対価ですか?勇者さま。
「いや、お支払いします。」
昨日、運び込んだ時の経緯から『無料で良い』と神官様が言ったのだ。
形的にはファリス神殿が『勝手に治療した』事になっているが、
元々フェン達から『依頼』するつもりで連れて来たのだから。
しかも昨日と今日、併せて二度手間の様な治療までして貰って…。
「無料という訳にはいきません…正規の料金をお支払い致します。」
ミヤも賛成してくれた。
神殿へ支払いを済ませ、男の娘を引き取った。
傷が癒え、背中でスヤスヤ眠る男の娘の鼓動に
『助けたのは絶対に間違いじゃない』
と、フェンは確信している。
だが…フェンは確信しているのに矛盾を感じてしまっているのだ。
傷は治っているとはいえ、まだ安静にしていた方が良いだろうと、
もう一泊する事に決め宿屋へ戻る事にする。
その道すがら、今日の支払い…『対価』についてミヤは言う。
「そうにゃ。依頼した事に対しては、しっかり対価を払うにゃ。」
「馴れ合いで甘えていては『知らない誰か』にしわ寄せが行くにゃ」
「それは、得てして弱い者に行くにゃ…」
…話しはファリス教がどうやって成り立っているか…運営しているのかに及ぶ。
「例えばにゃ。王都でルチア達と一泊したにゃ。」
「うん。皆で泊まったよ。」
「…ファリス教団持ちで、って事で。」
「うん。」
「そのお金は何処から出てるにゃ?…教団からにゃ。」
「そのお金は、教団への『お布施』や『治療費』などの収入から出てるにゃ。」
「フェンさまを含め、ちゃんと皆が対価を支払う事によって成り立っているにゃ。」
「特に個人ではなく団体では、お金が無かったとしても『断れない』事柄が多々あるのにゃ。」
「これはファリス教団に限らず、何にでも当てはまるのにゃ。」
…何気なく王都ではファリス教団に『持ってもらった』が、
そのお金の出所までは考えた事は無かった。
それが見知らぬ『誰か』、、『弱者』の首を絞めているのかも…。
「そうにゃ。一人一人の自覚も大切だけど、フェンさまは『特に』意識しなきゃなのにゃ。」
「『勇者』としての行動の影響力は計り知れないにゃから…」
そう思うと恐ろしい気さえした。
「でも意識し過ぎる必要はないにゃ。」
「フェンさまが正しいと思う事をして行けば良いだけにゃ。」
「結果の評価は周りの人がする事にゃ。」
「フェンさま自身が納得出来て後ろめたい事が無いなら、それで良いのにゃ。」
宿屋に着くと部屋へ入り、まだウトウトしている男の娘を布団へ寝かせる。
寝ている間に考えを纏めようと思って。
昨晩…宿屋の部屋でミヤと今日の出来事を振り返ってみよう、という話になった。
『この子を買った』件だ。
フェンは思う。
店の男達によって暴行され殺される寸前だった子供を救った。
…その事には後悔も後ろめたさも無い。
ミヤも間違っているとは言わない。
ただ、ミヤは言うのだ。
「フェンさまは無事に助けた『後の事』をどう考えているのにゃ?」と。
そして、
「あの店の店内で会った他の獣人達はどうなるのかにゃ。」と。
そして、
「フェンさまが『言い値』で男の娘を買った事により店の男は味をしめた」
そして、
「他の獣人にも躊躇なく暴行を加える様になるだろう」と。
フェンの行為が、たとえ正しい事だとしても『これから先』の悲劇の原因になりかねないと言うのだ。
ミヤは言う。
「助けるなら、その後にも一定の責任を持つ覚悟が必要だと。」
一生面倒をみろとは言わないが、少なくとも元の場所に戻らない様にサポートが必要だろう、と。
確かにあの店には他にも何人もの獣人が居た。
その獣人達もいつ『廃棄処分』の対象になるか分からないのだ。
知らない所で起こった事だから仕方ない、とは言い切れない。
…既に知ってしまった事なのだから。
…そして、今、昨日話していた事をどうするかに直面している。
布団で安心して『すーすー』と寝息を立てている男の娘。
この子をどうするのか?
今日、神官様が言っていた事を思い出す。
「中には居るのです。一時的な正義感に駆られて助ける方が。」
「そして・・・神殿に運び込むだけ運び込んで、後は放置される方が…」
聞いた時は『何て自分勝手な!』とフェンは思った。
それではまるで『自己満足の為だけに助けた』と言っている様なものだと。
だが、実際に今、目の前に居る『男の娘』の事を考えると、
そう単純には考えられない問題だと実感する。
『投げ出す』という選択肢は無い。
それでは昨日の神官様の話に出て来た『身勝手な人間』と同じである。
自分が不信を感じる様な人間に自らなろう…とは思わないからだ。
…だけど、、、
ずっと面倒を見続けるのが現実的でない事も解っている…。
思考の迷路から脱け出せそうにないと思われたが、ミヤが、ふと言う。
「まだ子供にゃし両親が居るんじゃにゃいかにゃ?」
…あっ!
言われてみれば、そうである。
そう言えばまだ、男の娘本人と話しどころか名前すら聞いていないのだ。
フェンは、当たり前の様に決め付けてしまっていた。
『あんな酷い扱いを受けるような店に居たのだから、天涯孤独の身なのだろう』と。
前提が無い思い込みで幾ら考えてみても解決する訳がなかったのだ。
「あの子の両親…か。そうだよね、それが一番良いよね。」
「そうにゃ。まずは、あの子から話を聞いてからの話しなのにゃ。」
…とは言っても、わざわざ寝ている子を起こして話す事でもない。
邪魔しないように夕方までミヤと出掛けて来ようという事にした。
『そーっ』と部屋を出ようとすると、、、
「ご主人様…」
男の娘が『じーーーっ』とフェン達を見ている。
しかも少し『うるうる』した目で…。
可愛い…そんな趣味は無いはずだけど可愛いのだ。
外見的にはどう見ても女の子にしか見えないし。
「フェンさま、不安に思ってるにゃにょ。」
昨日みたいに置いていかれるかも…って思ってるのかな?
「大丈夫だよ。ちょっと出掛けて来るけど、ちゃんと帰って来るからね。」
「ゆっくりおやすみ」
駄々をこねられるかと思ったけど『おやすみ』と言うとすぐに目を閉じて寝てしまったようだ。
…やっぱり眠かったのかな?
宿屋を出て言う。
「ちょっと拍子抜けしちゃったな。」
フェンが言うと、ミヤが答える。
「あの子は多分『そう育てられた』んだにゃ。」
「育てられたって?」
「主人からの『命令』に従うように…にゃ。」
えっ?…命令って?
「まさか『おやすみ』って僕が命令したから寝たの?」…不安なのに我慢して?
行き場のない、もどかしさを感じる。
「ミヤ、ごめん。やっぱり宿へ戻るね。」
「そうするにゃ。」…ミヤも今のままで出掛けてもフェンが上の空で楽しめないのは理解していた。
宿に戻り部屋へ行くと、、出迎えられた。
「お帰りなさい、ご主人様」
「ただいま。」
宿屋を出てからそんなに時間は経ってないから、、、
『おやすみ』の命令で眠ったってミヤの深読みし過ぎだったんじゃないかな?
確認してみなきゃ…。
「おいで。」男の娘をベッドに座らせて話してみる。
「改めまして、僕はフェンだよ。君は何て言う名前?」
「私は『ルシオン』です。シオンって呼んで下さい、ご主人様。」
「うん。じゃあシオン、今眠いよね?」
「はい。眠いです、ご主人様。」
・・・
・・・・・
「じゃあシオン、今、眠たくないよね?」
「はい。眠たくないです、ご主人様。」
まるでそれが『当然』のように真逆の答えをニコニコしながら口にする。
・・・・・
「シオン…」
複雑な気分になる・・・どうしてこんな…。
フェンの変化に気が付いたのかシオンが、、
「ご、ごめんなさい、ご主人様。許して下さい、許して下さい…」
…自分が悪いと怯え、謝罪するシオン。
フェンの方がショックだった。表情一つで、こんなに怯えるって、
一体どんな生活を送って、何を体に覚えさせられて来たのだろう?
『あの店』の人間達によって絶対服従の…ご主人様の言葉には、
全て『はい』で答える様に強制されたのだろう。
沸々と怒りが生じる。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい…」
シオンが怯えている。
「シオン、違うよ。シオンの事を怒ってるんじゃないよ。」
頭をなでながら言う。
「いい?もう一度聞くよ、シオン。」
「今、眠たい?眠たくない?」
「・・・・」
「『シオン』はどうなのかな?どちらでも怒ったりしないよ。どっち?」
「・・・眠たい、です。」
「うん。じゃあ寝ていいんだよ。」
今までの主人には無かった新しい主人の言葉に首を傾げるシオンを
布団に寝かせて、頭をなでながら言う。
「いい?眠たい時は、眠たいって言っていいんだよ。」
「シオンが思った事は何でも聞かせてくれると僕も嬉しいな。」
「おやすみ、シオン。」
だけど今度はすぐに目を閉じてくれない。
また『じーーーっ』とフェンを見るシオン。
「大丈夫だよ。今日はもうどこにも行かないから安心しておやすみ。」
頭を『ぽふぽふ』してあげるとやっと目を閉じて静かに寝息を立て始める。
…何処へも行けないし…
「僕も一休みしようかな?」、、、と考えていると視線を感じる。
『じーーーっ。』・・・ミヤ?
ずっとシオンと話してて構ってあげないから怒ってるのかな?『ぷんぷん』気味だ。
「ミヤ、僕も一休みするよ。おいで。」
「!!…?」
シオンの隣のベッドに潜り込むと目をつぶる。
ミヤを見ると『あぅあぅ』して戸惑ってるし。
「…おいで、ミヤ」
もう一度言ってあげると『ハッ』と気付いた様に布団に潜り込んで来る。
ちゃんと対価は払うべきだってミヤから教えられた。
ミヤには一杯助けてもらったし…ちゃんと『対価としての』ご褒美あげなきゃだよね。
、、フェンさま、やっと、やっとミヤの事を…嬉しい。。。。
、、、やっぱりミヤの考えや真意には気付いてあげられないご主人様だった。
起きた時には夕方だった。
シオンはどうし、、、いない!?
隣のベッドで寝ていたはずなのに居なくなっている。
『どこへ行った…の??』
なぜか体が動かないし、見ればフェンの布団がやけに膨れている。
えーっと、、予想出来るので見るまでも無いが、一応確認してみる。
…やっぱり居た。
…ミヤとシオン。
両側からフェンに抱き付いている…と言うより押さえ込んでいる。
「起きるよー。皆で夕御飯食べに行こう!」
わざと大きく言うフェンの声に二人は目を開ける。
「はいにゃ、フェンさま」
「はい、ご主人さま」
行くと言っても宿屋の食堂だ、すぐに着く。
「何にしようかな?」
フェンとミヤは、すぐに決定し注文した。
シオンは…困った顔をしている。
「シオンは何が好きなの?」フェンが聞くと、
「・・・ご主人様、、が好きです♡」
ミヤが『な゛っ』って顔で固まった。
「違うよ、シオン。お夕飯に何が食べたい?」
「分かんない…」
…自分で決めた事が無いのかな?
「ミヤ、子供が好きそうなメニューってどれだろ?」
「何でもいいんじゃないかにゃ!本人が言ってるんだし。」
…何で怒ってるんだろう?
結局、お店の人に子供の好きそうなメニューを、って事で注文した。
しばらくして運ばれて来た食事を前に、シオンが固まっている。
『喜んで食べてくれるかな?』ってワクワクしながら見てるけど、
『じーーっ』と食事を見つめたまま全然食べようとしない。
・・・嫌いな物だったのかな?
、、、とも思ったけど、もう一つの可能性も確かめる。
「食べていいんだよ。」
フェンが言うとシオンはフェンと食事を交互に見るが食べようとしない。
シオンの口から言葉が洩れる。
「全部…いいの?」
…??
「いいんだよ。それはシオンの分のご飯だからね。」
言われると、戸惑いながらも嬉しそうに食べ始める。
美味しかったのか、殆んど食べてから・・・泣き出した。
「ごめんなさい…。」
…何でシオンが謝るの?
「ごめんなさい…お姉ちゃん…」
・・・お姉ちゃん?・・・ミヤの事?
いつの間にミヤをお姉ちゃんと呼ぶような仲になったのだろうか?
ミヤを見ると違う、違うと首を振る。
ミヤじゃない…なら誰に謝ってるの?
シオンはこの場に居ない人物に向って呟く。
「ごめんなさい、、お姉ちゃん、、みんな食べちゃって・・・」
「ごめんなさい、、、」
「シオンに聞きたい事が有るんだ。いい?」
「はい。ご主人様。」
「シオンは何が好き?」
「ご主人様、、、ポッ♡」
「な゛っ、、、許せないにゃ!」
「嬉しいなー。じゃあ今日の朝御飯は何だった?」
「ご主人様、、、」
「・・・・・・」
「じゃあ、、、シオンは何が嫌い?」
「ご主人様、、、」
「しくしく、、、(泣)」
「フェンさま、しっかりするにゃーーー」




