救出ですか?勇者さま。
「ごめんなさい…お姉ちゃん…みんな食べちゃって…」
「お姉ちゃんと分けなきゃなのに…」
ぽろぽろと涙を流すシオン。
・・・!!
嫌な予感がした。
ミヤも察したのかフェンと一緒に大急ぎで食事を終わらせた。
部屋に戻っても泣き止まないシオンに聞いた。
「シオン、何で謝るの?」
「何で泣くの?」
「お姉ちゃんって誰の事なの?」
「…お姉ちゃん…ルミオンお姉ちゃん、、助けて、、、」
「シオンにはお姉ちゃんが居るの?… ルミオンちゃん?」
「ミオンお姉ちゃん…」
「ミオンお姉ちゃんて呼んでるんだね。お姉ちゃんはどこに居るの?」
嫌な予想…見当はついているけど『予想が外れて欲しい』との希望から聞く。
予想は外れてくれない。
シオンの姉さんが昨日の店に居るのだ。
『どうして言わなかったの?』とシオンを責められる訳がなかった。
昨日まではシオン自身が死にかけていたのだから…。
…知ったからには放って置けない。
「シオン。シオンのお姉ちゃんはどんな人かな?」
昨日、店内で会った獣人の中に居たのかもしれないのに…後悔が過る。
昨日は、いきなりの事で混乱はしていたけど、ちゃんと向き合ってさえいれば、
女性達の中にシオンのお姉さんが居たのか分かったかもしれないのに…。
「お姉ちゃん…小さい…」
・・・小さい?
「お姉ちゃんなのにシオンよりも小さいの?」
シオンは『コクっ』と頷く。
…昨日、店の男が連れて出て来た女性達は皆、シオンよりは大きかった。
フェンの前に連れて来られなかった女性が他にも居るのか?
・・・!!
店の男の勘違いを思い出す。
店の男はフェンの希望は、『妊娠させる事の出来る獣人だ』と勘違いしていた。
…なら、シオンより小さい女の子じゃ希望に当てはまらないから
連れて来られなかったのでは?
・・・!!
もう一つ思い出した。
店の男を待っている間に、部屋の中で『小さな獣人』を見た。
…フェンが気付くとすぐに隠れてしまったけど。
「お姉ちゃん…お腹すいてるのに…ごめんなさい、、。」
シオンは泣き止まず涙をぽろぽろ流している。
神官様に言われた。
『残念ながら助けるだけで放置する人が居る』と。
ミヤに言われた。
『助けるなら覚悟が必要だと。』
・・・
・・・・でも『助ける。』
フェン自身が助けたいのだ。
ここには居ないお姉ちゃんに謝り泣くばかりのシオン…。
本当は『助けて』と言いたいはずだろう。
あの店では自分の希望など言えば、酷い仕打ちが待っていたのだろう。
自分の気持ちを伝える事が恐ろしくなっているのだ。
フェンは聞く。
「シオンはお姉ちゃんと一緒に居たい?」
シオンはどう答えたら良いのか判らずフェンの目を見つめるばかりだ。
ご主人様への『お願い』なんてした事も、考える事さえ否定されて来たのだろう。
フェンは自分の気持ちを『わざと』ねじ曲げてシオンに伝える。
「僕はお金持ちだからね。」
「もう一人、獣人の子を買おうと思ってるんだ♪」
「どんな子がいいかな?」
「シオンも一緒に暮らすんだから…『誰』がいい?」
ここまで言って初めてシオンも勇気を出して言葉を紡ぐ。
「お姉ちゃん…がいい。」
「お姉ちゃんを助けて…。」
「お願いします…ご主人様。」
「うん。シオンのお姉ちゃんなら可愛いよね?」
「じゃあ、シオンのお姉ちゃん買っちゃおう。」
「明日買いに行こうね。」
言葉を紡ぐ度に心が突き刺されるようだった。
・・・・僕って最低な人間だ、、、。
翌朝、朝食を済ませ出掛ける準備をする。
…が、シオンの顔色が悪い。
これから最悪な思い出しかない場所へ行こうというのだ。
恐がらない方がおかしい。
お姉ちゃん、ルミオンの顔を知っているのはシオンだけなんだけどな…。
「フェンさま、無理させなくても大丈夫にゃ。」
「ミヤが判るにゃ。」
「えっ?ミヤ、シオンのお姉さんの顔知ってるの?」
「はいにゃ。あの時、ミヤも居て、見てたにゃ。」
「部屋でフェンさまを見て隠れちゃった獣人がシオンのお姉ちゃんにゃ。」
「…あの子からシオンと同じ匂いもしたし、シオンに似てたにゃ。」
…あの薄暗い中で見えたんだ…猫人族の目って羨ましいな。
「じゃあミヤが一緒に行けばシオンは来なくても大丈夫だね。」
「シオン、お姉ちゃんを連れて来るから待ってられるね?」
「・・・・・」
すぐに返事がしたいのに出来ない、そんな風に見えた。
どうしても『置いて行かれて捨てられるかも…』と思ってしまうらしいのだ。
「大丈夫。ちゃんとお姉ちゃんを連れて帰って来るからね。いいね?」
いつまでも、このまま行かない訳にも行かないし…『命令』する。
「待て、シオン!」
ちょこんと座ってじっとしている。…ミヤから言われた通りだった。
『シオン達の種族には『お願い』よりも『命令』してあげた方がいいにゃ。』
『当人達も安心して従えるんだにゃ…』
…シオンは獣人種の中の『犬人族』なのだ。
…なのだ、と言いつつ猫人族と犬人族の明確な見分けがつかないフェンだった。
宿屋を出て昨日の店に向かう。
路地へ入り裏道へ…。
店に着く。『昨日の様な音』はしていない、、、、よね?
聞き逃していないかと心配になり聞き耳を立てるが、やはり音はしていない。
ひとまず『ホッ』として店内へ入る。
・・・これからが本番だ。
薄暗い店内から野太い声が掛かる。
「いらっしゃい」…やはり心臓に良くない声だ。
フェン達を見ると驚いた様に言う…「昨日の…」
昨日とは違い『この店』に目的が有るフェンは、こちらから
『計画通り』に告げる。
「昨日の獣人、気に入ったんだけど死んじゃってね。」
「違う獣人が欲しいんだ…『元気な』獣人をね。」
「見繕ってくれ。」
昨日とは打って変わって積極的に獣人を買おうとするフェン。
昨日との変化を怪訝に思いつつも『お客様』だ。
「はい、少々お待ちを…」
行こうとする男に追加で告げる。
「話によると、昨日の獣人の姉が居るらしいじゃないか?」
「『それ』にしてくれないか…名前は確か…ルミオン。」
名前を聞くと店の男は『ビクッ』と右腕を押さえつつ、動きを止める。
・・・なに? 何かあったのか?
ここまでは自然な流れで話を持って行けているはず。
「兄さん、あれは止めた方が良いですぜ。」
…客が指命して買うと言っているのに止めるなんて、、??
…吹っ掛けて儲けるチャンスのはずだ…それを止めるなんて。
「いや、昨日の娘の姉にしてくれ。」
これだけ言い切れば駄目とは言わないだろう。
・・・売り渋るなんて、店の男のお気に入りだったりして、、。
・・・だが、予想が外れる。
・・・最悪な形で。
「別に売りたくない訳じゃないんですがね、、」
「ご希望の『元気な』の部分で、あの獣人では希望に添えないんで。」
・・・??
店の男は腕を擦りながら言う。
「あの獣人、弟が売られたと知って俺を刺したんですよ…だから…。」
…『だから』、、、どうしたと?
「…だから罰を与えてやったんで。」
チラッっと部屋の隅に目をやる男…。
フェンも釣られて見る。
・・・!!!
違う。部屋の隅に置いてあるのは荷物じゃなかった。
、、、薄暗い部屋の隅に小さな獣人が横たわっているのだ。
「「 殺したのか!! 」」
「まさか、殺してしまっては稼ぎにならないじゃないですか。」
「こんな『物』でも売れるんですよ…昨日のようにね」
当然、フェンの事を指して言っているのだ。
「「 お前ら!! 」」
ドス黒い怒り…殺意だ。
フェンは初めて人間に対して殺意を感じた、、いや、実行する為に剣を抜いた。
「おっお客様っっ。」
・・・『ふざけるな!、、何がお客様だ!!』言葉にせず噛み締める。
「、、お前を、、、殺す。」
その時、店のガラスが割れ人影が乱入した。
「おんやー、どういう状況??、、強盗さんかなー?」
そのシーンには余りにもそぐわない拍子抜けした口調だった。
、、、が、コロッと口調が変わる。
「我々は獣王軍。粛清に来た!」
「店内にいる人間は皆殺しにしろ!掛かれ。」
女が言うと、複数の影が店内に散って行く。
「天誅ってやつさ。獣人を苦しめやがって。悔いて…死ね!!」
瞬間、何かが飛んだ。
「うっっ」…店の男が倒れた。胸にはナイフが突き立っている、、投擲だ。
「良く受けれたねー。」
フェンが剣で投げナイフを弾いたのを見たのにも関わらず、あくまで軽い口調だ。
でも内心、感謝もした。
この女が殺らなかったら今頃フェンが殺していただろうから…。
それが『表情』に出る。
「余裕だねー。でも死んで貰うよ!!」
今度は剣を抜いて飛び掛かって来る。剣で斬ると言うより体全体での攻撃だ。
剣で受けるが弾かれそうになる。女の人の力では考えられない程の剣圧だ。
「どうしたー?受けてばっかりか?」
受けながらフェンは少しずつ移動する…あの子、ルミオンの元へ。
後ろに居たミヤが先に着いて見ている様だけど声が無い。
『ミヤ、どうなの?何とか言ってよ!!』
剣撃を防ぎつつ、ようやくルミオンの所まで辿り着く。
「ミヤ!どうなの?早く、、。」
「まだ生きてるにゃ…でも危ないにゃ。」
・・・・生きてる。、、、、それだけで良かった。
「大人しく死にな!!」
「煩い!!」
瞬間、女の剣が弾き飛ばされる。
『油断した!!!』
『殺られる』…女は覚悟した。返す刀で斬られるだろう…と。
…でも『返す刀』は降って来なかった。
見れば自分の剣を弾き飛ばした男は、自分など眼中に無く、
獣人の女の子を抱き上げ、どうしよう?どうしよう?と右往左往している。
「はっ?、、何をやってるんだか。」
「早く治療を、、治療を、、」
先程まで自分の剣撃を受けていた男とは思えない。
「貸しな!」
女がルミオンに手を伸ばす。
『バッ』、、、フェンは飛び退いて避ける。
店の男もそうだがフェンも殺そうとした相手にルミオンは渡せない。
「いいのかなー。その子、死んじゃうかもよ?」
、、だって、、こんな危険な、、、相手、、、に渡す?
フェン自身も迷っていた。
この女は『獣人を苦しめた人間を粛清に来た』と言っていた。
『この店にいる『人間』を殺せ』と。
少なくとも『獣人』には危害を加える気配は無い。
「別に取って食おうと言うんじゃない、、治療してやるってんだ。」
シオンより小さい身体。でもシオンと同じ鼓動だ。
『この鼓動を護らなきゃ』
「この子を治して下さい。お願いします。」
「お願いしますにゃ」、、ミヤも続く。
女にルミオンを手渡すと平伏して頼む。
『今なら易々とこいつらを殺せるよー』、、、、
「、、、とは思わなかったのかなー?」
・・・・・。
「治療隊!!」
女が呼ぶとすぐに治療が行なえる神官らしい者が来て治療を始める。
「ありがとうございます。」
「ただし、、タダで治療して貰えるとは思ってないよな?」
「はい。対価は払います。」
「いい心掛けだ。、、じゃあ対価は、、、」
『どうせこの館に居る人間は皆殺しの作戦だ。』
『この男は善悪が不明で自分の手で殺すと後味が悪い。』
なら、、、、
「命を助けるんだ、対価は人間、、お前の『命』だ。」
、、、法外な対価だ。誰が考えても分かる。
神殿で治療や回復を依頼しても『命』まで取ろうなんて事は無い。
女はフェンに自害しろと言うのだ。
『ゾワッ』、、、ミヤから殺気が放たれる。
急激な変化だった。
平伏したままのミヤの背後に陽炎の様に殺意が起こる。
、、、だがフェンは受け入れる。
「仕方ないよね。シオンと約束しちゃったし。」
「ミヤ、シオンとルミオンの事、お願いね。」
「ずっと一緒に居るって言ったのに約束守れなくて、、ごめんね、ミヤ。」
聞いたミヤの殺意に憎悪が加わりドス黒いオーラとなる。
誰が見ても予想出来た。『殺される』、女は実感し予感する。
『今日、あの装備さえ着けていれば・・・』何て言っても始まらない。
、、この男が死ねば、この場に居る全員死ぬだろう。
、、、いや、いざとなったら治療中の娘など関係無く先に皆殺しかも。
・・・・・。
、、、そもそも何?、この人間、いい奴っぽいんですけど、、。
、、、しかもこの流れ、どう見ても私が悪者みたいじゃない
「あー、もー、分かったわよ! 命なんて要らないから。」
、、、私もまだ死にたくないし、、、。
「ただし、私の言う事、何でも一つ聞いて貰うわよ?」
「はい。」 フェンに断る理由は無かった。
ルミオンの治療の間にも女はテキパキと指示を出す。
「店に捕らわれていた獣人は全て連れて行く。」
「金目の物は全て奪え、獣人が稼いだ金は獣人自身の金だ。」
「書置きを忘れるな。これは獣王軍の粛清である。」
店に捕らわれた獣人達も全て連れ出され、一段落した頃、
指揮を執る女が話し掛けてくる。
「なんでその獣人の娘がそんなに大事なのさ?」
「約束したんだ。シオンと、、。」
聞けば二日前に会ったばかりの獣人の子との約束だと言う。
家族でも恋人でもない、、、言わば赤の他人だ。
「なんでそんな約束守ってるのさ?逃げちゃえばいいのに。」
「逃げないし、約束も守る。」、、フェンは言い切る。
『ああ、こういうタイプの人間なのね。。。』、、女も納得する。
「それで、この子と、そのシオン?はどうす、、、」
『バタンッッ』
激しく入り口のドアが開く、と言うか蹴破ったのか?
第三者が割って入る。
「ファリス教団だ!全員動くな!」
「獣人虐待の疑いで取り調べる。動くな!!」
「「 散れ!!! 」」
女の命令で複数の影が外へと散って行った。
そんな、、、治療の途中で退散なんて、、、
動揺しているフェンに声が掛かる。
「フェン殿、どうしてここに?」
「「セイショウさん、この子を治療して下さい。」」
他の質問などこの子の治療に比べれば何の価値も無いように思えた。
神官様が直接治療を始めてくれた。そしてもう一度聞いてくる。
「フェン殿はなぜここに?」
「先程の武装集団は一体?」
フェンが答え、書置きを見せると神官様は驚くような納得したような表情をする。
「そうですか。あれが獣王軍なのですね…。」
フェンには神官様が何に驚き、何に納得したのかなんて気にならなかった。
ただ今はルミオンが元気になってくれれば、それで良いと思えた。
「ふっふーん♪良いもの手に入れちゃった。」
「なんと!!フェンに『何でも一つ言う事を聞いて貰える権』。」
「羨ましいにゃ。」
「あなたには一生無理でしょうねー。」
「そうだ!結婚とかどうかな♡」
「、、、もう殺すしか無いにゃ、、(殺)」
「うそ、うそ、冗談だってば、もう、、殺される(汗)」




