治療ですか?勇者さま。
その夜は寝落ちして熟睡だった。
クロスシティーまでの移動や昼間の出来事で疲れていたのだろう。
せっかくミヤがフェンの知らない知識を解説してくれているのに。
フェンは鍛錬により肉体的疲労には耐える自信が有る。
、、が、精神的な、、新しい知識に対する疲労には脆かった。
ずっとイーストノエルで暮らしていたフェンにとっては、
世界は『それで完結していた』し、それで問題無かったのだ。
それが、今までイーストノエルの町には存在していない事を、、
考える必要すら無かった事を『これ、常識ですよ』と言われるのだ。
何も無い所から覚えるのではなく、経験や思考の『書き換え』を
要求される部分も当然出てくる。疲労も倍増した。
「ごめん、ねミヤ。もぅ、、限、、、界、、」
、、、くぅ、、、、くぅ、、、
「今日は大変だったにゃ。ゆっくり寝るにゃ。」
「治療のつもりで少しづつ覚えていけば良いにゃ。」
「おやすみなさい、、フェンさま、、」
次の日の朝、日もまだ昇って来る前の薄暗い時間に起きた。
、、、いや、ミヤに起こされる。
「お散歩行くにゃ」
「お散歩、、、?」、、ゆっくり寝るんじゃなかったの?
、、、まだ早くて眠いんだけど、、、
ミヤは元々朝が強い…というか夜が強いのか。
ミヤに限らず猫人族の特徴なのかもしれない。
ミヤがクロイスシティーに寄りたがっていた用事なのかな?
…外は涼しくて爽やかそうだし頭も回りそうだ。
「いこうか。」
「はいですにゃ、皆、居るにゃ」
・・・『みんなって?』
宿屋を出ると予想通りの冷たい空気で眠気も醒める。
しばらく通りを行くと、こんなに朝早いのに多数の人影がある。
「何かあるのかな?」
不思議に思っていると、
「行くにゃ」 ミヤは走って人影に何の躊躇もなく近付いて行ってしまう。
「ミ、ミヤ…?」
先行したミヤは楽しそうに人影と話し始める。…知り合い?
フェンも遅れて近付いて行く、、と相手方が此方を見る。
『獣…人?』此方を見た瞳は獣人特有の物だった。
「まさか…皆、獣人なの?」
昼間は人間が満ちている街も夜が来れば獣人の街になっている。
また話し始める。
「あなたのご主人様?」
「そうですにゃ」 ミヤは自慢そうに答える。
「初めまして。フェンって言います。」
握手を求めて手を出すが、冷たい目で睨まれてしまう。
『ボソッ』っと呟く…「人間のクズが…。」
聞きつけたミヤが言う。
「違うにゃ」
「何が違うって言うんだ? お前の『ご主人様』なんだろう?」
「そ、そうですにゃ。けど、、、」
「それに何だい、その語尾に付けた『にゃ』は?」
「その人間に無理矢理言えって言われてんだろ!」
フェンを睨らんで言う。
「人の良い顔で近付いても無駄さ。」
「どうせお前も獣人を奴隷にしている奴等の同類なんだろ!!」
『奴隷?、、、ミヤの事を奴隷だなんて、、思ってないよ!』
・・・でも、、言葉に出来なかった。
事実としてフェン自身も『獣人を売買した』人間の一人なのだから。
ふと考える…
『俺は奴隷だなんて思ってないけど、ミヤは? 』
『ミヤ自身はどう思っているんだろう?』
『当たり前の様に尽くしてくれているのも実は『奴隷』として嫌々?なのかも。』
考えが纏まらない。
「どうしたんだい?何とか言ってみなよ!」
「「 やめて!! 」」
「フェンさまはそんな人間じゃない。ミヤにとっての『大切な人』よ!」
「酷いこと言うのは許さない!」
…うん。そうだよね。
ご主人様とか奴隷とか…身分なんて関係ない。
仮に周りから『奴隷』に見られても、僕にとってミヤは『大切な人、家族だ』。
それだけは変わらない。
「ミヤは大切な人、僕の家族なんだ。」
「ミヤを傷付ける様な事を言うのは許さない!」
「…いいわ。精々その気持ちが変わらない事を祈ってるわ。」
「…全ての人間があなたの様な考え方なら、、、ね。」
街は徐々に日が昇って明るくなって来ていた。
「私ももう戻らなきゃ。…最後に、あの領主には気を付けなさい。」
言うと女も多くの獣人達も街へと消えて行った。
「帰りましょ、フェンさま。」
「ミヤ、さっきから『にゃ』が抜けてるよ?」
「帰るにゃ、フェンさま♪」
「うん、ミヤ。」
宿屋に戻り、朝食を摂る。注文時には量の確認は忘れずに、、と。
冒険者御用達の宿屋だけあって食堂は混んでいた。
冒険者達は朝食兼、今日の打合せをしているのだろう。
「今は西方が熱いらしいぜ。」
「また懸賞金が上がったらしい。」
ミヤが言うには『酒場や食堂は情報収集の基本にゃ。』との事なのだが。。
当然、人によっては専門の『お抱えの情報屋』がいる場合も有るし、
必要に応じて、その都度情報を買う場合も有るのだとか。
フェン的には情報などはギルドで教えてくれる物で自分で探す物ではない。
なにせ受ける仕事は依頼書に書いて有る内容で事足りていたのだ。
「難易度の高い依頼では情報収集は必須だにゃ。命に係わるにゃ。」
「何が本当なのか、嘘なのか、、判断する能力も必要にゃ。」
、、、正直、自信が無い。、、、どころか苦手な分野だ。
フェンが難しい顔をし始めたので言う。
「何でも自分一人でする必要は無いにゃ。」
「その為に『仲間』、『パーティー』を組むのにゃから・・・。」
「ジン様も良いメンバーに恵まれていたらしいにゃ。」
・・・仲間?、、、パーティーを組む、なんて考えた事も無かった。
『いつか僕にも必要になるのかな?』
まだフェンには想像も出来ない話しだった。
食事を終え、部屋へ戻る。 それでもまだ朝という時間だ。
『早起きすると一日が長く感じるよね?』
誰かが言っていたけど、その通りだと思うし、実感もする。
「まだ早いかな?」 誰にともなく呟く。
「ファリス神殿かにゃ?あそこは何時でも開いてるにゃ。」
『返事をありがとう、ミヤ。』、、口には出さずお礼を言う。
『昨日の子の事が心配ですぐにでも神殿に行って確認したい』
、、、と、いう気持ちをミヤはお見通しなのだ。
長く一緒に暮らしていたせいか、ミヤには良く考えを読まれる。
内心『本当に分かっているんじゃ?』とまで思うほどに。
だが、フェンは幾ら考えてもミヤの考えは読めたりしない。
・・・理解してくれる家族って嬉しいな。
と、フェンは素直に嬉しく思うのだが、、、
『家族ではない家族以上の存在になりたい』
と、ミヤが幾ら思って念じてみてもフェンは気付かなかった。
ミヤの助言も有り、準備を整えると宿屋を出る。
行き先は言うまでも無く『ファリス神殿』だ。
急ぎたい気持ちを抑えつつ馬を進めた。
ファリス神殿に近づくと朝なのに何だか騒がしい。
「、、、あっちだ、、、」
「、、捕まえろ、、、」
・・・ニワトリでも逃げちゃったのかな?
正門に近付くと昨日の受付の男がフェンを見つける。
「おい!お前、飼い主なら何とかしろ!!!」
・・・ここでニワトリなんて飼ってた覚えはないけど、、?
「あの坊主が逃げ回っているんだ!!」
『坊主?、、、あの子の事?』
「分かりました。すぐに。」 言うとフェンは敷地に踏み込む。
中に入ると神官服に身を包んだ人達が走り回っている。
見ると昨日、あの子を預けた神官様も居た。
「すいません、神官様!!」
「昨日の、、良く来てくれました。本当に良かった。」
この騒ぎの理由を聞く。
昨日フェンが預けた子が治療の途中で逃げ出したのだそう。
やっと動ける状態になった途端に、だ。
逃げる途中に追って来た神官の背中に飛び付いてはまた逃げる、
を繰り返しているという。
治療も完全に終わっておらず無理すれば傷が開いてしまうかもだという。
「何でそんな事・・・僕が捕まえます!!」
フェンとミヤも神官様達に協力する。
また一人、神官様が飛び付かれている。
『飛び付かれるのを分かっているなら、そこを捕まえれば?』
と、フェンは思うのだが、、、神官様達も百も承知の上だった。
飛び付いた瞬間、他の神官様が飛び掛る。が、逃げられる。
そもそも神官様達・・・『動き遅っっ』。
フェンも参戦する。
病み上がりでも獣人族だ。フェンと同じか上の速度で動く。
「待って!!」
フェンが前に立ち塞がる。
『じーーー』っとフェンを観察する『あの子』。
「大丈夫・・」、、そう言って近付こうとした瞬間、逃げた。
それから何度繰り返しても、近付くと逃げられてしまう。
見かねたミヤが言う。
「それじゃ駄目だにゃ。良くあの子を見るにゃ。」
、、、もう見ているよ? 何を見ろと言うの?
「フェンさまは、、、見てないにゃ。」
「なぜミヤの様に『あの子』を見てくれないにゃ?」
フェンには解からなかった。
・・・「見てるにゃ。」
あの子の前に、ミヤが進み出て、向き合う。
急に『クルッ』とミヤが振り向く、、、ミヤ??
背中を見せたミヤの背中にあの子が飛び付く。
「・・・??」あの子は首を一つ捻り、また離れる。
「ミヤ、、、一体?、、、背中を見せろって事なの?」
「フェンさまが自分で答えを見つけるにゃ。」
フェンはもう一度、あの子の前に立つ、、、、そして、、振り向く。
『ザッ』・・・振り向いた瞬間、逃げてしまった。
「ミヤ、解からないよ。どうして『あの子』は逃げるの?」
・・・・・
・・・・・・・
「フェンさま、、、もう時間が無いにゃ。」
言うとミヤが振り返る。
、、、、!!!
ミヤの服の背中が真っ赤だった・・・『あの子の血?』
見れば中庭の地面も飛び散った血でどす黒く変色している。
「そうにゃ。傷が開いてるにゃ。」
「なんで神官様達には一人残らず飛び掛るのにフェンさまにしないにゃ?」
「神官様とフェンさまの違いは何かにゃ?」
「あの子は捕まりたくないにゃ、、ご主人様以外にはにゃ。」
「探しているのにゃ。ご主人様を。」
・・・・ミヤの言葉に『ハッ』となる。
昨日まで『生き物』として扱われず『物』として扱われ、
あまつさえ『殺されそうになっていた』のだ。
それを、、、大人数で追い回すなんて、、、。
それもフェンの様に実力の有る者が気迫を込めて近付いたら、、、。
『怖かった』なんて言葉では収まらない位に怖ろしかっただろう。
・・・・最低だ。
『あの子』に対して。
またミヤに言われて初めて気付いたのだ。悔しくて情けなくて、、、。
「急ぐにゃ。あの子はもう限界にゃ。」
「うん。」
フェンは『あの子』の前に立つ。
今はもう『捕まえる』気持ちは無い。
ただ『助けたい』気持ちと『心配する』気持ちだけだった。
「ごめんね、、、おいで、、。」
フェンが振り向くと、昨日と同じ感触が伝わった。
匂いを確認すると、小さく呟くように話してくれた。
「ご主人さま、、、」
「うん、ご主人さまだよ。」
背負ったまま治療室に入り治療して貰った。
「ちゃんとしてるんだよ?」
フェンが言うと大人しく治療を受けてくれる。
治療している間にミヤが話してくれる。
「あの子はフェンさまが新しいご主人様だと認識してるにゃ。」
「昨日ここまで連れて来る途中でフェンさまの匂いを覚えたにゃ。」
「自分が殺されそうな時に助けてくれたのも解かってるにゃ。」
、、じゃあ何で逃げたんだろう?、、フェンは不思議に思う。
「自分が殺されそうな時に助けてくれたご主人様、、、」
「・・・が、何も言わずに消えたにゃ。」
「治療されて、また昨日の場所へ戻されると思ったにゃ」
「、、、だから逃げたにゃ。フェンさまを探そうとしたにゃ。」
ミヤと話していると話し掛けられる。
「ありがとうございました。」
昨日の神官様だった。
「遅れましたが私はファリス教神官のセイショウと申します」
「今日は来て戴いて助かりました。」
「僕はフェン、こっちはミヤです。」
「いえ、こちらこそ受け入れて頂いたのにご迷惑を、、」
聞けば珍しい事ではないらしいのだ。
「残念ながら中には居るのです、、」
「正義感に駆られ運び込むだけ運び込んで、後は放置される方が、、、」
「悲しい事ですが治療出来なかったり食べ物を受付けず亡くなる者も居るのです。」
「それでもフェン様は来て下さった。」
「、、様は止めて下さい。僕なんか、、、」
「では、フェン殿で。」
、、様より殿の方が堅い気がするけど様より恥ずかしくない気がする、、。
「で、あの『男の子』についてですが、、、」
「男の子?!、女の子じゃないんですか?、髪も長いのに、、格好も」
「ええ。男の子ですよ。ですが『女の子』として育てられるのです。」
「??、、、良く解からないのですが?」
「俗に言う『男の娘』という者です。」
・・・『男の娘』が趣味の人が居ると説明されても良く解からなかった。
、、、女性は女性、女の子は女の子が良いのでは??と思うけど?
ただ、ある程度の年齢になり男性的な特徴が強くなって来ると、
用済みにされ、処分される事もあるのだとか。
『あの子』もそうだったのだろうか?
「そこを聞きたいのです。」神官様が聞く。
「あの子はどこで助けられたのですか?」
「あの傷はただ事ではありえない程の傷です。」
「一体どこで?」
、、、正直に話すべきだろうか?
・・・あの子は『助けた子』ではなく『買った子』です。
、、なんて、、事実だけど、自分で考えても許せない行為だと思う。
それも相手はファリス教の神官様だ。許される訳がないだろう。
悩んだが、ありのまま伝える事にした。
「神官様。あの子は裏通りの店で暴行されていたのを私が買ったのです」
しばし唖然とした神官様だったが、
「そうですか、、、そうですか、、。」
「あなたは命を救ったのです。それ以上はなく、それ以下もないのです」
「私はあなたを許します、、、良くやりました。」
「・・・ありがとうございます。」
フェンは嬉しかった。
ミヤ以外にも自分を認めてくれる人が居る事を。
また、そういう『人間』も居るのだという事に。
「男の娘とは何ですか?ミヤ先生。」
「良い質問にゃ!それは、、、」
「可愛い男の子が女の子の服装で、、、」
「は、はぁ。それで、、、」
「論より証拠。まずは着てみるにゃ!」
「ねこみみローブ?」
「そうにゃ!それをフェンさまが着て、、最高!!」
「えっと『解からない』事が『解かりました』、、、」
「そんな、、ヒドイにゃ、、(泣)」




