朝とブランケットと恋しい青い空
* * *
次の日の朝。夜が明けても風は止まなかったのか、外では巨樹の葉が優しく音を奏でていた。
目が覚めると、相変わらず部屋の中は薄暗かった。
やはり樹の葉があるせいか、朝だろうと陽の光が窓から差し込んでくることはない。それもあってか、余計に肌寒い気がした。
瞼を擦りながら、あまり疲労が取れなかったのかスッキリしない重い体を無理に起こし、そして大きく欠伸をする。
その拍子に、体に掛けられていた薄いブランケットがはらりと落ちていった。
そのブランケットを見て、秋葉は一瞬思考が止まってしまう。なぜ、自分に毛布が掛けられているのか。
「……なんで、ブランケット。私、ローブを毛布代わりにした記憶はあるんだけど……え……? ブランケット? あれ……っ?」
まだ眠気で重い体を起こし部屋の中を見渡すと、ソファーで眠るスレイヴを見つけた。スレイヴは自身が身につけていたマントにくるまって眠っている。
確か昨夜は秋葉があの場所で眠っていたはずだが、なぜスレイヴがあんなところにいるのか。
しばらく自分のベッドとソファーを交互に見つめてみるものの、それでもさっぱりわからない。
まさか寝ぼけてソファーからついこちらに移動して占拠してしまったのだろうか。いや、そんな話があるか。あるはずがない、と思いたい。
その丸くなって眠る姿がどうも寒そうに見え、すかさずスレイヴの体にブランケットを掛ける。風邪など引かれても困るし、秋葉がブランケットを奪ったせいで体調を崩してしまったなどと自己嫌悪するのも嫌だし、そんなに居候に気を使ってくれなくてもよかったのだ。
スレイヴがすやすやと眠っているのをそのままにし、秋葉はカーテンの隙間から外を確認する。
「この樹があるから外の様子がよくわからないんだけど、もう朝になったんだよね……? まだここに来て一日しか経ってないけど、すでに青い空が恋しくなりそうな感じがする……」
時計を見ると針は六時を指している。
秋葉はスレイヴが起きないように、ゆっくりと下の階へ足を運ぶことにした。
なにもおかしなことをしようなどと考えてはいない。まず自分にできることを見つけるために、下見に行くのだ。
暗闇と静けさに包まれている中、知らない場所を一歩ずつ踏み出していくのはどこか緊張する。
一階に下りて、まずは部屋の奥へと向かい進んでいく。
途中本棚があって、上から下まで数多くの本が隙間もないぐらいにびっしりと並べられていて、驚いてしまった。辞典のような分厚さの本がそこには綺麗に並べられている。
興味があり触れてみると、しばらく使われていないのか埃が乗っていた。
これは錬金術に関する本なのだろうか。スレイヴが錬金術の知識を持っているのだとしたら、そうなのかもしれない。参考書か、何かか。
本が好きな秋葉はすぐに興味を持つが、中に書いてある文字はきっと今まで見たこともないような記号などで描かれているのだろう。興味があっても読めないのでは意味がない。
(他人の家を勝手に覗いて回るのも正直あまり良い気はしないけど、でもなんとか私にできることを見つけていかなきゃいけないし。だけど、あるのかな? どの家にも台所ぐらいあるとは思うんだけど……)
薄暗いせいか視界も悪く、壁伝いに手をついてでないと先には進めない。こんな中で自分にも家事が務まるのかと後ろ向きな思考に引っ張られそうになるが、いやいやと頭を振る。
世話になったならその恩は返さないといけない。しかもこれから長らくこの家で過ごすことになるかもしれないのだ。せめてスレイヴのサポートぐらいしなくては。
暗闇の中を進んでいくと、次第にそれらしい場所へとたどり着く。