魔王軍と祈り続ける少女です
日が入らず、この場所は少し暗い。
豪華な装飾品は無いが、それでも荘厳な雰囲気はある。
その場所にあるたった一つの椅子にその者は肘をついて座る。
鎧に身を包み、男か女かもわからない。
「魔王様。」
巨大な目の周りに無数の目がついた顔の者が膝をついて頭を下げる。
「魔王様のご指示通りにダンドーがキキム共和国を滅ぼしました。奴ら、相当の武器を隠していましたよ。ボロ儲けですね。」
興味が無いのか、反応が無い。
「武器は全て回収した後、人間を一人も残さずに処分します。宜しいですか?」
手で同意を示す。
「有難く。もう一つあるので報告をしても宜しいでしょうか?」
人差し指で台座を叩いて先を促す。
「魔王様のお読み通り、カナデル帝国の奴らが攻めてきました。間抜けな奴らですね~。グェッフフフ。」
下品な笑い声が響く。
「いかがなさいましょうね?もはや奴らは魔王様の手のひらの上、いかようにもできますよ?」
指を鳴らすと、煽情的な真っ赤なドレスに身を包んだ角の生えた女が一枚の紙を持ってくる。
目玉の者はその紙を取り、多数の目で瞬時に読み、燃やして消す。
「なるほど。そういう手ですか。グェッフフフ。魔王様も怖いお人だ~。」
紙の燃えカスを集めて、女は去って行く。
「ではそのように動きます。生け捕りは必要ですか?」
いらないと、手を振って応える。
「では皆殺しにします。」
それだけ言い残し、目玉の者は去ろうとする。
「あっと、そうでした。もう一つだけ報告のご許可を得ても?」
何も答えないので続けることにする。
「魔王様はオウゴンガの森をご存知でしょうか?その場所に緑小者魔術師が住み着いていたのですが、消されました。近くにいた漆黒狼は手を出していないことが確認されましたし、不思議な話です。」
報告をそれぐらいにして立ち去ろうとした時、機械じみた声が響く。
「ツヅケロ。」
初めて反応したことに驚きを隠せないが、話を続ける。
「緑小者魔術師は弱いと言えば弱いですが、人間の中にもまだまだ我々の知らない敵がいるのかもしれません。漆黒狼に援軍を送り、強くなる前に滅ぼしますか?」
「シナクテイイ。ホットケ。」
「・・・左様ですか。」
もう一度頭を下げて目玉の者は去って行く。
それと入れ替わるように先程の女が戻ってくる。
「よろしいのですか?」
包み込むような優しい声に少しだけ怯えが見える。
「ワタシハ、タダツヨイテキトタタカイタカッタダケダ。」
「存じております。」
「ツヨクナル、コウジョウシンノアルニンゲンガイルノナラ・・・イイノダガナ。」
「・・・御冗談を。」
一瞬だけ鎧の隙間から青い光が見えた。
「ダンドー様、回収が済みました。」
ワニ顔の男が振り向く。
「鬼族の女か?どこの班だ?」
「私が班長です。」
「名は?」
「・・・ありません。鬼族の中では半人前の為、作業班に回されました。」
「そうか。なら一番乗りということでこの俺が名をやろう。」
「よろしいのですか!?私はまだ一人では獲物を仕留めることもできていませんが!?」
「鬼族のルールにケチをつけるつもりはないが、ここは魔王軍。俺が貴様を評価したんだ。有難く受け取って置け。今日から貴様の名は“メデル”だ。」
「有難く授からさせて頂けます。今日より、メデルの名を名乗ります。」
瞳から一筋の涙が流れる。
「メデル、人間どもは全て処分済みか?」
「いえ、巨漢共が苗床の補充をしたいそうです。」
「ダメだ。人間は全て殺せ。苗床が欲しけりゃエルフでも生け捕りにしろと伝えろ。」
「私が、ですか?」
声に不快な色が混じる。
「配慮が無かったな。巨漢共をここに呼べ。俺が直々に命令する。」
「直ちに。」
メデルはすぐさま立ち上がり、走り出した。
「オデタチヲヨンダノハオマエカ?」
緑色の巨漢がぞろぞろと集まる。
「貴様!!口を慎め!この方は魔王様より与えられたこの軍を預かる方だぞ!」
「オニゾクノオンナガホエテルゾ?」
不快な笑い声が巨漢たちの中から湧いてくる。
「グワッワッワ。これだから緑巨漢は頭が悪いのだ。」
「ナンダド?」
笑い声は消え、殺気がダンドーに向けられる。
「貴様らはメデルのことを苗床としか見ていないようだが、貴様らよりメデルの方が有能だぞ?」
「ホザクナッ!コンナメスニナニガデキル!ヨワッチィメスハマタデモヒライテオレタチノカイラクノドウグニナッテロ!」
「ほう。それが最後の言葉でよいか?」
「アアァ?」
隣に置いてある大きな斧を手に取り、緑巨漢の前に立つ。
前に立つと、ダンドーの方が小さい。
「ゲヒャヒャヒャ!チビスケガオレタチノマエニタッタゾ!」
他の緑巨漢も大笑いする。
「コイツヲコロシテオニゾクノオンナヲマワソウ!」
「誰が誰を殺すんだ?」
「アアァ?オデサマガオマエヲコロシテ・・・!?。」
「その、腕でか?」
いつの間にか両腕は地面に落ちている。
「ブビヤアァッ!?」
意味不明な叫び声が五月蠅く響く。
「喧しい!!」
首を落とすと、抵抗なく巨体は倒れ、静かになる。
「他に俺の前に立つ緑巨漢はいるか?」
先程までの勢いは消え、巨漢たちの目に怯えが見える。
「いないのなら貴様らの命は保証しよう。魔王様に言伝ぐらいはしておいてやる。」
代表して一番前にいた巨漢が頷く。
「いいだろう。貴様らが捕まえた人間も全て殺せ。殺して首を持ってこい。それを忠誠と認めてやる。仮に、一人でも人間を生かそうとするのなら・・・。」
倒れた巨体を切り刻む。
「これよりも重い処分を覚悟しろ!」
ビビった巨漢たちは全速力で走って行く。
「有難うございましたダンドー様。」
膝をつき、頭を下げる。
「有能な奴は魔王軍では評価される。覚えておけ。」
「心に刻みます。」
「ドベベベ。相変わらずの顔に似合わぬ正義感だなダンドー。」
棍棒を担いだ黒い巨体が姿を見せる。
「ドン・ボボか?何用だ?」
「ドベベベ。あいつらを殺したいと言ったら?」
「好きにしろ。貴様ら黒巨漢からすれば恥さらしなのだろう?」
「まったくもってな。鬼族のお嬢ちゃん、すべての巨漢がああいう訳ではないことも覚えておくんだぞ?」
「理解しておりますドン・ボボ様。・・・ですが、緑巨漢については無理そうです。」
「ドベベベ!素直でいい子だ。」
「本当の用件は何だ?」
「文が届いたぞ。読むだろ?」
ドン・ボボから文を受け取り、その場で読み始める。
「ふん。また頭の悪い人間共が戦を始めるようだ。」
「今度は何処だダンドー?」
「カナデル帝国が我らの聖地に攻め込むようだ。」
「よろしいのですか!?すぐさま駆け付けねばいけないのでは!?」
「ドベベベ!お嬢ちゃんは本当に素直だなぁ。」
「え?」
「魔王様の策だ。終わったなこいつらは。」
目の前の焚火に文を投げ入れる。
「俺たちは武器や金目の物を全て回収し、帰還しろとのことだ。」
「ほんじゃま、帰るとするか。」
「メデル、貴様も帰還の準備に取り掛かれ。」
「は、ハッ!」
ダンドーはドン・ボボと共に歩いていく。
「やはりあいつらは殺しておくかぁ?」
「やめておけ。使い潰す駒とでも考えておくんだな。」
「ドベベベ!」
二人の背中が見えなくなるまで、メデルは見続けた。
羨望の目で。
優しい陽光が教会内を照らす。
全ての者を包み込むように立っている女神像の前で少女は祈りを捧げる。
「女神様・・・。」
(マナカちゃんは今日もカワユス。)
※少女の目には見えていないが、目の前に女神がいます。
「今日も祈りを捧げに来ていたか。」
「司祭様。」
(相変わらず武人のような司祭よね、ここのは。)
立ち上がろうとした少女に、片目に傷のある男が手を出して止める。
男は適当な長椅子に腰を落とす。
「マナカ様の祈りは必ず女神様に届いておる。信仰心を決して忘れることの無いよう。」
「ありがとうございます司祭様。」
(あったり前よ!こんな美少女の声を聞き洩らすわけないでしょ!ところでマナカちゃんはそろそろその小さな果実が実り始める頃かな?)
「ですが、女神様は何も答えてくれないのです!お父様も切羽詰まっています。どうすれば良いのでしょうか!?」
(それについては謝罪の言葉しかありません。申し訳ありません。ごめんなさい。何でもしますからゆるし・・・。)
「女神様はカナデル帝国を憐れんでいるのだ。」
(はいぃ?)
「カナデル帝国を?」
「ああ。カナデル帝国は戦を始めるそうだ。それも防衛線ではなく侵略戦争、争いを起こすことを女神様は良くは思わん。哀れなカナデル帝国に女神様は神聖な涙を流すのだ。」
「そう、だったのですね。私は無知でした。ごめんなさい。」
(私も無知だからおあいこだね!へ~あそこの国、遂に動き始めたんだ~ずっと静観していたのにな~。確かあそこにはカワユスなディアナたそがいたような気が・・・。)
「謝ることはない。女神様は全ての罪を許す。マナカ様のような信仰心の深い者ならなおさらな。」
(カワユスなおんにゃのこ全てを許します。あとお気にもね!)
「マナカ様、祈りを続けるのだ。必ず女神様が応えてくれるだろう。」
「はい。」
優しく笑い、祈りを再開する。
「お願いします女神様、どうか、どうかこの国をお救いください。」
少女の真剣な姿に、女神の適当な感じの雰囲気は消える。
(マナカちゃん、安心して。手は打ってあるから・・・。)
祈り続ける少女の額にキスをして、その場から消える。
(脳裏に描かれた場所に行きなさい。彼が・・・彼が必ずあなたを・・・。)
少女に声は届いていない、今は。




