王都へ…ですか?勇者さま。③
人間は憎い敵だ!!
なんて言われたらショックですよね?
自分に罪は無くとも、そう思われているかも、、
『王都へ…ですか?勇者さま。③』お楽しみ下さい。
ではでは。 ふえん
もう消えないであろう傷痕。
何をされればこれ程の傷が付くのか・・・残るのか・・・
冒険者の前衛、、直接戦闘職のモンクや闘士などが長年の冒険とモンスターとの戦いで受け、蓄積した傷とは明らかに違う。
身体に出来た傷は、全て故意に傷付けられたとしか思えない傷だった。
それも女性の身体に、だ。
女性の身体に刻まれたそれはフェンの視線を否応なく釘付けにさせる。
こんな事、思うべきではない!
綺麗に傷痕となり残ったそれは紋様やタトゥーの様にも見える。
口に出して言う事も、そういう感想を持つ事さえも憚られる。
、、非道い事、、非道い考えだ、とはフェンも解ってはいるのだ。
・・・だが、、アルシェは美しかった。
道程を進み、話をする内にリクも段々と理解して来る。
フェンの根底に在る、護るべき者達の考え方を。
人間も他種族も同じ物差しで判断しようとしているのだ。
『無謀な考え方だ。』
素直にリクは思う。
もし仮に、この世界に生きる生き物全てが種族は違っても、能力や生態が均一であったなら…フェンの考え方も成り立つだろう。
だが実際は違う。
人間個人の能力など、生き物全体から見れば低くはないにせよ、高くはない。
高くない、からこそ、頭を使って考え、そして集まり団結して、生き、そして今の生活を手に入れたのだ。
因みに、大型で強靭な種族から見れば、今でも人間など『腕を一振りすれば死ぬ様な貧弱な種族』でしかない。
過去の魔王軍の侵攻時には多くの人が、能力的に当然の様に、一方的に犠牲になったのだ。
フェンの考えを引用するなら、なぜ魔王軍は『何もしていない人間』を襲ったのか?と、人間側からも言っても良い筈だ。
当然、人間も黙って滅亡を待ったりはしない。
抵抗し、そして勇者と呼ばれる者達が現れ、その者達によって魔王は倒され、人間は救われた、、勝ったのだ。
だが、勝ったのは勇者の力によるもので、一般人が強くなった訳ではない。
未だに能力的に人間では敵わない他種族が圧倒的に多いのだ。
リクは考える。
この世界で人間が生きるには、、一般の人々が安心して安全に暮らすには・・・
一般人には無理だ。危険な他種族から身を守る事など、、
・・・ならば僕達、、兵士や、力を持つ者、勇者が『やる』しかないのだ。
『やる』しかない。
他種族を排除する、、文字通り『殺る』しかないという事だ。
種族毎に完全に遮断、分離された世界ででもない限り、強者の驕りと増長、、それに対する弱者の恐れと不安や不満は無くなりはしないのだ。
リクは知らないのだ・・・既にそれが昔の勇者によって行われ続けられている事を。
そして、それが原因、、不満となり、魔王軍の侵攻の原因となった事を。
ともかく、フェンさんが弱者だと言う蛇人族の女も、一般の人から見れば、命に関わる危険な存在に他ならない。
リクはフェンの自信、根拠が何処にあるのかが分からない。
寒さからなのか、傷のせいからなのか、目の前で弱っている蛇人族の女も、ひと度、元気になったらどうなるのかフェンにも判る訳がないのだ。
もしかして、元気になったと同時に人間を襲わないとも限らないのだから。
だが、フェンは言い切る。
助ける、、殺させない、と。
リクの納得いかない顔に少し残念そうにし、フェンは這って逃げようとしている女の子に目を向ける。
見ている此方が切なくなる程の微々たる行進だ。
これでも必死に逃げているのだろう。
寒さに強張る身体からだに鞭打って少しでもリクから、、フェンから離れようとしているのだ。
這いずる身体…腕や足には石や砂利で傷付いた細かい傷が出来、血が滲んでいる。
「待って・・・」
フェンが声を掛けるが、止まる訳が無い。
フェンとて、解っているのだ。
必死に逃げているこの子からすれば、フェンは剣で自分を殺そうと襲って来たリクの仲間でしかないのだ。
必死に力を振り絞りながらアルシェは思う。
信じない!…私に投げ掛ける優しい言葉も、敵の告げる危険な罠にしか聞こえない。
自分を庇ってくれる様に見えた行動、発言自体が私を油断させる為の作戦なのだろう。
人間は敵だ。
今まで私を・・・仲間達を・・・
敵だ、憎い敵。
フェンと呼ばれている男は優しく私に問い掛けながら近付いて来る。
・・・ならば、、、
騙されたフリをして、安心して近付いて来た所を一咬みで殺してやる!
もう寒さで身体もよく動かなくなって来ている、、なら!
傷の痛みで辛うじて保っている意識も、もう限界に近い。
憎い敵、、動けなくなり、捕まり殺されるなら、、、
・・・人間を一人でも道連れにしてやる!!
フェンに向かい、人間への恐怖、己の傷の痛みを圧おし殺し、精一杯の作り笑いを浮かべる。
だが・・・失敗?!
私の笑みを見た人間の男、フェンは、悲しそうに辛い顔をしたのだ。
もしかして痛みと恐怖で上手く笑えなかったの…?
しかし、フェンは疑いもせず無防備に私に近付いて来る。
フェンは先程から私に向かい『大丈夫』と、私に嘘だと見破られているとも知らず繰り返して言っている。
最後のチャンスだ・・・殺す!!
近付いて来たフェンは私に手を伸ばして来る。
墓穴を掘ったな!・・・直に触れたかったのか、私にすれば幸運だ。
わざわざ咬みつき易い様に肘まで覆った手袋を外し素手で、手を伸ばしてくれたのだ。
馬鹿め!、、今だ!!
あっ!、、思う様に身体が動かない!? 寒さで?しまった・・・避けられるっっ!
・・・が、あからさまに咬み付こうとしている私をフェンはなぜか避けない。
…やった!…成功した…伸ばして来た腕の内側に咬みつけた!…牙が肉に突き立つ感触…もうこの男は、、、
「フェンさん!!!」
見ていたリクが叫ぶ。
剣を握った男が仲間を助ける為に近寄って来る。
・・・好都合だ。近寄って来た男にも咬みついてやる!
どうせ寒さで動けない・・・一人でも多く道連れにしてやる!!
リクが近寄り剣を振り上げると、、先程から何度も聞いた台詞をフェンがまた叫ぶ。
「止めろ!」
ちっ!!…もう少しで近付いて来た男、リクと言ったか…にも咬みつけたものを、、
・・・いや!、、行ける!!
咬みついているフェンの腕から離れ次の標的、、リクを咬もうと襲い掛か、、れなかった。
な、何を?!
咬みついた口を離そうとした瞬間、フェンが後ろに回り、アルシェを抱き締めたのだ。
私の牙は腕に突き立てられたままだ。
引き離すどころか抱き締めて更に強く咬んでくれと言わんばかりに。
驚く事に私に対して、尚なおもフェンは告げる・・・
「大丈夫だよ。」、と。
何が大丈夫なのか?…ただの馬鹿なのか?…私の牙、、毒を喰らって、この男はじきに死ぬのだ。
だがフェンは続ける。
「大丈夫、僕が守ってあげる、、大丈夫だよ。」
・・・そんな訳がない。出来る訳がない。、、この男は死ぬのだから。
「フェンさん!!」
リクが再度フェンを助けようと近付くが、フェンが答える。
「助け、、る?・・・誰をだ、リク?」
リクはフェンを蛇人族の女から助けようとしている。
だが、フェンは蛇人族の女を護るかの様に自ら抱き締めているのだ。
「フェンさん!早く離して下さい!そして治療を受けに町へ…」
仲間である男に言われても、私を離す気が皆無なこの男、、フェンとは一体?
毒で死ぬのが怖くないのか?、、そろそろ身体も麻痺して動かなくなってくる筈だ。
だがフェンは言う。
「僕はこの子を護る!リクはまだこの子を害するつもりなのか!」
「フェンさん、毒を持つ者は野放しには出来ません!」
「誰が毒を持っているって言うんだ!、リク!」
「それは、その蛇人族が、、、」
リクも思い始めている・・・おかしいのだ。
赤目の蛇人族の毒は特に危険なのだ。
ひとたび咬まれれば、即効性の毒で即死するか…運が良くても即、麻痺して死を待ちながら苦しむ事になる。
筈だ。
なぜ?・・・フェンさんは何とも無く平然としているのか?
なぜフェンは平気な顔をしてこの女を助けるなんて言っていられるのか?
聞く前にフェンが答える。
「この子に毒なんて無い!咬まれた僕が証拠だ!」
「リク、君がこの子を殺す理由…毒が有るから、、人間にとって危険だ、という理由はもう無い!」
「それでも、この子を殺すつもりなのか!」
「・・・・・」
そんな、、、
蛇人族で赤い眼を持つ種族・・・間違いない。
毒だ。猛毒を持っている筈なのだ・・・だったらなぜ?
咬んでいる女、、アルシェ自身も驚いている。
確実だ。確実に咬み、この男の体内には毒が回っている筈だ。
なぜ、、なぜこの男、、フェンは死なない?、、倒れない?
更に力を込めて咬む。
『死ね! 人間がっ! 必ず殺してやる!』
今までの思い…怒り、悲しみ、怨み…全ての思いを込めて、、咬む。
全力で咬む…私も、もう限界だ…でも…このフェンという男も終わりだ、、確実に死ぬ。
仲間の男が呼んでいた、、勇者フェンと。
この男が本当に勇者なら、、その勇者を殺せたなら私の命も意味の無い、無駄な物ではなかった証明になるだろう・・・
「良かった・・・向こうで一族の皆みんなも、私を褒めて、、認めてくれるよね・・・」
全力を使い果たしアルシェは気を失う。
腕を咬む力が『ふっ』っと抜け去る。
フェンはリクに告げる。
「もう、この子を殺す必要は無い!・・・違うか!」
「・・・・・」
「君は人間を守りたいのか?それとも、ただ他種族を殺したいだけなのか?」
これにはリクも黙ってはいられない。
「フェンさん!私だって好きでモンスターを倒している訳じゃない!」
「じゃあ、もうこの子を傷付けたりはしないな?」
リクが挙げていた『猛毒が将来的に人間の害に』との前提条件が崩れたのだ。
咬まれていたフェンが証人、、証拠なのだ。
「…はい。確かに、この蛇人族は毒を持っていない様なので殺す必要は有りません。」
「分かった。じゃあ僕が、この子を保護して連れて行っても何の問題もないですよね?」
「はい。、、とは言ってもフェンさん自身もお尋ね者なのを忘れないで下さい。」
「解ってる。」
解ってる・・・フェンは自分に言い聞かせる。
手配されている今、一緒に居るだけで疑われるかもしれないのだ。
兵士であるリクが一緒に居て、理由も知っているのだから大丈夫だろう。
・・・と、思いたいのだが。
今までの事も有る。
国はいざとなれば兵士であるリクすら僕の一味だ、と言って口封じ位の事は平気でするだろう。
この子を連れて行くのも、安全な町までだ。
寒さと傷、僕らへの精一杯の抵抗で力尽きて気を失った女の子を一人、こんな所へ置いて行ける訳が無い。
気を失いながらもアルシェの顔は微笑んでいた。
私は最後にやったんだ!
勇者を・・・勇者をこの牙で・・・
この目で勇者フェンの最後を確認した訳ではないが、私も全力で咬んだのだ。
私は勇者に勝った。勇者を倒した!、、殺したのだ!!
『ズキンッ』なぜか胸が痛む。
表面的な痛みではない。
身体の表皮に付けられる傷の痛みなど、疾うの昔むかしに慣れている。
『ズキンッ』まただ。・・・これは…心の、、痛み…?
最後まで勇者フェンは私を『守る』と言っていた。
同族の者達以外から、そんな言葉は聞いた事が無かった。
人間に捕まった『あの日』から、私は蛇人族ではなくなった。
生き物ですらない。
ただの『物』だ。
個人の意志など関係なく、『器』として扱われた。
器に『守ってあげる』なんて言う者は当然、いない。
最低限、大切にはしてもらえた…利用価値の在る『器』として、だ。
勇者フェンは私の事を『守る』と言い、現に私には何もしなかった。
逆に人間の仲間である男から私を守ってくれた。
意識の中で、アルシェは自分の中の、心の痛みと、苦い気持ちに気付く…。
魔王軍の一員として人間と戦った蛇人族。
多くの者が勇者によって倒されたという。
・・・この勇者に?
私を守ると言い、実行してくれた人間…勇者フェン…憎い、、敵、、なの?
とても、、多くの同族を殺した者には、とても思えなかった。
だが、、今更、、もう遅い!!
勇者は死んだ!・・・私の毒で死んだのだ。
そして、、私も死ぬんだ、、捕まり、、殺される。
でも、、死ねば、、また村の皆に会えるんだよね?
久し振りに会ったら皆、私を褒めてくれるよね?
皆、ごめんね、、、遅くなって。
・・・今、行くよ、、皆に会えるの、、楽しみ、、だな、、、
あーっ!フェンが毒に、、、?
アルシェは達成感に包まれ、、、
て、言うか、、お湯に浸けられ?
鈍感さんは、やはり鈍感な次話。。。
お楽しみに。
ではでは。 ふえん




