お礼ですか?勇者さま。
ミヤの治療は何の問題も無く終わったそうだ。
獣王の治める街に戻って治療前にも再度『治療の必要も無い程度の傷だ』と
獣王さんから説明されたが、それでも心配で治療が終わるまで部屋の前でウロウロしていた。
散々、廊下を行き来する人達に『邪魔』と言われたが離れたくなかった。
・・・で、『だから大丈夫と言いましたよね?』という皮肉を言われて
治療は無事に終わった。
すぐに会いたかったが、治療が終わったばかりで眠っているとの事で諦める。
既にフェン自身の用事、クロスシティーの店から助け出した獣人の
無事の確認も済んでいる。
獣王がその名において『全員無事だ』と保証してくれたのだ。
後はミヤが元気になってくれれば良いのだが、、。
フェンは自分の為に用意された部屋に戻る。
部屋の扉を開けると、、、ミオンが居た。
薄暗い部屋の中でこちらを見つめて立っている。
「ミオン、ただいま。あ、ミヤは無事だから心配しなくていいからね。」
「・・・・・。」
話し掛けるが何も言わないでこちらを見つめている。
「・・ミオン?、どう、、」
言い掛けた所でミオンが近付いて来て、そのまま抱き付いた。
『フワッ』と甘く穏やかないい香りがする、、。
「あれっ? ミオン、いい匂いがするね?、、」
今までになく魅力的な匂いに、もう少し味わいたかったので、
抱き付いているミオンをフェンも抱き締めてみる。
、、、『ムニュ』・・・!?
フェンが抱き締めると胸が押し付けられた…。
…あれっ?ミオンってこんなに胸有ったっけ?
、、と、思っていると、
「、、、くぅ、、ぅん」
今までミオンからは聞いた事のない甘えた声だった。
抱き締めたミオンの顔が、なぜか何時もより近い気がする。
、、いつもと同じに抱き締めているのに顔が近い、、ミオン、背が伸びた??
潤んだ瞳に、唇も艶々して色っぽく見える…。
、、、どうしちゃったんだろう?
、、今日はやけにミオンが『可愛い』と言うより『魅力的』に見える。
「、、、くぅ、、ぅん」
ミオンが甘えた声で鳴く度に『ドキッ』とする。
・・・なんでこんなにドキドキするんだろう?
ミオンも更に抱き締めて来る。
「ミ、ミオン?…どうしたの? 怖かったの?」
話題を変えようとするが、全然聞いてくれない、、
、、、どころか、更に擦り寄って来る。
顔が近付き、もう少しで唇が触れそうな所まで来る。
少し早くなったお互いの呼吸が分かる程に、、。
フェンは自分の中に生まれた気持ちと葛藤する…。
「・・・待って、ミオン。今日はどうしちゃったの?」
あと少し抱き寄せれば唇が触れる所だったがフェンがミオンを引き離す。
「や、やけに、、今日は色っぽく、、見えるんだけど?」
ドキドキしながらフェンは言う。
引き離したとは言え、まだ近いのだ。
すると、もう一度ミオンが抱き付いて来ようとする、、、
『ガチャ』、部屋の扉が開かれた。
視線を向けると、そこに居たのは、、
「・・・ミオン??」
扉を開けて入って来たのはミオンだった。
、、、って、じゃあ目の前に居る『このミオン』は?
目の前で抱き合っているフェンと女を見てミオンが叫ぶ。
「!!、、、何やってるのよ!、、、母さん!!!」
「、、母、、さん??」
・・・母さん?、、ミオンの?ということはシオンも、二人のお母さんなの?
「何を、って二人の恩人、、ご主人様にお礼をしなきゃよね?ミオン。」
「もぅ! 勝手な事しないで!!」
「まだ母さんは『そんな事』してないわよ…まだ、ね。」
「まだ…でも止めて! 『そんな事』も、、駄目よ!」
「ルミオンの言う『そんな事』ってどんな事? 母さんに説明してよ?」
「、、それは、、、。」
「説明出来ないんじゃ、駄目よ。 母親としてご主人様にお礼しなくちゃね♪」
「駄目ったら駄目!!!」
ミオンは泣きそうな勢いで言う。
「ふぅーん。そうなんだ…ミオンが、、ねー。」
ミオンの顔とフェンの顔を見比べて何度か頷いた。
「じゃあ、ちゃんとミオンが『お礼』するのね?」
「…えっ!…それは…。」
「ミオンがしないなら、、母さんがしなきゃよね?」
「それは、、、」
「じゃあ、母さんが、、、」
「私が!・・・する!」
『 ニコッ 』と笑うお母さん。
・・・完全にお母さんに乗せられてるよね?、ミオン・・・。
「じゃあ、私は行くから後は宜しくね。」
「…ミオン、若いっていいわね♪ 頑張って!」
「もぅ!母さん止めてよ!」
試されていただけなら危なかった。
・・・もう少しで誘惑に負けて唇を重ねそうになっていたのだから。
それに、あの甘い匂い、あの押し付けられた柔らかい胸。。。
、、、経験の無いフェンを惑わせるには十分だった。
あのまま唇を重ねていたら、、もう抑えられなかったかも。。。
「ごめんなさい、ご主人様。私の母が、、。」
「いいんだよ、ミオン。あ、ミヤは無事だから安心してね。」
「お母さんがミオンにそっくりで驚いちゃったけどね。」
「それに…さすがミオンのお母さんだよね? 綺麗だし、魅力的な…」
「ご主人様!!」
ミオンが『プンプン』している・・・ヤキモチなのかな?
「ミオンも負けないくらい可愛いから大丈夫だよ。」
「…ご主人様…。」
「・・・に、しても何でミオンのお母さんはここに居たの?」
ミオンは母から聞いた事を話してくれた。
ミオンとシオンの母も一度は獣人狩りの男達に連れ去られた。
直後に買いたいという人間が現れ、売られた。
…もう駄目だと思ったのだが、その直後に獣王軍に助けられたのだそう。
その後は獣王様の元で働いているのだそうだ。
ミオンとシオンを捜そうにも外部へ行けるのは粛清に向かう戦士だけ、、、
粛清先に二人が居て助け出されるのを祈るしかなかった。
、、、そして今日、思いもよらず出会えたのだ。
「ご主人様、、改めて、ありがとうございます。」
「特にシオンが凄く喜んで、、私も嬉しいです。」
・・・『シオンが喜んだ』のが嬉しいの?
、、違うよね?『ミオン自身が』お母さんに会えて嬉しいんだよね?
…どうもミオンは素直に自身の気持ちを伝えるのが上手くいかないみたいだった。
と、思っているとミオンが真剣な表情で僕を見つめてくる。
「…ミオン?」
、、、このパターンはさっきのお母さんと一緒なのでは・・・。
「ご、ご主人様、、お礼、、私がお礼を、、、」
案の定だった。
まさか、お母さんみたいな、、その、、何をするつもりなの?
さっきの事で、まだドキドキが治まらないのに、今、迫られたら、、、
「ミオン、せっかく久し振りにお母さんと会えたんだよ?」
「いいから、お母さんとシオンと一緒に居なよ。」
「もう少ししたら、丁度お夕飯の時間だし食べておいでよ。」
フェンが言うと、ミオンは嬉しい様な、少し淋しいような表情を浮かべる。
小さい頃から両親が家に居なかったフェンは『親子での食事』は憧れで、
とても大切な事だと思っている。
「いいから、お帰りよ。」
もう一度言うとミオンは母親とシオンの待つ部屋へ戻って行った。
フェンは買ってあった携帯食料の残りで食事を済ませた…。
、、、今頃、三人で楽しく食事してるのかな?
自身は一人で寂しい食事だったが、ミオンとシオンが嬉しく、楽しそうに
食事をしている姿を頭に思い浮かべるだけでフェンは幸せな気分になった。
幸せな気分に、つい、、ウトウトしてしまい、いつの間にか眠ってしまっていた。
『コンコン、、』扉をノックする音で目が覚める。
…どれくらい眠っちゃったのかな?、、それに、、誰かな?
考えると、一番可能性が高いのはシオンかな?…今日一緒に寝る番だし。
仕方ない。ミオンと同じく、お母さんと一緒に居る様に…どう話そうかな?
「はい。、、、誰ですか?」、、まずは聞いてみた。
案外、シオンではない第三者、、獣王軍の使いの人かもしれないしね。
・・・声はどちらでもなかった。
「ご主人様…私です、ミオンです。」
ミオン…? 『今日はお母さんと一緒に』って帰したはずなのになぜ…?
「ご主人様、、私、、、、」
「ミオン、どうして来たの? お母さんとシオンの所へ戻らなかったの?」
「いいえ。ちゃんと戻って母さんとシオンと夕ご飯食べて来ました。」
・・・ミオンは答える。
、、、じゃあ何で戻って来ちゃったの? 一緒に居たら良いのに、、、。
あれからミオンは母の部屋へ戻った。
「ただいま。」
「お帰り、ルミオン。今、夕ご飯作ってるからルシオンと待っててね。」
「うん。分かったわ、母さん。」
調理場の隣の部屋でシオンは待っていた。
「ただいま、ルシオン。」
「おかえりなさい、お姉ちゃん。」
「あ、ミヤお姉ちゃんは大丈夫だから安心して良いよ。」
「うん。」、、ニコニコと喜ぶシオン。
、、、シオンの穏やかな屈託の無い笑顔、、、。
母さんが傍に居て、心から安心しきっているのだろう。
『 良かった 』 、、ミオンは心底思う。
幾らミオンが傍に居ても『 母 』にはなれないし、敵わない。
シオンには『 母 』 がまだ必要なのだ。
今のシオンの穏やかな表情を見れば、、解かる。
、、シオンを母さんと一緒に暮らさせるには、、、?
「ミオン、食事を運ぶの手伝ってちょうだい。」
「はーい。シオンは待っててね。」
楽しく、暖かな食事だった。
父は居ないが、母とシオンが居る。
母に甘えるシオン、、、好き嫌いを注意する母、、、。
まるで『 時間が戻った 』 様な気にさえなった。
ひょっこり父さんさえも扉を開けて帰って来てくれるのでは?、、と。
、、、絵空事だ、、。
あの日から、変えられない出来事、経験、、、全て『 事実 』 なのだ。
ミオンとシオン、、、二人にも変えられない『事実』は有る。
ご主人様は『 違う 』と言ってくれるが、事実は一つだ。
ミオンとシオン、、、二人はご主人様、フェン様の『 奴隷 』なのだ。
ご主人様は『 対価 』を払って私達を『 買った 』のだ。
幾ら、ご主人様が否定しようが私達二人はフェン様の物なのだ。
「ミオン、食事中に 『 ぼーっ 』 っとしちゃ駄目よ?」
「ごめんなさい、母さん、、。」
、、何気ない注意でも『 幸せ 』を感じる。
こんな生活をいつまでも続けられたら良いのに、、、
だが、考えているだけ、、望んでいるだけ、では事実は変わらない。
、、、ミオンは一つの決心をする。
『シオンだけでも母さんと一緒に暮らせるようにする!!』
ご主人様、フェン様は、どうやら『 私 』を気に入ってくれている。
、、私が、誠心誠意尽くせばシオンは必要無くなるのでは?
、、幾らで私とシオンが買われたかは知らないがその『値段以上』に
尽くせる自信が有る、、満足させてみせる。
今までのご主人様の振る舞いや言動を見る限り、お願いすれば
『 駄目 』 とは言わないだろう。
食事後、シオンは嬉しくてはしゃぎ過ぎたのか、ウトウトし始める。
「シオン、おいで。こっちでおやすみなさい。」
、、、母が言うと、フラフラしながらも素直にベッドに潜り込む。
「おやすみ、、、シオン。」
一人で眠るのが苦手なシオンのはずが、横になるとすぐさま、
『スースー』と寝息を立て始める。
「・・・・で、ミオン? 何か話しでもあるの?」
、、、母さんは、何でもお見通しなんだな、、、。
「母さん、、あのね、私とシオン、、それとご主人様の関係の事、、、」
母さんは私の話を聞き、、驚いていた。
実際にフェン様を見た印象から、母さんは勝手に決め付けていたのだ。
純粋に『二人が襲われていた所を助けてくれた命の恩人』なのだと。
、、、だから二人は『ご主人様』と呼び、恩を返しているのだと。
だが、ミオンの話しが事実なら根本から認識が間違っている事になる。
二人は『 買われた奴隷 』 として『尽くさせられている』だけだ。
そうは見えないが、あのフェンという男も『獣人を売買の対象として扱う』
忌むべき人間の一人でしかなかった、という事なのだ。
話しを聞く母さんの顔に『人間に対する怒り』が浮かぶ。
それを見たミオンはすぐさま否定する。
「違うの、母さん。、、、フェン様は違うの、、。」
「私とシオン、、私達を救ってくれたの。」
「、、、ただ、その助ける手段が『 お金 』だっただけの話しなの。」
「その証拠に、私とシオン、助けられてから、、『 幸せ 』なのよ?」
、、、優しい笑顔で話すミオン。
「・・・・・。」
、、、子供に『今、幸せなの。』と言われて否定出来る訳がない。
「ミオン、、もう一度、聞かせて。 今、幸せなのね?」
「うん。幸せだよ!」
「それなら母さんは、何も言わないわ。」
「相手がたとえ人間でもミオンに『幸せ』を与えてくれるなら、、」
「・・・それで母さんに話したい事があるの、、、。」
「なに? ミオン。」
「フェン様はとても優しいご主人様なの。」
「でも、どんなに良いご主人様だろうと私達が買われた事は変わらない、、。」
「だから、、、、」
「、、だから私はご主人様と一緒に居ようと思うの、、、シオンの分も、、。」
「本当は今日はシオンが当番の日だけど私が行くわ、、。」
「そして、、フェン様にお願いしてみるつもり、、。」
「シオンの開放を。、、、その分、私が尽くすから、と。」
「だから母さん、シオンの事、お願い、、。」
「、、、そんな、、ミオン、、それじゃあ、あなたが、、、」
「大丈夫。フェン様は優しいし、私の事を気に入ってくれてるんだから♪」
、、、母の心配はそこではなかった。
、、、ミオン、、、ミオン自身はご主人様をどう思っているの?
『気に入ってる』のはご主人様で、、ミオンは?
シオンの幸せは大事だ。
、、だからと言ってミオンが犠牲になる必要は無いのだから。
「ミオン、あなたは、、、」
「大丈夫!!、、じゃあ、行ってきます!」
母の心配を他所に、ミオンはフェンの部屋へ向かった。
「ミオン、大人の魅力でフェン様攻略よ!」
「はい、母さん!」
「まずは距離を縮めるの。、、えいっ!ってね。」
「どうしたのミオン?急に抱きついてきて?」
「次は自身の内から出る香り、、フェロモンで!」
「ミオン、、いい匂いがするね?」
「さあ、後は一気にきめちゃいなさい!」
「はい。母さん、、フェン様、、、」
「ミオン、今日の夕飯は『お魚』だったのかな?」
「香ばしい、魚のいい匂いがするよ(笑)」
「!!・・・母さんの嘘つきーーーー(泣)」




