おれさまは由緒正しき・・・です
「という訳で、早速銛を作るぞ。」
「押忍!アニキ!」
「まず丁度いい長さの木の棒を用意します。」
目の前に数本の木の棒を置く。
その内の一本を手に取る。
「そして、先をナイフで削り、尖らせます。」
「押忍!アニキ!」
クゥも真似して、木の棒を削り出す。
「なるべく削りすぎずに尖らせれば・・・。」
削り終わった場所を見て、頷く。
「簡易版、銛の完成だ!」
「おー!!」
「これをいくつか作るぞクー。」
「押忍!アニキ!」
「・・・さっきから押忍って何でだ?」
「え?何となくだけど?」
「そ、そうか・・・。」
暗くなる前に急いでカイドウたちは数本の銛を作り上げ、もう一度小さな池に戻った。
「そろそろ戻った方がいいわね。」
太陽が傾き始めたのを見て、リリアナは判断する。
「そうだね。暗くなったら帰れなくなるかもしれないし。」
「結局、何も見つからなかったわね。」
「うん・・・何だか申し訳ない気持ちだね。」
「仕方ないわ。落ち込んでもどうにもならないし、明日頑張ればいいのよ!」
前向きなリリアナに素直に感心する。
「すごいな・・・。」
「何がよ?」
「い、いや!?何ていうか、前向きで、カッコいいなって思ってさ。」
「当然ね。落ちるところまで落ちた後よ。あとは上に向かって昇って行くだけだわ。前を向いてね。」
「それがすぐにできるリリアナはやっぱりすごいよ。あたしなんか、まだ暗い気持ちになるから。」
「ふふんっ。私、気持ちの切り替えだけは早いのよ。」
胸を張って言う。
その姿がカミラにとって少し眩しかった。
「さぁ!帰りましょうカミラ!」
笑うリリアナはカミラに少しづつ勇気を与えてくれる。
「ああ!」
カミラは差し出された手を取った。
「んで?スキル野生の小力を発動して、どうするんだ?」
小さな池の前で銛をもって立っている。
(答え。野生の勘に従って銛を投げる。)
「野生の勘か・・・。」
とりあえず、目を閉じてみる。
すると、魚の泳ぐ音のようなものを感じる。
「ここか!」
全力で銛を投げると、大きな水しぶきをあげて銛が地面に突き刺さる。
(・・・答え。威力はほどほどに。)
「・・・うん。」
「すげぇ・・・。」
目の前の水しぶきにクゥは圧倒される。
「ま、まぁ!やり方はわかったな、うん。」
「とりあえず銛を回収しよう。」
「だな。」
ズボンをまくり、靴を脱いで水の中に入る。
(浅くてよかった。)
突き刺さった銛を抜くと、何か動いているのが目に入る。
「お!」
銛の先を見ると、極彩色の魚が弱々しく動いている。
「・・・え!?何だこれ?なぁクー、これって食べれるのか?」
銛をクゥに向けると、目を見開く。
「そ、それって!?レインボーフィッシュだよ!?」
「レインボーフィッシュ?食べれるのか?名前からして美味しくなさそうなんだけど・・・。」
「えっとね、そのままでは食べれないんだけど、焼くことで味が決まるんだ。その味の種類は計り知れないんだよ。」
「は?てことは、焼き魚の味の時もあれば、パンの味の時もあるってことか?」
「そういうこと。結構珍しい魚だよ?こんなところに生息していたんだね~。知らなかった!」
レインボーフィッシュを見て、微妙な顔になる。
(焼くたびに味が変わるって・・・どういう理屈だよ。やっぱりここは異世界なんだな。)
何とも言えない気持ちのまま、カイドウは数匹のレインボーフィッシュを捕まえた。
その過程で職業レベルが上がったと、脳内アナウンスが伝えてきたが、いまいち実感はできなかった。
「確か、この道よね?」
カミラに確認しながら、リリアナは帰路につく。
「この辺には食べれそうな物はないのかね?」
「私たちが見落としている可能性もあるけど、これはカエルを覚悟するべきね。」
嫌な顔になりかけて、首を振る。
「食べられるだけましよね!うん!」
「まぁそうだね。あれよりは・・・。」
言いかけて、カミラは止まる。
「カミラ?」
「しっ!」
耳に手を当て、周囲の音を拾おうとする。
「・・・聞こえる。」
「何か聞こえるの!?もしかして水の音!?」
期待に胸が膨らむ。
「違う・・・歌?」
「う、うた!?うたってあの歌!?何で!?」
「わからない。けど、あっちから聞こえる。」
指さした先は、今日は行かなかった方向である。
「どうする?行くのか?」
「そうね・・・手ぶらよりかはマシよね!行ってみましょう!」
頷き、カミラの先導に従って森の中を歩いていく。
すると、リリアナにも歌が聞こえてくる。
「本当だわ。」
「近いね。」
大きくなる歌声に身を隠しながら近づいていくと、寝転がる何かが見えてくる。
「おれ~さま~は~由緒正しき~男~。おれ~さま~は~強い~男~。」
歌声は微妙だが、姿を見て人間ではないことを確認する。
黄色い南瓜頭に全身黒タイツの小柄な魔物のようである。
「おれ~さま~は~由緒正しき~男~。おれ~さま~は~弱気を~助ける~男~。」
ご満悦な様子で歌っている。
「どうする?」
「そうね・・・敵、かもしれないわよね?」
「引き返してカイドウ君に知らせる?」
「そうするべき、よね。」
「おい!」
大声に驚き、瞬時に体を小さくする。
「そこにいるのは、わかっているんダゼ。」
結構高いハスキーボイスが近づいてくる。
「おれさまの目を欺くことは、不可能、なんダゼ。」
リリアナとカミラは観念し、手を挙げて姿を現す。
「驚かせてしまったのなら、謝るわ。私たちに貴方と敵対する意思はないわ。」
リリアナに合わせて、カミラは頷く。
「そうかい?その言葉を、おれさまが信じると思っているんダゼ?」
「よ、弱きを助ける紳士的な男なら、か弱い女性の言葉を疑わないんじゃないかしら?」
「その通りダゼ。だが、お前たちは違うんダゼ。ここにいる人間なんて、見たことないんダゼ。」
「わ、私たちは緑小者から逃げてきたのよ。」
「緑小者?奴らか、ダゼ。奴らから逃げてきたってんならお前たちの言葉は真実なんダゼ。」
「信じてくれるのかしら?」
「信じるんダゼ。男なら、女の言葉は素直に信じるものなんダゼ。」
(簡単に嘘をつくわねこいつ。)
挙げていた手を降ろし、握手を求める。
「リリアナよ。」
その手を取り、軽く振ってから放す。
「おれさまは由緒正しき野菜汁族の貴族、パンプン様、なんダゼ。」
「こっちはカミラね。パンプンはこんなところで何をしているのかしら?」
「おいおい呼び捨てか?人間という生き物は随分とフレンドリーなんダゼ。」
肩をすくめて、首を振る。
「・・・パンプンさんはここで何を?」
こみ上げる怒りを抑えて、笑顔で尋ねる。
「おれさまか?おれさまは理想の花嫁探しダゼ。残念ながらこの辺にはおれさまの理想の花嫁はいないようなんダゼ。」
「こんなところで花嫁探し?他の場所を進めるわよ?」
「ふっへっへ。おれさまもそう思うんダゼ。だがな嬢ちゃん、これだけ広い森を、嬢ちゃんは隅々までみたのか?ダゼ。」
「い、いいえ。」
「なら、この森におれさまの理想の花嫁がいる可能性を否定できないんダゼ。もしかしたらこの森の奥には理想郷があるかもしれないんだからなダゼ。」
ドヤ顔で、笑いかけてくる。
「・・・。」
「リリアナ?」
「うん、冷静に対処するのよ私。こいつは食べても美味しくない美味しくない。」
不穏な発言に、カミラはリリアナが爆発寸前かもしれないと思い、帰ることを選択する。
「じゃ、じゃあ!あたしたちは帰るよ。邪魔したね。」
リリアナの手を取り、歩き出す。
「ちょいと待ちなダゼ。グラマラスな姉ちゃんダゼ。」
嫌な呼び方をされたが、怒らず振り向く。
パンプンはいつの間にか荷物をまとめ終えている。
「おれさまが護衛を買って出ようダゼ。ここら辺は人間にとっては危険だからなダゼ。」
「い、いや!?その、結構というか・・・。」
「気にするなダゼ。どうせ宿無しの身ダゼ。気ままな旅の気まぐれ、ダゼ。」
キュピンっとでも聞こえてきそうなポーズで決める。
苦笑いが解けないカミラは、断ることもできずについてくるパンプンを黙認した。
「戻ったわ!」
頭の中で無理矢理パンプンの存在を認め、拠点に帰ってくる。
「お帰り~って、誰それ?」
「お嬢ちゃん、俺様は由緒正しき野菜汁族の貴族、名を・・・。」
「こいつはパンプン。勝手について来たわ。」
「お嬢ちゃん、その雑な紹介は・・・まぁいいんダゼ。」
軽く肩を落として、首を振る。
「へ~。ってそれよりさ!何か見つかった?」
「申し訳ないわ。」
リリアナは軽く頭を下げる。
「あたしらの方はこいつしか見つからなかったよ。」
「こいつ扱いか、ダゼ。まぁ、よかろうなんダゼ。」
「そっか。私らも見つけられなかったんだけどさ、カイドウさんたちが・・・。」
「カイドウたちが何か見つけたの!?」
食い気味でクルミに迫る。
無視されているが、パンプンは気づいていない。
「そうなんだよ!ララちゃんが小さな池を見つけて、そこでカイドウさんたちが魚を取ってきたんだよ!」
「本当!?すごいわ!」
「流石カイドウ君だね!」
疲れていたのに、すぐに笑顔になる。
「もう魚が焼ける頃だよ!早く行こう!」
「そうね!頂きましょう!」
三人はパンプンを置いて、洞窟の奥に走って進んでいく。
「おいおい嬢ちゃんたち、この洞窟はかなり危険なんダゼ。どうも、奴らの臭いがするんダゼ。」
慌てることもなく、優雅に後をついて行った。




