気付いた事実
「で、君の母ちゃんはフィオと同じ銀髪碧眼ってことでオーケー?」
「うん!」
カラが元気よく返事する。
なんとカラのお母さんは私と同じ銀氷族出身らしい。
珍しいわよね。銀氷族は閉ざされた高山に住む種族で、一生を高山の上で過ごす人が多いのに。
「銀氷族の出身なら私と魔力も似ているはずだわ。私は魔力を見ながら探してみるわね」
人の魔力は種族によって基盤の色が決まってくる。例えば猫系の獣人なら赤、花の妖精ならピンク、吸血鬼なら紫、といった風に。そこから本人の気質によって濃淡が現れたり、輝きが増したりするのだ。
もちろん時々、種族の色を外れた魔力を持つ者もいるが。その良い例が王様だったりする。
ちなみに光の強さは魔力の量と比例する。だから魔導師の魔力は遠くからでも見つけやすいのよね。
「ああ。俺たちは銀髪の母ちゃん探すから、それっぽい魔力探すのに集中しろよ」
「わかった」
目に魔力を多めに込めれば、一瞬の目眩の後に人が大なり小なり必ず持っている魔力の光が見え始める。
赤、青、緑、黄色、紫…。様々な光があちこちで輝く様は、まるでお祭りみたいだ。
その中でもやっぱり強く輝くのは魔族のルーナと魔導師の子のカラね。
ルーナは瞳と同じルビーのような赤い光。
カラは夜明けの空のような紺碧の輝き。
そしてもともと魔力の少ない獣人であるレオンは優しい黒だ。
それぞれに種族の魔力の色が現れている。
銀氷族の魔力は青。しかも魔導師なら光も強いはず。
ぐるりと色とりどりの灯篭の光のような魔力を見回して見た。…が、彼女らしきものは見つけられない。
まぁそう簡単には見つからないわよね。
小さくため息を吐き、目に魔力を込めたまま歩き始めた。
しばらく歩いていると、ふと頬に麻布を当てられたようなチクチクとした何かが駆け抜けた。思わず全身に浄化魔法をかけたくなるほどの嫌悪感が体を支配する。
カラが石を蹴っていた足を止め、近くにいたレオンの服の裾にしがみつく。
「…っ!」
体が反応するままに、自分と仲間たちを囲むような障壁を張る。障壁がバチリと何かを弾いた音が聞こえた。
「今の、なんだ?」
「気持ち悪い魔力だね」
「なんか嫌なのだった…」
仲間たちが各々感想を口にしながら、警戒を強める。
レオンの狼の耳が頭から飛び出してあちこちの音を拾うようにピョコピョコ動く。
その隣で子狼みたいにカラが同じく獣人の獣耳を動かしながら、自分の周りに守りの魔力を漂わせる。障壁になるかならないかのそれは自分で出したのか、不安定に揺れていた。
ルーナは赤い目を鋭く細めて、魔力がやってきた東北を睨みつける。…が、すぐにふう、とため息をつき、
「向こう一キロに犯人はいないみたいだね」
と肩を落とした。
「どうもきな臭えな」
「ええ…」
もしかしたら、この魔力の出どころは…。
東北から来たというところと、明らかに気持ちの良いものではない魔力という点から嫌な考えが浮かぶ。
…いえ、今はそんなことを考えている暇はないわね。一刻も早くカラをお母さんに合わせてあげて、それからピナの魔法を解く方法を聞きに行かないと。
でも、一応報告はしたほうがいいわよね。
「王様に報告を飛ばすわね」
「それがいい。オイラも我が主に一応知らせとくかね」
ルーナが指先に小さな赤い竜を作り出す。
連絡用に使う、魔法で作り出した手紙だ。メッセージを込めれば、送りたい人のところまで確実に飛んで行ってくれる便利な魔法である。
私も『テナーで不穏な気配有り』というメッセージを込めた鳥を作り出す。モデルは銀氷族の住む山の上空を飛ぶ寒さに強い鳥だ。魔力でできたそれは私の魔力と同じ瑠璃色に淡く輝いている。
「すごい!お母ちゃんと同じ鳥だ!」
「え…」
青い鳥が飛び立つ。
鳥は蓋を閉じたような曇り空を、光を散らしながら一直線に飛んでいく。
「あれがあなたのお母さんと同じ鳥なの?」
「うん!お母さんの鳥は綺麗な青色で、あんな風に尾っぽが長いんだよ!」
私が飛ばした鳥を指差すカラを見て、脳裏にふと一つの可能性が浮かんだ。
「まさか…」
「なんだ?」
辺りを見回していたレオンが首を傾げる。それに応えることなく、私は魔法を発動させた。
ブンッと鈍い音が鳴り、青い魔法陣が私とカラを包み込む。
「え、フィオ姉ちゃ…?」
「大丈夫。すぐ終わるわ」
…できれば当たって欲しくない。
けど、もしこの子がそうなら…。
そんなはずがない、と思い浮かんだ可能性を否定する自分と、そうだったらどうしようと焦る自分がせめぎ合う。
「…汝と我の絆を調べん」
昔本で読んだだけの魔法の呪文を早口で唱える。
もし女好きのソレイユさんに隠し子疑惑が上がったら使おうと冗談で覚えた魔法だ。それをまさか自分に使うことになるとは思わなかった。
瑠璃色の光が蛍のように私たちの周りを舞う。そこにカラの紺碧の魔力が混じり合い…。
そして溶け入るように馴染み、ふわりと解けて消えた。
「…嘘」
自分でやっておいて、漏れ出したのはその言葉だった。
もし血が繋がってなければ、魔力は互いに反発しあって混じり合うことなく弾ける。
兄弟なら混じり合うけれど完全に馴染むことなく、やっぱり弾けてしまう。
そして親子の場合は…。
「ねぇ、カラ。あなたのお母さんの名前を教えてくれる?」
指先が震える。
声は震えていなかった?顔は引きつっていないかしら?
心の中で焦りと不安がちりのように降り積もる。
そんな私の胸中を知らないカラは不思議そうに答えた。
「フィオーレだよ。アンダンティカのおーきゅー魔導師のフィオーレ」




