信仰ですか?勇者さま。
口では『大丈夫だよ。』と言うルチア・・・。
だが、それが『強がり』と『周囲への気遣い』が言わせた
言葉なのは想像に難くない。
普段のルチアが『頑張り屋さん』なのは見ていて分かるが、
それも『本来は』どうなのか?、、までは判らない。
周囲が無意識にルチアに『ルチア像』を求め、
また、本人も『そうありたい』と振舞う、、『演じている』のかも、、。
その日の朝はルチアが満足するまで甘えさせる事にする。
部屋の中を、走り、跳ね、つねったり、引っ張ったり、、
抱きしめて、頭も撫でた。転がりもした。
・・・自身で納得してからの出発、という事にしたのである。
楽しみ終わるとルチアは一つ「ふぅーーー」と大きな息を吐き出す。
そして、、、
「お兄様、私、お腹空いちゃった!!」
・・・・出発したのは、もうお昼近くだった。
その甲斐あってか、ルチアの元気も上々だ。
歩きながらルチアが聞いてくる。
「お兄様は何が好きですか?」
「何でも好きだよ。」
…『何でも』という答えが聞いた方からすると『困る答え』だ、
、、、という事にフェンは気付いていない。
『うーん、、、』ルチアは考え込んでしまう。
女の子には極めて重大な問題だ。
『私のお薦めなの♪』とか言って連れて行って、
万が一、口に合わなかったりしたら?
その場では『美味しいよ』と言って食べてはくれるだろうけども、だ。
・・・後から実は嫌いな物だった、という事もある。
食べ物の好みは『関係を築く』上で重要だ。
そして、逆にその差は『関係を壊す』原因にもなりかねない。
ルチアが真剣な顔で悩み始めたので、
「あー、さっき見たスープのお店、美味しそうだったなーっ!」
助け船を出す。
「…それなら!!」
すぐに思い当たったようで、
「お兄様の言ったお店に近い味でもっと人気のお店が在るんです。」
「行きましょ、お兄様。」
「今なら並ばずに入れるはずですよ♪」
楽しそうだ。…女の子が洋服や食べ物の話しで盛り上がるのは、
もはや『特権』みたいなもんだね、、、と納得した。
目的のお店に近付くと、確かに良い匂いがしてくる。
『苦し紛れで言ったけど…これは期待出来そうだ』
もう美味しいスープを飲んで満足しているイメージまで出来た。
順調に待たずにお店に入り、すぐに注文する。
「お薦めスープとパンのセットを2つお願いします♪」
メニューも見ずに注文なんて『ベテランさん』だね…フェンの感心の眼差しに、
ルチアはニコニコと照れた笑顔で返す。
料理が運ばれて来て『さあ堪能しよう♪』と思っていると邪魔者が現れる。
「ファリス教神官、ルチア殿で宜しいか?」
何だろう?と不思議に思っていたが、周りの客達もザワついている。
「教団審問官だ…」
「あの子が何か…」
当のルチアを見ると顔が青ざめ震えている。
『発作??』とも思ったが発作とも違う様子だ。
急に、ルチアは背伸びした口調で言う。
「あーあ。やっぱり来ちゃったか、、、」
…無理に強がって明るくしてるのが見え見えだ。
それに、、やっぱり?、やっぱりって、どういう…?
「ルチア殿には偽証の疑いが掛けられている。同行願いたい。」
「ちょっ、偽証って…」
言い掛けるフェンにルチアは黙って首を振る。
「いいの。覚悟してた事だから、、、。」
「ごめんなさい、お兄様。私、お昼、、食べられなくなっちゃった。」
わざと、おどけて明るく笑う。
「ちょっと待っ・・・」 フェンが叫ぼうとすると、
「「やめて!!」」
「お兄様には関係の無い話しなんだから。ここでお別れです。」
「そんな…」
『そうはいかん!』
第三者、審問官が否定した。
「イーストノエルのフェン殿だな。貴公にも同行していただく。」
「やめて!! お兄様には関係の無い事よ!」
「逮捕しようと言うのではない。重要参考人として、同行願いたい。」
…いざとなったら強行手段に出てもルチアを助けようと思っていたので渡りに舟だった。
「従います。但しルチアは僕が連れて行きます。」
「行こう、ルチア。」
「何で、、、、」
「何でって僕はルチアの『お兄ちゃん』だからね。」
・・・手を繋いで審問官に続く。
ルチアは審問の不安も有るはずだが、それより手を繋いで歩くのが嬉しくて、
つい笑顔が出てしまっていた。
審問の行われる教会に着くと疑問に思った。
先程、初めて審問官に声を掛けられて、ここまでやって来たはずなのに、
審問官、審問員、審判官、立会人達が『全て揃っている』のだ。
…周到過ぎる。まるで詰問が始まる前から判決内容まで決まっています、
と、言っている様な物だった。
有無を言わさずルチアは証言台に立たされる。
「ファリス教神官、ルチアに対する審問を始める。」
「神官ルチア及び参考人フェンは虚偽無く証言を果たすように」
「虚偽の証言は重罪である。ファリス神からの神罰と教団からの刑罰が下るであろう。」
「両名にファリス神の御加護があるように」
審問が始まる。
内容は予想通り『ガルン』の件だ。
「神官ルチアはガルンからの帰還後、こう証言しております。」
「『勇者ジン様と同行していた正体不明の若い冒険者も死亡した』と。」
「間違いありませんか?」
審判官が問う。
「はい。間違いありません」
ルチアは明瞭に答える。
ここで大司教補佐の男が異義を唱える。
「ここに虚偽が有る可能性が有ります。」
「その死んだとされる『若い冒険者』こそが、、、」
「そこにいるイーストノエルのフェンの可能性が御座います。」
全員よりざわめきが起こる。
実際に『事実』だ。ルチアが言った『死亡したと思った若い冒険者』と
『フェン』は同一人物なのだから。
「どうなのだ、神官ルチア。事実か?」
・・・ルチアは答えない。フェンがガルンに居た事を秘密にして欲しい、
と頼んでいた為、答える事が出来ないのだ。
「仕方ない。では参考人に聞くとしよう、事実か?」
「覚悟して答えよ、この場での偽証は全て厳罰と覚悟せよ!」
「「答えては駄目!!」」
ルチアの顔が跳ね上がる。泣き顔だった。
・・・ルチア・・・頑張って約束を守ってくれてるんだね。
『・・・ごめんね、辛い思いをさせて、、、』
「私はイーストノエルのフェン。」
「私は、、、」
と、言いかけた時、急に教会の祭壇が眩しい光に包まれる。
「「 お止めなさい。 」」
そして…その場に一人の女性が舞い降りる。
『誰だ…』教会内がざわめく。
フェンは見覚えが有った…小さい頃別れた、暖かく、優しい…
「…母さん?」
その声に被るもう一つの声が有った。
「…ファリス様、、」
今まで一言も話さなかった、教団の責任者、大司教が発したものだった。
大司教…を無視して女性はフェンに近づき耳元で囁く。
「お母さんと間違われるなんて、私もまだまだイケてるわね♪」
「??…母さん、じゃないの?」
「私は何時も見ていたけど、初めまして、かな?フェンちゃん。」
「私はファリス。貴方のお婆ちゃんよ。」
「えっ?だって歳が!?」
「…フェンちゃん…女の子に歳を聞いちゃ駄目よ。」
言葉を失っていた大司教補佐が叫ぶ。
「あの女を連れ出せ!あまつさえファリス様の姿を真似るなど厳罰に値する!」
途端に衛兵が雪崩れ込んでくる。
『『鎮まりなさい』』
『『聖なる鐘よ、響け!』』
ファリスが言うと、どこからともなく鐘の音が聞こえてくる。
鐘の音は、初めは小さく…徐々に大きくなっていく。
普通なら耐えられない程の音量になるが『澄んだ鐘の音』により、
聞いていて心地好い、何時までも聞いていたい、とさえ思えた。
だが中に正反対の対応を見せる者が居た。
「だ、誰か、この耳障りな音を止めよ!!!」
大司教補佐の男だった。
周りの『こんな心地好い音が耳障りに聞こえるの?』との疑問をよそに苦しんでいる。
やがて音は止む。
開放された大司教補佐は、再び叫ぶ。
「こんなまやかしに騙されてはならん。捕らえよ」
・・・だが、即座に指示に従う者は居なかった。
大司教が声を発した。
「皆、静まれ。ファリス様なのですか?…ファリス…お母様。」
ファリス教団が出来た当時、教団とは名ばかりで魔王軍との戦いの後で、
焼け出された子供や、魔王軍で魔王国へ戻れなくなった魔族の子供など、
分け隔て無く誰でも受け入れる…言わば孤児院だったのだ。
・・・皆、ファリスを『母』と呼び慕った。
「なぜ、なぜ居なくなってしまわれたのです?」
ファリスはあの日、教会の子供達を前にこう言って消えた。
『うん。皆、もう大丈夫だね。後は任せたわ。』と。
皆、何が大丈夫で、何を任せられたのかも分からないまま、、、残された。
「でも、大丈夫だったじゃない。今、こうして教団も貴方達も居るんだから。」
「そういう問題では…」、、大司教が言い掛けると、、、
「大きくなったわね。オネショ被りのあなたが。」
大司教の目から涙が流れる。「はい…。」
「ええい!茶番だ!!」 大司教補佐が吠える。
「教団を守るのだ!掛かれ」
「「お黙りなさい!!」」 拒否出来ない『何か』がはたらく。
そして、ファリスが問う。
「貴方が守りたいのは教団?お金?それとも今の地位かしら?」
そして、言う。
「貴方がしているのは教団を守るのではなく壊す行為よ!」
「私は常に何処にでも存在し、存在しない者。全てを見、知る者。」
ファリスは補佐の男が王国からの賄賂により、勇者の血族たるフェンを、
亡き者にしようと画策した事や、ルチアをそれに利用しようとした事を伝える。
聞いた大司教補佐の男は破れかぶれで言う。
「やはり、やはり神官ルチアの偽証ではないか、能力を失うがいい。」
・・・ルチアの表情は暗い。
「そんなに言うなら確かめてみれば?貴方とルチアちゃんで。」
「ちょうど先程の聖なる鐘でまだ苦しんでいる『悪党』もいるみたいだしね。」
見れば何人か、鐘の音にやられて具合の悪そうな者が居る。
『聖なる鐘』その音は、悪心を抱く者には耐えられない苦痛を与えるのだそうだ。
「貴方の言う事が正しいなら貴方を見逃してあげてもいいわよ。」
「大司教補佐の私に?・・・回復など容易い事。」
ルチアは、動けない。
・・・フェンは言う。
「大丈夫だよ、ルチア。」
「ルチアは力を失ったりしないよ。」
「、、、うん。。。」
二人が回復を始める。…誰が見ても一目瞭然だった。
「なぜだ!なぜ力が出ん!」
「苦しめる人に癒しを…」
力を失ったのは大司教補佐の男の方だったのだ。
信仰の教えに沿わなかったのはどちらか、、、審判が下された。
その後、教団の人にはフェンがファリスの『本当の孫』だと知られ、、、
、、、ドン引きされた、、、。
ルチアも利用されただけとして無罪放免となった。
その夜は余程疲れたのかルチアは手を握ってあげるだけでスヤスヤと寝息をたて始める。
静かに部屋を出て、これで心置き無く王都へ出立出来るかと思ったが、
…どうにもルチアが心配だった。
フェンは考え、思い付く…。
「ファリスお婆ちゃん居る?…お願いが有るんだ。」
次の日、いよいよ出発という時でさえ、ルチアはフェンから離れたがらなかった。
「ルチア。行かなくちゃなんだ、解るね?」
頭を撫でながら言う。
頭では解ってはいるが心が嫌なのだろう。更に強く抱き締めてくる。
「ルチアに紹介したい人が居るんだ。」
『誰だろう?』と思っていると、、、
「お婆ちゃん。」
フェンが呼ぶと、、、
「あ、ファリス様!!」
フェンに『自分のお婆ちゃんだ』という事は聞いていたが、、、
いざ直接、神様とご対面となると・・・。
「いい?ルチア。これからは、お婆ちゃんが何時も側に居てくれるからね。」
「ファ、ファリス様にそんな事を、、、」
「いいのよ。ルチアちゃんはフェン君の妹なんでしょ?じゃあ私の孫よね?」
「いえ、そんな、、私を孫だなんて、、」
「私じゃ嫌?」
「そ、そんな事、光栄です、、、。」
「あと、フェン君は、私をお母さんって呼んでいいのよ」
『いやいや、お婆ちゃんだよね?』とは言わないでおいた。
それでも淋しそうなルチアだけど、最後には納得してくれた様で手を離してくれる。
「お兄ちゃん、、、気を付けてね。」
颯爽と馬で走り出そうとする…が、何か忘れているような、、、、あ、ミヤ!
取り敢えず別れた辺りに探しに行かなきゃだね…。
王都へ行くと言ってたのに逆方向へ馬を向けるフェンにルチアとファリスは
頭上に?マークを浮かべながら見送る事となった。
「ルチアちゃんの事はドーンと任せてね♪」
「あ、お婆ちゃ・・」
「お・か・あ・さ・ん、でしょ? フェン。」
「う、うん。お母様、、、」
「もっと、気軽でいいのよ?」
「えーーーっ、どこが気軽なのーーーっ」




