思考ですか?勇者さま。
『あれ?、、私、何してたんだっけ?』
・・・寝てる場合じゃないよね・・・早く起きて鍛練始めなきゃ・・・
でも身体が重いな・・・疲れてるのかな?
急がなきゃ、また父さんからの小言に付き合わなきゃになっちゃうや…。
・・・・
・・・でも…いいか。
あんなに頑張ったのにな…結局、無駄だったんだから。
??…あれ?、、何で無駄なんだっけ?
そう言えば…
・・・戦った?・・・それで、、、
『私って、、、負けて、、、死んだ…!?・・・死んだんだっけ?』
『あーあ、また父さんに叱られちゃうな…』
・・・って、、大丈夫か、、。
・・・父さん丈夫そうだし、叱られるのは相当先になる筈だよね。
最後の記憶…首筋に押し当てられた冷たい感触…短剣で急所を…
…怖いので思い出すのは止めにしておくとして、、死んだんだよね…。
意外と死んでも感触…身体の実感って有るものなんだね、、
今頃知っても役に立てる機会はもう無いんだけど…。
短剣が押し当てられていた場所からすると致命傷は確実だ。
私、、何も出来ないまま死んだんだ…
『・・・悔しい』
勝てなかった事も悔しいが、目標であった勇者パーティーにも入れず死ぬなんて。
…嘘だ。
本心はそんな事は二の次だ。
…本当は普通の娘と同じく、遊んだり、お洒落などしてみたかった…。
なのに…なんで?…頑張ったのに、、こんな最後なの?
人を守りモンスターと戦い敗れた、、、
…なら、まだ体裁も保て、今までの鍛練も報われるが、無名の女と戦って人知れず死ぬ。
馬鹿だ!…救いようが無い大馬鹿だ!!
そして、、、悲しい。
もっと違う、、やりたい事をしておけば良かった。
『ヒヤッ』とした冷たい感触…後悔による涙で額が冷たいのか…
…額?
…涙で額が?
流れる涙で頬が冷たいなら分かるが、、額?
目を開けてみる。
、、、娘だ。・・・襲われていた町娘?
「あなたも、、殺されちゃったの?」
ぼんやりと呟く。
あの後、もう一度襲われて殺されてしまったのだろうか?
「??…大丈夫ですか?」
「心配要りませんよ、ここは私の家ですから。」
額の濡れタオルを交換しながら町娘は言う。
見渡せば『あの世』とは思えない『現世然』とした部屋が見える。
そして…
「!!…お、お前!!!」
ソラが居た。
跳ね起きざまに剣を…剣が無い?
「きゃっっ」、、『カランッ』
驚いた家の主は手洗い鉢を落としてしまう。
「お世話になってる身でいたいけな娘さんを驚かせるなんて騎士の風上にもおけない悪人だねー。」
「あーっ!、何?…まさか自分、死んじゃったー、とか思ってたとか?」
『クスクス』とジェスチャー付きで笑うソラ。
…生き、てる、、の私、、?
ソラが続けて言う。
「やっぱり女の子なんだねー。ぽろぽろ泣いちゃって…」
「…父さんに叱られる…クスクス…」
「な!!…」
…聞かれた?!
「その歳で、お父さん怖いんだー。…クスクス。」
顔が熱くなるのが分かる。
羞恥心が萎えた気持ちを奮い起こす。
「よくも平気な顔をして私の前に顔を出せたわね!…勝負よ!」
「まだ?…やる気有るんだねぇ…感心感心。」
「まぁ、まだ勝てるなんて思ってるとしたら救いようが無いけどね。」
「貴女はどっち?」
「そんな事!…やってみなければ、、」
「分からないって?…だとしたら残念だなー。」
「結果は変わらないわ。そして今度は途中で止めたりしない…確実に死ぬわよ。」
「そんな事…」
「あるわ。貴女を殺さなかったのは、この町娘の命を貴女が助けたから。」
「一つ命を救ったなら、貴女の命も一度は救われても良い筈だもの。」
「…でも、、次は無い。」
「次に有るのは単なる命のやり取りだけ。」
「どちらか死ぬ…それは貴女、、確実に。」
「それでも戦う?…私は自分の身を守るだけ。」
「やるの?」
『やるの?』の意味が『殺るの?』だという事が解るだけに声が出ない。
「「止めて下さい!!」」
厳しい声がする。
「私の家で勝手な事は許しません!」
「文句が有るなら今すぐ出ていって下さい!」
「もうすぐ出来そうなスープも食事もあげません!」
「出て行くの?、行かないの?…決めて!」
・・・・・
「・・・ごめんなさい。」
どちらともなく『この家』での絶対者、、主導権の有る娘に謝る…。
「二人にはお金は勿論、命まで助けて貰ったんですもの♪」
「出来る限りのお礼はしたいけど今はこれが精一杯です…。」
「いやいや、可愛い娘さんに、美味しい食事、後は寝る所が有れば十分よ♪」
言い方がオヤジ臭いんだけど…まぁ、下ネタに行かないだけまだマシなのか?
、、とは言っても黙っていられる性格ではない。
『チクリ』とツッコミを入れる。
「…食べてもいない内から『美味しい』なんてよく言えるわね、、。」
「知らないの?こういう時に助けた娘さんは必ず料理上手と相場が決まってるのよ?」
「なんの相場よ!」
「あ、、じゃあ貴女は食べない内から『美味しくない』って言うのね?」
「、、、非道いわ・・・もぅ、鬼だわ、、悪魔だわ!」
「そ、そんな事、一言も言ってないじゃない!!」
「ぷっ!あははは、、」
二人のやり取りに、家の主の笑い声が響く…。
「あー、おかしっ。二人共…いいコンビだね♪」
「「えーっっ!!」」
二人共に心底嫌な声で言った筈なのだが…
「ほら、息ピッタリじゃない。お似合いよ♪」
「こんなに笑えたの久しぶりだよ。」
「ありがとう。」
・・・二人共に黙る。
何もお礼を言われる様な事はしていない。
ただ気持ちの籠った娘の、「ありがとう」の笑顔と言葉が、言い合っていた二人に苦いものを感じさせたのだ。
「一時休戦よ、いいわね?」
「いいわ。一時休戦よ。ただし『一時』よ!」
「はい、はい。一時ね、一時。」
「あー、本気にしてないでしょう!!」
「絶対勝って『負けました』って言わせてやるんだから!」
「はい、はい。頑張ってねー。あー、まずは、お腹減ったなー。」
「私の順位はお腹の次な訳?…ねぇ、そうなの?次な訳?」
「はい、はい。戦う前に、まず私の中のお腹に勝って一番になりましょうね(笑)」
「うーっ!悔しいー!!」
絶対に勝ってやる!…私に足りない戦いの駆け引きなど全部盗んでやる!
手紙を書く。父に、だ。
「父上、宿命的な出会いが有り、未熟さを実感し、暫し、この者と行動を共にし…」
要約すれば『家には暫く帰りません』の手紙だ。
鍛えただけの強さではない強さ…会得出来たなら勇者パーティー候補に一歩前進出来るだろう。
元々…嫌だ、嫌だと言いながら内心、鍛練は嫌いではない。
基本は身体に叩き込まれている。
後はどう『使うか』だ。
ソラを見れば、、見た目は町人と変わらない。
だが、キャスティは負けたのだ。
ソラもただで力を得た訳では無いはずなので努力をしただろう。
だが、努力の積み重ねはソラには負けていない、、負けない鍛練をして来た自信が自分にはある。
『絶対に負けない!』
強く思う。
それはキャスティが昔から欲していた物…者だ。
近所には居ない…近隣にも居ない…自分よりも上の力を持つ同世代、、しかも同性だ。
初めて目標…自分的にはライバルと思える相手。
『元々の才能が違う』なんて言うのは言い訳だ。
同じ土俵で戦える相手にやっと巡り会えたのだ。
鍛え上げ借りを帰す!
ソラの様に『殺そう』とは思わない。
ただ『負けました』この一言を聞きたいだけだ。
…絶対に!
『うふふふ…』と聞こえて来そうなキャスティの様子にソラは思う…
うゎー…痛い娘を拾っちゃったかな…やたらと燃えてるし…でも実力は有るのよね…
…ま、いっか。駄目なら捨てて、次を見付ければ良いだけだよね…。
「「ふふふふ…」」
「二人共、、『変』ですよ?」
…絶対二人共に悪ぶって失敗するタイプだと私は思うんだけどな…。
結局の所、正確に二人の性格を把握していたのは第三者である町娘だけだった。
…次の日から、キャスティとソラの快進撃が始まった。
いや、『ソラとキャスティ』だ…などと、どちらの名前を先にするかで一悶着あったが、、。
今まで火力に難が有ったソラがキャスティという火力を手に入れたのだ。
難易度の高い依頼も平気でこなすと評判になる。
それに、今年の武祭の優勝者と準優勝者が組んでのパーティーだ。
当然、話題になる。
「依頼完遂率100%のパーティーだってよ。」
話題が話題を呼び、誰もが振り返る様になる。
中には『あれが新しい勇者様なんだってよ。』と噂する者まで出る。
キャスティは思う。
・・・・勇者?、、、私の事?
勇者など認可資格が有る訳でもなく、人々が思えばそれが勇者なのだ。
・・・勇者パーティーに入らずとも、皆、私を勇者だと言ってくれる。
『・・・嬉しい。』
心底そう思った。
小さい頃からの目標、、夢が叶ったのだ。
同世代の友達とも遊ぶ事無く鍛練に明け暮れた日々、、、。
「・・・夢、、、か。」
「あーっ、何、何?、、何、黄昏ちゃってるの?年寄り臭ーいっ、、ぷっ。」
「何よーっ、いいじゃない、たまには。勇者よ、勇者!」
「勇者?、、、なーんの意味も無い、只の言葉だわ。」
「そんな事無い!、、勇者は、、勇者は、、、」
「ふーん。・・・じゃあ勇者になって何か変わったの?」
「すっごーい!! 勇者になったら急に魔王も倒せる様になっちゃったとか?」
「そんな訳ないじゃん!! もぅ、からかって!!」
「そんな称号じゃ、自分の身を守ってはくれないわ。正論でしょ?」
「それは、、そうだけど、、私は成りたかったんだから。」
「別にいいわよ。喜んでも、、、。」
「但し、、勇者になったんだから誰かの為に身を挺して、、なんて私は御免よ?」
「私は御免だわ、、私は危なければ貴方だって見捨てて逃げるもの。」
「貴方は盾になるの?、勇者だから?」
「私は、、そう在りたいと思っている。」
キャスティは本当に思っている、、、筈だった。
自分の建前ではなく、本心の話だ。
ソラに負けて死んだと思った時に考えた事は何だった?
『本当は普通の娘と同じく、遊んだり、お洒落などしてみたかった・・・』
、、、後悔だ。
本当に『勇者として』いつ死ぬとも知れない覚悟が有ったのなら、、、
死を前にしても後悔なんてしなかった筈だ。
自分の中の理想の勇者像という物は在る。
それは憧れである勇者様に対する偶像的イメージだ。
全てにおいて完璧な存在の勇者様・・・憧れだった。
、、、『憧れている立場』なら、の話だ。
幼少の頃の憧れの存在・・・
憧れるのは易しい。、、、だが、、、
現実に、夢が叶い、自分がその存在、、勇者に、、なる?
幼少の自分が創った勇者像が重く圧し掛かる。
『こんな私が、、勇者?』
足りる訳がない。 経験も実力も、、、そして覚悟も。
だが、町の人々は容赦無い。
キャスティを見、『勇者様だ』と勇者像を妄想するのだ。
中には幼少の頃のキャスティの様に『完璧な勇者』を夢見る子供も、、
勇者と呼ばれる嬉しさとは正反対な嫌悪感が付き纏う。
『私、、、私で本当にいいの?』 呼んだ人に聞き返したい。
だが、否応なしに呼ばれる事実は変わらない。
、、、ならば、、、
ソラは『御免だ』と言うが、私は『なろう』、、
実力は無くとも最後まで幼少期に夢見た勇者様の様に。
一人でも多くの子供達が、より良い『勇者像』を夢見られる様に。
「ねえ、キャスティ!、、聞いてる?」
「ええ、ちゃんと聞いてるよ、ソラ。」
・・・『御免だ』とか言いつつ最後は、、ね?、ソラ。
キャスティは勇敢に敵に立ち向かうソラをイメージする。
・・・冗談じゃない。 ソラは思う。
勝手に勇者って呼べば命懸けで助けてくれるって?
どれだけ身勝手な自己中心的な考えだ、と思う。
それで、どうだ?
もし助けられなかった時は、また身勝手に『勇者を恨む』事だろう。
私は私だ。
身を守る為に戦うし、危なくなれば逃げもする・・・。
それを『勇者』の称号一つで否定される筋合いはない。
・・・それを、このキャスティ様は理解していない、、、。
、、、悪いけど私は逃げるからね。
「うふふっ、、」
「なによ、一人で気持ち悪い、、」
「だって勇者よ、勇・者・様☆」
「はい、はい、勇者ね、勇者。」
「もぅ、もう少し喜んでくれても良いじゃない!」
「うわーい、勇者様、やったー。」
「何よー!! その棒読みは!」
「えーっ、、、勇者様、喉が渇いたので飲み物持って来て♡」
「はい!喜んでー!」
「うーん、勇者、、使えるんだか、使えないんだか、、謎だわ、、」




