次の目的は“水探し”です
「あ、アニキ?」
不安そうなクゥを無視し、周りの女性を確認し生きていないことを把握する。
その途中で一人の女性が紫色の液体の入った小瓶を持っていることが分かる。
「・・・これは?」
適当に揺らしてみるが、何か分からない。
小瓶を持っていた女性を見ると、口から同じような紫色の液体が垂れている。
(・・・そういう、ことか。)
その小瓶の意味を知り、とりあえず息のある女性の横に置く。
「アニキそれって・・・。」
「毒薬じゃないか?」
「いいの!?」
「良いも悪いもここはそういう場所なんだろ。ここは緑小者たちによる苗床で、身籠ったヤツは腹を裂かれる。裂かれてない奴は永遠の恥辱から解放されたくて毒を飲んで死んだんだよ。」
「そ、そうかもしれないけど・・・。」
「それに、死にたいと願っている奴の邪魔を、僕はできない。」
(僕も生きる何かが無くて、前世では死んだしな。)
「だから、僕に出来ることはこの人に選択を与えてやることなんだ。」
「選択?」
「そうだ。いいか良く聞け。」
女性に向かってカイドウは落ち着いた声で言う。
「この毒薬らしきものを飲めば、お前は死ぬ。他の奴のようにな。だが、だがだ。もしお前に少しでも生きたいとか、やりたいことがあるのなら、辛い過去を背負って生きていくしかない。選択するのはお前自身だ。明日の夜までに決めてくれ。明日の夜、この場所を綺麗さっぱり無くすから。」
女性は静かに一筋の涙を流す。
それを見ないふりをし、言葉だけを残し、カイドウたちはその場を後にした。
「と、いうことがありました。」
クゥは説明が終わり、頭を下げる。
「なるほどね。それで?貴方、その小瓶はどうしたのかしら?」
「これのことかな?」
胸の谷間から小瓶を取り出す。
その行動に少しだけリリアナは眉を顰める。
「それをどうするつもりなのよ?」
「・・・返しておくよ。」
そう言って、カイドウの手を取り小瓶を渡す。
(い、いきなり手を取るなよ!?ビビっただろ!!)
顔には出さず、その小瓶をしまう。
「・・・あんたの言葉で、あたしはやるべきことがあると、思い出したよ。」
「や、やるべきこと?」
「ああ。あたしのやるべきこと、兄にあたしの無事を知らせることだ。」
「あ、あに?」
(さっきから僕は何できょどってるの!?)
カイドウの会話が見ていられず、リリアナがカイドウの前に出る。
「貴方はお兄さんがいるのね?」
「ああ。兄は王国の騎士。きっとあの村にも助けに行ったはずよ。」
脳裏に焼け払われて行く村と、人々の断末魔が一瞬だけ過る。
「きっと兄は後悔していると思う。だから、あたしだけでも生きているよって言いたいんだ。」
「なるほどね。やるべきことがあることはいいことだわ。私にはもう、身寄りもいないし・・・。」
目を閉じ、すぐさま生き生きとした目を向ける。
「だから決めたのよ!ここで生きていくってね!」
(やっぱり僕よりこの子の方がボスなんじゃ・・・。)
「てなわけで、よろしくお願いするわ!私はリリアナよ。」
手を差し出す。
その手を取り、答える。
「あたしはカミラ。よろしくなリリアナ。」
二人の間に互いを認め合う気持ちが芽生え始める。
(・・・乗っ取りってこういうことなのかな?)
素直に祝福ができないカイドウであった。
「さて、これからについてみんなで話し合いましょう。」
円を描くように七人は座り、リリアナが話しを進める。
「まずは食糧問題ね!カイドウさんとクゥは何を食べていたのかしら?ちなみに私たちは言いたくないから伏せるけど、碌なもんじゃなかったわ。」
囚われていた他の者たちも嫌な顔になる。
「私は、時々降る雨を飲んでいました。」
ララが手を挙げて答える。
「オラたちはカエルだよ!ね!」
「あ、ああ。」
「か、カエル!?そんなもの食べられるの!?」
「食べれるよ!とっても美味しいんだよ!ね、アニキ!」
「あ、ああ。」
「カエルって、どんな味なのかしら?」
引きつりそうな顔を我慢して聞く。
「え?どんな味って・・・美味しいとしか言いようがないんだけど?」
リリアナはカイドウに説明を求める。
「え、えっと、あの、その、と、鶏肉に近い味、かな?」
「鶏肉なの!?」
「だから美味いんだ!流石アニキ!」
ぎこちない笑顔でカイドウは応える。
「と、鶏肉って言うなら、しばらくはカエルで何とかなりそうね。けど!やっぱり食料は必要だわ!ララ、この辺で食べられる果物とか、野菜なんて無いのかしら?」
「探したことが無いので、わかりません。」
「なら探してみてちょうだい。あとはそうね・・・川なんて無いかしら?」
「オラたちは知らないよ。」
「私も知りません。」
「それは残念ね。なら川、もしくは池なんかを探すのも必要ね。」
地面に石で書いていく。
「とりあえずの食料はカエルで我慢するとして、次はこの集落に必要なものを考えましょう。何か意見のある人はどんどん言ってちょうだい。」
「はい!オラは寝床が必要だと思う!」
「そうね。体を休めることは重要だわ。」
「あたしはトイレかな。」
「重要ね!」
「あ、あんのぅ・・・。」
先まで怯えていた女の子が手を挙げる。
「何かしらミムル?」
「わたすは、風呂が欲しいんよ。」
「だよね!分かる~私もお風呂欲しい~。」
怯えていた姿が嘘のような元気な笑顔をクルミは見せる。
「いいわね!」
「ちょっと待ちなよリリアナ。風呂は流石に無理だし、水浴び程度でいいんじゃないか?」
「何を言っているのよカミラ!お風呂は重要でしょ!特に女の子には!」
「そうかもしんないけど、現実的に無理だろ?」
「くっ!」
それ以上は何も言えず、リリアナは指を噛む。
「オラも必要ないと思うよ?オラ、集落にいた時はあまり風呂に入らなかったし。」
「で、でも!」
「お嬢様、お風呂は諦めましょう。」
「そうだね~現実的に無理だもんね。」
「わたす、我慢する。」
諦めの雰囲気にリリアナも呑まれそうになる。
「いいや、風呂は必要不可欠。考えもあるし、諦める必要はない。」
声のする方に注目が集まると、そこには腕を組んで断言するカイドウがいた。
「あ、アニキ?」
「そ、そうよね!」
「ああ。まず、クーには風呂の必要性を語ろう。」
咳払いをし、話し始める。
「まず、風呂の目的についてだ。クゥにとって風呂に入る目的は何だ?」
「え?匂い消しかな?」
「それが答えだクー。」
「え?」
「基本的に動物は鼻がいい。魔物の中にも鼻が利く種族がいるだろう。そんな時、風呂で臭いを消せば?」
「見つからない?」
「その通りだ。逆に臭いでバレて、奇襲が失敗する恐れもある。」
「な、なるほど!」
「次にリラックス目的だ。風呂は疲労回復にかなり効果的で、体を温めることは早めの睡眠を促し、次の日に疲労を持ち越さないようにしてくれる。」
「おお!」
「よって、風呂は必要不可欠なんだ。」
「なるほど!流石アニキ!」
クゥは感動して、立ち上がり拍手する。
「けど、現実的に作るのなんて無理だろ?」
「そうでもない。作る気があればできる。が、相当の時間を要する。」
「いいじゃない!時間なんていくらでもあるわ!お風呂を作りましょう!」
「いや、やるべきことは風呂よりも水を探すことだ。それが無ければ何も始まらない。もちろん風呂もな。」
「そうだね。水が無ければお湯も沸かせないもんね。」
「なら水探しね!ララは果物や野菜を探してもらって、他の皆で水を探しましょう!」
「あ!オラたちは荷物を取りに行くね!」
「わかったわ。じゃあ!始めましょう!」
全員が意気込み、歩き出す。
カイドウが歩き出そうとした時、背中を軽く叩かれる。
「やるじゃない!ボス!」
嬉しそうにリリアナは歩いていく。
「お、おう。」
(そういえば・・・どもらずに話せた!うおおぉぉぉ!)
カイドウは心の中でガッツポーズをした。
「これで全部だね。」
カエルの入った籠を洞窟の中に置く。
「んじゃ、とりあえず水探しだな。」
「それにしてもアニキはすごいよね!」
二人は歩きながら話し始める。
「簡単にみんなを納得させて導いちゃうんだもん!」
「そ、そうか?」
「うん!カッコいいよアニキ!」
「よ、よせよ。」
照れそうになるのを堪える。
「でも、どこに水があるんだろうね?」
洞窟を出て、二人は立ち止まる。
「確かにな。これまで、水なんて見てないし、近くにあるのか?」
「う~ん・・・とりあえず花畑に向かう?もしかしたら近くに何かあるかもしれないし。」
「だな。」
二人は花畑に向かって歩き出す。
「なぁ。」
「何アニキ?」
「あいつが言っていた“オウ”ってやっぱり魔王のことなのか?」
頭の中に緑小者魔術師の姿を思い出す。
「どうなんだろ?そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。」
「どういうことだ?」
「う~んとね、これは単なる僕個人の疑問なんだけど、こんな場所の緑小者を進化させる魔王っているのかな?って思ってさ。」
「言われるとそうだな。わざわざこんな場所の緑小者を進化させる必要はないよな。」
「でしょ?だからもしかしたら魔王の他に“オウ”って呼ばれる存在がいるんじゃないかな?」
「はぁ~ヤダね~あっちこっちに王がいる世界なんて。」
カイドウはげんなりする。
「まぁ人間も同じようなもんだし?」
「あっちこっちに王がいるから戦争なんて起こるんだよ。」
「え?」
「いや、こっちの話だ。さて、着いたな。」
目の前に広がる真っ赤な花が笑いかけるように揺れる。
「アニキさん!」
その中で笑顔を見せるララは妖精のように美しかった。
「アニキ?」
「・・・ハッ!?」
首を横に振り、ララに近づく。
「ララ、何か見つかったか?」
「いえ、ですのでこの子たちに聞いてみようと思います。」
「この子たち?」
しゃがみ込んだララは真っ赤な花とおしゃべりを始めた。




