花少女登場です
「うわ~綺麗だね!」
一面に咲く赤い花。
カイドウたちを待っていたかのように咲き誇る。
しかし、あの少女の姿はない。
「いないな。」
「だね~。けど、ここなら確かに花少女がいてもおかしくないよ!こんなに綺麗な花畑なんだもん!」
「まぁ、そうだな。」
「アニキ?」
微妙な反応に首を傾げる。
「いや、何でもない。・・・というわけにはいかないよな。」
「何かあったの?」
「それは知らん。けど、僕が彼女を始めてみた時、彼女は泣いていたんだ。」
「泣いていた?花少女が?」
「ああ。ここに立って、それが気になっちまった。これほど美しい場所で彼女は何で泣いていたんだろうってな。」
「その現場を見てないからオラからは何も言えないけど、確かに気になるね。嬉し泣きかな?」
「花畑に感動して、てか?」
「たぶん・・・。」
「まぁクーの方が知識があるだろうから否定はしねぇけど、なんか違う気がするんだよな。」
「え?」
「なんていうか、そう、あの涙は喜びや嬉しさから流れるものじゃなくて、どちらかというと、悲しさや悔しさから流れたもののように僕には見えたんだ。」
「悲しさや悔しさか~。だとしたら困っているってことじゃない?それなら僕たちが力を貸してあげれば仲間になってくれるかも!」
光明が少し見え、クゥは嬉しくてピョンピョン跳ねる。
「簡単に言うな。」
同じように喜ぶと思っていたカイドウからの遮る言葉に、クゥは止まる。
「・・・えっと、何で?」
「どんな理由かは知らないから僕は何も言えない。けれど、簡単に力を貸すとか言うなよクー。僕たちには僕たちのできる範囲がある。その範囲を超えるものならそうそうに諦めるべきだ。赤の他人に無償で力を貸してやるほどのものを僕たちは持っていないぞ。」
「・・・えっと、その、アニキの言葉は正しいとオラも思う。」
「そうだろ?」
「だけど、あの、その・・・その範囲って誰が決めるの?」
「は?」
「いや、もしその範囲をオラが決めていいなら、オラはアニキと一緒なら何だって出来ると思うんだ。だからオラたちで花少女のことを助けることは出来るよ!絶対!」
クゥの真っすぐな言葉にカイドウは何も言えない。
クゥのもまた正しい言葉だったからだ。
誰かに決められた範囲ならいざ知らず、自分で範囲を決めていいなら何だって出来る、そう思えば自分の力が湧き上がってくる。
(僕はまだ、他人を拒絶する言い訳を考えていたのかもしれない。)
自身の前世での行いや考えを引きづり、クゥに対して嫌なことを言ってしまった自覚が芽生える。
純粋に笑うクゥに対し、この行いは、言葉は正しくない。
(僕も、成長しなくちゃな。)
嬉しそうに息を吐き、決意を新たにクゥを見る。
「だな。今回はクーの言うことが正しいよ。ちょっと弱気になってたわ。」
「へへ。いいんだよアニキ。悩んだり、困ったらオラにも話してよ。それが仲間なんだよ。」
「だな。」
「へへ。」
赤い花が舞う中で2人は仲間であることを再認識し、笑いあった。
その笑いに誘われるように姿を見せる者がいた。
「誰だ!?」
緩んでいたとはいえ、気づかなかったことに自分を叱咤する。
だが振り返り、それが探していた人物だとすぐにわかる。
笑顔はなく、毎日のように泣いていたのか、目が真っ赤に晴れている。
「・・・うぅ。」
何かを言う前に涙が流れる。
「お前は・・・。」
「アニキ!花少女だ!」
クゥの声に驚き、逃げようと走り出す。
「あ!」
「待ってくれ!」
クゥが言う前にカイドウが大声を出す。
ビクッと体を震わせ、ぎこちない動きで振り返る。
「君をどうにかしようってわけじゃないんだ。えっと、僕はカイドウ、こっちはクー。以前、ここに来た時、泣いている君が見えたんだ。それで、そ、その・・・。」
続く言葉が出てこない。
「オラたち、君の力になれないかなって、思ったんだよ!」
クゥのフォローにつくづく自分の情けなさが身に染みる。
「あうぅ・・・。」
戸惑っている様子が手に取るようにわかるぐらいに目が自由自在に泳ぐ。
「あの、話したくないならいいんだ。オラたちも無理して聞こうってわけじゃないんだ。」
肯定するようにカイドウは頷く。
「ただ、本当に困っているなら力になるよ?安心していいよ!アニキは強いんだ!」
(そこは“オラたち”って言えよ。それじゃ僕だけが仕事するみたいじゃないか。)
「・・・本当?」
少しだけ怯えが無くなる。
「本当だよ!アニキは強い!何だって出来るんだ!」
「ま、まぁ、出来る範囲はあるけどな。」
無言のまま風が吹く。
その風が促すように少女の口を開く。
「・・・本当に力を貸してくれる?襲わない?」
「襲わないよ!?アニキは強くて優しいんだ!君を傷つけることなんて、ぜっったいにしないよ!」
(う、う~ん。場合によっては傷つけることになると思うんだが・・・。)
チラッとクゥの真剣な目を見る。
(言えるわけ、ないよな~。はぁ~。駄目神、見てるならなるべく僕のできる範囲であることになってくれるように誘導しろよ。・・・ってできるわけないか。干渉はできないんだもんな。・・・はぁ~。)
カイドウが肩を落としている間に、花少女は距離を近づけ、座っている。
もちろんクゥも座っているので、カイドウもおとなしく座った。
「・・・私は、ララと言います。」
ララと名乗る花少女はぽつぽつと言葉を吐き出していく。
「私は、以前は人間に飼われていました。お屋敷は花に溢れ、どこを見ても綺麗な花が咲き誇っていました。私を飼っていた人間は、私を幸せにしてくれました。毎日のように可愛がってくれて、毎日が笑顔にあふれていました。けれど、その幸せな日々は続きませんでした。」
(飼われていた花少女・・・ねぇ。)
「・・・人間の町に・・・町に魔人が姿を見せたのです。魔人は魔物を従え、次々と人間を殺していきました。男は首を刎ねられ、脳を引きづりだされ、血を飲まれていました。」
(想像したくねぇな。)
「女は緑小者や大紅猪の苗床にされ、使い終わったら食べられていました。」
(色んな意味で食べてるな。)
「私の、私のことを飼っていた人間も例外ではありませんでした。旦那様は殺され、奥様は苗床にされていました。・・・私は、魔物ということで生かされたのです。そして何も知らないままにここに放されました。」
(花少女は戦力にならないからだな。)
「それからの私は生きていくのに困りました。何をして、何を食べて、何を思い、何を考えればいいのか、全く分かりませんでした。・・・だから、何もしませんでした。何もしなければ、いつかは時が私を殺してくれると思っていたからです。」
涙が零れ、地面を濡らす。
「だけど、死にきれない理由ができました!見てしまったんです!旦那様や奥様が大切に育て、私を大切に愛してくれたお嬢様が緑小者の巣に連れて行かれたのを!その後、叫び声が聞こえたことを!」
(想像が容易にできるな。)
「私は、私はお嬢様を救いたい!せめて、ここまで可愛がってくれた御恩を返してから出ないと!死ねません!でも、私には戦う力がありません!」
頭を下げ、両手を地面につける。
「お願いします!お嬢様をお救いください!お願いします!命でもなんでも差し上げますから!」
返答に困る。
はっきり言えば、戦ってどうこうではなく、そのお嬢様は生きていないと考えることができるからだ。
たとえ、生きていたとしても、生きたくはないだろう。
正直に答えようか、判断に困っていると、クゥは立ち上がり胸を張る。
「わかったよ花少女さん!オラたちに任せてよ!」
「おいクー!」
「アニキ!これはオラたちにとっても重要なことだよ!」
「重要なことだと?」
「そうだよ!前にも言ったよね?緑小者は知恵の欠片もない、本能だけで生きてるんだって。あいつらはメスなら何だって苗床にするんだ。そして使い終わったら食べる。その繰り返しだよ。アニキの集落がデカくなった時、被害者が出てしまうかもしれない。」
(集落って、僕はまだそんなことは考え・・・。)
「そうなってからじゃ遅いんだ!その前に潰せるなら緑小者の巣は潰した方がいい。残しておいて得なんてないんだから。」
やる気に満ちた目から説得は困難であることを理解する。
頭を掻き、思考を切り替え、自分を納得させる。
(集落は置いといたとしても、そんな災害みたいな奴らを放っておくことはできないな。それに・・・。)
涙ながらも訴え続ける瞳を前に、首を横に振ることはできない。
「僕も、非情になることはできないな。」
深呼吸をし、これまでの自分を捨てるように頬を叩く。
「わかった。協力しよう。」
「アニキ!」
「ありがとうございます!アニキさん!」
「アニキさんって・・・まぁいいか。」
(ちょうどいい戦闘訓練と考えよう。)
自作の槌を再度確認し、立ち上がる。
「漆黒狼前の前哨戦ってやつだな。」
目指すは緑小者の巣、もしかしたら最初の拠点に仕えるかもしれないと思うカイドウであった。
「ギギ・・・。」
「ギギーギギ!」
「ギギィ?」
「ギギガー!」
「ギギギギギギ・・・。」
下品な笑いを奏でる緑小者の中央では、見ずぼらしい見た目に似合わないドレスを着る、不思議な緑小者の姿がある。
「ギギ・・・ニンゲンノメス、ドウナッタ?」
「ギギーイ、ギギギ。」
「ギギ・・・ソウカ、ミゴモラナカッタカ。ナエドコトシテハツカエナイノカ?」
「ギギガ?ギィギィギギ。」
「ナニ・・・?オサナスギテイチモツガハイラナイダト?ムリヤリデモカ?」
「ギギー。ギィギギガ?」
「コワスコトハユルサレン。コワセバ、ワレラノオウニワレワレガコロサレルダケダ。キチョウナスキルヲモッタニンゲンヲコワスコトハユルサレン。」
「ギギーガギギーギ、ギィギギギ。」
「ソウダナ。ホカノメスヲツカオウ。ワレラノオオキナイチモツガハイルメスヲ、ナ。」
「ゲギャギギギギギギギギギ!!」
いやらしく汚い笑い声が、緑小者の巣の中に響きわたった。




