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花は微笑まない  作者: 青空
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山昇り


魔獣の大群がテナーを襲ってから数日後。

伝令を受け取った王様から騎士団と魔導師団が派遣されてきて、しばらく町は彼らが守ることとなった。

「レオン様、お疲れ様です!」

「フィオーレ様、お怪我は大丈夫ですか?」

「おう、お疲れ!」

「大丈夫よ。何も問題ないわ」

「…ところでおふたりに子供っていましたっけ?」

「いないっ!」

「いないわよ!」

と部下たちとも少しだけ話すことができた。相変わらずの賑やかさに久しぶりにたくさん笑い、魔導師団の信頼できる人たちにはカラのこともしっかりと紹介もできた。

「あ、なるほどー。未来の子供ですか」

「目元がそっくりじゃないですか!」

と彼らはアッサリと納得してくれた。

ちなみに騎士団には内緒だ。彼らは王様やプリュイさんには口が軽いから、速攻でふたりにバレてしまう。そうなったらどっちかがカラを迎えに来ることは目に見えていた。

「で、カラくんはフィオーレ様に着いて行くんですか?」

「うん!お母ちゃんと一緒に行く!」

カラが元気よく返事をすると、部下たちはそっか、頑張れよ、とからの頭を撫でていった。

「明日には出発しようか」

ルーナがそう言ったのは、私たちの部下が到着した日の夕方だった。

「そうね」

「じゃあ準備は終わってるし、今日は早く寝ようぜ」

と、こうしてテナーでの滞在は終わった。

翌朝、私たちは部下たちに盛大に見送られてテザント山脈へと旅立った。


テザント山脈は雪に閉ざされた、天を衝くような山々が連なる厳しい場所。昔は魔女王が支配した旧魔国、ピアニスから人間の国を守っていた自然の要塞だ。そしてテザントはその名に恥じることなく、高山の身を切るような寒さと低酸素をもってして登山者を襲う。

その分山を超えるには、徒歩だとしても、魔法だとしても相当な体力や魔力を必要とする。

そのためテザント山脈を越得ようとする登山者は準備を万全に整えて登山に挑む。私たちも例に倣ってテザント山脈を登り始めた。

…とは言っても、私たちは徒歩ではなくテザント山脈の山肌を沿うように飛んでいるのだけれど。

「そういえばさ。この山脈ってフィオの一族が住んでるんだよね」

不意に告げられた言葉に私は苦笑とともに頷いた。

「そうみたい。と言っても、私も詳しいことは知らないのよ」

銀氷族は閉鎖的な民族。どんなに文献を調べても、彼らのことについて詳しくは書かれていないのだ。

「そういう種族なんだろ。それより少し寒くねえか?」

私の後ろでレオンが腕をさすった。

「そう?カラ、寒い?」

「ううん、寒くないよ」

首を傾げていると、隣でルーナがくすりと笑った。

「フィオとカラは寒さに強い種族だからね。オイラたちはそろそろ上着を着た方が良いかも」

「そうだったわね」

普段気にしていないせいでスッカリ忘れていたわ。

私は亜空間から防寒具を取り出してレオンとルーナに渡した。ついでにカラの上着も取り出して、

「もう少しで寒くなるから上着着ましょう」

とカラに見せる。レオンとカラが選んで私が魔法を付与したものだ。

「えー、やだ。まだ暑いもん」

「…そうよね」

確かにまだ上着を着るほど寒くはない。銀氷族はちょっと霜が降りるくらいの気温ならそんなに厚着をしなくても大丈夫なのだ。

それにしても、カラもやっぱり銀氷族の血を引いているのね。

「見てるこっちの方が寒いよ」

ルーナが苦笑交じりに呟く。ルーナは既に自分の亜空間から取り出した厚手の上着と手袋、それに赤いマフラーを着用していた。

カラを挟んで私の後ろで杖に腰を下ろしているレオンもルーナと同じく、既に防寒対策はバッチリだ。

特に防寒具を忘れたくせにこのメンバーの中で一番寒いのが苦手なレオンはもこもこと防寒具を着込んで、

「さみぃよ!」

と震えていた。

黒狼族は南の暖かい地方に住んでるからなおさらよね。

真っ青な顔してガタガタ震えているレオンを見て、私はしょうがないわね、と笑った。

「ほら、これあげるわよ。そんなんじゃいざって時に動けないでしょ」

1年前の冬に防寒対策として作ったミニストーブを亜空間から取り出し、レオンの方に放り投げた。手のひらサイズのミニストーブは放物線を描いてレオンの手元に落ちる。

レオンは目を丸くしてそれを受け取り、しげしげとミニストーブを見つめた。

「これなんだ?」

「ミニストーブよ。魔力で動くわ」

そう言うと興味深そうにレオンの手元を覗き込んでいたカラが、

「あ、僕知ってるよ!こうやって使うの!」

と説明もしないうちにミニストーブに魔力を込めて動かした。

ちなみにミニストーブは熱を放出するけれど火は使わない、子どもでも安全安心の魔法道具だ。もちろんこうやって杖に乗っていても使える。

「おう、ありがとな。…あったけぇ」

レオンがふにゃりと表情を緩めたのを盗み見て私は口角を上げた。

ずっと亜空間に放りっぱなしだったけれど、ちゃんと使えそうね。帰ったら王様に商品化できないか話してみようかしら。

きっとプリュイさんが国庫が潤うって喜ぶわね。

これからの楽しい想像をしている後ろでは、レオンとカラが楽しそうに話している。ルーナも、

「本当にフィオは研究が好きだねぇ」

なんて言いながら、ミニストーブをレオンから奪い取って眺め回していた。

「あ、おい!返せって」

「ちょっとぐらいいいじゃないの」

「僕も見たい!」

「ちょっと杖の上で暴れないで!」

と賑やかな後ろの会話に混じりつつ、私たちはテザントの麓を昇るのだった。


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