鈍感ですか?勇者さま。
フェン達は街道を進む。
安全に進むなら裏道を進むのが正しい選択なのだろうが、、だ。
フェンが決めたのだ。
『何で悪い事をした訳じゃないのにコソコソしなきゃなのか!』と。
後ろめたい事は無いのだから正々堂々と進めばいい、と。
動けないミヤはフェンに全てを任せている。
シズは反対するかと思ったが、賛成してくれる。
裏道は裏道でしかなく、道路事情が良くないのだ。
凸凹した道路ではミヤの安静に良くない、と判断したのだろう。
だがシズが賛成した理由は他にも有った。
…フェン君には勇者として堂々と行動して欲しい…。
シズの中の勇者、、フェンという存在は、そういう存在、、、
絶対的な『正義』の存在なのだ。
それはシズ個人としての理想ではなく、フェン自身が正しいと思う事を誰に臆する事なく行動して欲しい…というものだ。
フェンとミヤ…二人が追われる理由は聞いている。
ミヤちゃん達、獣人を欲望の捌け口としか考えていない領主…その領主に従う兵士、報償の為なら何でもする民兵達…最低だ。
自分達を贄にしようと追って来て害そうとする人間を撃退して何が悪いというのか?
兵士を…殺したから悪いとでも?
領主は駆け付けたフェン君に言ったという。
『あの狂暴な獣人を倒してくれ』、と。
兵士達にも当然、言っただろう。
『倒してくれ』…『殺せ』と。
自分を殺そうと襲い掛かって来る相手を、熨斗を付けて返す、、
、、何て事は有り得ない。
当然、殺されない為に、殺す…しかない。
それを行ったミヤちゃんが『凶悪な犯罪者』?
馬鹿げている…間違っている…おかしいと思わない方がおかしい。
そんな理由で追われなくてはならない現実が、王国の醜さ…歪みを表している。
そもそも、フェン達に裁判を受けさせたいなら『追っ手』など必要ない。
『その件で裁判を行うので来て欲しい』と使いを寄越せば良いだけだ。
負い目の無いフェン君は、堂々と王都まで行き裁判を受けた上で証言するだろう。
それを、、それを王国の『奴等は』…。
シズの中に不快な気持ちが拡がる。
…憎い、、フェン君を貶める人間が…ミヤちゃんをこんな目に合わせた人間が。
「…シズ?、、どうしたにゃ?」
「あ、、ううん。何でも無いよ、ミヤちゃん。」
「でも、今シズ、凄く怖い顔してたにゃ。」
「そんな事ないよ♪ほらっ♪」
「止めてにゃ。」
「えっ?」
「フェンさまも…そんな顔する時は決まって危ない事する時にゃ…。」
「そんな事しないよ。」
「お願い…止めて…。」
手足が動かないミヤの必死のお願いだった。
『うるうる』した瞳は、シズの事を心配する以外の何者でも無かった。
「ごめんね、ミヤちゃん。心配させちゃったね。」
「でも…ミヤちゃんをこんな目に合わせた人達を私は許せないの…。」
「許せなくていいにゃ。…でも、居なくならないで…。」
「もぅ、、ミヤちゃんてば…。」
シズはミヤを抱き締める。
恐いんだね、ミヤちゃん…動けないのにフェン君や私が居なくなっちゃわないかって。
「大丈夫だよ。ミヤちゃん。私はここに居るよ。」
シズ…温かいにゃ、、。
フェンさまとは違う感覚、、、
…抱き締められると身体が癒される感覚。安心感に包まれる。
「大丈夫、安心してお休みなさい…。」
「うん。」
『スヤスヤ』と寝息を立て始めるミヤ。
シズの微笑みが消える…こんな子が危険?狂暴?
何を言ってるんだ?
私の妹は悪くない。
その妹を苦しませ、悲しませる様な人間なんて不要だ。
誰だろうと許さない…。
「あ、駄目ね♪ 妹に叱られたばかりなのに。」
…そろそろ交代の時間…。
「フェン君、交代の時間だよ♪」
「うん。シズお願い。」
シズと入れ替わりにフェンが車内に戻って来る。
「ミヤ、痛い所無い?」
当然だがシズが今まで付いていてくれたのだから痛い所なんて無い。
…と、フェンさまもシズお姉ちゃんも承知の筈なのだが…。
二人共、ミヤが言いにくい事が有るのでは?
、、と考えてくれるのか交代の度に聞いてくれるのだ。
「大丈夫にゃ。」
ホッとした顔のフェンさまと顔を見合わせて笑う。
予想外な事がある。
大概は『悪い予想外』が起こる物だが、今回は違った。
良い方への予想外だった。
一路、獣王が治める町へ進むフェン達。
道程は困難なものになる…と覚悟していたが、良い方向へ予想が外れる。
予想では、要所要所に関所、検問が行われ、フェン達の行く手を阻む…と思われたのだが、、
王都からの『固く守れ』との命令が利いているのかも。
はたまた、やはり逃げるのだから裏道を…と裏道に警戒線を張っているのか?
逃げも隠れもする気はないが、今だけは捕まる訳にはいかないし、捕まる気もない。
ミヤの身体の治療が最優先だ…邪魔をするなら押し通るまでだ。
一刻も早く。
、、、と、フェンは思っているのだが、、、
実の所、当人のミヤは『そう』思っていない。
怪我をしてから、フェンさまとシズお姉ちゃんが交代で常に傍に居てくれるのだ。
手足が動かないミヤなのだからお世話が必要なのは当然なのだが、それが嬉しい。
フェンが傍に居て、何でもミヤが望む事を聞いてくれるのだ。
『抱き締めて』と、おねだりすれば抱き締めてくれる。
『キスして』と、おねだりすればキスもしてくれる。
食事の時から寝る時まで、ずっと一緒に居られるのだ。
・・・幸せにゃ。
あえて不満を言うなら、自らフェンさまに抱き付けないのが不満と言えば不満だが。
フェンさまとシズお姉ちゃんが一緒に居てくれるのなら怪我なんて治らなくてもいいのに…
、、、なんてフェンさまに言うと叱られそうだけど。
「フェン君、次の町で水と食料を調達して行きましょ♪」
フェン達は手配されている身なので、町中へ入るのは危険だ。
当然ながらシズが調達に行ってくれる。
今になって思えば、シズが付いて行くと言ったのは、こういう理由も有ったのかと、頭が下がる思いで一杯だった。
「じゃあ、行ってくるね♪」
「うん。気を付けて。」
シズが出掛けた後、ミヤが言い出した。
「フェンさま、外の空気が吸いたいにゃ。」
「うん。ミヤ、そうだね。」
ミヤを抱き上げて、馬車の従者席に並んで座る。
…フェンさまと二人きり…私が倒れない様に優しく支えてくれている。
『ポカポカ』と温かい日差しに、うっとりする。
・・・幸せ、、、にゃ。
リラックスしたせいか、、急に自然の摂理を催した。
何気なくフェンに告げてしまう。
「フェンさま…私…お手洗い…」
「お手洗い?、いいよ。行こう。」
「フェンさま優しいにゃー。・・・!!!」
フェンの優しさを感じながら…あ、!…と、気付く。
『絶対、駄目!!!』
このままでは・・・
「じゃあ行こう、ミヤ。」
ミヤを抱き上げようとするフェン…。
「あ、、あの、、やっぱりいいにゃ!…シズが帰って来てからで良いにゃ。」
「えっ?、我慢すると身体に悪いよ。ほら、行こう。」
…フェンさま、私の身体を心配してくれて…って、嬉しいけど、違うにゃ!
「本当に大丈夫にゃ、行きたく無くなったにゃ!」
「駄目だよ、ミヤ。そんな嘘ついちゃ。ほら、行こ!」
…行きたいのは確かなんだけど、、今は駄目なのにゃ。
「行くよ!ミヤ。」
ミヤを抱き上げて歩き出すフェン。
「にゃーっ、、許してーっ!!」
暫くして、シズが買出しから戻って来る。
「ただいまーっ…って、、フェン君?」
見れば、フェン一人が従者席でしょんぼりしている。
「何?、どうしたの、フェン君?」
「ミヤが…ミヤが…」
「・・・まさか!ミヤちゃん!」
容態が急変したの?、、『ドキリ』と心臓が跳ねる。
・・・痛み止めが切れて苦しんでるの?…何で?まだ効果は切れるはずが、、、
「ミヤちゃん!!」
シズが慌てて馬車の荷台のドアを開けて乗り込むと…
「ミヤ…ちゃん?」
一人『ぽれぽろ』と涙を流し泣いているミヤ・・・。
「…お姉ちゃん…」
「ミヤちゃん、大丈夫?、どこか痛いの?」
『ふるふる』と首を振り、否定するミヤ。
・・・良かった、、傷が悪化して痛いんじゃないのね、、、。
「お姉ちゃん…私、、、」
・・・じゃあ、なぜ?
「ミヤちゃん、どうしたの?、お姉ちゃんに聞かせてよ?」
・・・
・・・・
聞いた話にシズは唖然とし、怒った。
・・・あの鈍感男はもぅ!!
当然、フェンの事だ。
「ミヤちゃん泣かないで、ちょっと待っててね。」
「お姉ちゃんが懲らしめて来てあげるからね!」
「フェン君!!…ちょっと来なさい!!」
…馬車から見えない木陰にズルズルと引きずられていくフェン。
「反省しなさい!!」
シズのその声だけは馬車までも聞こえた…。
聞き取れないが滔々と説教されているらしい。
暫くすると馬車のドアが開けられた。
にゃ?・・・フェンさまが謝りに来てくれたの?
「大丈夫か?…助けに来たぞ!!」
・・・違う?・・・誰?この人?
獣人の男だった。
細身ながら筋肉質の体は猛獣を思わせる。
「泣いて、、その手足?・・・人間め、非道い事を!!」
「痛むのか?、大丈夫だ、今助けてやる!」
ミヤは泣きながら『ふるふる』と顔を振る。
拍子に横に倒れそうになる。
「あっ!・・・」
「危ない!」
咄嗟に駆け寄り手を差し伸べ支える。
「…ありがとう。」
「大丈夫か?、、!!」
自然と一歩引き、固まってしまう。
改めて見る・・・
『美しい…』獣人の男は素直に思った。
囚われて泣いている同族を見て思う事ではないが、美しかった。
幼さが残り可愛いとも言える表情に、流した涙が、不思議な魅力を醸し出し、、
、、、、美しかった。
これ程の美しさ・・・どこかの部族の王族に違いない。
だが囚われの姫様の美しさとは裏腹にその手足は、、
恐る恐る尋ねる・・・
「そ、その…手足は人間が?」
『ビクリ』と何が有ったのか思い出し、ミヤは首を縦に振る。
…そう。王国軍の兵士に。
獣人の男は眉を顰める。
…卑劣な人間め!…逃がさない為に、こんな綺麗な…綺麗な人に、、、
「姫様のお名前をお聞きしても宜しいでしょうか?」
姫様?、、、私の事を言ってるにゃ?
見渡しても自分しか居ないのだから、そうなのだろう。
「ミヤ、、、にゃ。」
!!・・・言葉使いまで?
邪悪な人間め!許せん!
姫を捕らえたばかりか、言葉使いまで強制するとは!
『ピクッ』人間の気配が戻ってくる・・・複数。
「姫、絶対、絶対助けます! 今しばらくのご辛抱を!」
言うが早いか外へ飛び出す。
「まっ待つにゃ…」
そしてフェン達と鉢合わせする。
「誰だ!」、、、獣人?
萎れたフェンも一気に気迫の表情に変わり、剣を抜く。
シズも周りの様子に気を配っている。
王国からの追手か、又は捕らえるまでもない、と殺し屋を差し向けて来たのか?
だが男は正義感に燃えた目でフェン達に言い放つ。
「この卑劣な人間め!!」
「姫を拐った上、あの様な…絶対に許せん!」
「必ず、必ずミヤ様は、この俺が救い出して見せるぞ!」
『えっ??』、だった。
ミヤを…救い出す?
不思議な表情をするフェン達に獣人の男が吼える。
「この獣王軍、、斬り込み隊長、、ラムダが必ずミヤ様を助けてみせるぞ!」
「・・・姫?、、、ミヤ様?」
頭の中が??な二人。
「無理だと思っているな!・・・必ずだ、必ず!」
逃げ去って行くラムダ。
「獣王軍の斬り込み隊長?…リカじゃないの?」
「・・・・!、ミヤ!」
急いで馬車の中に飛び込む。
「ミヤ!!」
「キャ!…フェン…さま…嫌ー!!」
「・・・嫌?、、何が?」
「フェン君!!」
急に襟首を掴まれ、馬車の外へ引き出される。
「何すんのさ、シズ。」
「何すんのさ、じゃないの!!」
「フェン君…反省!!」
途端に『シュン』とするフェン。
「いい?フェン君。ミヤちゃんは今は恥ずかしくてフェン君の顔を見たくないの!解る?」
「言ったわよね?それを無視して馬車に乗り込むなんて…反省!」
シズから言われたばかりだったのは確かだけど…
だけど意味不明な事を言う不審者が来てて…ミヤが心配だったのだ…。
今のミヤには、フェンとシズが全てなのだから。
今の事も、二人が揃ってミヤの傍を離れたのが原因だ。
駄目だ!こんなんじゃ…ミヤは僕が守るんだ。
「さっきも言ったわよね?」
「・・・・」
フェンを木陰まで引き連れれて行き、シズはミヤの事を話したばかりだ。
「もぅ、私の居ない間に何やってるのよ!!」
・・・いや、別に何も、、
当のフェンには思い当たる事が無いのだが…。
「良く聞いて!フェン君。」
「フェン君、私の居ない間に何か有ったよね?」
「何が有ったか思い出してみて。」
「何も・・・」
「有ったよね?…ミヤちゃんに何か頼まれたよね?」
「ああ、ミヤをお手洗いに連れて行ったよ。」
「・・・それで?」
「それでって?・・・普通にミヤを連れて行ったけど、、」
…はーっ…鈍感もここまで来ると貴重かも…駄目な方で、だけど。
「フェン君!!」
鋭く言われ背筋が伸びる。
「はい!」
「いい?ミヤちゃんは女の子なんだよ。」
「うん。」
「じゃあ何でお手洗いなんて行ったの?」
「何でってミヤが行きたいって言ったから…」
「本当に?…本当にミヤちゃんが行きたいって言ったの?」
「言った…様な、後でもいいって言った様な…。」
「フェン君、女の子だよ?」
「・・・?」
「ミヤちゃんは女の子なんだよ?」
「女の子だし、女性なんだよ?、、ちっちゃい子供じゃないんだよ?」
「女性のお手洗いに、何で男性が付いて行くの?」
「それも好きな人になんか付いて来て欲しいと思う?」
「それも手足の動かないミヤちゃんをフェン君は…」
「恥ずかしくない訳がないわよね?、解る?」
フェンは手足が動かないミヤを抱えて、小さな子供の様に『させた』のだ。
「恥ずかしいよね? 解るわよね?」
フェンは言葉にならない。
「・・・恥ずかしくない訳がないよね?、解かるよね?」
ミヤ、と言うと、つい昔の猫の姿の時の調子で…
昔は…嫌がる猫の姿のミヤを抱き上げて『ほら、オシッコ』とか…
子供の興味心、、お飯事気分で何も考えずにやっていたのだが…。
今もそのつもりで・・・
だが今は昔とは違う・・・ミヤも、もう子供ではないのだから。
深くミヤを傷付けてしまったのではないか?
後悔しても、もう遅い。
今更ながら気付いて青ざめるフェンにシズが言う。
「いい?ミヤちゃんがちゃんと治るまでは、お手洗いとお風呂は私が担当だからね。分かった?」
「はい。」
フェンは頷くしかなかった。
もう一度聞かされて思い知る、、。
・・・僕はなんて無神経な事を、、、
「ほら、ミヤちゃんに謝って来なさい!ちゃんと許して貰うのよ?」
「・・・うん。」
「ミヤ、聞こえる?ミヤ?」
「フェン…さま…?」
「ミヤ、ここで話すから、そのままで聞いて。」
「はい…にゃ。」
「ミヤ、ごめんね。ミヤの気持ちも考えないで…あんな事…。」
!!・・・あんな事、、って、、、。
ミヤはまた顔が熱くなるのを感じる…鏡が有れば真っ赤な顔をしているだろう。
・・・こんな顔をフェンさまには見せられないにゃ。
「…ミヤが僕の顔を見たくなくなっても仕方ないと思うんだ…。」
・・・えっ!?
「だからね、、ミヤ・・・。」
「僕の事…嫌いになってもいいよ…だけど、、」
!!…フェンさま、何を?
「嫌いになってもいいから、獣王さんの町に着くまでの間だけ、、」
「、、ミヤの怪我が治るまでは我慢して欲しいんだ。お願い。」
「大丈夫。ミヤが嫌いになっても僕はミヤの事、ちゃんと守るからね。」
「だからお願い、もう少し我慢してね。」
・・・何で?・・・何でそんな事を言うんですか?
それに、何が大丈夫なんですか?・・・フェンさま。
「ミヤの事、今度こそは必ず守るから…我慢して、、お願い。」
今度こそ?…フェンさま…まだ私の身体の事、自分のせいだと思ってるの?
「あと…ミヤが嫌だと思う事は我慢しないで言って欲しいんだ。」
「ミヤの事、守る為に頑張るけど…嫌なら嫌って言って欲しいんだ。」
「ごめん…ミヤの気持ち解らなくて…。」
「だからね、ミヤ。僕の事、嫌いになって…いいよ。」
顔は見えないがフェンの声が、微かに震えるのが分かる。
・・・そんな・・・何を言ってるの?・・・フェンさま・・・
「それじゃあ、ごめんね、ミヤ。ゆっくり休んでね…。」
な、なんにゃ、これ?・・・何でこんな事になっちゃうにゃ!
そのままフェンが消えてしまう…そんな不安がミヤの心を支配する。
…い、い、嫌!!…フェンさまが行っちゃうっ!
「まっ待って!フェンさま!…行っちゃ嫌!!」
思わず叫んでいた、、
違うの…フェンさまは何時でもミヤの事を大事にしてくれたの…
この怪我だってフェンさまが意図してなった事ではないのだから…。
その…お手洗いの事もミヤの身体を心配して…の事だったのだから…。
元々、ミヤがハッキリと『嫌だ』と言わなかったのが悪かったのに…
なのに…何でフェンさまを嫌いにならなきゃなんですか!!
「違うにゃ…。」
「…ミヤ?」
「来て!…中まで来て…顔を見せて欲しいにゃ!」
「えっ?…でも…。」
「いいから中まで来て欲しいにゃ!」
「う、、うん。」
フェンは扉を開け、馬車の中へ入る。
動けないミヤはフェンを『じーっ』っと見つめる。
「ミ、ミヤ…ごめん。」
何で謝るんですか!・・・フェンさま・・・何も悪くないのに・・・
「フェンさま…抱き締めて欲しいにゃ。」
「うん。」
優しく抱き締めてくれる。
・・・フェンさま・・・ごめんなさい・・・
でも、、、だ。
やはり、恥ずかしい物は恥ずかしいのだ。
「フェンさま、、あの…お手洗いの事は忘れて欲しいにゃ…。」
…忘れてくれないと恥ずかしくてフェンさまの顔を見れない…
「うん。僕も忘れるし、もうミヤにしたりしないよ。」
「はい…フェンさま。」
「これからは『ずっと』シズが見てくれるからね。」
「えっ!?」
「『えっ!?』って?…これからはミヤの事はシズが全部見てくれるからね。」
「全部ずっと?、、、って、ずっと?」
「うん。シズも結婚したんだから、一緒に住むんだからね。ずっとだよ。」
全部?…お手洗いはともかく…お風呂も?…寝る時も?…何でも全部?
「全部?…全部って、、全部?」
「そうだよ、全部。何の心配も要らないから安心していいよ。」
それって・・・
もうフェンさまが構ってくれなくなっちゃう…そんな…なんで?
「・・・嫌・・・」
『ぽろぽろ』と泣き出すミヤ。
「あ、あれ?ミヤ…どうしたの?、、何が…?」
急に泣き出すミヤに戸惑うフェン。
「・・・嫌・・・。」
「ミヤ…何が悲しいの?…どこか痛いの?…ミヤ?」
優しい言葉を掛けられると更に悲しくなる。
「う、うぇーーん!!」
「ミ、ミヤ…。」
「フェン君!!、、何を?」
ミヤの泣き声を聞いたシズが車内に飛んで来る。
「フェン君! 謝りに来て何でミヤちゃんを泣かせるのよ!…って、何をしたのよ!!」
「ちゃ、ちゃんと謝ったんだよ…でもミヤが泣いちゃって…」
「フェン君は出てって!」
「…はい。」
何が悪かったんだろう?…また一人追い出されてしまった…。
「ほら、どうしたの?、ミヤちゃん?」
子供をあやす様にミヤに問い掛けるシズ。
「あのね、、、フェンさまが・・・」
・・・・
ミヤの話を聞いたシズは目頭を押さえる。
「まったく…あの鈍感男はもぅ…極端過ぎでしょ…。」
何処の世界に傷付いている女の子に『嫌いになれ』だの、
『もう構ってあげない』なんて言う男が居るのよ!
…まぁ、目の前と言うか、身近に居ると何とも言えないが。
『恥ずかしくてフェンの顔も見られない』と言うミヤちゃんも、結局の所、フェンの事が好きで仕方ないのは間違いない。
フェン君も鈍感で迷惑だけどミヤちゃんの事を大切に思っているのは間違いない。
パッっと喧嘩してパッっと仲直りする位なら『犬も食わない』だろうけど…。
思い合って、気遣いし合って…それで擦れ違っているのでは、犬も食わないどころではない。
喧嘩も恋愛のスパイスだ、なんて言う人も居るが…傷つけ合っているのでは、それはもう猛毒だ。
「ミヤちゃん。」
「お姉ちゃん…。」
「ミヤちゃん、フェン君の事、好きでしょ?」
『コクリ、コクリ』と頷くミヤ。
「ねぇ、だったら、ちゃんと言ってあげなきゃ駄目よ。」
「特にフェン君は『超』が付く程、鈍感なんだから。」
「ミヤちゃん、フェン君にちゃんと『好き』って言った事、有るのかな?」
「そ、そんな事…結婚してるんだから当然…当然…」
「・・・・」
あれっ?…お嫁さんになるって返事はしたけど…。
「好き…??」
・・・言ってない!?
いやいや、結婚したのだから、、、言った?、、よね?
…思い出せない…。
「駄目よ、ミヤちゃん。」
「いくら相思相愛でもちゃんと言ってあげなきゃ。」
「特にあのフェン君には。」
「言っていたとしても思い出せない様だと言ってないのと一緒よ?」
「ミヤちゃん、フェン君も不安なんだよ?…ミヤちゃんと同じ位ね。」
「ほら、ちゃんとフェン君に言えるわよね?」
「うん。お姉ちゃん…。」
『コクリ』と頷くミヤ。
「よし!…じゃあ、、、フェン君、入って来ていいわよ。」
声を掛けるとフェンが入って来る。
…恐る恐る?…言われて見れば不安そうな顔をしている気がする。
私と同じ?…不安なの?…フェンさま…も?
「ほら、ミヤちゃん。」
「フェンさま、、あの、、あのね、、、好き、、」
効果覿面だった。
『パッ』っとフェンの顔が明るくなると、ミヤに歩み寄り抱き締めた。
「うん。僕も好きだよ、ミヤ。」
『ギューッ』と抱き締められるとミヤの不安も和らいでいく。
・・・そう、、なんだ・・・
悩んでいたのが馬鹿みたいに思えた・・・
・・・ほんの一言、ほんの一言伝えればそれで良かったのだ。
シズは大人の余裕か、静かに二人を見つめて微笑んでいた。
「もぅ!フェン君はもう少し女心を勉強しなさい!!」
「うん。頑張るよ!」
「、、でも、、ごめん、、シズ。良く解からないんだ(泣゛゛)」
「すぐに解かる程、女の子は簡単でも単純でもないのよ?」
「う~ん??」
「じゃあ、まずは私を喜ばせてみてよ?」
「フェン君は気持ちを伝えるの下手そうだから良く考えてね。」
「う~ん、、シズを喜ばせるって、、う~ん、、」
「女の子の気持ちを良く考えて、ほら。」
「シズ、、」
「な~に?フェン君。」
「、、、好き。」
「・・・!!」
うっっ・・・簡単な言葉でズッキューーンってしちゃった、、。
「いい感じよ!フェン君!」
「えー、、今ので良いの?、、、良く分かんない(泣゛゛)」




