理解ですか?勇者さま。
「問題ありません。」
ミオンはハッキリと言い切る。
…ミオンが言ってる事を信じない訳ではない。
だけど・・・
やっぱり挨拶くらいしないとだよね?
…僕の考えでは両親、ミオンの場合で言えば『お母さん』の許可、
承認が必要だと思う。
ミオンは『母は賛成して許可してくれました。』と言うけど…。
それにシオンの気持ちも。
シオンの事も、ミオンは『賛成してくれました』と言う。
今まで、ずっと一緒に居たミオンと別に暮らす、なんて話をして…
シオンがすんなり賛成してくれたとは到底思えないんだけど?
嫌々泣き叫ぶシオンを無理矢理説得して納得させたのだとしたら可哀想だ。
では、反対されたからと、ミオンをここに残して行くのか?
…ミオンは自分から僕と一緒に居たい、と言ってくれているのだ。
一緒に居ていいよ、との約束もしている。『いつ』とまでは決めていないが約束は守らないと。
もし、ミオンが自ら残りたいと思っているなら快く認めるだけだ。
では、シオンも一緒に来る…なんて言うと、お母さんがまた一人になってしまう。
フェンはそれだけは認める気にはならない。
小さい頃に母と別れたフェンは良く知っている。
母さんの居ない淋しさ。
思いを馳せれば、母も同じ…淋しい思いをしていた筈だ。
居なかった分、強く思うのだ…『こんな思いを母さんにさせちゃいけない…』と。
それも『仕方なく別れる』のではなく、望めば一緒に居られるものを故意に別れるなんて、、
挨拶と同時にお母さんとシオンの気持ちも確認しなくちゃだよね。
思い立ったが吉日で、さっそく今から…ってどうかな?
ミオンは…大丈夫かな?
もう会えなくなる訳ではないが、別れには違いない。
別れには淋しさと悲しさは付き物だ。
とは言っても、出て行った娘が泣きじゃくって帰って来た、、
・・・なんて事だと、お母さんだって否応なしに心配になるだろう。
「ミオン、ミオンのお母さんの所へ挨拶に行こうと思うんだけど、、大丈夫?」
「う…ん、、はい!大丈夫です。」
ミオンも落ち着いてるみたいだし大丈夫かな?
「じゃあミオン、行こう。」
「はい、フェン様。」
「ミヤはどうする?一緒に行く?」
「私は、、、」
ミヤは行きたいんだけど行きたくない気持ちも有るのだろう。
…微妙な表情で言い淀む。
うーん、犬人族が苦手なのは変わらないようだね…。
「いいよ、ミヤ。ただ挨拶するだけなんだから。」
「…うーん。じゃあお留守番してるにゃ…。」
「大丈夫。すぐに帰って来る予定だからね。」
ミオンに続いて歩く。
ちょっとドキドキする。
あまり、と言うか、殆んど他の人の家になど行った事が無いフェンなのだ。
気兼ね無く行っていたのはシズの家くらいしかない。
しかも、良く良く考えたら、もしかして…これは…ご挨拶?
まるで『娘さんを僕に下さい。』と、ご両親に許しを乞いに行く様なものなのでは?
お母さんから『ミオンを末永く宜しくお願いします。』なんて言われたらどうしよう。
『末永くは、ちょっと、、、』なんて言えないよね?
フェンの不安を他所にミオンの足取りは軽かった。
フェンから 『 傍に居てもいい 』 という了解も取れた。
目的を果たしたのだ…ちょっとした凱旋気分だろう。
気持ちが尻尾に出て『フリフリ』してしまっているのが無性に可愛い。
左右に揺れる尻尾に逆らえず、ついつい目で追ってしまっていた。
しばらく歩くとミオンが立ち止まる。
尻尾ばかりに気を取られていたので急には止まれない。
後ろからミオンに抱き付いた形になってしまった。
「…きゃ、、」
小さくミオンが声を上げる。
「よそ見してて…ごめんね、ミオン。大丈夫?」
「フェン様…こんな所じゃ、、駄目…。」
…えーっと、何か違う意味の気がするけど指摘したら負けな気がするのでスルーする。
「ここが、ミオンのお家?」
「そうです。ただいまー!」
躊躇なくドアを開けて入って行く。
「母さん、居る…!?」
ミオンに何かが突進した。
…と言うか、飛び付いたのか?
慌てるフェンを他所にミオンはよろめく事もなく平然と踏み止まっている。
正体は…シオン!?
「お姉ちゃん、お姉ちゃん!!」
…えっと、、何時もの事なのかな?
それならミオンが何も驚かずに平然としているのも納得出来る。
「シオン、母さんは?」
…うん。突進の事は見事にスルーだね。
「…お仕事…行ってる。」
…ミオンにスルーされるのも何時もの事らしくシオンも気にもしてないらしい。
「フェン様、母は出掛けてて…どうしますか?」
「うん。待ってるよ。」
お母さんが帰って来る前にシオンとのお話しも有るしね。
…何時もの事、とは言っても、さっきのシオンの様子…。
どう見てもお姉ちゃんが居なくなるのを納得しているとは思えないんだけど?
「シオン?」
「…ご主人様…。」
ミオンに抱き付いたまま、顔を向けて答えるシオン。
その顔は、お姉ちゃんが帰って来てくれた『嬉しさ』と、
また居なくなるのでは?という『不安』が入り交じっている。
・・・確認が必要だね♪、、と、その前に、、っと。
「シオン、今日はシオンにご褒美が有るんだ。」
「「 えっ!? 」」 ・・・ 二人は驚く。
そんな話は聞いてないよ?と、驚くミオン。
ご褒美を貰える様な事をした覚えの無いシオン。
「…ご褒美…私に…?」
「そうだよ、シオン。」
「シオンは僕の家に来てくれた時、頑張ってお手伝いしてくれたよね?」
「うん。」
「あの時のお給金、ご褒美をシオンに持って来たんだよ。」
「…お給金?」
不思議そうな顔でシオンは首を傾げてしまう。
ミオンもそう思う。…首を傾げて当然な話だ。
フェン様の家に行ったのはミオンとシオンが助け出された後、
行き場も無く、途方にくれると悪いから・・・
、、、と、『フェン様の好意』で置いて貰ったのだ。
フェン様に『雇われて働いた』訳ではないのだ。
感謝こそせよ、間違っても『お給金』を貰う様な話しではない。
そもそも『働く』、という程の事もしていない。
、、、したのはフェン様達と家事のお手伝いをしただけだ。
「じゃあ、シオン。お給金だよ。」
フェンは鞄から皮袋を取り出す。
『ガシャッ』テーブルに置かれた皮袋が形を変える。
・・・こんなに!?
皮袋の中身が最小単位の銅貨だとしても、一体幾ら入っているのだろう?
・・・どういうつもりなのですか?
ミオンは問い掛けようとフェンを見るが、フェンはシオンを見つめている。
当のシオンは受け取って良いのか判らず、助けを求めて皮袋とミオンを交互に見ている。
「シオン、いい? これはシオンが働いて稼いだお金なんだよ。」
「・・・・」
「でもシオン…このお金は全部はシオンにはあげないよ。」
「・・・・?」
…良く解らない。
『シオンの物だ』、と言ったのに、『あげない』とも言う。
シオンもどうしたら良いのか判らず、目を白黒させている。
シオンが困ってしまっているのを見てミオンがフェンに問い掛ける。
「フェン様…どういう…」
問い掛けようとするミオンをフェンは遮る様に手を上げて止める。
そして、フェンが言い出した内容にミオンは絶句する。
「…シオン。シオンは僕の奴隷だよね?」
『ビクッ』…小さなシオンの体が大きく跳ねる…。
『フェン様、シオンに何を…?』
ミオンは声にならない程に驚く。
・・・なぜ?、、、何で?
日頃から『ミオン達は奴隷なんかじゃないよ』と言って聞かせてくれたのは、
フェン様自身ではないか・・・それを。
シオンは震えながら答える…。
「、、はい。…フェン様…私はフェン様の…奴隷…です。」
シオンの瞳から涙が『ぽろぽろ』と流れ落ちる。
「フェン様!!」
いくらフェン様でも、これ以上、シオンを悲しませるなんて許せない。
フェンに対する不信感、、、怒りの感情が生まれる。
「フェン様、何でシオンにそんな事を言うんですか!!」
フェン様は一体どうしてしまったというの?
自分の耳で聞いた事なのに信じられない気持ちで一杯だった。
だが、フェンはミオンに向かって微笑みながら一つ頷く。
…フェン様?、、何でそんな優しい顔でシオンに非道い事を言うんですか?
止めたいけど、フェンの表情には悪意が無かった…感じるのは思い遣りだけだった。
ミオンは判断に迷う。
「シオン、そうだよ。シオンは僕が買った奴隷なんだよ。」
『奴隷』という言葉を聞く度にシオンは体を震わせる。
まるで剣で刺されたかの様に痛みを感じているようだった。
シオンは顔を上げられず、俯いたまま体をカタカタと震わせている。
「は、はい…ご主人様、、。」
「だからね、、、シオン。」
「お給金…シオンのお金から僕が払ったお金、返して貰うからね?」
フェンは机の上の皮袋からお金を別の袋へと…ゆっくり移していく。
本当にゆっくりと、、まるで硬貨一枚一枚を移す事で、
シオンの嫌な思い出が消えるのを祈るように…。
「うん。…これで全部返して貰ったよ。」
「・・・・?」
シオンはまだ状況が解らず震えている。
「シオン、僕がシオンを買ったお金、、ちゃんと返して貰ったからね。」
「これでもう…シオンは僕の物…奴隷じゃないんだよ。」
・・・!!
・・・そうだったんだ。
ミオンは気が付く。
フェン様は最初から『こうするつもり』だったのだと。
存在しないはずの『お給金』の話をしたのも…。
シオンに対して『僕の奴隷だ』なんて言ったのも…
前に私に話した『シオンを解放する』という話を、、、
正に今…実行してくれたのだ。
だが、何も無いままシオンに『奴隷じゃない』と言っても心から納得してくれないだろう。
…だからフェン様は『見える形』でシオンを解放してくれたのだ。
これならシオンも『誰かに助けて貰った』のではなく『自分で奴隷から抜け出した』のだと、負い目無く、受け入れられるだろう。
フェン様は本当にシオンの事を思って、考えてくれていたのだ。
…なのに私は…。
私は…。
シオンを奴隷と呼ばれて、私の中に生まれた感情…怒り、だ。
『フェン様を信じる』と決めたばかりだというのに…。
『たった一言』で気持ちが揺らいでしまうなんて。
私って、、全然駄目だよね・・・。
何時だってフェン様は私達の事を考えてくれたじゃない!
…なのに、なぜ信じられないの?
自分の事なのに自分が許せない…悔しいのだ。自分自身が。
ミオンは悔しくて、悔しくて涙が出てくる。
「フェン様…ごめんなさい、フェン様の事、解ってなかったの…」
シオンも漸く、自分が解放されたのだという事を理解してくる。
自然とシオンの瞳からも涙が溢れる。
ミオンの後悔からの涙と、シオンの安心からの涙、、
理由は正反対の理由からの涙だけど、泣いている二人の姉弟。
、、、姉妹は正直、綺麗だった。
・・・・
・・・とは言え、幾ら綺麗でも何時までも泣かせては置けない。
「ほら、シオン?…残りのお金は全部シオンの物なんだよ。」
テーブル上の差し引いた皮袋をシオンの方へ押しやる。
シオンは泣きながら皮袋とフェンを見つめる。
「・・・要らない。」
「・・・えっ?」
予想外のシオンの言葉にフェンは固まる。
ミオンも『どうして?』という顔でシオンを見ている。
「シオン、どうして?…シオンのお金なんだよ?」
「要らない!」
「そんな、要らないなんて…。」
「要らない、要らない、要らない!」
「シオン、何で要らないなんて言うの?」
「・・・嫌!!」
理由を聞いても『嫌!』と繰り返すばかりのシオン。
…何か嫌な事が有るのは確かだろうけど…何かまでは分からない。
「シオン、何が嫌なの? 何で要らないのか僕に教えてよ。」
「・・・・・」
話してくれなそうなシオンにミオンが聞いてくれた。
「シオン、何が嫌なの?お姉ちゃんに教えてよ。」
泣きながらだけどシオンはミオンに話し始めてくれる。
「お金…要らない。」 ・・・ シオンはお金が嫌なの?
「シオン…でも暮らすのにはお金は要るのよ?」
ミオンの言うのは正論だ…。
『ふるふる』と首を振るシオン。
「お金要らない・・・フェン様にも『お金返さない』!」
…えっ?…お金も要らないし僕にも返さないって??
お金が要らないなら僕に返したり、あげたりしても、良いんじゃない…?
「シオン、シオンはどうしたいの? お姉ちゃん解らないよ?」
「…フェン様と一緒…」
「…えっ?」
「シオン、フェン様と一緒に居る。」
…僕と一緒に居るのと、お金が要らないのが、どうにも結び付かない…。
・・・と、思ったけどシオンの次の言葉で理解した。
しゃくりあげながらも、シオンはハッキリと告げる。
「お金…返さない、、ずっと奴隷…ずっと一緒に居るもん…」
「・・・シオン、、。」
第三者が聞いたら非道い、と言われそうだが、内心、、、『嬉しかった』。
僕と一緒に居る為なら奴隷のままでいい、なんて…。
そんなに慕われて嬉しくない訳がない。
要はシオンは、お金を返したら『奴隷じゃなくなる』からフェンの傍に居られなくなると思ったのだ。
逆に、奴隷としてならフェンの傍に居られる、と。
奴隷なら何処へだって連れて行かれるだろう…付いて行かなければなのだ。
「・・・もぅ、、シオンったら・・・。」
ミオンも、、、そしてフェンも思った。
シオンなりに健気に考えた結果なのだろう…だけど、だ。
自分から『奴隷でいい』なんて思って欲しくないし、間違っている。
「シオン、もうシオンは奴隷じゃなくなったんだよ。」
「…嫌!」
「聞いて、シオン。シオンが奴隷なのは僕、嫌なんだよ、、。」
「それに、シオン、、奴隷でなくても…僕は変わらないよ。」
「…変わらない?」
「そうだよ。どちらだったとしても僕はシオンのお兄ちゃんだからね。」
「お兄ちゃん…?」
「それともシオンは『奴隷』じゃなくなったら僕の事、お兄ちゃんって思ってくれないの?」
「・・・・・」
「シオンのお兄ちゃんじゃないなんて…僕、悲しいな…」
「お兄ちゃん…違うの…」
「…お兄ちゃん…違わない?…私のお兄ちゃん…」
「僕はずっとシオンのお兄ちゃんのつもりだよ?」
「お兄ちゃん…」
『フワッ』っとシオンが飛び込んで来る。
・・・うん。シオンだね。
抱き付いて来たシオンはいつも通りのシオンだ。
「うん。ずっとシオンは可愛い僕の妹だからね。」
「うん。ずっと…。」
…そう言えば、すっかり違和感無く、呼んでしまっているけど、、、
シオンは、いつまで『妹』でいるつもりなのだろう?
お母さんと再会してからも、直す様子は見えないし…。
当の本人も女の子が板に付いていて、自身も女の子だと思っている感じなのだ。
本人が戻ろうと思うまではこのままで行くしかないのかな?
内心、こんなに可愛いんだからシオンは変わらず『このままでいて欲しい』とも思わなくもない。
当然ながらそんな趣味は無い筈のフェンだが、抱き付いて甘えているシオンは…どう見ても美少女だ。
シオンがこうなった…こうならざるを得なかった理由を知っているだけにフェンには何も言えなかった。
そのシオンが『今のままがいい』と言うなら、それがきっと正解なのだろう。
シオンを解放する件は納得してくれたようだし、、次は・・・
どちらかと言えば、こちらが本題なのだが。
「シオン、僕達、イーストノエルの町に帰ろうと思ってるんだ。」
「うん。お姉ちゃんから聞いた…。」
取り乱す事もなく、受け入れた様なシオン。
…あれっ?本当にミオンが話して納得してくれているのかな?
「ミオンも僕と一緒に行くって話は聞いてる?」
「うん…聞いてる…。」
ミオンの話しになるとシオンの表情が曇る…やっぱり寂しいんだよね?
「シオンはお姉ちゃんが家に居なくても大丈夫?」
「…お姉ちゃん…。」
シオンの目が泳ぎ、ミオンを探す…。
ミオンと目が合うと、途端に止まった筈の涙がまた『ぽろぽろ』と溢れる。
ミオンは毅然とした表情で言葉にせずに『駄目よ。』と伝えている。
「…嫌!」
、、、だろうね…嫌だと思うのが普通だろう。
シオンにはお母さんが必要なのだ。…そして『お姉ちゃん』も。
「お姉ちゃんが居ないの…嫌!!」
予想通り…聞かなくても分かりきった事なのだ。
「シオン!!」
ミオンの厳しい声にシオンが押し黙る…けど、涙は流れ落ちるばかりだ。
「シオン、お母さんと一緒だから大丈夫って言ったじゃない!」
「でも、でも、、嫌っ!」
僕ですら分かる…そんなに簡単に納得出来る訳がないのだ。
ずっと二人で命懸けで暮らして来たのだから尚更だ。
「私はフェン様と一緒に行くんだから…私は…」
泣き出したシオンを前に、ミオンも気持ちが揺れているようだ。
・・・そうだよね、、やっぱりお姉ちゃんなんだよね?ミオンは。
弟思いのお姉ちゃんなんだから・・・。
「じゃあシオンは、お母さんと一緒に居るの?、それともフェン様と一緒に居るの?」
「・・・・」
「お母さんと居るって言ったよね?」
「…フェン様と一緒…」
「フェン様と一緒にいるの?…じゃあ母さんは?」
「・・・お母さん・・」
「どっちなの?シオン!」
「…分かんない、分かんないもん!・・・嫌!」
シオンも、もうどうすれば良いのか分からなくなっているんだね…。
「シオン!ちゃんと自分で決めなさい!!」
「嫌、嫌だもん、、嫌!・・・」
「ミオン、ちょっと待ってよ。」
『止めないで…』とミオンは目で訴える。
「シオンは、分からなくなっちゃったんだよね?」
『コクリ、コクリ』と泣きながら頷くシオン。
「フェン様、駄目です…ちゃんとシオンが決めないと、私、、私は…」
ミオンも辛いし、寂しいのだろう…その瞳からも『ぽろぽろ』と涙が溢れている。
・・・二人が悲しむ理由・・・原因は、、僕、、だよね・・・。
・・・決めた!
「もう、ミオンもシオンも、、、おいで。」
声を掛けると二人共、元々定位置だったかの様に左右に分かれフェンの胸にピッタリと収まる。
泣いている二人の頭を撫でてあげる…優しく、、優しく、、、
二人が十分に落ち着くのを待ってから…話す。
「いい?…二人共、良く聞いてね。」
抱き付きながら見上げる様に言葉を待つミオンとシオン。
「ミオン、シオン、、僕は何処に居ても二人の事、好きだからね。」
「…ミオン。」
「はい。」
ミオンは泣いた後の少し熱っぽい目でフェンを見つめる。
「何時もシオンや皆の事を考えて頑張ってる…ミオンの事、僕は好きだからね。」
「!!・・・はい。」
「ミオン…僕の事、信じられる?」
「はい。私、信じています…好き、、です。」
「うん。分かったよ。」
「・・・シオン。」
「・・・・。」
シオンはまだ半分泣いている目でフェンを見上げる。
「大丈夫。シオンの事も好きだからね。」
「…うん。」
「シオンはもう奴隷じゃないよね?」
「…うん。」
「…なら、自分で決めていいんだよ。」
「奴隷じゃなくたって誰かの為に…誰かに尽くしてもいいんだから。」
「誰に尽くすか、誰の物になるのか、自分で決めていいんだよ。」
「うん。」
「、、じゃあ、良く考えてごらん。・・・僕じゃ無くても、、」
「お兄ちゃんがいい!!」
「…シオン?、良く考えてね…シオンは男の娘なんだから。」
「お兄ちゃんがいい!」
…うーん。
可愛いシオンに好かれて悪い気はしないけど…。
やっぱりシオンには、ちゃんとした女の子を好きになってもらわないと、、
まあ、これから出合いが増えればシオンにも好きな娘が出来るかもだよね…。
「じゃあシオン…今は僕に尽くしてくれるの?」
「うん!お兄ちゃん。」
「ありがとう。嬉しいよ。」
「…お兄ちゃんの物…えへへ。」
二人共に僕の事を好きでいてくれて、尽くしてくれると言うんだね!
・・・なら、、、
「ミオン、シオン、二人には、ここでお母さんと一緒に暮らして貰うよ。」
・・・・
「・・・・えっっ!」
言われた事が、、理解出来ない・・・。
今、、フェン様は、、何て言ったの?
たった今、好きだと言ってくれ、好きだと伝えた筈なのに…
一緒に暮らしてくれるのではないの?
一緒に、、傍に居ていいって、、、言ってくれましたよね?
、、、なぜ??
シオンの事なら話しは分かる。
・・・シオンには、まだ母親が必要なのだ…私もそう思っている。
でも…私は?…何で私まで、、、
シオンは母と暮らし、私はフェン様と一緒に暮らすのですよね?
そうだ!、、聞き間違いだよね?…もう私ったら、、、
「…フェン様、今、なんて?、、、」
「ミオン、シオン、二人は連れて行かないよ。」
!!…聞き間違い…じゃない?!
「フェン様!!…なんで?…どうしてですか!」
私に『信じられる?』って聞きましたよね?
…そして『信じます』、、『フェン様を信じる』と誓ったばかりなのに…
なぜ、、フェン様は『信じられない』様な事を言うの?
「ミオン、シオン…僕の事、信じてくれるんだよね?」
「…ミオン?」
「信じます、信じています…でも、信じたくない!…です、、」
「…シオン?」
「なんで?…お兄ちゃん…」
「二人が僕を信じてくれて、好きだって言ってくれるのだから僕も二人を信じるよ。」
「それとも二人が僕を好きだって言ってくれたのは嘘なの?」
「そんな事ない!…そんな事ない、、好きです。」
「良かった。僕も好きだよ。」
「じゃあ…何で…?」
「今しか無いからだよ。」
「今しか無い?…って何が今しか無いと言うのですか?」
「ミオン、シオン、お母さんと一緒に暮らすんだよ。」
「時期が来て、まだ僕と一緒に居たいなら、、、」
「ずっと一緒に居ていいし、居てあげるよ。」
「でも…今は駄目。」
「何で?、、その時期っていつの事なんですか?」
「その時期、なんて僕にも分からないよ。」
「ただ『今』でない事だけは分かるよ。」
「そんな曖昧な、、、納得出来ません!!」
「ミオン…シオンが悲しんでも無理矢理、僕の所へ来るつもりなの?」
「…そ、それは…」
「言ったよね?…皆やシオンの事を考えて頑張ってるミオンの事が好きだ、って。」
「僕も一緒に居れたら嬉しいよ、、、でも、そんなのミオンじゃないよね?」
「ズルい!…フェン様はズルい、、です!」
フェン様こそ、自分の気持ちより、私達…私の事を優先しているではないか。
…いや、『している』のではなく『してくれている』のだ。
フェン様は、何時もそう。…私達にとって最良な選択をしてくれる、、勧めてくる。
それが『好きだから』なのかは分からないけど。
「ミオン、母さんと暮らして…僕にはもう多分、出来ない事なんだから…。」
・・・今しか無い、って、、、そういう事なの?
短い間だけどフェン様と一緒に暮らしたので分かる…家族が居ないのだ。
居るのは、猫人族のミヤお姉ちゃん一人だけだ。
・・・自分には出来ないけど、私達なら、、って?
そんなの…フェン様が可哀想ではないか。
フェン様の『今』はどうでもいいの?・・・良い訳がない。
フェン様の『今』だって、私とシオンで尽くしてあげれば、
幸せな筈だ…いや、幸せにしてみせる。
フェン様が家族と認めてくれた私達なんだから。
・・・だが、フェンは認めてはくれない・・・絶対に、だ。
その証拠が、今の状況なのだから。
でも、、そんな、、、
、、、、
ミオンから反論がないと察してシオンにも話す。
「シオン。シオンはお母さんとお姉ちゃんと一緒に居たいんだよね?」
「うん。」、頷くシオン。
「大丈夫だよ。お姉ちゃんも一緒にお母さんと住むんだからね。」
「うん。・・・でも、フェン様は…?」、、可愛く首を傾げる。
「ごめんね。僕は自分のお家に帰らないとなんだよ。」
「一緒がいい…。」
シオンの裏表のない素直な気持ちが嬉しい、、のだけど、、、
「シオン、大丈夫だよ?…何処に居ても僕はシオンのお兄ちゃんなんだから。」
「もう会えなくなる訳じゃないんだよ?」
「少し遠いけど、いつでも会えるんだからね。」
いつでも、と言うと少し大袈裟だが、会いたい気持ちが有れば会いに行けるのは確かだ。
「う、、ん。」
『いつでも会える』って言葉で安心したのかシオンも納得してくれる。
フェンとシオンの話を聞いていてミオンは思う。
、、、フェン様はもう決めてしまってるんだ…。
私達、二人を母と暮らさせる事を。
ミオン達が一時的な感情で何を言っても変わる訳が無いのだ。
…更に良い案でも有れば別だが、内容は二人にとって最良とフェン様が考えてくれた事なのだから。
・・・なら、、
せっかくフェン様が私達の為に決めてくれた事だ。
私達自身が幸せに思えなければフェン様の気持ちを裏切る事になる。
フェン様が考えを実行するまでの間、、、
イーストノエルに帰ってしまうまでの間も、出来るだけ幸せになるべきだ。…よね?
、、、甘えて、いいんだよね?
フェンの胸から這い上がり…お願いしてみる。
「フェン様、キス…して下さい。」
フェンは何も言わずに微笑むと片手でミオンを抱き寄せる。
「…んっ。」
、、フェン様、、好き。
、、フェン様も、、ね♪
・・・・
、、、あれっ??
ミオンとキスしてる・・・同じ筈なのに・・・?
なぜか前より、、気持ち良くない?、、何か落ち着かないのだ。
原因は…?…ミオンが頑張ってるから?
落ち着いて優しく静かに唇を合わせているだけで気持ち良く、幸せな気分になれるのに…
ミオンは僕にも気持ち良くなって貰おうと、色々と頑張ってくれているらしい、、
…のだが…
逆効果で、何だか忙しないキスになってしまっているのだ。
少し唇を離し、ミオンに囁く。
「ミオン、少しじっとしてごらん?」
素直に『ピタッ』と動きを止めるミオン。
まずは優しく抱き締める…。
そして、フェンから唇を重ねる。
『キュッ』としがみつきながら受け入れるミオン。
…うん。やっぱり、こっちの方が気持ちいいね♪
…でも実はミオンは、さっきみたいな方が気持ちいいのかな?
ミオンの様子を見ると…そんな心配は無用だったみたいだ。
『トロン』とした瞳で、うっとりしている。
優しい、、フェン様…気持ちいい…一緒に暮らしたら毎日好きな時に、、。
ミオンの頭の中がフェンとの幸せな暮らしの想像で一杯になる。
惚けながら、ふっ、と視線を横へ向けると…『じーっ』と私を見ているシオンと目が合う。
あ、…シオンが見てる…その前で私…フェン様とキスしちゃってる…でも。
シオンに見られているという恥ずかしさより、フェン様とのキスの方が今は大切で、、
、、、気持ち良いのだ。
自分に気付いた筈なのにフェン様とのキスに夢中のミオン。
忘れられたシオンが不満を漏らす。
「お姉ちゃん、ズルい…シオンも!」
シオンも胸から這い上がって言う。
すると、素直に、、だが名残惜しそうに唇を離すミオン…。
そしてシオンに促す、、
「ほら、シオン…。」
ニコニコしながら、ちょっぴり恥ずかしそうにキスしてくるシオン。
「…ん…んっ、ん」
シオンのキスは大胆だ…キスと言うより、顔を舐める延長の様なキスだった。
…正直、意識して男の娘と、、同性同士でキスしたのなんて初めてなんだけど。
シオンの見た目なら、もっと初々しい、お淑やかなキスが似合うと思うんだけどな?
・・・と、やけに冷静に分析したりして。。
そう言えば、幾ら相手はシオンだとは言っても、同性同士でキスなんて…
ミオンは見てて引いたりしないのかな?
ミオンの方へ目を向けると、、『ぽーっ』とした表情で羨ましそうに此方を見ている。
…少なくとも引いたり、嫌悪したりはしていない様子だ。
まあ、当然か。ミオンが促してシオンはキスしているのだから。
しばらく『ペロペロ』と僕とのキスを味わったシオンは満足したのか唇を離す。
そして、、
「お姉ちゃん、、、。」
・・・えっ?、また?
「フェン様・・・キス・・・。」
「ミオン?どうしちゃったの?」
ミオンは『トロン』とした熱っぽい、潤んだ目をフェンに向ける。
「フェン、、様、、、」
『フワッ』っと香る甘い香り…何処かで嗅いだ覚えが有る様な…。
・・・そうだ!あの時の。
抱き付かれた時に、体験した…甘く、もっと味わいたくなる様な香り。
ミオン…の『お母さん』からした香りだ。
ミオンはフェンに垂れ掛かる…
…と、いうか、抱き付いた拍子に垂れ掛かるどころかフェンをベッドに押し倒す様な形になる。
「フェン様…私の物…フェン様…」
「ミ、ミオン?、しっかりしてよ!、ミオン…。」
離れようとするが、ミオンとは思えない様な力で、、というか力が入らない?
…その時、部屋のドアが開く。
『ガチャ』・・・えっ!?
部屋の中の状況に固まる。…お母さんが帰って来たのだ、、帰って来てくれたのだ。
「お母さん!、ミオンが、、ミオンの様子がおかしいんです!」
ミオンとフェンの様子を見て・・・
「…お邪魔だったわね♪」
また部屋を出て行こうとする。
「待って下さい!ミオンを止めて下さい。」
「えーっ、せっかくミオンがその気になってるのに…」
「その気って何ですか、その気って!」
「その気は、その気よ?…野暮ね、フェン君てば。」
「とにかく止めて下さい!」
「そんなのフェン君がミオンが満足する位のキスでもしてあげれば止まるでしょ?」
…キス?、さっきもキスしてたんだけど?
フェンは仰向けのまま、覆い被さっているミオンを強く抱き締める。
そしてキスする・・・強く抱き締めながら、、。
初めはミオンもフェンに強く抱き付いていたが、キスを続ける内に『ふっ』っと力が抜ける。
「…ミオン?」
「・・・うっぅーん」
全身の力が抜けちゃってるみたいに、ぐったりしている…。
「ミオン?」
「フェン…様…私…!!」
急に顔を赤らめるミオン。
「どうしたの、ミオン、急に?」
「この子ったら夢中になっちゃったのね…。」
「…夢中にって?」
「人間の言葉で言うなら…『発情』しちゃったのよ。」
「えっ?、、発情?、なんて…そんな、、。」
フェンも自分の顔が赤くなるのが分かる。
「もう、二人共にウブなんだから…恥ずかしい事じゃないわよ?」
「だってそんな…ミオンが発情だなんて、、」
フェンが『発情』という言葉を発する度にミオンは『ビクリ』と体を震わせている。
「私もミオンにはまだ早いと思うけど…初めてよ、多分。」
「興奮しちゃって、分からなくなっちゃうなんて…フェン君はよほど上手なのね♪」
「フェン君、ミオンを初めて発情させた責任、、取ってくれるのよね?」
「そんな…責任って、まだ僕達はそんな関係になってませんよ。」
「なる、ならない、は関係ないわ。」
「フェン君はミオンが『発情』する程に夢中にさせたんだから。」
「もし私が帰って来なかったら、きっとミオンと最後まで…」
「わーっ!!、言わないで下さい。」
「それにミオンに変な事、教えないで下さい。」
「えーっ?、普通の事よ?」
「それともフェン君はミオンの事、嫌いなの?」
思わずミオンの方を見てしまうフェン。
ミオンは『うるうる』した目でフェンの答えを待っていた…。
・・・そんな瞳で見られたら、、、。
「あーっもう、お母さん!」
「なーに?」
「ミオンを僕に下さい!!」
「いいわよ。オッケー。」
…軽すぎだ。シオンが居るとは言ってもミオンは一人娘だよね?
それを、そんな・・・。
実の所、フェンから話が有ったら二つ返事で認めようと『待っていた』のだ。
獣王との戦いの中、自分も死ぬかもしれないのに、朦朧とした意識の中で、
ミオンと見間違えたとは言え、獣王様の前に私を庇って立ちはだかってくれたのだ。
正に、自分の命よりミオンの方が大切だと体現してくれたのだ、フェンは。
そんな相手に求められて断る理由など、どこにもない。
命懸けで娘を大切にしてくれるだろう。
「ミオン、良かったわね♪…大好きなフェン様が貰ってくれるって♪」
あ、ミオン…。
恐る恐るミオンの方を見ると…顔をクシャクシャにして泣いている。
「フェン様・・・嬉しい、、、。」
こんなにミオンが喜んでくれてるのに…違うのだ。
今日来たのは、ミオンとシオンの事で挨拶に来たのはその通りだが、
『連れて行かない事』を話しに来たのだ。
「お母さん、貰いはします、、が、ミオンの事は連れて行きません!!」
…喜んでいた空気が『ピキッ』と音を立てて止まったかの様だった。
「フェン君はうちのミオンに何か不満でも有るの?」
「不満なんて…一緒に居られたら嬉しいです。」
「なら、何で連れて行けないの?、、理由、有るのよね?」
…理由?…シオンが悲しむし、ミオン達をお母さんと暮らさせてあげたいだけだ…。
…でも…。
お母さんに伝えたら、こんな理由なんて認めてくれないだろう。
私なんて関係無い、是が非でもミオンを連れて行けと言われるに違いない…。
…フェンは答えない…。
「フェン君、答えて!」 容赦無く母からの質問が飛ぶ。
「母さん、止めて。フェン様を責めないで!」
ミオンが声を上げる。
「違うの、母さん。フェン様は私達の事を思って言ってくれたの…。」
「ただ、今じゃないだけ。フェン様はちゃんと迎えに来てくれます…。」
「そうですよね?…フェン様…。」
「うん。ミオン、約束。ちゃんと迎えに来るよ!」
「はい、フェン様。」
「私…待ってます。」
「…熱いわー。火傷しそうだわ。」
「ミオン…それで本当にいいのね?」
「うん。私…フェン様を信じてるんだから。」
「いいわ。ミオンがそう決めたのなら…。その気持ち、貫いてみなさい。」
・・・ミオン、ありがとう、、、僕、約束、、守るからね・・・。
「フェン様、いつ頃、迎えに来てくれるのかなー?」
「シオン、今帰ったばかりで来る訳ないでしょ?」
「でも、フェン様、何時かは分からないって言ってたよ?」
「今は、、今だけは来なくていいのよ、、。」
「えーっ!今すぐがいいなー。何で『来なくていい』なんて、、?」
「今は、、駄目なのよ!!」
「えーっ!、、、お姉ちゃん、、もしかして、、発情、、?」
「シオン!、、、それ以上言ったら、お姉ちゃん、、切れるわよ?」
「私ハ、、何モ、、知リマセン、、カタカタカタ、、、」




