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人間側の国々です

不気味な装飾がこの場所を埋め尽くす。

その全てが黄金に輝き、その中央で黄金の椅子に座り、男は目を閉じて身を任せる。

女たちは上半身を脱ぎ、その身をもって男の汚れを綺麗にしていく。

男が一度は夢見る光景なのに、男は全く笑っていない。

それが女たちに緊張を促す。

「失礼するぞ!」

返事も待たずに豪快に扉を開け、中に入ってくる。

それに対しても男は反応しない。

「おおう!?なんだなんだ?昼間っから良い光景じゃ~ないか!」

男の言葉に女たちは赤面して前を隠す。

「・・・用件を言え。」

風呂場という何も身に付けていない場所であってもこの男の威厳さは全くなくならない。

「ゼハハハハ!相変わらずの生意気!結構結構!」

ドカッとその場に座り、腰布袋から酒を取り出す。

「やはり間者の言葉は正しかった・・・戦(いくさ)の時間じゃぞ王よ。」

“戦”という言葉に目を開ける。

酒をぐびぐび飲み、口元を豪快に拭って笑う。

「どうする?尻尾を振って逃げるか?」

「冗談は顔だけにしろ。余(よ)が逃げて民は、家族は、生きられると思うのか?」

「ゼハハハハ!確かに!」

ドンッと自分の足を叩く。

「ならば話が早い!戦をしていいのだな?」

「・・・好きにするがいい。」

「ゼハハハハ!」

野獣のような目が獲物を見つけたようにギラギラと輝く。

「ならば失礼しよう!こんな面白い戦、前線で迎えてやらねばなァ!」

立ち上がると走り出していく。

「フンッ。下品な奴だ。」

そう言って目を瞑った男は両手を広げ、何事もなかったように女たちは洗いなおし始めた。


「ゼハハハハ!いい光景だな!」

目の前で行きかう兵士や冒険者たちを見て増々笑顔になる。

「将軍、今回の戦はどのような陣形で戦いますか?」

眼鏡をかけたひょろい男が眼鏡の位置を直しながら聞く。

「ん?そうだな・・・貴公はどう考えている?」

「僭越ながら、此度の戦は将軍の得意な攻めの戦ではありません。守りの戦です。苦手な舞台に将軍が合わせる必要性が分かりませんが?」

「ゼハハハハ!その通りだな!ならば攻めようか!」

「ですね。では、いつも通り錐角(すいかく)の陣で行きましょうか。」

「そうしろそうしろ!もちろん先頭はこの俺だな?」

「ええ、そうしま・・・。」

「ちょっと待てよジジイ!」

馬に乗って駆け足で台座の下に赤い短髪の男がやってくる。

「一番槍はこの俺様!世界の槍使いこと、カーニバル様だ!」

背中の槍を瞬時に持ち、将軍に刃先を向ける。

「貴様ッ!将軍に対し・・・。」

手を前に出して言葉を止める。

「ゼハハハハ。いい面になったな泣き虫カーニバル。そんなに早死にしたいのか?」

「俺様は死なねェ!テメェこそいい加減にその席を譲れよジジイ!」

「生憎、まだ俺の死ぬ予定はないなぁ。残念だったな泣き虫。」

「泣き虫じゃねェ!いつまでも初陣のことを言うんじゃねェよジジイ!」

「お父様。」

カーニバルのような赤い髪を後ろでまとめた鎧に身を包んだ女性が台座の前で膝をつく。

「物資の準備が完了いたしました。次の指示をお願い致します。」

「うむ。物資以外の準備はどうだ?」

「概ね順調ですが、一部の冒険者の中には此度の戦に対し、良くは思っていない者がいる様子です。」

「そうか。じゃあそいつらはカーニバルの部隊に回せ。」

「仰せのままに。お父様。」

「ジジイ!テメェ俺様に使えねェ奴らを寄こすんじゃねェ!俺様の紅蓮隊(ぐれんたい)に補充要員はいらねェんだよ!」

馬から降りて、怒りを槍に籠めて地面に突き刺す。

その姿にニヤァっと笑う。

「お兄様。お言葉を述べても宜しいでしょうか?」

「あアァ?」

「お父様はお兄様に此度の戦の先頭を譲ったのです。その意味はもうお分かりですよね?」

「あ?・・・そういうことか。」

ニタァっと嬉しそうな笑いを浮かべる。

「んだよジジイ!話せばわかるじゃねェか!」

「だがわかるよなカーニバル。先頭を任せるということは・・・。」

「わかってんよ!全員使い潰してやらァ!ナッハハハハ!」

高笑いしながら馬に乗ってその場を去って行く。

「相変わらず使いやすい息子で結構。」

「お父様もお人が悪いです。」

「ゼハハハハ!これでも愛してんだぞ?カーニバルも、お前もな・・・ディアナ。」

「嬉しく思います。」

緩みそうになる頬を気力で耐える。

「ディアナ、貴様は今回の戦はサポートに回れ!」

「仰せのままに!」

赤髪を揺らしながら鼻歌まじりに去って行く。

「・・・良いご子息、ご息女をお持ちですね。将軍。」

「ゼハハハハ!そこには良き戦友と美人で優しくて世界一料理の上手い自慢の愛する嫁もいるがな!」

「そのようで。では、私も愛する娘と妻に挨拶をしてきましょうかね。」

「ゼハハハハ!そうしろそうしろ!いつ戻るかわからんからな!」

軽く頭を下げてその場を歩いて去る。

「人間以外(・・・・)が相手の戦は初めて、だな。」

腰にさがる剣を触り、嬉しそうに笑った。

それに応えるように柄の青い宝石が光った。


重苦しい空気の中、髭を生やした男が口を開く。

「・・・ついに、カナデル帝国が魔王軍の標的に選ばれた。」

皆そのことを知っていたのか、全く驚きはない。

「次は・・・我々の国かもしれないな。」

その場にいる全員が同意するように唸り声をあげる。

「陛下ッ!この緊急事態にどのようなご対応をッ!?」

年の若い男が金切り声のような叫びをあげる。

「黙らぬか商業大臣。このような事態があることも飲み込んで、その地位に着いたのであろう?」

「ですが法務大臣!このままカナデル帝国が負ければ、次の標的は我々かもしれないのですよ!」

誰も答えない。

皆が頭の中でそれを理解しているからである。

「で、でも!カナデル帝国には紅獅子がいるんでしょ!?」

怯えた目の女性が救いを求めるように皆に聞く。

「確かに紅獅子は強い男じゃ。ここら辺の諸外国の全ては奴の強さを恐れ、カナデル帝国の傘下に入っているほどにな。」

「で、でしたら!?」

「じゃが、紅獅子の強さは対人間相手。対魔族に関しては未知数。勝てる保証はない。」

女性は口をパクパクするだけで声が出ない。

「財務よ。紅獅子は負けると思うか?」

「そうじゃな・・・人間相手なら負けぬだろうが、此度は魔族。人間とは訳が違うわい。」

「左様か。ならば、我々も対処を考えるべきですな国王陛下。」

気難しい顔で目の前の地図を睨みつけている。

「我々は戦うことはできない。カナデル帝国のような軍事力も、ミーティア公国のように多数の冒険者もいない。いるのは並程度の訓練を積んだ兵士のみ・・・逃げるしかない。」

「何処へですかッ!?」

「降伏という考えはどうでしょうか国王様!?」

「無理じゃな。」

二人の発言を即否定する。

「魔王軍に慈悲は無い。貴殿らの耳にも入っているであろう?バンビア王国の末路を。」

「兵士長の言う通りじゃ。降伏を願い出たバンビア王国は人一人残さずに焼き尽くされたじゃろ。」

絶望を顔に張り付けて、肩を落とす。

「しかし国王よ。いつ逃げる?何処へ逃げる?」

「日は改めて話し合いをしよう。場合によっては他国を敵に回しかねん。」

「では場所じゃな?どこか目星でも?」

「・・・馬鹿げた話だが、場所については娘に頼ろうと思う。」

「ということはキララ王女ですかな?確か・・・キララ王女は何処に嫁ぎましたかな?」

「海を越えた遠い国、アランベルグという国ですな。」

「遠すぎませんか!?」

「やむを得んだろう。それぐらい逃げねば魔王軍の手が届く。」

辛い立場に皆、言葉を無くす。

「いいや違う。」

その中で国王は首を横に振って否定する。

「ではどこに?キララ様以外はまだ嫁いでいないじゃろ?それとも婚約中のミール宗教国か?」

「ミール宗教国はつい最近滅んだじゃろ。」

嫌な気分で息を吐く。

「頼るのは末の娘、マナカだ。」

「マナカ姫様を?まだ10歳じゃろ。どう頼るのですかな?」

「最近、マナカは夢で女神様とお話をしているようなんだ。」

「なんと!?女神様と!?」

「祈り続けたのが報われたのじゃな。」

熱くなる目頭を押さえる。

「何を言っているのですかッ!そんなのは幼い女の子が気を引きたくて嘘を言っているに決まっているでしょ!」

「そ、そうですよ!そんな話を私たちに信じろというのですか!?」

「黙れ小僧共がッ!!」

ずっと無言であった片目に傷のある男が吠える。

「マナカ様は献身的に毎日のように女神様に祈りを捧げ続けてきた!それに女神様が応えてくださったのだ!」

「あ、貴方は司祭だからそう言えるでしょうけど!我々は現実的にですね!?」

「昔話じゃ。」

法務大臣が口を開く。

「大昔、人間と魔族が混沌とした世界を憂いたどこかの国の王妃が、救いを求めて女神様に祈りを捧げ続けた。その王妃は自分の命の炎が尽きかけた時に出会ったそうじゃ。美しく、神々しい翼をその身に携えた、穢れを知らない笑顔の女性に。」

「その女性の言葉の通りに動いた者たちは魔族が大きくなるのを抑え、魔族と人間との争いに終止符を打った。誰もが知る話じゃ。」

「で、でもそれはお伽話では!?」

「そうかもしれない。しかし、現に私の娘は女神様の言葉のおかげか、私たちの知らない料理を披露し、知識を与えて、綺麗なアクセサリーを作って見せたではないか?」

脳裏に数々の料理と、自身も身に付けているアクセサリーたちが浮かぶ。

「・・・マナカ様は、その王妃の生まれ変わりなのかもしれんな。」

「魔王が復活したように、憂いた王妃も生まれ変わったと?」

「そうじゃろうな。マナカ様は時々、わしらの知らない言葉を知っておる。」

パンッと手を叩き、注目を集める。

「どうだろうか諸君。私の娘、マナカを信じてみませんか?」

これ以上の議論は無いと言わんばかりに次々と同意を示していく。

「わ、私も!」

怯えていた女性も同意する。

「ぼ、僕も!?」

騒いでいた商業大臣も同意し、満場一致した。

「では、マナカに頼るとする。皆は出来る範囲の準備を。」

その言葉を残し、髭を生やした男は席を立った。



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