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暴虐の黒き竜と囚われの娘【R15版】  作者: いをり。
2章【囚われの日々】

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2話

レイラは足元に生い茂る草へ目を凝らしながら、ゆっくりと森の中を進んだ。


食べられる山菜なら、この辺りにも生えているはずだ。


けれど、いつものように自由に探し回ることはできない。


背後から、ヴェルドラの赤い瞳がじっと自分を追っている。


——『少しでも逃げる素振りを見せれば、今度こそその脚を折る』


先ほど告げられた言葉が蘇り、レイラの足取りは自然と慎重になった。


少し離れただけでも、逃げようとしていると思われるかもしれない。


レイラは背後から注がれる視線を意識しながら、足元の草を一つひとつ確かめていった。


「あ……」


見慣れた若葉を見つけ、しゃがみ込む。


食べられるものだけを選んで摘み、籠の中へ入れていく。


しばらく進むと、少し先の木に小さな赤い実がなっているのが見えた。


レイラはそちらへ向かおうとしたが、その足を止めた。


恐る恐る背後を窺うと、ヴェルドラの赤い瞳と視線が重なった。


「あの……」


『何だ』


「向こうの木に、食べられる実があるので……あそこまで行ってもいいですか?」


ヴェルドラはレイラの示した先へ目を向けた。


『その程度、いちいち我に聞くな。目の届く場所から離れなければ好きにしろ』


「……はい」


レイラは小さく頷くと、木の実のある方へ歩き出した。


その間も、背中に注がれる視線が途切れることはなかった。


木の実を摘み終えると、レイラはすぐに元の場所へ戻った。


それからも、決して遠くへ行かないよう気をつけながら、山菜や木の実を籠へ集めていった。


やがて籠の底が見えなくなるほど集まったところで、レイラは立ち上がった。


「これくらいあれば……」


しばらくは空腹を凌げるだろう。


レイラは籠を抱え直し、ヴェルドラのもとへ戻った。


「お待たせしました」


『…………』


ヴェルドラは何も答えず、踵を返す。


レイラもその後ろをついて、洞窟へと戻った。


洞窟の奥へ入ると、ヴェルドラはそのまま自分の寝床へ向かった。


先ほど鹿を喰らったばかりだからだろう。


大きな身体を丸め、翼を畳む。


そのまま頭を前脚の上へ乗せると、レイラなどもう興味がないとでも言うように目を閉じた。


レイラは少し離れた岩の上へ腰を下ろした。


籠の中の山菜や木の実を取り出し、少しずつ口にしていく。


静かな洞窟の中に、小さな咀嚼の音だけが響いた。


ふと、レイラは丸くなっているヴェルドラへ目を向けた。


「……あの」


『…………』


「ここには……いつからいるんですか?」


ヴェルドラは目を閉じたまま、鬱陶しそうに答えた。


『知らん』


レイラは少しの間、ヴェルドラを見つめた。


「……そうですか」


そう言って、手にしていた木の実を口へ運ぶ。


しばらくして、レイラは再びヴェルドラへ目を向けた。


「……黒竜さん」


ヴェルドラの片目が開いた。


『……その呼び方はやめろと言ったはずだ』


「……すみません」


レイラは小さく謝ると、少し躊躇ってから尋ねた。


「人間のことは……やっぱり嫌いなんですか?」


『嫌い?』


低い声が洞窟に響いた。


『笑わせるな。人間など虫ケラ同然だ』


ヴェルドラは低く鼻を鳴らした。


『……忌々しい虫ケラどもめ。反吐が出る』


その赤い瞳が、僅かに細められる。


『人間なぞ皆、我の玩具だ』


「…………」


レイラは何も言えず、そっと視線を落とした。


分かっていたはずだった。


ヴェルドラにとって、自分は退屈を紛らわせるための玩具でしかない。


それでも、改めてそう言われると、胸の奥がほんの少し沈んだ。


レイラは俯いたまま、また黙って木の実を口にした。


少しの間を置いて、レイラは再び口を開いた。


「……あの」


『今度は何だ』


「今までにも……ここへ迷い込んできた人はいるんですか?」


『……何が言いたい』


「もし、いたなら……その人たちはどうなったのかなって……」


ヴェルドラの赤い瞳と、レイラの視線が重なる。


不安を滲ませたその瞳を一瞥し、ヴェルドラは冷たく言い放った。


『どいつも壊れるまで、存分に弄んでやったわ』


「…………」


レイラの顔から、すっと血の気が引いた。


その瞳に、隠しきれない恐怖が滲む。


ヴェルドラはそんなレイラを、冷めた赤い瞳で見つめた。


『次は貴様かもしれんな』


「……っ」


レイラは息を呑んだ。


『そうなりたくなければ、せいぜい我の機嫌を損ねぬよう努めることだ』


レイラは何も答えられず、視線を落とした。


ただ俯いたまま、自分に訪れるかもしれない結末を憂うことしかできなかった。

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