滅んだ国、バンビア王国です
「ココ村へようこそ。と言っても何もない村だけどね。」
色白男の後をカイドウたちは歩く。
「そう言えば名乗り遅れたね。俺の名前はバルギウス・バンビア。気軽にバルギウスって呼んでくれ。」
「バンビア!?バンビアってバンビア王国のことか!?」
名前に反応したのはカミラである。
「その通りだよ。君が想像しているバンビア王国で正しい。」
「マジかよ・・・。」
いまいち反応できずにカイドウは二人を交互に見る。
「・・・君は何も感じていないようだね。」
「え!?」
カイドウの無反応に近い顔にバルギウスは少しだけ不快感を覚える。
それを感じ取った兵士たちの手が武器に伸びる。
「アニキさんは!」
ララが言う前に手で遮る。
「・・・悪いが、全く知らないんだ。僕は記憶が無いんだよ。」
「そうだったのか!?すまない!理由も知らずに君を否定しようとしてしまった!」
「別にいいよ。僕は記憶が無くて困っていないし。それよりも説明を求めるかな。」
カイドウが怒っていないことに気を良くしたのか、バルギウスはあることを打ち明ける。
「君には話しても問題なさそうだ。」
「はぁ?」
「俺は今は亡きバンビア王国の第三王子だったんだよ。」
そのことにカミラは目を見開いて驚くが、やはりカイドウだけは無反応だった。
(・・・気まずいわね。)
リリアナが一つの動作をするたびに、ショートヘアーの女性の声が耳に入る。
白い服を取れば「ほへ~」、適当な下着を見れば「ふ~ん」といった感じに反応される。
「はぁ~。」
耐え切れなくなったリリアナが声を掛ける。
「ちょっといいかしら。」
「なにかな~?わからないことでもあった~?」
「そうじゃなくって、その、声を出すのをやめてもらえないかしら?気になってしょうがないんだけど。」
「え!?声出てた!?やだな~恥ずかしい~。」
照れながら頭を掻かれると、素直に怒れない。
「とにかく話しづらいから自己紹介するわ。私はリリアナよ。」
「わたしはアモンだよ~。」
「そうアモンね。アモンは・・・その、このお店は長いの?」
聞くことが無く、口から適当な質問が出てくる。
「う~ん・・・どうなんだろ~父親が死んでから~引き継いで~三年かな~。」
「え!?お父さんが亡くなっているの!?」
「ねぇ~三年って長い~?」
「いや、今はそこじゃなくって!」
「短いかな~?」
話がかみ合わず、若干の苛立ちを覚えるが我慢する。
「三年ならまぁまぁ長いんじゃないの?」
「そうかな~?じゃあさっきの質問の答えは長いかな~。」
「そうね!ところでお父さんが亡くなっているって本当なの?」
「本当だよ~。お父さんは~戦争で死んじゃった~。」
あっけらかんと言われると、何て返せばいいか困る。
「それは、その、ご愁傷様?ね。」
「あははは~。」
話すことが浮かばず、無言で服を取って見る。
(とりあえず適当に見繕いましょう。みんなの分を必ず買うとして、問題は男二人ね。カイドウのは・・・まぁアモンに聞きながら買えばいいわよね。問題はクゥね。あいつって服が必要なのかしら?一応着てはいたものの必要性をあまり感じられないんだけど?)
「買う服は決まった~?」
「も、もう少しだけ考えるわ。」
「じゃあ~お話ししよう~?リリアナはここは初めてなんでしょ~?どこに住んでんの~?もしかして町はずれ~?」
「どうしてそういう発想が出てきたのか聞きたいけれど、答えは違うわ。」
「え~?だって結構汚れた服を着てんじゃん?だからそうなのかな~って思って~。」
(結構ズバッと言うわね。)
適当な服を籠に入れる。
「じゃあどこに住んでんの~?」
「そこから間違いよ。私はこの町?村?には住んでないわよ。」
「ええぇ!?」
顔からはとても驚いていることがうかがえるが、声はとても鈍く、何となく馬鹿にされている感じがする。
「ここ以外に村なんてあるの~!?」
「今はないわ。でも、後に出来るかもね。」
リリアナはちょっとだけ得意げに言ってしまう。
「あははは~。それは無理だよ~。」
「ちょっと!簡単に否定しないでくれる!」
「無理なものを無理というのは正しいんだよ~リリアナ~。ここは魔王の領地、この村があること自体不思議なんだからさ~。」
「そう言えばパンプンも同じことを言っていたわね。どういうことか説明してくれないかしら?」
「ええぇ!?知らないの~!?そんな人初めて見たよ~!?」
「いいから説明しなさい!」
「はぁ~い。」
先程までの笑顔は消え、何かを見据えるようにアモンは話し出す。
「ここはね、元々はバンビア王国の領地だったんだよ~。」
「バンビア王国!?それって!?」
「そうだね~降伏したのに滅ぼされた国だよ~。」
バンビア王国の話はリリアナがまだお嬢様だったころに聞いている。
「でも変じゃない!バンビア王国の民は一人残らず殺されたんでしょ!」
「うん。」
「じゃあ何でこの村があるのよ!」
「バンビア王国はただ降伏したんじゃない。」
カイドウたちはココ村の奥にある大きな屋敷の一室で話を聞くことになった。
「交渉を持ち掛けたんだ。戦争などという無意味なことはせず、和平の道は無いのかってね。けれど、魔王軍はそれを受け入れることはなく、バンビア王国の使者は帰ってくることも無かった。」
バルギウスは悔しそうに唇を噛む。
「一度だけではない。何度も使者を送って和平交渉を持ち掛けたんだ。なのに、なのにッ!!」
思いっきり机を叩きつけ、乗っていたコップが床に転がる。
「・・・落ち着いて話してくれません?」
(怖ぇからよぉ。)
「すまない。ふぅ~。」
バルギウスは自分を落ち着かせるように膝を軽く叩く。
「何人目の使者だったかは覚えていないが、最後の使者だけは帰ってきたんだ。死体となり、数多くの魔王軍と共にね。そして彼らは僕たちにこう言った『無駄な死体を増やして楽しいのか?』ってね。その言葉が皮切りになって戦争が始まったよ。と言っても劣勢に次ぐ劣勢で一日も持たずに降伏したんだけどね。」
バルギウスは大きく息を吸い、気持ちを抑え込みながら続きを話しだす。
「それからが地獄のような、いや、あれが地獄の光景だったんだろうな。降伏を宣言したにもかかわらず、魔物たちの進行は止まることはなく、無慈悲に民を殺していった。バンビア王国内は悲痛な叫びで満ち溢れていたよ。」
その光景や音が蘇ったのか、周りの兵士たちの中から涙を流すものが出てくる。
「そんな地獄の中に一つの希望があったんだ。」
「希望?」
「彼の名はダラン。バンビア王国が誇る最強の兵士であり、最後まで戦い続けた英雄だよ。」
「わたしのお父さん、名前をダランって言うんだけどね~。家では無口で何を考えているかわかんない人だし~商売の才能も無いのにこのお店を開いて~だからお母さんに逃げられて~どうしようもない父親だなって思っていたんだ~。」
父親の名前を言ってからアモンの目から一筋の涙が流れる。
「戦争が起こるかもしれないって村に、わたしの家に偉い人が来た時にね~お父さんは私にこう言ったんだよ~?『俺は死にに行くわけではない。竜が宝を守るようにお前という俺の宝を守るために、俺は戦いに行く。この店は任せたぞ、アモン。』てさ。今の今までそんな長い言葉聞いたことなかったのにね~おかしいよね~。」
だんだんと声に湿り気が混じる。
「んでね、お父さん戦争で死んじゃった~。でもすごいんだよ!お父さん、あの魔王と戦ったんだから!」
「え!?」
「お父さん、一人でも多くの人を守るために最後まで地に膝をつけずに戦い抜いたんだ~。その褒美に魔王が直々に勝負を挑んだんだって~。けど、負けちゃった~。」
(すごいことを聞いているのかもしれないわ。)
「そんでね~魔王がお父さんの強さはこの村にあるのかもしれないって。だからこの村は魔王に襲われないでいるんだよ~。もしかしたらお父さんを超える戦士が生まれるかもって~。」
「そ、そうなのね。だからこの村は魔王領内にも関わらず堕とされていないってことね。」
「うん、そんな感じ~。」
アモンは涙を拭き、最初の笑顔に戻る。
「ダランさんのおかげでこの村は存続できているんだ。そこに俺は逃げてきたにすぎない。」
バルギウスは自分が国王と兄王子たちによってここまで逃げてきたことを寂しそうに語る。
「俺も、あの場で死にたかった。」
「王子!?」
我慢できずに一人の兵士が声を出せば、すぐさまバルギウスが笑顔で黙らせる。
「けれどそれは二度と叶わない俺の弱さだ。今の俺は何が何でもココ村を守り抜き、いつか必ずバンビア王国を再建して見せる!そして、父さんや兄さんたちのお墓を建てると決めたんだ。」
自信に満ち溢れた王子の言葉に兵士たち全員が頷きながら涙を流す。
「そうですか。」
だがカイドウの心には何も響かない。
反応の薄いカイドウに戸惑いを覚えたカミラが声を出す。
「その、何て言うか、頑張ってください。」
「あ、ああ?」
「話は終わりましたかアニキさん?」
カイドウと同じように興味の無さそうなララがカイドウの方を向く。
「終わった?んじゃないか?」
「でしたらお嬢様を探しに行きましょう!ここにはいません。」
出て行こうとするララの前に兵士が立ち塞がる。
「そこをどいて頂けないでしょうか?お嬢様を探しに行きたいのです。」
「話はまだ終わっていないんだよ。」
バルギウスは真っすぐにカイドウを見る。
「カイドウ君、確認するようで申し訳ないが本当に君が、一人で、あの緑小者たちを殺したのかい?君の口から聞かせてくれ。」
周りの雰囲気から嘘をついてはめんどくさそうなことになると思い、カイドウは素直に答える。
「僕一人じゃない、僕の仲間、クーの手助けもあった。」
何か言いたげなララをカイドウは目で黙らせた。




