタモノヲジュンビデキタラコドモハカエシテヤロウ。ナエドコノカチモナイカラナ。ダガ、モシヨウイデキナカッタバアイハオンナドモニハココデコウカイタネツケヲスル。ソシテコドモノクビヲハネテヤロウ。」
「な、な、なッ!?」
「サァ、サッサトヨウイヲシロニンゲン。」
ゴブリンたちの大笑いにバルギウスは唇を噛むしかできなかった。
「そういうことならさっさと言いなさいよ!」
(いや僕のセリフの途中で殴ったのは君だよね?)
痛む頭を撫でながらカイドウはリリアナを睨む。
「ご無事で何よりでしたお嬢様。私は心配でした。」
涙の代わりに頭から血を流しているララがリリアナの手を握る。
「それで?もちろん戦うからには勝算があるのよねカイドウ?」
「ないな。」
「はぁ!?」
「いやだって敵を知らないし。ゴブリライダーの実力は話しか聞いてないからわかんないよ。それにパンプンの話にも出てきたトロールも知らないし。」
「トロールって言うのは簡単に言えば脳筋ダゼ。あいつらはあほみたいに力があるが、頭は悪いんダゼ。正々堂々の戦いならまずゴブリンごときに負けることはないんダゼ。だが、戦い方によってはゴブリンでもトロールに戦いで勝つことはできるんダゼ。けど、ゴブリライダーは正々堂々でもトロールを倒す可能性があるんダゼ。」
(なるほど。何となくは理解できたかな。力だけが強いとされるトロールとは違って頭もいいと。)
「けど、本当に戦うのか?ダゼ。悪いが、あんたでも勝てるとは思えないんダゼ。」
チラッとカミラの顔を見て、頷く。
「カミラがここまで頼み込んだんだ。やれるだけやってみるしかない。」
「ありがとうカイドウ!」
「いいよ。それと、悪かったなカミラ。お前の気持ちを踏みにじるようなことをして。」
「い、良いよ別に!?」
顔を真っ赤にしてカミラはカイドウの目から顔を背ける。
「そこでいい雰囲気にならないでちょうだい!」
そしてカイドウは何の理由もないリリアナの暴力を受けた。
「バルギウス様、食料の方は準備が出来ました。」
重い雰囲気の中、兵士は淡々と答える。
「ですがその、女性の方は・・・。」
「いい。お前にそのような酷なことは命じるつもりはない。下がれ。」
「ハッ!」
一礼をし、兵士は出て行く。
「本当にこのまま奴らの言うことを聞くのですか大将。」
「そ、そうだ!本当にバルギウス様はこれでよろしいのですか!」
「戦いましょうバルギウス様!」
隊長たちが立ち上がる中、バルギウスだけが座っている。
「大将。」
「あの数を見ても勇敢に立ち向かおうと思う君たちの心に、俺は答えることが出来ない。」
「大将!」
「あの数を見ただろう!あの数のゴブリンを、あの数のゴブリライダーを!それにまだ森の中にも奴らの仲間がいるかもしれない。勝てる未来が見えないままに悪戯に兵士を死なせることは!・・・俺にはできない。」
バルギウスの言葉に誰も反論できない。
「・・・ではこれを大将。」
年配の男は後ろに隠していた紙束をバルギウスの前に出す。
「これは・・・。」
「町の者のリストです。その中の女性のみを書きだしました。大将自らがご決断ください。」
それだけを言い残し、年配の男は出て行った。
「ん?貴様は・・・。」
兵士の一人が正門に近づくカイドウたちに気づく。
「何の用だ貴様!」
「敵情視察にちょっとばかし。」
「何を言っているんだ貴様!ここから立ち去れ!」
敵意を向けられるが、カイドウは動じない。
「何をしている!」
「た、隊長!」
「ん?お前は・・・カイドウだったか?」
「そうです。カイドウです。」
「何の用だ。今お前に構っている暇など・・・。」
「敵の姿が見たいんだけど、見せてくれない?」
「貴様!よくもぬけぬけと!」
「止めろ。そういうことならワシの権限で見せてやろう。」
「隊長!?」
「そこに隠れている仲間と共についてくるがいい。」
(見破られていたのか。)
カイドウが手招きをし、リリアナたちが店の陰から姿を見せた。
「あれが敵の数だ。」
眼下に広がるゴブリンの数にカイドウの頬を汗が伝う。
(想像以上に数がいるんだけど?)
「奴らは食料と女を要求してきた。あれを見ろ。」
指さされた場所を見ると、小さい女の子と虚ろな目の女性が檻の中にいる。
「要求をのまなければ子供を殺し、女を犯すと言いやがった。」
「最低ね!不愉快だわ!」
「それがゴブリンなんダゼ、嬢ちゃん。」
(うっわ~絵に描いたような悪党だな。そしてあれが・・・)
虎のような生き物の横で酒を飲むゴブリンをカイドウは見つけた。




