遭遇ですか?勇者さま。.
通りを行くフェン達。
「ミヤ、もう少しだからね。」
順調だ。
王国の追手が行く手を阻むなら倒してでも進もう…と、覚悟していたのだが。
兵士とは言え、傷付けたり、事によっては殺す事も考えていただけに、有り難かった。
既に兵士を殺した事の有るフェンだ。
それはミヤを助ける為にだったが、言い訳に過ぎない。
『 敵 』 なのだ … それは躊躇なくフェンの大切な人達に牙を剥く。
『 憎い敵だ 』 … そう。フェンは憎しみ、怒りによって敵、、人を殺した。
間違ってはいない…次に同じ事が有ったなら、やはり同じ行動を、、
、、いや、前回よりも間違いなく、躊躇なく行動するだろう。
人を殺す事に 『 慣れる 』 なんて間違っているのは解っている。
だが、フェンが躊躇すれば大切な人…家族が傷付くのだ。
傷を負ったミヤが一番辛いだろう。
、、だが、それ以上に守れなかったフェンも自身を責めたのだ。
・・・僕のせいだ、、、
守れず後悔するなら、守って後悔する方が余程良い。
守る為に何をしようが、僕自身の責任だ。
傷を負うのは僕だけでいい…外的な傷も、、心的な傷も。
に、しても…
シズがミヤと話した後、ミヤが離れない、、
、、と言うかミヤは手足が動かせないので僕が抱き抱えて座らせているんだけど…
…離れない。
嫌ではない、嬉しいくらいなのだが…。
シズとの交代の時間だからと離れようとすると泣き出してしまうのだ。
震えるミヤを無理に置いて離れるのは心苦しいし、泣くミヤを残して交代しようとするとシズが怒るのだ。
『 なに妹を泣かせてるのよ! 』 、、と。
なぜかミヤはもう時間が無いかの様に甘えるのだ。
・・・身体が良くなれば幾らでも前みたいに甘えられるのに・・・
「ほら、ミヤ、、、」
「嫌・・・」
、、、って、そんな『 うるうる 』した目で見つめられても。
「交代じゃないよ? … 『 おんぶ 』 してあげる。」
「おんぶ?」
「そうだよ、ほらっ。」
言うとミヤを素早く背負って身体を結んだ。
「ほら、おんぶだよ?」
抱き締められるより強く密着出来て嬉しいには嬉しいのだが、、
…でも、、フェンさまの顔が見えないにゃ…
仕方ないので頭だけで甘えるミヤ。
「ミヤ、もうすぐ道が無くなるから馬車は終わりで後は歩きだからね。」
…もう?
何でもっと遠くないにゃ!
…と、文句を言っても町は遠くなったり近くなったりしないのは重々承知の上なんだけど…
…でも、ミヤは言いたかった。
『 このまま、、ずっと… 』
「シズ、もう少しで右手に大きな岩が見えたら馬車を止めてね。」
「そこからは山に入って歩きになるから。」
程なく馬車が止まる。
「フェン君、ここで良いのかな?」
ミヤを背にしたフェンが扉から顔を出す。
「うん。ここだよ、シズ、お疲れ様。」
「ここからは馬車を留めて、馬だけ連れて徒歩で行くんだ。」
「シズ、大丈夫? 休憩する? 疲れたよね?」
「ううん、大丈夫だよ。疲れたら、ちゃんと言うから心配要らないよ。」
「うん。それじゃあ、行こう、シズ。ミヤもいいね?」
「はいにゃ。フェンさま。」
馬車を留め、馬を分離し手綱を引く。
「じゃ、行くよ。」
山道とはいえ、途中まで王国軍の軍勢が通った場所で踏み締められた道は前より歩きやすい。
暫く行くと前回同様、見張りからの警告が有る。
「ここからは獣王様の領地だ。迷った旅人なら去れ、進むなら命は無い!」
「僕はフェン、獣王様にお願いが有って来ました。」
「そんな話は聞いていない!立ち去れ!」
「待って下さい。ガルンさん、、いや、リカさんでも良いので話をさせて下さい。」
『リウルカ様の名前を?』
何だか相談して確認してくれている様だけど…。
見張りの獣人さんも同じ人ばかりではなく交代で行っているのだろう。
…前回来た時に僕を見て知っている獣人さん居ないのかな?
待つしかない、か…。
暫くすると一人の獣人さんが姿を現す。
「そのまま動くな!確認を取る。動けば矢を放つ!」
・・・前回もそうだったが、四方から囲んで狙ってるんだろうね・・・。
・・・動いたら針ネズミにされちゃうのか・・・。
「シズ、動かないでね。」
「…うん。」
どこからか呼んで来てくれたのか、現れた獣人さんはミオン達のお母さんだった。
少し 『 ホッ 』 とした…これで信じて貰えると。
嬉しさから思わず声を掛けてしまう。
「ミオン達は元気…」
「動くな!!!」
緊張が高まる。
えっ?…そんな…僕ですよ?お母さん、、分からない訳ないですよね?
動けないので目で訴えるが、まるで前に会った時とは別人の様に温かみを感じない目で睨まれてしまう。
あんなに優しそうなミオン達の母親から感情が一切感じられないのだ。
石の様に身を固め、口も閉ざすフェン。
油断なく近付いて来ると、フェンの首もとに顔を近付ける。
以前部屋で抱き付かれた時の様な甘い匂いや雰囲気など一切感じられない真剣な表情だ。
『 クンクンッ 』 … 匂いを嗅いでるの?
すると、お母さんの表情が 『 パッ 』 っと明るくなった。
「フェン君、お帰りなさい。待ってたのよ?」
急激な感情の変化にフェンの方が付いて行けない。
「ミオンも喜ぶわ!こんなに早く迎えに来てくれるなんて!」
「あ、いえ、、そんな…」
・・・正直、、違う。今回はミヤの治療で来たのだ。
「皆、大丈夫。本物の勇者様よ!」
辺りに満ちていた殺気が霧散する。
「お母さん、すみません。急いでミヤ、、この子の治療をお願いしたいんです。」
そういえば、先程から背中に獣人を背負っているな、とは思っていたが…。
「重傷なの? 直ぐに案内するわ!」
お母さんの案内で町に着くと直ぐに治療が始まる。
先触れで知らせてくれていたのだろう。
治療が終わるまで、シズと二人、治療室の前で待つ事にする。
ふっ、と気付く…あ、そうだ!ガルンさんにお礼を言わなきゃ。
治療が始まってホッとしたら気が回る様になったのだ。
近くに居た獣人さんに声を掛ける。
「すみません。ガルンさん、、獣王様にお会いして、お礼を申したいのですが?」
「獣王様は今、出掛けてますよ。」
「いつ頃戻られますか?」
「国外へ出掛けているので何時になるか分かりません。」
出掛けたって国外?…ガルンさんが、この町を離れる事も有るんだ…
仕方ないか…治療が終わるまでに帰って来るかもしれないしね♪
少し経った頃、急な来訪者が有る…。
『 バタン!!! 』
扉が壊れそうな勢いで建物に飛び込んで来た者がいる…ミオンだ。
「お姉ちゃん!お姉ちゃん!!」
そのまま治療室にも飛び込もうとする。
「待ってミオン!」
あわてて後ろから抱き止める。
「ミオン、お姉ちゃんは今、治療中だから待って!」
「フェン様! … ミヤ … ミヤお姉ちゃんは!?」
泣きながら走って来たのだろう。
『 クルッ 』 っと向きを変えると、目を真っ赤にしたまま今度はフェンの胸に飛び込む。
「お姉ちゃん…お姉ちゃん…死んじゃ嫌だ…」
「大丈夫だよ、ミオン。お姉ちゃんは死んじゃったりしないからね。」
「フェン様…本当?」
ミオン、お姉ちゃんの事が心配で心配で仕方ないんだね…
『 ぽろぽろ 』 と心配で涙が止まらないミオン。
「大丈夫、大丈夫だからね。」
頭を撫でながら言う。
泣き止まないミオンを見てシズが助け船を出してくれた。
「フェン君、私の事、ミオンちゃんに紹介してよ。」
「初めまして、じゃないけど…初めましてかな? 私はシズネ。宜しくね。」
「・・・・・」
「ミオン、お姉ちゃんだよ…シズはミヤのお姉ちゃんなんだよ。」
「ミヤお姉ちゃんのお姉ちゃんなんだから、ミオンにとってもお姉ちゃんなんだよ。」
「…お姉…ちゃん…?」
「うん♪ お姉ちゃんだよ。宜しくねミオンちゃん♪」
優しい笑顔で挨拶するシズ。
「ミオン、前に僕の家で会った事があるよね?覚えてるかな?」
『 コクリ 』 と頷くミオン。
「シズ、、ネ…」
「なーに?ミオンちゃん?」
恥ずかしいのか、怖い…って事は無いだろうけど僕の胸にまた顔を埋めてしまうミオン。
「あらら…?嫌われちゃった?」
「違うよね?ミオン。初めてちゃんと会ったから恥ずかしいだけだよね?」
「ミヤ…お姉ちゃん…」
シズの事より、ミヤの事が心配で頭が回らないみたいだね…。
「大丈夫だよ。一緒にお姉ちゃんが良くなるの待ってようね。」
「…うん。」
暫く待つが…治療が終わらない。
流石のフェンも不安になるがミオンの手前、そんな様子は見せられない。
・・・完全に治す為に時間が掛かってるだけだよね?
心配しながら待っていると今度は外が騒がしくなる。
・・・何か有ったのかな?
「すみません。何か有ったのですか?」
「今、確認してみますね。」
控えていた獣人さんが確認に外へ出て行く。
…まあ、ガルンさん不在でもリカが居るのだし何の問題も起こる訳がないんだけどね…。
暫くして獣人さんが、防衛に当たって居た獣人さんを連れて戻って来る。
・・・青ざめた顔が非常事態だと告げている。
悪い予感がして即座に聞く。
「何か有ったのですか?」
「侵攻です!王国軍の…防衛に当たっていたリウルカ様が敗れたと…」
「えっ!?敗れ、、そんな…事、、間違いですよね?」
真紅のフルプレートメイルを纏ったリカは正直、強いのだ。
敗れる訳が無い・・・筈だ・・・。
「本当に王国軍の侵攻なのですか?…国王の決断はまだなされていないはず…。」
「王国の正規軍ではないのです!」
「依頼を受けた冒険者達の軍勢が攻めて来たのです!」
「冒険者が?」
冒険者…それは戦いの専門家だ。
一般業務の片手間で戦う兵士とは比べるべくもない実力を持っている。
でも…リカが遅れを取るとは、どうしても思えなかった。
「来たのです、、、勇者が。」
「えっ?」
「冒険者達は警戒に当たっていた獣人を捕らえつつ進軍していて情報が遅れたのです。」
フェンの心配・・・感心はそこではない。
「勇、、者、、?」
「でもリウルカ様も含め、戦士達は皆、死を覚悟した者達なのです。」
「・・・冒険者にも遅れを取ったりしない筈でした。」
「リウルカ様は戦ったのです…もう少しで勝利かと思われた時に勇者が現れたのです。」
「勇者?」
「…二人組の女の冒険者…そう奴等は 『 勇者 』 と呼ばれていました。」
「リカは?…リウルカは無事なの?」
「多分、、としか…私が見た時は捕らえられ捕虜とされておりました。」
「ただ、リウルカ様の鎧は特注の品。脱着はリウルカ様にしか出来ないはず。」
「そして勇者でさえ、リウルカ様の鎧には傷一つ付けられなかった様です。」
勇者?・・・そんな・・・僕の他に勇者?
まさか前魔王討伐に参加したパーティーメンバーが?・・・有り得ない。
ガルンさんが統治している町に攻め込んで来る様なメンバーは居ないだろう。
まあ、爺ちゃんから聞いた前パーティーには女性は二人しか居なかったとの事なので別人なのは確実なのだが。
一人はフェンの祖母ファリスお婆ちゃんなのだから。
…一体誰が?…分からない。
…リカの鎧が無傷なのに何で捕らえられた、というのも不思議だ。
だが、ハッキリしている…人質が理由ではなくリカが負けたとなれば強敵なのは間違いないだろう。
ガルンさんが不在、リカも敵の手に落ちたとなれば…僕が守るしかない!
・・・ミヤ、頑張ってね・・・僕も頑張るから・・・
「シズ、ミヤとミオンの事お願い。」
「フェン君?」
「僕、行って来るよ。」
「駄目だよ。」
「えっ?…でも行かなきゃ!ここまで冒険者が攻めて来たら、、」
「そうね。大変だよね。何とかしなきゃ。」
「だから僕、行くよ。」
「駄目って、そういう意味じゃないよ…フェン君一人じゃ駄目って事。」
「私も行くわ。」
「シズ、駄目だよ。シズは会った事が無いけどリカは強いんだよ…それでも負けたって事は、、」
「だからだよ?冒険者達の中に強い人が居るんだよね?」
「フェン君…一人で何とかなるの?」
…正直、勝てるかどうかは、、分からない。
「でもシズを危険な所へ連れて行くなんて…」
「危険?…じゃあ、もう関係無いよね?」
「もう 『 危険な場所 』 に来ちゃってるんだから♪」
「それとも、ここに閉じ籠って居れば安全なの?」
「・・・それは、、、」
今、安全な場所なんて、この町には無い・・・
「そうよね。だから私も行くの。」
「この町には絶対に入れさせない…ミヤちゃんやミオンちゃん、、妹が居るんだから。」
『 クルリ 』 と振り向くとミオンに言う。
「いい?、ミオンちゃん。ミヤお姉ちゃんの傍に居てあげてね♪」
「お姉ちゃんが悪い奴等なんか、やっつけて来ちゃうんだから。」
「お姉ちゃん…。」
「シズ、、、」
「ほらっ、フェン君!そんな顔してると、ミオンちゃんが不安になっちゃうよ?」
…不安になって当然だろうけど、不安を煽る必要はないよね。
「ミオン。大丈夫だからね♪ 直ぐに帰って来るよ。」
頭を撫でて明るく言う。
「だって僕は一番の勇者だからね。」
「他の勇者にだって負けたりしないんだよ?」
聞いたミオンの目には憧れと期待…でも、やはり心配の色が浮かんでいる。
「じゃあ『 パッパッ 』 と片付けて来るよ。」
・・・だけど、、
「でも、、シズ、、本当にいいの?」
「もぅ…心配性なんだから。フェン君、私が強いの知ってるよね?」
…知っている。
強い…そもすれば僕以上に強いはずだ。
昔、シズを助けたのも 『 ほんの偶然 』 だ。
僕が助けなくとも何とかなったのは間違い無いだろう。
それを知らない僕はシズを助けた…勇者になったつもりで…
それでもシズは僕の事を勇者と思ってくれるし、勇者と呼んでくれるのだ。
…フェンの心配はシズの身の危険は勿論だが、別な部分が大半だった。
シズの今後の生活が心配なのだ。
シズなら王国軍の一般兵士や並の冒険者なら何の問題も無いのは分かっている。
普通に暮らせば平穏な日々を送れる筈のシズだ。
それを…兵士と戦えば倒さなければならない場面も在るだろう。
大切な幼馴染みを人殺しにするのか?…一生追われる身にするのか?
そう。…今、勝てるか?より、今後ずっと追われる身にさせて良いのか…
…が、心配なのだ。
心の中では 『 シズを巻き込むな! 』 と叫ぶ、もう一人の自分が居るのだ。
シズは黙ってフェンを見つめる。
決意の視線には微塵の揺らぎすらない。
シズは解りきった上で、付いて来ると言っているのだ。
シズ…ありがとう。
「行こう!シズ。先ずはリカを助けなきゃ。」
リカは無事な筈だ…リカの鎧は普通の武器では傷の一つも付かない強度が有る。
フェンが技を使って、やっと傷付くか、という鎧に何か出来るとは思えない。
捕まってはいても、生きている、必ず。
それに危険なのだ。
リカやフェン達が、ではない。
王国が危ない。
リカに何か有った…なんて事になったら、、
幸運にも出掛けて不在のガルンさんが知った日には…
考えるだけでもゾッとする。
ガルンさんの事だ。怪我など日常茶飯事なので気にも留めないだろう。
、、、が、大怪我、、命に関わる事態になったなんて言ったら・・・
・・・危険だ。
・・・止めなきゃ。
、、だが、不謹慎にも、フェンの中にもう一つの気持ちが芽生える。
ガルンさんの本気、元勇者の本当の実力を見てみたいという気持ちだ。
攻撃対象が自分ではないから言える事なのだが。
力に惹かれるのは何も、力を持たない一般人だけではない。
強くなる為の鍛練を続けて来たフェンも例外ではなかった。
自分に対しては行使されない強大な力に人間は魅了され傾倒する。
本能的に強大な力に興奮を覚えるのだ。
興味や憧れだ。
そして、、力を向けられた相手に対しては憐れみを、自分には安全圏に居るという優越感。
込み上げる感情はさぞかし美味だと思うが、駄目だ。
今は守る者も居れば、シズも傍に居るのだ。
僕を 『 勇者だ 』 と思ってくれている人が居る限り、僕は勇者なのだ。
勇者として最善だと思う行動を取るだけだ。
「行こう、シズ。でもあまり無理はしないでね。」
『 フェン君こそ、、 』 との言葉をシズは飲み込む。
フェンの中ではシズも守るべき女性に変わりないのだ。
・・・嬉しい。
自分の事を 『 守るべき女性 』 と思ってくれる・・・大切にしてくれる。
、、、その事だけでシズは嬉しかった。
「うん、フェン君。行きましょ。」
…フェンと二人きりでの外出なんて、いつ以来だろうか…採取の丘?…町の買い出しの時?
これから戦いに行くというのに、二人で歩くのが何故かシズは嬉しいのだ。
『早く問題を片付けてイーストノエルに帰ってフェン君と元の様に暮らすんだから…』
…立ち塞がる、、私の家族を傷付ける奴等なんか皆、居なくなればいい…
「うん。皆、纏まって進んで来ているよ。」
シズのお蔭で討伐軍の動きは全て把握出来て助かっている。
森の中でシズの目、、土や樹の精霊達に気付かれずに居られる訳が無いのだが。
リカ達と戦い分散して進むのは愚行と考えたのだろう…一纏めで進んでくれているのも幸運だ。
これが冒険者らしく、各パーティー散開して来る作戦、、、
一度に複数箇所を同時に攻められたら、幾らフェン達でも全てを防ぐのは不可能だった事だろう。
フェン達は、あっさり、と言うか順当に集団を発見する。
とは言え、先制攻撃などはしない。
先ずは、リカ達の無事が重要なのだから。
「止まれ!僕は勇者フェン。話が解るなら捕らえた獣人を開放し、引き返せ!」
・・・返事は・・・無い。
フェンとシズを観察する視線だけが突き刺さる・・・
冒険者らしく、こちらの実力を測ろうとしているのだろう。
勇者と聞いて、冒険者達はざわめく。
だが、、勇者を継承したばかりの男と、どう見てもただの町娘のシズ…
それに対して、此方は複数の冒険者パーティーだ…どう考えても負ける要素は無い。
討伐軍の代表格らしい者が進み出て言う。
「勇者だと言うなら我々に投降したまえ!」
「我々は獣王討伐に来たが、勇者フェン、並びに獣人の女には捕縛の依頼を受けている!」
・・・投降・・・だと?
沸々と怒りが込み上げる。
「一度は投降した僕達…ミヤにお前達が何をしたか分かって言っているのか!!!」
勇者の気迫に怒りの感情が宿る。
「、、っっ!」
キャスティは息を飲む。
…当然ながら、国軍の兵士ではない彼等には、そんな情報は伝えられていない。
、、返答をした冒険者のキャスティには何の話しなのか解らない。
何?・・・一度は投降したって?・・・何が有ったの?
分からないが、勇者を怒らせるだけの何かが有ったのだろう。
「フェン君…。」
シズが袖を引き、怒りからフェンを呼び戻す。
「僕達は投降しない!・・・必要が有るなら正式に呼び出せばいい!」
「僕は逃げ隠れせず、裁判でも何でも受ける!」
「帰って、お前達の依頼主に、、国にそう伝えろ!」
「・・・ただ、、」
「・・・ただ?」
フェンの気合いに圧され、女は次の言葉を待つだけになっている。
「ただ、獣人の町…ミヤに手を出すつもりなら、、」
「・・・つもりなら?」
「お前達は敵だ!!」
フェンの殺気が膨れ上がる。
、、、ヤバい、、コレ、マジで勇者だわ・・・ソラは思う。
キャスティも感じる・・・これが勇者、、、。
・・・でも!、今は私も勇者なのよ!!
向かう所敵無し…と言われるパーティー、、今は仲間のソラも居る。
継承を受けた勇者、、、正式に認められた勇者の実力が知りたい!
という、好奇心も後押しする。
キャスティは自分の考えにしがみつき告げる。
「勇者なら獣人討伐に力を貸しなさい!」
「獣人達が何をした!…何かして、、襲っているのはお前達の方だ!」
「僕は勇者として戦う!…人間だろうと容赦しない!」
「・・・うっ。」
キャスティに声は無い…。
当然だ。キャスティ自身は獣人に何かされた訳でもなく、恨みが有る訳でもないのだから。
「キャスティ、これは依頼よ?、、受けた依頼は果たす。それが冒険者よ?」
ソラが言う。
「仕事よ。そして依頼を果たせば貴女は名実ともに勇者に成れるのよ!」
・・・勇者に・・・なれる?
正式な勇者を超える実力が有るなら、、その者こそ勇者だろう。
「私は、、」
・・・私は、、勇者?、、、なのに?
勇者フェンの言う事は何も間違っていない。
・・・その間違っていない勇者と戦う、、の?
「キャスティ!やるのよ!」
続けざまに、
「私達は依頼を果たす!」
・・・私は、そんな、、、勇者になりたいだけなのに、、
…なんてキャスティの心の叫びなど周りの冒険者達は知る由もない。
関係無くフェン達に向かってソラが言い放つ。
周りに居た冒険者達も武器を構えて戦闘態勢をとる。
「フェン君、もう話しても無駄だよ。」
シズは冷静に言う。
「あの人達は敵なの。」
「あと、捕らえられた紅い鎧の人と獣人の人達は、集団の左斜め後ろの林の中に全員居るって。」
流石シズだね…話している内に、ちゃんと居場所を見付けてくれたんだね。
窮地に追い込まれれば冒険者と言えども人質を盾にするかもしれない。
先ずは捕虜の開放だ。
「行くよ、シズ。」
「うん。」
「キャスティ、行ける?」
「ええ、勿論。」
「じゃあ、貴女に勇者を任せるわ・・・勇者になりなよ!」
「ええ。」
内心、ソラはフェンとは戦いたくなかった…先程の殺気でヤバさが分かったからだ。
それなら、、連れの女の方が…
見た目、ただの町娘…とは言え、勇者に付いて来た娘だ。
只者ではないだろう。
でも、あの勇者に比べれば殺気など皆無だ。
…かえって、この場に居て何の気勢も無いのが不気味と言えば不気味なのだが。
「フェン君、行って。ここは任せて!」
「うん。シズお願い。」
フェンは躊躇無く、リカ達が居るという林に向かって走る。
「!!…スタン。」
・・・こいつら・・・捕虜の居場所を知ってる?
「キャスティ、勇者を抑えて!」
見ればフェンはもう動き始めてダッシュしている。
・・・何?、勇者?、、スタンしている時間が短い?
「ソラ!ちゃんとスタン掛けなさいよ!!」
「掛けてるわよ、ちっ!…スタン。」
一度は立ち止まるが、直ぐにダッシュしてしまうのだ。
スタンの魔法は万能ではないのだ。
実力差が有るとスタンさせている時間が、短くなるのだ。
・・・もう一度、と思っていると悪寒がする・・・!!
咄嗟に横倒しになりながら飛ぶと、寸前までソラが居た場所に蔦が巻き上がる。
・・・土魔法?、、精霊魔法か?
「貴女・・・フェン君には相性悪そうよね。」
『ビクッ』思わず後退りしたくなる程の気配。
・・・ただの町娘だと思った娘の気配が変わる。
勇者の男が見えなくなった途端に・・・だ。
「貴女も私の家族に牙を向ける愚かな人間の一人なんでしょう?」
「そんな人間は『要らない』!!」
「!!…スタン。」
、、、効いている?!
確かに町娘はスタンしている、、私は、、、動ける。
・・・そうよ!さっきの勇者が異常なのよ!動ける筈が無いのよ!
・・・行ける。
「皆で攻撃するのよ!」
この町娘を倒してキャスティの応援に行かなきゃ。
折角、名が売れて美味しい仕事が回ってくる様になったのだ。
キャスティが戦士として、、どちらかと言えば騎士っぽい…が、強いのは理解している。
だが、相手は実力不明の勇者なのだ。
…継承したばかりで、名前だけの勇者で実は弱かったというなら問題ない。
しかし、出逢った時の気迫は本物だった。
もし仮に、その気迫に釣り合う実力が有ったとしたら…。
ソラが恐れるのは自分ではどうにもならない部分の話しだ。
自分は鍛練して強くなった。あくまで凡人が努力した結果だ。
キャスティもおそらくはそうだろう。
では・・・凡人ではない、、勇者の血筋の者が居たとする。
その者が、本物の勇者に師事し、本当に努力して鍛練していたら・・・
才能有る者を凡人の自分が倒す…なんて壮快な事だろう。
と、その悦びを知っているからこそ、その怖さも解るのだ。
ひと度、才能有る者が努力すれば、凡人の努力など無駄な足掻きにしか過ぎない事だと。
現れた勇者…フェンと名乗た男は努力した者か?…又は、名ばかりな者か?
少なくとも、勇者の連れである、この町娘に劣るという事は無いだろう。
・・・早く片付けて応援に・・・
ソラの指示によって冒険者達も動き出す。
先陣をきって戦士達がシズに突撃する。
一見、ただの町娘だ。
誰もが一撃で勝負は決まると思っていた。
が、そうはならない。
突撃の途中でピタッと動きが止まる。
『あの町娘もスタンを?』と思うが違う様だ。
なぜか上半身だけでもがいているのだ。
見れば戦士達の足下から蔦が巻き上がり絡み付いている。
・・・やはり土魔法か土精霊魔法使いなのか?
と、思っている内に戦士達は石化している。
難を逃れた戦士が町娘まで到達し、剣を降り下ろす…が、、
『ガキンッ』
町娘を庇う様に地面がめくれ上がっている。
なぜ?…なんで?
あの町娘はスタンしている筈だ、、、
なぜ寸分の狂い無く、的確に対処出来ているのか?
まさか未来が分かって事前に術を発動しているとでも言うのだろうか?
、、、そんな事は有り得ない。
どちらにせよ、真っ先に突撃した戦士達はもう駄目だ。
近付くのは危険だ・・・なら、、
「近付くのは危険よ。魔法で攻撃して!」
ソラの指示で魔法使い達が素早く呪文を唱え始める。
ソラはスタンを掛け続けている。
怖いのだ…ただの町娘だ、と思っていた相手が。
スタンが切れた瞬間、文字通り『敵を見る様な目で』町娘がソラを見るのだ。
スタンを掛けて視線から逃れる、、だがシズの視線は正確にソラを追ってくるのだ。
その目は敵、、獲物を狙うハンターの目の様だった。
ソラは思う…私が抑えている内に誰か倒してよ…お願いだから。
内心、勇者より町娘の方が弱いと判断した自分が間違っていたのでは?
、、、との不安が大きくなっているのだ。
単なる町娘が多くの冒険者達に攻撃を受けようとしている場面で、あの平然とした様子、、、
…普通ではない。気が狂っているか、はたまた冒険者達など歯牙にも掛けていないのか?
悪い予感がする中、魔法使い達の魔法が発動する。
幾つもの攻撃魔法がシズに殺到する。
炎、雷、冷気、風、水、、様々な属性攻撃魔法が爆発と共に衝撃を起こす。
幾多のパーティーの魔法使い達の同時攻撃だ。
ちょっとやり過ぎな気もするが、ソラの勘は『まだ足りない位だ』と叫んでいる。
・・・通常であれば、間違いなく町娘は生きてはいないだろう。
魔法の効果が消え去り、土煙が落ち着くと、、、人影!?
まさか!・・・と、驚き掛けたが良く見れば、ただの土の塊だ。
複数の魔法で焼かれ、打たれ、切り裂かれ、凍り付き、、ただの土の塊に還ったのだ。
「勝った…勝ったんだ!」
自分はスタンを唱えていただけだが嬉しかった。
得体の知れない相手から開放されたという安堵感から悦びが溢れる。
「やった…、!?」
だが、、土の塊が、、、動、、く…??
誰もが信じられない物を見る様な目で土の塊を見る。
いや、ただの土の塊では無いのは一目瞭然だった。
…動き出したそれは明らかに人間の形、それも女性、それであった。
『見た目』がそうでなければ男なら誰でも振り向きそうなボディラインなのだが…
土の塊の殻を破って出て来たそれは、見た目には単に『泥水を被った少女』だった。
ピッタリと身体に張り付いた泥がヌラヌラと光る。
…泥ではなく金属か?、と思う程に光を反射する。
泥人形は声を発する。
「それで終わり?欲にまみれた冒険者達…もう気が済んだ?思い残す事は無い?」
「さっきの攻撃、、殺す気だったのよね?、、、じゃあ、、、」
「皆、、殺しちゃっていいのよね?」
町娘の声だ…だが、その声からは、これから消える者達への憐れみしか無い。
「な、何で?…スタン!」
・・・逃げるしかない、、あれだけの攻撃を受けて平気なんて、、
しかも、これだけの冒険者を前にして『 皆殺し宣言 』。
・・・こんな相手に勝てる訳がない。
逃げようとするソラが気付く。
泥人形の、町娘の視線…いや、視線だけでなく、頭ごと動かし、ソラを捉えて離さないのを。
急に泥人形が視線とは別の方向、、魔法使い達に向かって飛ぶ。
泥人形は見た目の少女の姿に反して驚く程の機動性を見せる。
冒険者の魔法使い達に襲い掛かり、片っ端から薙ぎ倒しているのだ。
魔法使い達も魔法で対抗するが何の苦痛も感じない様に異常なスピード、力で薙ぎ倒して行く。
確実に普通の町娘に出来る行為ではない。
実は先程のドタバタで入れ替わり町娘は、どこかに隠れているのでは?
泥人形は実は唯の傀儡だと言う方が逆に納得出来る強さだった。
・・・当然だが、戦きながらもソラはスタンを使い続けているのだが、、
、、、止まらない。
「何で?…何でスタンしないの?」
早くも魔法使い達の始末を終えた泥人形がソラに近付く。
・・・そして言う。
「いいでしょ? マッド君って言うんだよ♪」
「土鎧、、、マッドアーマーなんだよ♪」
場違いに嬉しそうに自慢する口調が不気味だった。
「不思議って顔ね?…スタンしないのかって?」
「してるわよ、私は。」
「でも、この子はスタンしない。」
・・・この子?・・・何を言っているの?
「私が抑えないと、この子、、、ずっと殺し続けるわよ♪」
「どう?試しにもう一度、私にスタンを掛けてみたら?」
真実だ・・・この町娘は真実を言っている、、
スタンを掛けたら泥の鎧が勝手に私を殺すと言っているのだ。
逃げられない…スタンを掛けずに逃げても町娘が鎧に命ずれば瞬殺されるだろう。
誰を見棄てても生き残るつもりだったのに…見棄てる相手すら居ないなんて…。
諦めが心を支配しようとした時、町娘が鎧を脱ぎ捨てる。
「えっ!…なんで…?」
まさか逃がしてくれるとでも?
それとも泥の鎧には使用制限、、時間制限が有るとか?
なら、まだ生き残れるかも!
一縷の希望が力を与える。
スタンを掛けながら全力で逃げる。ただ逃げる、それだけだ。
だが町娘は静かに言う。
「遅かったわ、、貴女、、、もうおしまいね、、。」
折角の逃げるチャンスを何がおしまいだというのか?
ハッタリで次の泥鎧装着までの時間稼ぎ…か?
どちらにしても行動してマイナスになる事は無い。
「スタン!」
言うと同時に駆け出すソラ…。
町娘は動く気配が無い・・・逃げられる、、、
だが…
「、、、来る。」
町娘が言ったと同時に・・・
瞬間、時間が止まったと感じた・・・そして前方に何かが落ちた。
真っ黒な塊が動く。
「ほら、貴女…やっぱり終わりよね。」
・・・何だコレは、、、鋼のドラゴン?、、、まさか!?
押し潰す様な重厚な気配、目の前に居るだけで命を投げ出したくなる感覚…
獣王。…これが獣王なのだ。本能で理解する。
捕らえた紅い鎧の獣人を獣王などと思うなんて…本物を目の前にしては、もう笑うしかないレベルだ。
これはもう、どうにかなるレベルの相手ではない。
事実、獣王が、その気になれば自分などひとたまりもないだろう。
・・・いや、ひとたまりもない、と断言出来る。
黒い鎧が話す。
「貴様か…リカや家族を傷付けた冒険者は。」
言い終わると獣王の雰囲気が変わる。
「ひっっ、、、」
ソラは腰が抜け、その場にへたりこんでしまう。
殺気だ。・・・来た時など本気では無かったのだ。
獣王の放つそれは正に殺気だった。
ソラでさえ、今すぐ泣き叫びたくなる様な殺気だ。
この殺気になら・・・幾らあの町娘でも・・・
今にも殺されそうな時だが、自分達を圧倒した町娘がどんな顔をしているのかが無性に気になる。
視線を離すのも恐ろしいが、どうせ助からない…と諦めた為か、純粋に興味による気持ちから町娘の方を向く。
「…えっ!?」
そんな…有り得ない…町娘の表情は至って普通だった。
それだけではない。
腰を抜かしたソラを尻目に町娘は平然と立っていた。
相手の強さを測れない?…なんて訳が無い。
…と、言う事は…町娘はまさかとは思うが獣王に対抗しうる力が?
どちらにせよ、町娘はソラにさえ無い胆力を持っているのだ。
今朝までのソラなら間違いなく、疑う事も無く、『私の方が強い!』と言い切っただろう。
だが、自分では到底勝てない相手に、次々に遭ってしまってはもう…
…無理だとしても逃げなければ…
ソラがそう結論付けたと同時に獣王が吼えた。
「貴様か!我が町や領民、家族を害そうと言うのは!」
ビリビリと空気が震える…いや、震えているのは私自身か?
死ぬんだ…と思ったが、、、あれ??
獣王の見ている方向が…私じゃなくて、、町娘?
「リウルカが遅れを取るとは…どんな相手かと思ったが、貴様なら納得だ!」
・・・これは、、もしかしなくても人違いしてるの?
「子供の喧嘩に親が手出しをするのは何だが…我が町を守る為だ。全力で貴様を倒させて貰おう!」
好機到来?・・・確実な死の運命に一筋の希望が見えた様だった。
町娘は依然として平然とした態度で話す。
「獣王様、誤解です。私はシズネ、勇者フェンと共にミヤちゃんの治療に参った者です。」
「…ん?、何?、、ではリウルカを倒したのは…」
獣王の、、視線は分からないが自分に注がれているのだろう。
「馬鹿も休み休み言え!こんな小娘にリウルカが負けるものか!!」
へたりこんでいるソラを見て獣王は結論を出す。
『こんな小娘にうちの娘が負ける訳が無い』と。
「貴様、それだけの強さを持ちながら潔く戦うつもりが無いのか!」
「獣王様が信じないのは自由ですが、誓って私はリカさんを傷付けたりしていない。」
「リカさんを傷付けたのは…」
「助かりました!獣王様。その女がリカを倒したのです!」
咄嗟にソラは叫んだ。
リカとは誰の事なのかは不明だが、捕らえた獣人達の中に居たのだろう。
ここだ!…ここを乗り切れれば生き残れるチャンスが…
…情けない。
何が逃げるチャンスだ。
獣王討伐の依頼を受けた時など、『獣王?、、魔王が居なくて残念だなー』などと大口を叩いていたのに…
目の前の町娘にすら勝てないのに、獣王の登場…ソラは絶望に身を震わせた。
…どうして?私達は無敵のパーティー、、勇者とまで呼ばれる冒険者だよ?
なぜ、、こんな事に…。
いや!飲まれては駄目だ!
机上の空論でも、私は魔王でも倒せる筈の女よ!
とにかく町娘と自分の相性は最悪だ。
この場は逃れて一対一の戦いに持ち込めれば…
町娘はキャスティの方が適任だ。
私は一対一で獣王を・・・
「勇者ってどれ位、強いんだろうね?ソラ。」
「それは勇者は強いでしょう、、が、私達のペアなら、、」
「勝てる?、、私達が?」
「ええ、多分。私達は魔王も倒せる(はずの)勇者なんだから。」
「そうなんだ♪ 機会が有ったら戦ってみたいな♪」
「そう?、、じゃあ勇者は任せたわね♪ 私は町娘を、、」
「えっ!ちょっと、一緒に戦ってくれないの?」
「貴女は肉体労働、私は頭脳労働、、適材適所って良いよね♪」
「スラリと酷いコトを言ってるんじゃないわよーー!!」




