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花は微笑まない  作者: 青空
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銀氷族


テザントを昇ることしばらく。頂上付近に近づくにつれていつのまにか風景は空と雪の色の二色だけとなり、寒くなってきた。

私とカラも防寒具を着て、

「今日中に一つ目の山は越えたいね」

と言っていた時。

不意に高い鳥の鳴き声が聞こえてきた。

「鳥か?」

寒さのせいか口数が少なくなってきたレオンがキョロキョロと辺りを見回す。

「そうみたいね」

頷き、こんな所に鳥がいるなんて珍しいとその姿を探し始める。

「へぇ、こんな寒いとこにも鳥がいるんだ」

「どんな鳥なんだろうね!」

飛ぶスピードは変えずにルーナやカラも鳥の姿を探し始める。特に暇そうな顔をしていたカラは目をキラキラさせて楽しそうだ。

鳥探しに夢中になりすぎてカラが落ちないように気をつけなきゃね。

落ちないように私たちが飛んでいる周りの風を操っていると、

「あ、アレじゃない?」

とルーナが私たちが向かう先を指差した。

そこには大きく翼を広げ、青く長い尾を風に遊ばせて飛ぶ巨鳥がいた。

「きっとそうだよ!」

「すげぇ!でっかい鳥だな!」

後ろのふたりが子どものように嬉しそうな声をあげて身を乗り出した。

「危ないわよ」

「大丈夫だって。そう簡単には落ちねえよ」

「僕ら獣人だもん!」

ねー!と顔を見合わせて笑う後ろ二人に私は苦笑を漏らした。

まったく、しょうがないんだから。

確かに獣人は普通の人よりバランス感覚も優れているから滅多なことはないわよね。

二人が落ちそうなほどに身を乗り出して楽しげに鳥が飛んでいく様には目を瞑り、私も鳥に視線を向けた。

レガート鳥、青く長い尾を持つ寒さに強い鳥。本では何度も見たけれど、実際に見るのは初めてだわ…。

その鳥は私が本の挿絵よりも美しく力強い。それだけではなく、氷雪を操る力もあるのだという。数は少ないけれど、その氷雪を操る能力で番や子を守りこの厳しい環境で生き抜いているらしい。

確かレガート鳥は銀氷族の印にもなっているのよね。レガート鳥を一族の象徴にするなんて、自分たちの氷雪を操る能力に誇りを持つ銀氷族らしいわ。

ぼんやりと鳥を見つめていると、

「おや?フィオ、あれ見て」

とルーナが地面を指差した。

「どうしたの?」

ルーナが指差す方向を辿って目を向ければ、急峻な山肌はいつの間にか高い山々に囲まれた盆地に姿を変えていた。

雪深い盆地の中央。綺麗に並んでいる丸いドーム状に固められた雪の中から人が出てくるのが見えた。

彼女の髪は雪に溶け込むような白銀。瞳は冬の空のようなアイスブルー。

間違えようもない。銀氷族だわ…。

よく見ると彼女の他にも銀氷族の特徴を持つ人々が雪の中で忙しそうに動き回っていた。

「銀氷族だな」

「銀氷族?」

興味深そうに下を覗き込むレオンにつられるようにしてカラも下を見た。

「ええ、私と同じ種族の人たちよ」

答えるとカラはすごい!とキラキラと目を輝かせた。

「お母ちゃんね、もうお母ちゃんと同じ種族の人はいないのよって言ってたんだ。昔はこんなにたくさん仲間がいたんだね!」

と、その言葉にツキリと胸の奥が痛んだ。

未来の銀氷族が私以外全滅した?そんなの普通ならありえないわ。

高く雪深いこの土地は魔獣も住みにくいし、雪から生まれたとまで言われている銀氷族なら食べ物が枯渇しても周りにある雪から魔力を吸収すれば5年は耐えられるという。

寒さなんて脅威にはなりえない。いつもは温かい場所に住んでいる私よりも、純粋な銀氷族は寒さに強いはずだもの。

ということは、未来の銀氷族は普通ではありえない方法で滅びた…?

同種族とはいえ、本で読んだだけの一族の未来に胸にもやもやとしたものが湧き上がってきた。

「お、おい、それってどういう…」

レオンが眉を顰めてカラに尋ねようとした時だった。

ヒュンッ!と空気を切る音と共に目の前を白い何かが通り過ぎていった。

「え?」

目を瞬かせ、幻覚かと目をこする。が、しかし。

まるで時が巻き戻るかのように積もっていた雪が猛スピードで空に還ってきた。どう見ても銀氷族の魔法だ。

「嘘でしょう⁈」

普通ならありえない魔法に愕然としながら防御壁を張る。が、取りこぼした雪が服の裾をかすり、布に穴を開けていった。

「逃げろ!」

ルーナが慌てたように叫び、上に飛び上がる。次の瞬間、下で大きな魔力が動く気配がした。

「…っ⁈」

言われなくともわかる、大きな攻撃魔法を使う時の気配。背中に冷たい汗が伝った。

同族から向けられた明確な敵意に眩暈がした。

…落ち込んでいる場合じゃないわ。今はひとまず撤退しなきゃ!

「レオン、カラ!しっかり掴まってなさい!」

叫ぶなり、私は思いっきり杖に魔力を込めた。杖に乗る全員が淡い瑠璃色の光に包まれる。

上を見上げるとルーナが苦々しい表情で頷く。彼の周りはすでに、彼の夕日のような魔力で囲まれていた。

下から魔法が放たれ、氷の矢が襲いかかってくる。

それとほぼ同時に瑠璃色と夕陽の光が弾け、私たちは空から姿を消したのだった。


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