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狂気ですか?勇者さま。






「ば、馬鹿な…そんな事が…」




呼び出していた精霊が掻き消えたのだ。





「何を…私に何をした!!」






「…お願い。」















外の気配は膨れ上がり、最高潮に達しようとしている様に思える。







ミヤは思う。





・・・フェンさまは、どうするつもりにゃ?






もう何も恐い事は無い。






フェンさまが言うなら、外に居る国軍を皆殺しにだって出来る、いや、する。






だって家族を、フェンさまを守る為だもの…。






それに、このまま国軍が、ここになだれ込んだら、、、





フェンさまの大切な、ミヤの大切な『我が家』が、、、






そんなのは許せない。






ここはフェンさまの家族が帰る大切な場所なのだから…。






「フェンさま…」






「ミヤ、投降しよう。」






「えっ!!…投降、、ですか?」






「うん。国軍の人だって仕事で来ているのだし…」






「ミヤも僕も悪い事なんてしてないよね?」






「ちゃんと説明して解ってもらわなきゃ。」






「それに獣王軍との戦争の事についても、丁度、話さなきゃならなかったしね。」






「どうせ行くのだから、投降して王都まで行こう。」






…フェンさま…。







フェンさまは…まだ人間を信じているのですか?





と、ミヤは口には『出せない』。






勿論、ミヤはフェンを信用している。






だが、同時に人間は信じられない事も知っているのだ。







でも…フェンさまが言うなら!







夫婦、、実の家族になって初めてのフェンさまからの提案だ。







人間は信じられなくても、フェンさまの言う事は『聞いてあげたい』のだ。







それは『現実的な判断』ではなく『感情的な判断』、気持ちでの判断だ。







「フェンさまが言うなら…」






ミヤも同意する。







「大丈夫。僕も同じ容疑が掛かっているのだから、ミヤと一緒に行くんだよ。」






「はい。」






人間に身を任せる不安は在る。





が、フェンが『一緒に行ってくれる』と言う安心感が不安を上書きする。







「いい?一旦は捕まるけど、決して暴れたりしない事…分かった?」







「はい、フェンさま。」






一度は自分だけで捕まろうと決心したミヤだ。






フェンの指示、しかもフェンも一緒に捕まると言うのだ。





・・・なら、ミヤも大人しく捕まるまでだ。






「一緒です。フェンさま…」








フェンは家の扉を開く。






突入の合図を待つばかりだった兵士達がざわめく。






一方は、一万もの兵士を殺したという獣人。





もう一方は、継いだばかりだとは言え、強大な力を持つと言われる勇者。






訓練を積んだ兵士とは言え、普通の人間だ。






二人が扉を自ら開けて登場したのを見、恐怖の感情が支配する。







ただ単に扉を開けて外に出ただけだが兵士達の認識は違う。






『待ち伏せされた!!』






思っても仕方がない。





一万の兵士を殺した獣人に対して、今の人数は百人にも満たないのだから。






恐怖は狂気となり兵士の間に伝染する。






『殺される前に殺さなければ…』






一人の兵士が恐怖に駆られ、フェンに突撃する。






「この殺人鬼め!!」






「フェンさま!!」





動こうとするミヤを手を上げて合図し、止める。






『ガシッ』






兵士が剣を降り下ろす瞬間、剣を握った手を掴んで…止めた。






一般人には難しいかもだが、フェンなら、、





混乱して単調に大振りしてくる相手の手を掴むくらい容易だった。






『殺られる』…と国軍兵士の皆が思ったが、殺されなかった。






その代わり、勇者であろう男は声を上げる。






「話したい事がある!…この軍を指揮している者は誰だ?」






少しの間の後、一人の男が声を上げる。







「私だ! 私がこの軍を率いるヘルゼム伯爵である!」






戦士…ではない、鎧を着ていないのだ。魔導師とも違う。精霊術士、かな?






大声で名乗ったのは立派だが、その身の上には恐怖が浮かんでいる。






誤った情報を信じているから仕方がないのは理解出来る。






仮に情報が真実だとしたら、これっぽっちの軍勢で捕まえろ、なんて自殺行為としか思えない。






それを無理に押し付けられて来たのだろう…同情すら感じなくもない。






…だが、フェン達を捕らえに来たのには変わりない。






「私は勇者フェン。交渉次第で投降する用意があるがいかに!」






『パッ』っと、ヘルゼムに気色が戻る。






「お前の要望を聞こう!」






『投降』と言う言葉を聞いた途端に強気に転じた様だ。





・・・経験上、信頼性に欠ける人物の様なのだが、、






残念ながら、ここに居る軍の責任者なのには変わりない。





「次の条件が受け入れられるなら抵抗せずに投降します。」






一つ『抵抗しないので暴力は振るわない事』





一つ『王都までの道程の安全を保証する事』





一つ『王都に着いたら平等で公平な裁判を行う事』





最後に『王都で王様との面談を要求したい。私は以前一度、王とは謁見している。』







「以上四つだ!…いかに?」





フェンは淀み無く言い切る。





ヘルゼムの思案には時間が掛かりそうに見えたが、すぐに返答を返す。






「よかろう。要望を飲もう!…但し、王との謁見だけは不確か故、約束は出来ん。」






・・・流石に臣下が王の謁見までは判断出来ないか、、、。







「良いだろう。約束を違える事なかれ、命を掛けて。」




フェンは宣言する。






「命を掛けて、約束は違えん。」





ヘルゼムも宣言する。








二人は投降する。







「よし、二人を拘束しろ!」







「待って下さい。投降すると言っているのに、なぜ拘束など…」







「投降したのだから従ってもらう。抵抗するとでも?」







・・・約束は約束だ。渋々受け入れる。






フェンは後ろ手に手首を縛られてしまう。






ミヤは…縛られている、僕より厳重に、だ。







「おい! その獣人の女は一万も殺してるんだぞ!」







「厳重に、、、そうだな、『折れ!』」






!!…何を?






フェンは勿論、兵士達も良く理解出来なかった様だ。






「何をしている! 折れ、と言ったんだ!」






「・・・その危険な獣人の両手足を!!』







「一体何を!、暴力は振るわないとの約束では、、」






身を起こそうとしたフェンは、すぐさま地面に組伏せられる。







「凶悪な犯罪者との約束など守る必要など無い!」







「やれ!!!」






「いっ!嫌ーーーーーっ!!!」





縛られ、床に転がされているミヤの両手足に兵士の鎚が降り下ろされる。






「キャアッギィィ…」





今まで聞いた事の無いミヤの悲鳴、、、






「ミヤ、ミヤ、ミヤ!!」






組伏せられながら、頭だけをミヤの方へと向ける。






「ミ、ミヤーっ!!」






そこには四肢をあり得ない方向へねじ曲げられたミヤが転がされている。






「ミ、、ヤ、、」






「フ、、ェン、、さ、ま、」





痛みの余り朦朧としたミヤが辛うじてフェンの名前を呼ぶ…。






「これで安心だな。、、、お、これは…」





苦痛に歪み涙を流すミヤの顔を見たヘルゼムの顔に邪悪と淫欲が浮かぶ。






「おい、この転がっている女を俺の幕舎まで運べ!」






「き、貴様…許さない、こんな事、許されると思っているのか!!」







ヘルゼムはフェンに近付き告げる。






「許されるさ。獣人だぞ?」






「凶悪な獣人など最初から死刑と決まっている。」






「何をしようと生きて王都へ着けば良いのだ。」






「だからあの動けない『美形の獣人』は、これから俺が十二分に可愛がってやる。」






「一万人も人間を殺した獣人のメスがどんな声で喘ぐのか聞かせられないのが残念だ。」






「た、隊長…俺達も、、」







「分かっている。俺が飽きたらお前達にくれてやる…存分に楽しめばいい。」







…何なんだ、こいつらは…人間なのか?…これが人間?





こんな『物』の為に勇者は、爺ちゃんや婆ちゃん、母さんは戦ったのか!






『違う、こんな物の為じゃない!!』






『そうだ! こいつらは違うんだ!』






『そうだ! 敵だ!』






フェンは開放する…爺ちゃんには大切な者を守る時以外は開放するな、と言われている。






あの男、ヘルゼムは何と言った?…フェンと結婚したばかりのミヤを汚すと言ったのだ。






許さない…許せない!






『落ち着け』・・・はい。




怒りは隙を作る。





『見ろ』・・・はい。




敵を見極めろ。





『殺せ』・・・はい。




躊躇せず『敵』を殺せ。






「・・・はい。」





返事と共に、フェンの何かが切り替わる。






『すーっ』っと音もなくフェンが動いた。






後ろ手に縛られていてあり得ないはずだが腕が正常な位置に戻っている。






組伏せていた兵士が驚く間もなく、縛られたままのフェンの両手が顔面を貫く。






仰け反った兵士の剣を引き抜きざまに、兵士の首に致命傷を与え、




続けざまに手を拘束していた縄を切り落とす、、、。






ほんの一瞬だ。






ヘルゼムが何が起こったか把握している間にも自由になったフェンはヘルゼムに向かっている。






『敵を…殺す。』





フェンの顔からは表情が抜け落ちていた。





…戦い、敵を倒す。ただそれだけの物になったのだ。





だがヘルゼムも隊長を名乗るだけはある。






「グラスバインド!」





土属性の移動阻害呪文だ。





足元の草が足に絡み付く。






続けざまに兵士を呼集する。





「囚人が暴れたぞ!」





『ばらばら』と兵士が集まってくる。






フェンは足に絡み付く草を凪ぎ払いつつヘルゼムに向かって進む。






その表情に怒りはない…無表情に、、ただ目的の為だけに『動いているだけ』に思えた。






「これが、、、勇者、、」





ヘルゼムは思い知る。





勇者…魔王を倒す事、目的を果たす事だけに特化した『者』、いや、『物』だ。






「ええい!来るな!」






恐怖したヘルゼムは味方も気にせず広範囲攻撃を行う。





「アーススピアーズ」




ヘルゼムの周りを取り囲む様に多数の土の針が形成され射出される。






飛来する土針を何事も無いかの様に剣で弾くフェン。






「駄目か・・・」抑える手段が無い事に愕然とするヘルゼムは見る。






真っ直ぐ自分に向かっていたフェンが横飛びして土針を弾くのを。





・・・なぜ、わざわざ?、、、!!






「!!・・・そうか、そうなのか!」






ヘルゼムに邪悪な笑みが戻る。






「弓兵、あの倒れている獣人の女を射よ!早く!」






フェンが横飛びした後方、、そこには動けないミヤが居たのだ。






「勇者よ、目的はそれか?」






目的の為だけに動く物…の目的は自分ではない。






あの獣人の女を守る事だ。






「全兵士、あの獣人を攻撃し続けろ!」






「私は切り札を召喚する!」






兵士達がミヤを攻撃する。






フェンは盾となりミヤを守る。





表情の抜け落ちたフェンだが、これだけは残っていた。






…大事な女性…ミヤを守らなきゃ。






兵士達は弓を射る、、がミヤには当たらない。






フェンが弾く、弾けない物はその身で受けているのだ。






それでも矢の数は少なかったのだ。





有り得ない・・・射ている兵士は思った。





どれだけ地面に伏している獣人が大事だと言うのだろうか?





その身を盾として守る姿は正に勇者だった。





本当にこんな人間が邪悪な犯罪者なのか?…その迷いが兵士達の弓を鈍らせていたのだ。






その時、大きな地響きがする。






「ははは、見るがいい! 我が最大呪文だ。」






ヘルゼムの召喚が成ったのだ。






「やれ!ストーンゴーレム!!」







ストーンゴーレムが歩き出す…ミヤに向かって。






フェンはミヤの傍を離れない。






『予想通りだ。』ヘルゼムは笑う。





このまま、あの獣人を攻撃すれば勇者もろとも…だ。






だが、叶わない。






ストーンゴーレムが『ピタッ』っと止まって動かない。





どういう事だ?・・・今までこんな事は一度も、、。






『バタバタ…』急に兵士達が倒れ始める。






遠くに居る兵から段々近寄って来る様に倒れて来るのだ。






・・・一体何が起こった?







思っている内に一人の少女が姿を現す。








「…あなたね?」







何が?、いや、何者だ?…なんて聞いても仕方ないだろう。







少なくとも味方でない事だけは確かだ。






『バタバタ』と倒れた配下の兵士達を見れば分かる。





・・・石化?・・・現れた女は、多分、人間の少女だ。





他種族や特殊な魔眼持ちだったなら直視した自分も今頃石化しているはず、、。






なら、、あの少女は、土魔導師、又は土精霊使いといった所か。






ならば…勝てる。






王国軍でも私に勝てる者など数少ない…土属性に限定するなら自分が最強なのだから。






答えないでいたが、、






「うん、そうね。あいつが悪いのね…。」






「何を一人で…??」






と、思うが、少女は胸に緑色に光る何かを抱いている…精霊?






「あなたが無理矢理この子を使ったのね?」






「それも…フェン君を探す為になんて!!」






「こんなに嫌がっているのに…許せない!」





少女の瞳は怒りに燃えていた。






「何を馬鹿な!…召喚した精霊が嫌がるなんて!」






ヘルゼムには理解出来ない。






召喚した物は物でしかない。






召喚され、消える物でしかない。






精霊とは名ばかりで、視覚的にそう見えるだけでしかない存在だ。






だが…





少女の胸に抱かれた精霊は少女の顔を見上げて何か話しているようだ。





…そんな馬鹿な、精霊と話せる訳がない。『物』だぞ、あれは。






「うん。そうだよね、許せないよね。」






「大丈夫。私が二度と嫌な思いをさせないから…。」






『嫌な思いをさせない』…私を倒す?、殺す、とでも言うのか?






良く見れば、単なる村娘ではないか。






王国軍でも指折りの土精霊使いの私を倒す?殺す?…笑わせてくれる。






正体不明のこの娘もろとも勇者と獣人の女も。






いや、獣人の女は生かして王都まで連れて行くのも良いだろう。






道中、色々と楽しんで、、、。





余裕が出来たヘルゼムは欲望のままにミヤを犯す邪な未来まで想像する。







「ストーンゴーレム!動け!」




更に念じると…動きは悪いが頭を下げると立ち上がるように動いた。






『行ける!』






そうヘルゼムは思った。





が、違った。






「お願い…。」






次の瞬間、ストーンゴーレムが跡形もなく消え去った。






「何が?…起こったのだ?」






見ればストーンゴーレムが居た場所に少女の姿が…。






「何を、何をした!!」






「…お願い。」






「何を馬鹿な!」






「もう一つお願いした。」






「何?」






「…もう、貴方に力は貸さないでって…」






「何を馬鹿な…目障りだ、消えろ!アースホール!」






・・・・・






「何だ?…力を感じない?」






「アースバインド!、アーススピアーズ!、ストーンエッジ!…」






「馬鹿な…何も起こらない…だと?」






「貴様…私に、私に何をした!」






「…お願い。」






「馬鹿にして…」






「精霊さんにお願いしたの…」






「貴方はもう精霊術士じゃない…。」






「馬鹿な…術士ではない、だと?」






「行使する力、能力自体の解除だと?…そんな、そんな事が出来るのは精霊…王!!」






「精霊さん達は、もう貴方を許さないって。」






「さよなら。」






急に地割れが起こる。






「貴方には、これ位が丁度良いって。」






「…ガ、ガイア…ドラゴン…」






「なぜ?町娘風情にこんな…こんな強大な精霊が召喚出来るのだ!」






「召喚?違うわ。私はお願いしただけ…答えてくれたのが『この子』だっただけ。」






「お願いだと?何を頼めば…というかお願いで召喚など有り得ない!」






「私はお願いしたわ…貴方を消して…と。」








愕然とするヘルゼム・・・俺を消す、だと?





・・・術士の意志ではなく精霊が自分の意志で出現しているというのか!





そして、俺一人を消す為だけにドラゴンが自ら来たというのか!!…なぜ…?






現実を受け入れる間もなくヘルゼムは激怒したドラゴンの一撃を受け、



跡形もなく消え去る他なかった。







「フェン君…。」






「嫌…。こんなのフェン君じゃないよね?」






「フェン君、帰ってきて…フェン君…」






『ザッ』…ミヤへ近付こうとすると反応するフェン。





だが、敵意の無いシズには攻撃しない。







「…ミヤちゃん…酷い、、、」






両手足が折れ曲がり、気を失い、壊れた人形の様に横たわるミヤ。







「お願い、皆、ミヤちゃんの傷を治してあげて…。」






『ポゥ…』 ミヤの近くに緑色の光…精霊達が現れる。






「酷いよね?可哀想だよね?、、お願い、皆、治してあげて。」





各々ミヤの体の各部に別れて触れる。





精霊達は何かを塗ったり、貼ったり、叩いたりしている。





・・・知らない者が見たら遊んでいる様に見えたかもしれない。






時間が掛かる…それ程に酷い怪我だったのだ。





治療している間もフェンはミヤを害する者が現れるのを警戒するかの様に無表情のまま立ちはだかっている。






シズは何も言わずフェンの隣に立ってフェンに寄り添っている。






「大丈夫だよ、フェン君…私が守ってあげる…。」






夜も明け、朝日が昇って来た頃、漸く治療が終わる。





「ありがとう、みんな、、お疲れさま。」





精霊達は微笑むと『フワッ』と朝日に溶ける様に消えて行く。






「…シ…ズにゃ。」






「そうよ、気が付いた?ミヤちゃん。」






「フェン…さま、、無事かにゃ?」






「・・・・」





無表情に立ち尽くすフェンが目に入る…







「フェンさま!!」






「…!…ミヤ!!」





ミヤの声を聞き、初めて反応を示すフェン…『物』から『者』へ戻ったのだ。






「ミヤちゃん、流石ね♪」






「ミヤ、ごめん。ごめんね…僕が投降しようなんて言ったから…」






「違うにゃ、悪いのは軍の兵士達にゃ…フェンさまじゃないにゃ。」






「でも、でもミヤ…ごめん。」





フェンが抱き締めたミヤの両手足は「ダラン」と力無く垂れ下がっている。







「…あ、、れ?…フェンさまを抱き締められない?」






「…ミヤ…ごめん、、。」






「あれ?、何これ、嫌…嫌…嫌ーーっ!!」







ミヤも漸く自分の状態に気付く、、そして何をされたのかを思い出す。





「嫌よ、嫌…痛い、痛い!…フェンさま痛い!!」






「ミヤ!!」




包み込む様に強く抱き締める。






「大丈夫、大丈夫だからね、ミヤ。」






「シズ!」…シズの方を見るが、シズは首を振る。






「痛みは無いはず…傷と痛みは治療したもの…でも、、」






「骨が折れているのは私には直ぐには治せないの…。」






「何もしないよりは治療の効果で早くは治るだろうけど…」






「それに心に刻まれた痛みの記憶は…」






「せめて獣人専門の治療が出来る術士でも居れば…」





「!!…居ればどうなの?シズ?」






「それは、もっと的確な治療が出来て完全に治せるかも…。」






「居る!」






「え?、王国には獣人の治療のノウハウを持っている治療士なんて…」






「居るんだ! 獣王さんの治める町になら。」






「だって獣王の都市は誰も戻れない謎に包まれた場所も不明な所だって聞くよ?」






「シズ、僕は知ってるんだ、行った事が有るんだ!」






「えっ?嘘、、本当に?」







「僕、ミヤを連れて行くよ、獣王さんの町に。」







「ミヤ、行こう!!」







「フェンさま・・・」






、、『駄目!!』、、、って言わなきゃ・・・





・・・すぐに逃げて、と。






今にも王国軍の追っ手が現れるかもしれないのだ。







だが、フェンはミヤを気遣ってか、明るい笑顔で言う。






「ミヤ、大丈夫だからね。すぐに獣王さんの町に行って良くなるってさ。」






「行こう!、、ミヤ。」






「フェンさま…。」




早くも手足が動かないミヤを背中に背負おうとするフェン。






「待って!フェン君、そんなに慌てないで。」






「少しでも早くミヤを治してあげたいんだ。」





今にも走りだしそうな勢いだ。







「もう、フェン君てば…私も行くわ。」







「でも、そんな…獣人の町なんだよ?」







「だから? ミヤちゃんが沢山居るって思えば平気よ!」







「それに、ミヤちゃんの痛み止めの効果が切れたらどうするの?」







「それは…」







「またミヤちゃんを痛みで悶え苦しませるつもりなの?」







「そんな事!…ない、絶対に駄目だよ。」







「うん。だから私も一緒に行くわ。」







「でも僕達…国から追われてるんだよ?…シズまで…」







「何でミヤちゃんは良いのに私は駄目なの?」







「それはミヤは当事者だし、その、、僕の家族だし…」







「家族?」







「シズ、あのね…僕、ミヤと結婚したんだ。」







「結婚したんだ…。」







「うん。」







「じゃあ、家族ならいいんだ…。」







「うん。」







「そうなんだ、、、よし!!」







「じゃあ、結婚しましょ!私達。」







「えっ?シズ…結婚って…」







「決まりね♪ 宜しく!…あ・な・た♪」







「え?、そんな、、シズまで…」






「ほら、家族なんだから付いて行っていいのよね?」






「…うん。シズ、ありがとう。」






「それに忘れてるかもだけど、ミヤちゃんを背負ってるからって王国軍は手加減なんかしてくれないわよ?」






「・・・・・」






「どうやってミヤちゃんを守る気なの?」







「まさか、ミヤちゃんを背負ったまま飛び回るつもりなんじゃないわよね?」







「あっ!…いや、そんな訳ないよ!冗談キツいよ、シズは。」







「最初の『あっ!』は何?…まさか本当にミヤちゃんを背負ったまま戦う気だったの?」






「・・・・」







「信じらんない…絶対に付いて行って監視しなきゃ…ミヤちゃんが危ないわ。」






「…って事で、宜しくね、フェン君。」






「うん。シズ、ありがとう。本当にありがとう…。」






「まだお礼は早いわよ?…それにお礼なんか要らないわ。」






「だって私もミヤちゃんの家族…お姉ちゃんなんだから。」






恐怖が甦り、フェンに抱かれて泣いているミヤがシズの方を見て言う。






「シズ…ごめんなさい…。」




…ミヤ?…何かシズにしたのかな?






「いいのよ、ミヤちゃん。可愛い妹の為なら、お姉ちゃん頑張っちゃうよ♪」






「うん、、ありがとう…お姉ちゃん…。」






「じゃ、フェン君、行きましょ。」






「うん!シズ。」






フェンはミヤを背負い始める。






「痛かったら言うんだよ?ミヤ。」






「はい。」






「だ・か・ら、待ってよ、フェン君。」






「シズ?」






「フェン君、ミヤちゃんを早く治してあげたいのは解るんだけど…。」






「うん。馬で飛ばせば明日中には…」






「フェン君、、ミヤちゃんは安静にしなきゃなんだよ。解る?」






「ミヤちゃんは精霊の力で痛みを止めてるだけで治った訳じゃないんだから。」






「急ぎたいのは解るんだけど…馬車で行きましょ。」






確かに、ミヤの身体の事を考えるなら馬車で寝かせて運んだ方が安静に出来るだろう。






だが、今は追われる身だ。





移動に時間が掛かる馬車では追い付かれる。





・・・見つかったらその後、逃げるのも困難だろう。






それに・・・やはり、一刻も早く治してあげたいのだ。






「…ミヤ、大丈夫?」






「はい、フェンさま。」






「ミヤちゃん!!!」






「…シ、、ズ。」






「ミヤちゃんも『はい』、、じゃないでしょ!!」





・・・シズが、、怒ってるにゃ、、、。





「大事な女の子の身体がちゃんと治らなかったらどうするつもりなの!」






「フェン君も!、いいから馬車を用意する!…早く!」






「う、うん。シズ、、。」




慌てて走り出すフェン。






「ミヤちゃんも、いい? 今はちゃんと身体を治す事だけ考える事!」







「はい、、ごめんにゃ、、シズ…。」






「大丈夫。心配しなくてもフェン君を取ったりしないから。」






「、、、!!」





シズは私の気持ちなんてお見通しなんだ…






フェンさまと結婚、しかもシズはミヤよりも昔からの付き合いだ。






ミヤより、、フェンさまの事を知っているのだ。






「だから私にも、、ね♪」







年齢も近く、家も近い。





・・・一人きりだったシズはフェンの家に住んでいた時期すらある。






兄妹、、いや、姉弟の様に育ったのだ。






正直、不安なのだ。






ミヤよりも長い付き合い。






そして…何より『同種族』、、人間なのだ、シズは。






本能的に動物なら有る。・・・人間という種の存続をという感情。






…と考えるとミヤはスタート時点でシズに既に負けているのだから。






シズが『取ったりしない』と言うなら、取ったりしないだろう。







だが、シズがそう考えていたとしてもフェンさまが、、





フェンさまがミヤよりシズを選んだりしないか、、、心配なのだ。






「本当に…本当に取ったり、、しないにゃ?」






「もぅ、可愛い妹を泣かせる様な事なんてしないよ?」






「でも、私もフェン君の事…好きなの。…知ってるよね?」






『コクリ』と頷くミヤ。







昔からフェンの家に出入りしていたシズ…その表情、仕草、、気付かない訳がない。





・・・フェンさまを除いては。







「いいよ。ミヤちゃんは妹、、家族なんだから教えておくよ、、」







「・・・私とフェン君はもう、、、」







シズが話す秘密の話し、、、。






「そ、そんな・・・。」 ミヤは絶句する。






「皆には内緒だからね♪」







「それに、フェン君も知らない、覚えてない事だからフェン君にも内緒だよ♪」







『こんなの!…こんなの勝てる訳ないじゃない…にゃんで、、』






『それに…何でシズはそんな平気な顔をして話せるにゃ?』






…フェンさまを?、、ミヤを?、、信用?、、家族だと思ってくれているから?







「大丈夫。フェン君も、、そして可愛い妹のミヤちゃんも、私が守るよ。」







・・・私の家族なんだから、、、










「酷いにゃ!ミヤを傷付けるなんて!!」

 「そうだ!許せない、、皆、、敵だ!」

「フェンさま『みんな敵』は言い過ぎなんじゃないかにゃ?」

 「いいや、『敵』だ!!!」

「フェンさまが壊れたにゃ!、、シズお姉ちゃん、、」

  「ふーん。私も敵なんだ・・・ねえ、フェン君?(怒゛゛)」

 「『ビクッ』・・・勿論、違うよ、、ね?、、シズ。」

「勿論、全国のミヤファンも敵じゃないにゃ!」

 「ミヤ、、、全国のファンって?、、居るの?」

「いっ、居るにゃー!、、、多分、、、きっと、、」 

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