パンプンの過去とココ村です
月が顔を見せ始めた頃、カイドウたちはリリアナを探して森の中を走っていた。
(すっかり日が落ちたな。)
ぼんやりと考えながら前を走るララを追う。
「止まります。」
ララが走るのをやめ、振り返る。
「ここら辺でもう一度木々に聞いてみます。」
「ああ。ただ今日はここで野宿にしよう。」
「え!?で、ですがアニキさん!?」
「流石にこれ以上は視界が悪い。それに・・・。」
後ろでカミラが肩で息をしている。
「これ以上、カミラに無理はさせられない。」
「あ、あたしなら!」
「ダメだ。」
洞窟でも感じた言い知れぬ迫力に二人はそれ以上何も言わない。
「よし、とりあえず朝を待とう。」
カイドウは適当な木に寄りかかって座った。
「ね~パンプン、まだなの?」
「あったんダゼ。」
「え!?村が見えたの!?」
「いいや違うんダゼ。」
パンプンは木の根元にある石をどけて掘り始める。
「ちょっと!何してるのよ!」
「あったんダゼ。」
出てきた袋を懐に入れる。
「今日はここで野宿するんダゼ。」
「じょ、冗談じゃないわよ!?なんで野宿しなきゃならないのよ!それに質問にも答えなさいパンプン!」
「まったくダゼ。」
懐から袋を取り出し、中から一枚のカードを取り出す。
「これは通行証なんダゼ。」
「通行証?」
「そうなんダゼ。これを見せないとココ村に入ることは出来ないんダゼ。」
「じゃあ早く行けばいいじゃない!」
「それが通行所は夕方で閉じてしまうんダゼ。だから月が見えてる今はココ村には入れないんダゼ。」
「だったら野宿するって前もって言いなさいよ!」
パンプンの首を絞めて上下に揺らす。
「や、や、やめるんダゼ!?」
「キイィィィィィィィィィィッ!!」
月夜の晩にリリアナの奇声が響き渡った。
諦めたリリアナはパンプンに野宿の準備をさせる。
「このテントは私が使うからあんたは外ね!」
「・・・ま、まぁおれさまは男だかんなダゼ。」
「フンッ!」
リリアナはそっぽを向いてテントに入って行く。
見送ったパンプンは焚火に向き直り、火の調整を始める。
「・・・ねぇ。」
「なんだダゼ?」
「何か話しなさいよ。」
「・・・?何を話せばいいんダゼ?」
「何でもいいわよ。」
「そうだな、ダゼ。」
パンプンは故郷を思い出し、ぽつりぽつりと自分の過去を話し出す。
「おれさまの故郷は恵まれた土地だったんダゼ。草木が色とりどりで、川も美しくて、ダゼ。」
「へ~。」
「そんな村に生まれたおれさまは毎日好きなことだけをやって過ごしていたんダゼ。畑で作物を育てたり、森へハチミツを取りに行ったり、ダゼ。」
「幸せなことで。」
「ああ、おれさまもそう思うんダゼ。・・・だが、言い換えれば恵まれすぎて退屈でもあったんダゼ。」
「え?」
「何をするにも召使いが準備をするし、欲しいものは父上に頼めば手に入るんダゼ。それが当たり前だってずっと思って生きてきたんダゼ。」
リリアナにも思い当たる節があり、パンプンの話がだんだんと自分にも当てはまっていく。
「そんな日々の中、おれさまを変える出来事があったんダゼ。」
「・・・何よ?」
「愛する女との出会い、ダゼ。」
「はぁ?あんたの旅の目的が理想の花嫁探しなんじゃないの?愛する女性がいたんなら探す必要ないじゃない。」
「ふっ。話は最後まで聞くんダゼ、お嬢ちゃんダゼ。」
多少のイラつきを感じたが、言っていることは正しいため何も言わない。
「その女はとても輝いていたんダゼ。同じ畑仕事でも他の女とは違ったんダゼ。」
空を見上げ、月を見ながら思い出す。
「当時のおれさまはその女にぞっこんだったんダゼ。毎日のように目で追い、思いを募らせる日々だったんダゼ。告白するのが恥ずかしかったおれさまはそれで満足をしていたんダゼ。」
「その気持ちはちょっと理解できないわ。」
「ふっ。男って生き物は女が思うより臆病な生き物なんダゼ。」
「で?それでどうしたのよ。」
「そんなおれさまを見つけてしまった召使いが父上に報告し、その女をおれさまの前に差し出してきたんダゼ。」
「それって・・・。」
「ああ、ダゼ。父上は権力を使い、その女を家族から引き離し、おれさまの女にしようとしたんダゼ。」
ズキっと痛む心を抑えるように胸を撫でる。
「今でもおれさまのトラウマとなって消えないでいるんダゼ。あの時の女の睨みつけた目が、ダゼ。」
想像できてしまったリリアナは悲しい目になる。
「あの目がおれさまを変えたんダゼ。あの目が何でも手に入らないんだっておれさまに教えてくれたんダゼ。・・・皮肉にも、ダゼ。」
懐から何かを取り出し、握りしめる。
何かに許しを請うようにパンプンは目を閉じる。
「・・・それでどうなったの?」
いつの間にかリリアナの声に棘がない。
「その目が怖くなったおれさまはその女を開放するように父上に言い、その女は家族もろとも村からの追放という形で解放されたんダゼ。」
「・・・そう。」
「だからおれさまは旅に出ることにしたんダゼ。何も不自由のないあの生活を捨てなければ、おれさまの理想の嫁は見つけれれないと思ったからな、ダゼ。」
何かを懐にしまい、目元を拭う。
「旅をして、いろんな経験をして・・・おれさまは今のこの生活がおれさまを確実に成長してるって信じてるんダゼ。だからいつか・・・おや?ダゼ。」
テントから音が聞こえなくなり、そっと中を覗く。
パンプンは反応のないリリアナを見て眠ったと判断する。
「ふっ。おやすみ、ダゼ。」
パンプンが焚火に戻った後、リリアナは目を開く。
(・・・私も、変わるべき・・・なのかしら・・・。)
パンプンの話が、ちょっとだけリリアナの心に響いた。
翌朝、薬草やキノコなどを集めながらパンプンたちは太陽が真上に昇る頃に村にたどり着いた。
「これって・・・。」
村を囲むように大きなレンガの壁があり、その上には何十人もの武装した者たちが立っている。
「ここがココ村なんダゼ。」
「随分と物々しいわね。」
「まぁな、ダゼ。」
パンプンは真っすぐに通行所に向かう。
「パンプンダゼ。」
女性に通行証を見せる。
「確認しました。そちらの女性も通行証のご提示をお願いします。」
「彼女は通行証を持っていないんダゼ。森で遭難していたところをおれさまが拾ったんダゼ。」
女性は確認するようにリリアナを見ると、肯定するように頷いている。
「・・・畏まりました。それでは今回はパンプンさんの旅仲間として迎え入れます。ですが通行証を見せるのが義務ですので、罰金として銅貨5枚を徴収します。」
「ちょっと!?」
「分かったんダゼ。」
ポケットから銅貨5枚を出す。
「確認しました。それではこの後、そちらの女性の通行所をお作りになってください。」
一礼して女性は笑顔になる
「ようこそ!ココ村へ!」
何か言いたげのリリアナを連れてパンプンはココ村に入って行った。
村の中は賑やかな雰囲気と何とも言えない不気味な雰囲気が融合している。
「・・・悪かったわね。」
「何がダゼ?」
「・・・罰金のこと。」
リリアナはボソッと言う。
「気にすることないんダゼ。とりあえず通行証を作っておくんダゼ。」
「わかったわ。けど何だか変な村ね。あっちは賑やかな感じがするけど、あっちは何とも言えない怖さを感じるわ。」
「仕方がないんダゼ。この村は既に魔王領内、ダゼ。人間である奴らはいつでも戦えるように気を張ってんダゼ。」
「魔王領内?ここが?」
「そうダゼ。といってもここを領地としていた国が落ちてしまったというだけなんダゼ。」
「なるほどね。それでここにいつ火の粉が来るかわからないってことね。」
「そういうことなんダゼ。」
村の中心に位置する建物の中に入り、受付のような場所に向かう。
「パンプンダゼ。」
通行証を確認した女性が頷き、笑顔を作る。
「ようこそココ村へ。本日はどのようなご用件でしょうか?」
「おれさまは薬草やキノコなどを売りたいんダゼ。そんでこっちのお嬢ちゃんは通行証を作りに来たんダゼ。」
「無くされたのでしょうか?」
「いいやダゼ。このお嬢ちゃんは森で遭難していたんダゼ。」
「ということは新規発行ですね?」
「ああ、ダゼ。」
「畏まりました。それではそちらのお嬢様は私が担当します。パンプン様はあちらの眼鏡をかけた男性の方にお進みください。」
「わかったんダゼ。」
クルっとリリアナに向き直る。
「ということダゼ。おれさまは終わり次第、あそこら辺で待ってるんダゼ。」
窓際を指さす。
「わかったわ。」
「それじゃあダゼ。」
袋を担いで歩いていく。
「それではこちらへどうぞ。」
リリアナは言われるがままに椅子に座る。
「それではまず簡単な通行証の役割と注意点をご説明します。」
「お願いするわ。」
「まず通行証は身分を証明するものです。これを見せることで貴方がココ村へ敵意はないということを他の方にご理解して頂きます。通行証はあらゆる場面でお使いになりますので肌身離さずにお持ちください。」
「ええ。」
「仮に無くされた場合はココ村では何もすることは出来ません。再発行する義務が生じます。再発行する際はもう一度同じ手順を踏んでいただき、罰金として銀貨1枚徴収させていただきます。」
「わかったわ。」
「注意点として、通行証を見せずにお買い物などをしてしまった場合、罪を犯すかもしれないと判断され、話を聞かれる可能性があります。その際は反論せず、指示に従ってください。」
(厳しいわね。)
「以上で説明を終了させていただきます。こちらで用意したこの紙に必要事項をお書きください。」
隅から隅まで紙に書かれていることを読んでからリリアナは必要事項を書いていく。
「終わったわ。」
「確認します。」
紙を受け取り、簡単に見ていく。
「ありがとうございます。」
女性は紙をもって奥に行き、数分で戻ってくる。
「こちらがリリアナ様の通行証になります。無くさないよう、ご注意ください。」
「ありがとう。」
通行証を受け取り、リリアナは無くさないように胸ポケットに入れる。
「お疲れさまでした。」
リリアナはパンプンの待つ窓際へ歩いた行った。




