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暴虐の黒き竜と囚われの娘【R15版】  作者: いをり。
第3章【黒竜との暮らし】

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3話

川から洞窟へ戻ると、ヴェルドラはそのまま洞窟の奥へ向かった。


レイラは洗った外套とドレスを岩の上へ畳むと、持ち帰った石鹸や櫛も元の場所へ戻し、乱れていた毛布を持ち上げる。


その拍子に、背中へ鈍い痛みが走った。


「いた……」


レイラは、昨夜眠った焚き火のそばの岩床へ目を向けた。


毛布に包まれても、岩の硬さと冷たさまでは防げなかった。


その場へしゃがみ、岩床へ手を触れる。


ふと洞窟の外へ目を向けると、日の当たる斜面で乾いた草が風に揺れていた。


「あの……黒竜さん」


泉のそばへ身を伏せたヴェルドラが、面倒そうに赤い瞳を開いた。


『今度は何だ』


「少しだけ、外へ行ってもいいですか?」


『今戻ったばかりだろう』


「遠くへは行きません。寝床に使えそうなものを集めたいんです」


『寝床だと?』


ヴェルドラの赤い瞳が、レイラの手にある毛布へ向けられた。


『その布があるだろう』


「毛布だけでは、岩が硬くて……」


『つくづく脆弱な生き物だな』


「すみません……」


レイラが申し訳なさそうに俯くと、ヴェルドラは低く鼻を鳴らした。


『好きにしろ』


「ありがとうございます」


『ただし、我の見える場所から離れるな』


レイラは驚いたように顔を上げた。


「……はい」


レイラは小さく頷き、洞窟の外へ出た。


ヴェルドラもゆっくりと入り口まで進み、そこで身を伏せる。


レイラは木々の間へ入り、日の当たる場所に生えた乾いた草を両腕へ集めていった。


地面へ落ちていた柔らかな葉や細い枝も拾い、何度か洞窟との間を往復する。


その間も、入り口から向けられる赤い瞳が、レイラの姿を見失うことはなかった。


集めたものを岩床へ運び、乾いた草を広げてみる。


けれど、薄く岩を覆うだけで、身体を横たえればすぐに押し潰されてしまいそうだった。


もう少し集めなければならない。


レイラは額に浮かんだ汗を手の甲で拭い、再び洞窟の外へ向かおうとした。


『まだ行くのか』


「これだけでは足りないので……」


ヴェルドラはレイラの足元に積まれた草へ目を向けた。


それから、どこか苛立たしげに立ち上がる。


「あの……?」


ヴェルドラは答えず、洞窟の外へ出た。


力強い後脚で地面を蹴ると、黒い翼を広げて木々の上へ舞い上がる。


その姿は、山の奥へ向かって瞬く間に見えなくなった。


「どこへ……」


レイラはしばらくその方角を見つめていたが、やがて集めた草へ向き直った。


混じっていた小石や硬い枝を、一つずつ取り除いていく。


しばらくすると、遠くから大きな羽音が聞こえてきた。


木々が激しく揺れ、ヴェルドラの黒い巨体が洞窟の前へ降り立つ。


その前脚には、大量の乾いた草と、柔らかな葉のついた枝が抱えられていた。


ヴェルドラはそれらを、レイラの集めた草のそばへ落とした。


舞い上がった細かな葉が、洞窟の中をゆっくりと落ちていく。


レイラは目を瞬かせながら、積み上がった草を見つめた。


「これを……持ってきてくださったんですか?」


『勘違いするな』


ヴェルドラは煩わしそうに吐き捨てた。


『貴様が夜中に何度も身じろぎする音が、耳障りなだけだ』


レイラは足元の草へ視線を落とし、小さく微笑んだ。


「ありがとうございます、黒竜さん」


『礼などいらん』


ヴェルドラは興味を失ったように顔を背けると、再び洞窟の奥へ戻っていった。


レイラは運ばれてきたものを寝床へ使えるよう整え始めた。


柔らかな葉のついた枝を岩の上へ並べ、その上へ乾いた草を厚く重ねていく。


飛び出した硬い茎を抜き、手のひらで何度も押さえながら、身体を横たえられるほどの広さへ形を整えた。


試しに両手で押してみると、岩へ直接触れることなく、草が柔らかく沈み込む。


「これなら、よく眠れそうです」


嬉しそうに呟き、レイラは毛布を新しい寝床のそばへ置いた。


作業を終える頃には、洞窟の外から差し込む光も茜色へ変わり始めていた。


やがて日が沈むと、レイラはパンとチーズで簡単に食事を済ませ、焚き火へ新しい枝を足した。


揺れる炎が、洞窟の中へ赤い光を落としている。


レイラは新しく作った寝床へ横たわった。


乾いた草が身体を柔らかく受け止め、岩の冷たさも伝わってこない。


毛布を肩まで引き上げると、草と木の葉の匂いに包まれた。


「温かい……」


レイラは寝床の中で身体を丸め、ヴェルドラへ顔を向けた。


「ありがとうございます、黒竜さん」


ヴェルドラは目を閉じたまま、何も答えなかった。


「おやすみなさい」


レイラも静かに目を閉じる。


間もなく、新しい寝床から穏やかな寝息が聞こえ始めた。


ヴェルドラは僅かに片目を開き、毛布に包まれたレイラへ視線を向けた。


『……ふん』


小さく鼻を鳴らし、再び目を閉じる。


その夜、レイラは一度も目を覚ますことなく、朝まで眠り続けた。

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