元お嬢様リリアナです
「お嬢様!お嬢様ーー!!」
声をあげながらララはどんどん奥に進んでいく。
何も聞こえないことに不安を覚えつつも、お嬢様が生きていることを疑わない。
部屋を一つ、また一つと見ていくもお嬢様の姿は見えない。
「お嬢様----!!!」
最後の部屋に入ると、そこには檻があり、怯えている女の子が二人いる。
「お嬢様!?」
檻に近づき、大きな音を出す。
「ひっ!?」
怯えて小さな悲鳴を上げる。
「もう何よ~。」
奥で眠っていた女の子が起き上がり、近づいてくる。
その姿は薄汚れてはいたが、忘れるはずのない姿。
「おじょうざまー!」
涙で霞んでもハッキリと見える可愛らしい姿。
「え?ララ!?どうしてここに!?まさかあんたも!?」
「ぢがいまずーララはおじょうざまをずぐいに・・・。」
「え?何て?何言ってるかわからないわ。落ち着いてから話しなさいララ。」
聞き覚えのある声に安堵し、さらに涙が溢れた。
「・・・それで?どういうことか説明してちょうだい。」
お嬢様は結局泣き止まなかったララと二人の娘を連れ、開けた場所に来ると、カイドウが目に入ったので、状況を聞くことにしたのである。
「え?い、いや、あの、その・・・。」
(コミュ障にこんな可愛い子が話しかけてくんな!どもるだろ!というか、え?何後ろの二人?聞いてないんだけど?ララ!?説明をしろ!?)
「えっと、オラから説明しても?」
「げっ!緑小者!」
「オラは緑小者じゃねぇ!!オラは小悪魔族のト・クゥだ!」
「小悪魔?緑小者とどう違うのよ?」
「全然違うよ!!肌の色は緑じゃないし!尻尾も立派なのが生えてるでしょ!?」
「・・・確かに見た目は違うわね。」
「それに緑小者みたいに知性にかけてなんかないよ!・・・まぁ緑小者魔術師は別として・・・。」
ジッとクゥを見つめ、その後にカイドウを見る。
ぎこちない笑顔を向けられ、息を吐く。
「そうね。この男は話せそうにないし、貴方に聞くことにするわ。えっと、クゥさんでいいのかしら?」
「クゥでもいいよ!」
ニパッと笑いかけられる。
「そう。」
ホッとしたように息を吐いた後、頬を叩き、凛々しい表情を作る。
「私はアーノルド家の長女、リリアナ・アーノルドよ。どう呼んでもいいけど、できれば名前の方でお願いするわ。」
「えっと、人間は前が名前だっけ?リリアナでいいの?」
「そうよ。早速で悪いけど、現状を説明してくれる?」
クゥは簡単に現在の状況を説明する。
一言一句聞き逃さないよう、無言で聞き続けたお嬢様は少し考え、ララに向き直る。
「ララ、この者たちに貴方は何の報酬を支払うのかしら?」
「ほ、報酬ですか?えっと・・・考えていません。」
「ダメじゃない。依頼を出したんだから報酬を出さないと!聞いた話だと、かなり危険な依頼をこの者たちは果たしてくれたんでしょ?だったらそれ相応の報酬を・・・。」
「な、なぁ・・・。」
「ん?」
カイドウは少しだけクゥと共にこの場を離れ、ヒソヒソ話を始める。
「何かあいつ元気過ぎない?あいつ一応人質だったんだよな?他の二人みたいに怯えているのが当たり前なんじゃないの?」
「オラに言われても・・・確かに元気すぎるというか、その、合ってるかどうかわかんないけど傲慢な感じもする。」
「だよな。僕たちは、その下心で言えばララを仲間にしようと考えて動いたじゃないか?このままだと、ララが仲間にならなさそうなんだけど?どうすんだ?」
「それこそオラに言われても・・・成り行き任せ?にするしかないんじゃないかな?」
「はぁ~そうするしかないよな。・・・なんか想像していたのと違うな。」
「だね。」
「貴方たち!」
呼ばれて驚き、元の場所に戻る。
「貴方たちはこれからどうするのかしら?」
クゥの頭を小突き、説明を促す。
「えっとね、オラたちはここを拠点に、集落を作って行こうと考えているんだ。」
「集落?こんな場所で?」
「こんな場所かもしれないけど、オラたちにとっては結構重要なんだよ。穴を掘るのも一苦労するし、何より道具もない。だったら天然のものを有効利用しようってアニキが。」
「アニキ?そういえばまだお名前を聞いてなかったわ。貴方のお名前は?」
(ちょ!?こっちに振るなよ!?いやいや落ち着け。普通に答えればいいんだ。普通に・・・。)
「ぼ、僕の名前はきゃいどうでしゅ!」
(変な声出たーーーー!!ていうか名前のところで噛んだーーー!!)
「きゃ?何て?」
「アニキの名前はカイドウって言うんだよ。」
「あ、ああ。僕の名前はカイドウだ。」
クゥのフォローに心の中で感謝する。
「カイドウ・・・そう。カイドウさんもここに集落を作るつもりかしら?」
「ま、まぁ言い出したのは、ぼ、僕だし?」
「そう・・・。」
頬に手を置き、目を瞑って考える。
頭の中で様々な計算や妄想、思考を展開し、即座に決定する。
「なら、報酬は私とララでどうかしら?貴方たちの仲間になってあげるわ!」
望み通りの答えが導き出され、クゥは舞い上がって喜ぶ。
カイドウも心の中では嬉しくてガッツポーズしているが、隅の方で少しだけ思うところがある。
どうしてこの子は上から目線なの?と。
「改めてリリアナよ、よろしくね。」
「あ、カイドウです。」
「オラはト・クゥ!」
「花少女のララです。アニキさんの為に全力でお手伝いします。」
四人はそれぞれ握手をして、仲間であることを認識し始める。
「で、でも、いいのか?」
「何がよ?帰る場所は滅びたし、他に行く当てもない。そんなか弱い女の子をわけもわからない場所に放り出すのかしら?」
「そ、そんなことはしねぇけど・・・。」
(何だろこの子、もはや僕以上にボスじゃね?)
「そんなことより問題はこの子たちよ。」
後ろで怯えていた二人を指さす。
「どうするのかしらこの子たちを?」
「ど、どうするって・・・。」
(普通に考えたら人手は多いほうがいいけど・・・こんな状態で大丈夫なのか?)
「しっかりしなさい。貴方がこの集落の長になるんでしょ?」
(すでに長は貴方の尻に敷かれてます。)
「好きにすればいい、と、思う。帰りたい、なら、帰れば、いいし、ここに、居たいなら、居ればいいし?」
「何で疑問形なのよ?」
(僕に聞くな!!コミュ障を舐めるな小娘!!!)
「まぁいいわ。私が代わりに話をつけてあげるわ。」
二人に近づき、目線を合わして話し出す。
「私たちはここに住むことにしたわ。貴方たちはどうしたいのかしら?」
一人は震えていて声が出せずにいる。
「わ、私は、村はもう無いし、身寄りもないから、そ、その、できればここに一緒にいたい!」
もう一人も頷いて答える。
「そう。なら働きなさい。ここに居るため、生きるために、働きなさい。」
「はい!」
「さて!」
振り返り、カイドウに向き直る。
「これで全部で六人ね。」
「いいや、七人よ。」
横穴から足を引きづって出てきた女性が目に入る。
「・・・誰よ?」
リリアナが怪訝な目を向ける中、カイドウとクゥは目を合わせて頷く。
「生きることにしたんだな。」
それは少し前のことである。
「宝物庫はガラクタだらけじゃないか!」
カイドウとクゥはララがリリアナを探している間に宝物庫を確認していた。
「でも、使えそうな物はあるよ!」
「まぁこれがあったのは上々だ。」
カイドウは鍋を手に持つ。
「お鍋だね!確かに鍋料理ができるね!」
「それだけじゃないぞクー。これさえあれば茹でることも煮ることもできるんだ。料理の幅が広がりすぎて今から楽しみだな!」
「だね!」
鍋にはしゃぐ二人は宝物庫で仕分け作業を終え、帰り道の途中で寄り道をすることにする。
「オラたちもお嬢様を探せば早く会えるよね?」
「まぁそうだな。」
「そしたらララは仲間になるよね!」
「だな~。」
軽い相槌を打ち、一番奥の扉を開ける。
すると、そこから異臭が放たれ、鼻がもがれる思いをする。
(何だこの臭い!?緑小者の臭い以上にひでぇ!?)
真っ暗で何も見えない部屋。
臭いの原因を確かめるように、松明を向けると、裸で横たわる女性が何人もいる。
「ふぁ!?」
思わず変な声をあげてしまったことに後悔する。
「何これ酷い!」
クゥは一人の女性に近づく。
「ね、ねぇ!」
反応が無く、揺すってみると、仰向けになり、腹が裂かれていることがわかる。
「ひっ!?」
驚いて尻餅をついてしまう。
「ど、どうしたクゥ!?って、何だこれ!?」
カイドウは初めて見る人間の死体に一歩下がってしまう。
「ここってもしかして・・・。」
脳裏に“死体処理場”の文字が浮かぶ。
「い、生きてる人はいないの!?」
クゥは次々に女性の安否を確認するが、誰も息をしていない。
「だ、だめだ!みんな死んでるよアニキ!」
(そりゃそうだよな。生きているわけないし、生きてたとしても・・・)
微かなうめき声が聞こえ、即座に松明を向けると、一人の女性の指が微妙に動いている。
「お、おい!?」
駆け寄り、抱きかかえると、死んだような目と合う。
その目に息を呑み、言葉も飲んでしまう。
「・・・い・・・して・・・。」
「え?何だ?何が言いたいことでもあるのか?」
「・・・がい・・・ろして・・・。」
あんまり聞こえず、耳を寄せる。
「すまない。もう一度、言ってくれ。」
その女性は小さな声で言う。
「おねがい・・・ころして・・・おねがい・・・。」
その言葉に嫌なものを感じ、そっと横にする。
(聞きたく、無かったな。その言葉。)
前世の自分が脳裏をよぎった。




