とある猫魔族の思考
赤目の男は、キョーダイと呼ぶ“彼ら”の可愛い弟、妹分が完全に見えなくなったのを確認して、彼らには見せない獰猛な笑みを浮かべた。
「さて、後始末といきましょーか」
◆◇◆◇◆◇◆
オイラ、ルーナはもともと普通の鱗猫族の両親から生まれた魔族だった。
魔族の地位はその実力で決まる。
鱗猫族らしく母ちゃんの乳を吸って生きる時期を越えたら放り出されたオイラは生きるために魔獣を狩って食べていた。今思えば、魔獣なんてよく食べてたよ。肉は硬いし、毒もあるし、臭いし、何より強い。
今なら絶対に食べようとは思わないね。
けど、その魔獣を狩っていたことで今のオイラがあるんだ。その様子をたまたま今の主、ソレイユに見てて、スカウトされたのだからね。
ソレイユの側付きになってからは大変だった。何しろ周りは実力者だらけ。
もう毎日戦々恐々としてたね。うかうかしてたら足元すくわれちゃうし。
そんな中他の側付きの人と戦ったり、自分の強さ探しをしたりしながら過ごしているうちに、いつのまにかソレイユが外国に学遊に行く時のお供になっていて。
そこで下手な魔族なんかよりもずっと強い人間や、目が潰れてしまいそうなほどの魔力光を纏った妖精なんかとも会って。
いろんなものを見ていく中で、強さって人それぞれなんだな、と知った。
それでも自分自身の強さが何なのかわからないまま。ずっと自分の強さを探していたある日、オイラはふたりの人間の子どもと出会った。
ふたりはその場にいる誰よりも弱いのに、目をキラキラさせて、誰よりも強くなろうとしていた。
その姿を見てオイラ、思ったんだ。
オイラの強さが見つからないのは、この子たちみたいにがむしゃらに強くなろうとしたことがなかったからなんじゃないかってね。
それで、その子たちと一緒にいて一緒に努力すれば自分自身の強さを持てるんじゃないかって、期待したんだ。
一緒に行動するうちに、その子たちは人間の子どもらしく傷つきやすくって、すぐ病気にもなるし、力も魔力も弱いことを再確認した。
でもどんなに負けても、失敗しても立ち上がるんだよね。
その子たちと頑張る…というよりも面倒を見ていたある日。ソレイユに笑いながら言われたんだ。
「お前、大事な子を守る時が一番輝いてるよな」
って。
驚いたよ。まさか他人に興味が薄いオイラが、大事な子を守る時が一番強いだなんてさ。
しかも大事な子が人間の子どもときた。この子たちがオイラの強さの根源になるなんて思ってもみなかったよ。
でも、可愛いと思い始めていたその子たちが俺の強さの根源なら、それはそれで悪くないかなって思い始めてたんだ。
だけれどね。
人間の寿命は短い。赤ん坊だった子があっという間にオイラたち魔族を追い抜いて、すぐにしわしわのじいちゃんばあちゃんになってしまう。
この子たちは銀氷族と黒狼族の亜人だけれど、それでも魔族に比べれば寿命はうんと短い。
気づいたら大事な存在で、強さの源になっていたこの子たちを、オイラは手放したくなくって。
だからちょっとばかし彼らにわがままに付き合ってもらうことにしたんだ。
実はオイラの一族には長寿の薬の作り方が伝わっている。その薬を飲めば生命力が強くなり、人間でも魔族並みに生きられる。
作成にはピナとソレイユ、それにウラノスにも協力してもらった。もちろん薬を飲ませることにも。
食事に混ぜて薬を飲ましたら、ふたりは倒れて三日三晩目を覚まさなかった。…後々プリュイにものすごく怒られたね。
反省はしているよ、うん。後悔はしてないけど。
でもそのおかげか、目を覚ましたふたりはそれまで以上に丈夫になり、さらに無茶をしてプリュイを嘆かせたものだけれど。
「…まさか、血を武器にするなんて思わなかったよ」
もう一人のあの子が、魔力の少なさから決して使えないはずの魔法をたった一晩であらかた使いこなせるようになっていたことも予想外だったけど。
「本当に、オイラのキョーダイたちは凄まじいや」
そしてそれ以上に誇らしいよ。
だから君らが頑張った分、オイラも全力で働くよ。
目の前でグルグルと喉を鳴らす、レオンが仕留め損なった黒い蛇に笑いかけた。
「ねえ、お前もそう思うでしょ?」
駆け出す。四本の足は地面を蹴り、魔物だったものの骨を砕き、オイラの体を運ぶ。
先ほどの蛇たちよりもでかい図体。強い魔力。ラスボスと称するに相応しいとは言えないけれど、中ボスくらいには強い魔獣。
その蛇の喉元に食らいつくと、口内に赤黒い血が溢れ喉が焼けるように痛んだ。
この感覚も随分久しぶりだね。昔もこうやって魔獣の毒に喉を焼かれたものだ。
幸い魔族は魔獣や魔人の毒に強いから、大事に至ったことは一度もないけど。
「終わりだね、黒蛇」
顎に力を入れる。耳元でパリパリとガラスが割れるような音が響いた。蛇が断末魔の悲鳴をあげて暴れる。
振り落とされないように喉元に食らいつき、その肉を噛みちぎる。肉を咥えたまま地面に降り立ち、少し黒蛇から離れた。ここで暴れる蛇に押しつぶされちゃ、冗談にもならないからね。
固く大して美味しくもない肉を吐き出し、暴れる蛇を見上げれば、奴は赤黒い血を天高く吹き上げて息絶えた。
「ふふ、意外とあっけなかったかな」
血がこびりついた体を降り、元は強敵であっただろう…レオンによってかなり弱体化されていた黒蛇を見上げて笑った。
蛇が時が止まったかのように動きを止め、そしてゆっくりと倒れていく。その刹那、蛇の側頭部に見覚えのあるいたずら書きみたいな紋章が見えて…。
今までの高揚が一気に冷めた。胸の内に冬の朝のような冷気が漂う。
「…なるほど、最悪の展開間近ってわけか」
ため息まじりに呟き、キョーダイたちの後を追って街へと向かったのだった。




