畑づくりを始めます
カイドウの意識が戻ったのは、早朝のことだった。
澄んだ空気を肺の中に流し込みたくなって外に出たのである。
「はぁ~面倒なことになったな。」
感覚的には先程の出来事が脳に焼き付いていることから夢でないと判断する。
(だいたい魔王ってあの魔王だろ?俺が勝てるわけねーだろが!姫だか何だか知らんけど、そいつがこの森に逃げてきた時点でこの世界って終わってんじゃね?魔王様による魔王様の為の魔王様を崇拝する世界が完成してるだろ。)
「はぁ~。」
朝から陰鬱な雰囲気を出してしまう。
「はえぇなぁ。」
声に驚いて振り返ると、洞窟からミムルが出てくる。
「あ、おはよう。」
「んだ。おはよさん。」
両腕を広げて胸いっぱいに空気を吸い込む。
「ん~めぇ空気だなぁ。今日は晴れだな。」
「わかるのか?」
「ん~何となくだけんど、雨の時っつうのは空気がじめじめしてんよ。だかん、こんだけ綺麗だと、晴れだと思うんよ。」
「なるほど。何となくわかるなぁ。」
「んだろ?」
十分に深呼吸した後、軽く頬を叩き、気合を入れる。
「んだらば、畑の場所を決めんべ。」
「そうだな。何処がいいと思う?」
「んだな~なるべく土っこがやわらけぇ場所だな。」
言われてその場の土を触るが、結構固い。
ミムルも土を触るが、微妙な表情である。
「ん~こんれは・・・。」
軽く土をつまみ、口の中に入れて咀嚼する。
「え!?」
数回咀嚼してから茂みに吐き出して、口元を拭う。
「栄養は悪くねぇんだけんどな~。かてぇなぁ。」
「た、食べると分かるのか?」
「はっきりとわかるわけじゃねぇけんども、わたすがいじってた土とおんなじ味だんな。」
(これって職業適性農家なんじゃないの?ミムルって根っからの農家なんじゃないの?)
「やわっこくできんれば、畑として問題ねぇんだけんど。」
「つまり耕せば畑ができると?」
「んだ。んでも、耕すための鍬がねぇんね。」
「俺が武器に使ってる槌じゃダメなのか?」
「ん~あんれじゃあ潰してるだけで、土の中の空気まで壊しちゃってんよ。」
「つまりダメと?」
「カイドウさんには悪りぃんだけんども。」
「う~ん・・・。」
ミムルの言う鍬は前世でも使われていたものと同じで間違いはないと判断すると、かなり難しい。
綺麗な棒を作れなくはないが、問題は刃の部分である。
あの形は石では再現できない。
石で再現できないということは現状作れないのと同じである。
洞窟内にある物資で代わりになりそうな物も思いつかない以上、畑づくりはここで終了である。
「参ったなぁ。畑ができそうにないぞこれは。」
「んだな。土を掘ることができんれば、まぁだなんとかなんだけんど。」
「土を掘る、とは違いますが、土を形状問わずに壊すのであるならばできる可能性があります。」
「形状問わずか~。できないよりかはマシか?」
「わたすもそう思うんよ。形は壊した後にでも、わたすらで作んれば。」
「じゃあその方向でやってみるか・・・ところでララさんや。」
「はい何でしょうかアニキさん?」
「何時から僕の横に?」
「花少女に睡眠は必要ありません。寝ることを選択するもしないも差はありません。ですので、一切寝ずに見張りをしていました。そしたらアニキさんたちが出ていくのが見えた為、ついて来たということです。」
(マジかよすげぇな。)
「わたすらのためにえれぇ仕事をしてくれてあんがとね、ララちゃん。」
「とんでもないです。私にできること、全てをしなければアニキさんに恩返しができません。」
(何この子?ちょっと重くて素直に嬉しいと喜べない。)
「んで?どおやってやるん?」
「周りに生えている木々たちにお願いするんです。木々の根はどのような場所でも力強く伸びていますので。」
「なるほど・・・ん?でもそれって・・・。」
「はいアニキさん、洞窟が潰れる可能性も秘めています!」
元気よく言われるが、とんでもない爆弾発言である。
(んなことできるかあぁァァァァァァァァァァァァァ!!)
「ば、場所を遠くにすれば問題ないかなララ君?」
「問題ないとは言い切れませんが、ここで行うよりは安全だと思いますよ。ですが、遠くては作物を育てるのに大変なのでは?」
頭にはてなマークを浮かべて首を傾げる。
それが彼女が本気でこの場でやろうとしていたことを肯定する。
(何でこの子は少しズレてんの?普通に考えて家を無くすなんてダメに決まってんじゃん。え?何?バカなの?この子?)
カイドウの笑顔が微妙に引きつる。
「んだらば、もう少し離れたところに畑さ作んべ。」
「だ、だな!うん!ミムルの言う通り!」
「そうですか?では場所の指定をお願いします。」
いまいち納得できていないララを無視して、カイドウとミムルは畑候補地を探してみることにした。
カイドウたちが出かけた頃、女は目を覚まし、辺りを窺う。
隣で寝ている二人は心地の良い寝息を立てている。
眠りが深いかどうかを確認するため、軽く揺すってみる。
「ん・・・みゅ・・・。」
(起きる気配はないわね。)
もう一人にも同じように試すが、似たような感じである。
笑いそうになる顔を抑えて、女はその場を後にし、迷うことなく真っすぐに物資を保管している場所に向かう。
途中、クゥが寝ていることも確認する。
(さて、拝見させてもらうわよ。)
躊躇なく中に入り、物資を漁り、頭の中に記憶していく。
(お金になりそうなものは少ないわね。食べ物もないし。)
手に取る物全てが女にはガラクタにしか見えない。
(ダメね。できれば地図だけでもと思ったけど。)
期待外れの内容に落胆の気持ちを隠せないが、すぐさま思考を切り替える。
(使えそうな物はこのナイフぐらいね。でも・・・。)
適当な布を拾い、切れ味を確認する。
(なまくらも同然ね。最悪の切れ味だわ。)
売れそうにもないが、自己防衛ぐらいには使えるかもしれないため、一応持っておく。
(さてと。)
用が済むと、堂々と洞窟を抜け、外の空気を軽く吸う。
「ん~心地いいわね!」
新鮮な空気に満足し、カイドウたちが行った方向とは逆方向に歩いて行った。
しばらく進むと、その場で立ち止まり辺りを見回す。
「いるんでしょ!さっさと出てきてちょうだい!」
「まったく、野菜汁族の扱いが荒いな、ダゼ。」
茂みから姿を見せたのはパンプンである。
「あんたにはこのぐらいで丁度いいわ。」
太陽の光がリリアナの顔を照らす。
「嬢ちゃん、本気で行くのか?ダゼ。おれさまも自分の記憶に保証は出来ないんダゼ?」
「でもこの森に入る前に村に立ち寄ったんでしょ?幻だとか夢だとかじゃないんでしょ?」
「それはそうダゼ。おれさまはその村の宿に泊まったんだからな、ダゼ。」
「なら問題ないわ。貴方の記憶に多少の違いがあってもそれは誤差の範囲よ。」
「ふぅ~嬢ちゃんには敵わないんダゼ。」
肩をすくめ、息を吐く。
だが嫌そうではない。
「さぁ行きましょう!案内して!」
「了解なんダゼ。おれさまについてきな。」
クルっと反転したパンプンは草をかき分けて歩いていく。
その後をリリアナはついて行った。
「ここはいかがでしょうかアニキさん?」
木々が余り生い茂っていない場所を紹介される。
「どうかなミムル?」
「んだな・・・。」
土を軽く触り、口に含む。
「ん、問題ねぇな。」
土を茂みに吐き、満面の笑みで頷く。
「よし、ここに畑を作ろう。そうと決まれば、ララ頼む。」
「はい!」
近くの木に触れ、目を閉じる。
「こんにちわ木さん。私は花少女のララと言います。良ければお話ししませんか?」
ララが語り掛けると、それに応えるように葉っぱが音を立てて揺れる。
「ありがとうございます。実はお願いがあるのです。そのお願いというのは目の前にある地面を貴方の立派な根で柔らかくすることはできないでしょうか?」
触れている木以外の木の葉っぱも音を立てて揺れだす。
「そこをなんとかお願いできないでしょうか?私の恩人であるアニキさんの食べる物を作るために必要なんです。」
木々同志が話し合いするように枝と枝がぶつかる。
「なんか、上手くいってないのかな?」
「そぉ見えるんよ。」
「まぁこればっかりはどうすることもできないし、僕たちは育てる作物の話でもしようか?」
「んだな。」
「ミムルは村では何を作っていたんだ?」
「わたすの家はひぃおじいちゃんの頃からお豆さ作ってたんよ。」
「豆?」
「んだ。お豆は醤油っこにも味噌っこにもなる有能な食べ物なんよ。」
(てことは大豆、だよな?)
「そんれに加えてお豆さそのものも美味しいからえれぇなぁ。」
大豆の味を思い出して頬がほころぶ。
「大豆以外は作っていなかったのか?」
「わたすの家はそうだけんど、村ではお野菜も色々作ってたんけ、作り方はわかっとるん。」
「なるほど。まぁ種に関してもララ頼りだから何になるかはわかんないな。」
「んだな。けんど、どんな種でもわたすが頑張って育ててみるんよ!」
ポンっと自分の胸を叩いて、自信満々の顔を向けられる。
(すっかり元気になったなミムル。最初は怯えていて会話すらできなかったのに。)
カイドウは心の中でほっこりし、ララに向き直る。
「どうやら終わったみたいだな。」
若干落ち込んでいる雰囲気のあるララがこっちに戻ってくる。
「ダメだったのか?」
「いえ、彼らは構わないと言ってくれたのですが、条件として主様の許可の証を見せて欲しいそうです。」
「“主様”?」
「はい。この森にずっと居座っている方がいるそうです。」
「その主様にはどこさ行けばええの?」
「この森の中心にいるそうです。」
「この森の中心って・・・どこだよ?」
「さぁ?私にはわかりません。」
心の中でずっこける。
「じゃあどうすんだよ?」
「中心とは真ん中のことです。真ん中を目指せばいいのではないでしょうか?」
(うんやっぱりこの子はおバカだ。)
カイドウの中のララの評価が下がった瞬間だった。




