色々ですか?勇者さま。
ミヤを探し馬を走らせると、幸運にも呆気なく見つかった。
別れた場所へ向かう途中の橋の欄干に座って行き交う人達を観察中のミヤ。
「ミヤ!ごめんね。何ともない?大丈夫だった?」
「風邪ひいてない?お腹減ってない?」
「、、、ミヤはそんなに子供じゃないにゃ、、、」
ぷーっ、と嬉しそうなのに不満そうなミヤ。
・・・尻尾は素直にフリフリしてるのに、、、。
「ミヤの用事は終わったの?」
「終わったにゃ、それからの方が暇過ぎて大変だったにゃ」
「ごめん、ごめん。こっちも色々有ったんだ…。」
「どうせ女の子絡みにゃ、それで色々有ったにゃ」
・・・うっ。その通り過ぎて反論出来ない。
「まあ、良いにゃ。王都へいそがなきゃ駄目にゃ、早く行くにゃ。」
あれ?いいの?何時ものミヤならもっと色々と、、、
・・・もしかして別れた後に何か有ったのかな?
「ミヤの方の用事ってなんだったの?」
「今はいいにゃ。王都の件が終わったらお願いするにゃ。」
王都の件が終わったら『お話しするにゃ』ではなく『お願いするにゃ』なの?
少し違和感を感じる…でもミヤが『それで良い』と言うならそうなのだろう。
「じゃ、行こう、ミヤ。」
二人で馬に乗り走り出す。
王国には『10日以内には伺います』と伝えてある。
まだ使者に回答してから7日目だ。王都へは余裕で間に合う計算だ。
セントファリスからは北へ、坂を下って道なりに行き、
…明日8日目には王都へ入り、お目通りを求める予定だ。
お目通りが叶うかどうかは王国側の都合なので、
仮にそれで期日が過ぎても此方の非にはならない。
しかし『色々有って』王都へ到着したのは8日目の夕方になってしまい、
当たり前の様に国王樣への謁見は『明日に』という事になった。
「ちっ!!、役に立たないクズがっ。」
「所詮、補佐止まりの男。過度な期待をしたのが間違いだったのでは?」
「幾ら注ぎ込んだと思っているのだ!!」
「如何いたしましょう? あわよくば、セントファリスで始末出来ればよし、」
「無理でも足止めで10日経過のはずでしたものを…」
「そもそもロベルト公には国王になって貰わねば…国王の宰相となる予定が…」
「もう言っても仕方の無い事です。ファリスの神官の報告なのですから」
「・・・ロベルト公はもう居ないのです。」
「何か、何か手立てを、、、」
・・・押していたロベルトは死に、勇者の血族も健在では・・・。
ロベルトは優秀だった、、、ただ・・・優秀過ぎたのだ。
優秀な者に付き従うのは世の常だ。
配下にとっても幸せだし、楽でもあった。
なにせ、言う事に従っていれば良いだけなのだから…。
ただ、それは『普通』と呼ばれる大多数の人達が居る事を
『認識している優秀な者』になら、の話しなのだ。
世の中『優秀な者』の中に更に『優秀な者』が居る訳では無いのだ。
残念ながらロベルトは『認識していない』タイプだった。
間違いなく優秀ではある。
…だが、多くの『普通の人』と呼ばれる敵を作ってしまう人間だったのだ。
事実、戦死の報がもたらされた時には表立ちはしないが陰で喜んだ者も居たという。
そんなロベルトになぜ掛けようようとしたか?
…それは、継承権上位者の割には『取り巻きが少なかった』からだ。
結局の所、自分自身に自信が有る訳ではなく家柄で今の地位に居るだけの二人だ。
誰に付くと言っても、多くの『取り巻き』が居ては、その中でさえ勝ち抜ける自信など無い。
なら最初から『なるべく継承権上位者』かつ、『取り巻きの少ない人物』に付けば、
上手く行けば何も言わずとも取り分…地位も約束される。
…との算段だったのだが。
もう今さら他の継承者には頼れない。
なら、どうするか…。
ロベルトが継承権と共に欲していた物、、、
「勇者の血、か。」
ロベルトは死んだが、勇者の血族は生きており、今、この王都へ向かっているという。
・・・始末出来ないなら利用するまで、、、か。
だが危険な掛けでもある。
ロベルトの話に乗りはしたが『ガルンに居る者全ての皆殺し』など、
公になれば裁かれ死刑以外は有り得ないだろう。
それも『反逆者討伐』との大義名分があればこそ、の話しなのだ。
本来は皆殺し…ファリスの神官も含め、で、ロベルト公が華々しく凱旋、の予定だった。
幸運なのはファリスの神官がロベルトの計略ではなく、ガルンが敵のラ・クジャールの
兵を招き入れた事による『行き違いで攻撃してしまった』と報告してくれた事だった。
ただ、その場に居た『若い冒険者』が勇者ジンの孫で、全てを見聞きし、
今も生きているかも、と聞いた時は心臓を握り潰される気がした。
すぐさまイーストノエルの町へ兵を送り真実を確かめようとしたが、
結局真実は分からず仕舞い。
どうする?・・・放置する程の胆力は持ち合わせていない。
「もう一手、差しては有るが、、、果たして上手く行くかどうか…」
信仰心など無いと言って良い自分だが神に祈りたい気分だった。
フェンとミヤを乗せた馬は順調に街道を降っていく。
、、、だが、、、何かおかしい。
誰かに見られている気配にはもう慣れっこだが、何か起こるのだ。
まだ『起こる』という程の事は起こっていないのだが。
初めは、どこからともなく小石が飛んで来たり…馬に当たって馬が暴れたのだ。
次は街道の曲がり角にロープが張って有った。
その時、馬は歩いていたので何とも無かったが駈けていたら危なかっただろう。
後は街道に木が倒されていたり…。
あからさまに『何か起こりますよ』と言わんばかりだ。
どうみても王都へ行くのを邪魔したい…のだろうが、命を狙う訳でも無く、
中途半端感が漂う妨害だった。言わば『イタズラ』だ。
…だが、相手側のそれが功を奏したのだ。
いっそのこと相手が出て来て勝負を挑んでくれれば好都合なのだが、それが…無い。
馬を走らせるのも危険なので、自然と馬を『歩かせる』事になったのだ。
フェンの強さを知っている者か、純粋に目的を果たす事だけを考えている者か、
後者なら頭がまわる相手だ。
フェン達を『倒す』のではなく王都への到着を遅らせる事を目的とした行動。
…それは『倒す』のと同義と理解しての行動。
『・・・厄介だな』フェンは思う。
しかも常に気を張っての移動だ。当然…疲れる。
街道の茶屋で一休みする事となった。
馬を留め、店内に入る。
まさか店ぐるみで罠は仕掛けないだろう、とは思うが一応は用心しておく。
「何になさいますか?」
「えーと、お団子とお茶を。ミヤは?」
「ミヤはお団子にカカオルのジュースがいいにゃ」
「畏まりました。」
しばらくして運ばれてくる。
念の為に片手をかざして見るが何も無い…冒険者の常識、毒リングを使ったのだ。
当然だがミヤの分も。
俗称、毒リング、正式にはジャッジメントリングなんて厳つい名前だが、
要は毒の有無を調べる指輪だ。名前からだと、かえって毒に侵されそうだが。
この指輪は冒険者だけでなく、広く一般に知られ、使われている。
理由は、材料の鉱石が大量に採掘される為に安価なのだ。後は実用性。
例えば、山へ行き、植物…知らない木の実やキノコなど採って食べられるかの
判別には欠かせない。
注意点は、採取した時点ではなく食べる直前に使用する事くらいなものだ。
採取して指輪で『毒なし』と判別したのに、料理で熱を加えたら性質が変わって
毒になった、なんて話しが結構あるからだ。
しかし、当然ながら毒反応なんて出なかった。
「うん。まぁそうだろうね。」
、、、無用な気を使う自分に対して疲れてしまう。
「さ、食べよ。ミヤ」
「はい、ですにゃ」
『うん。普通に旨い。』
やっと一息つけた。
と、思いきや、『ザクッ』と変な音が・・・
・・・馬の留場の方から?
、、、まさか、馬が殺されて、、、
・・・なかった。馬は元気だった。
じゃあ何か・・・あ、荷物…馬の荷台の荷物が無くなってる!?
・・・って、別に何か大切な物が入っていた訳でもないけど。
お金も肌身離さず持っている。
ただ、ミヤが顔色を変えている。
「一大事にゃ。取り返さないと一生後悔する事になるにゃ!急いで追わなきゃにゃ!!」
えっ?何か大切な物を入れてたの…大変だ!!
支払いを済ませすぐに追う…馬の足音はしなかったし犯人は徒歩だ。
なぜフェン達の馬を盗むなり殺すなりしなかったのかは不明だが、
馬で追えばすぐに追い付けるだろう。
ここは街道の一本道だ。
片方は断崖、もう片方は絶壁…文字通り『断崖絶壁』なのだ。
そしてフェン達の前を通っていない、という事はファリス方面へ逃げた
という事しかありえない。
馬の手綱をとり追おうとするとミヤから、、、
「待つにゃ。追っても無駄にゃ」、と声が掛かる。
「だってミヤ、一生後悔するような大切な物が入ってるんだよね?」
「そうにゃ。だから追っちゃ駄目なんだにゃ!」
「??・・・どういう事か、よく解らないよ?・・・ミヤ?」
「こういう事にゃ、、、!!!」
ミヤがクルッと向きを変えて茶屋の中へ突進する、、、
…と言うか、様子を見に出てきた店員さんに向かって。
「きゃっっ!!!」
「ミ、ミヤ、、、何て事を、、、、!?」
「・・・って、何でバレちゃったのか・・・にゃん?」
「予定では居もしない盗賊を追ってセントファリス行きのはずにゃん。」
「フェンさまの前での猫語はミヤの専売特許だにゃ!!」
「それに店員さんから私の大切な物の匂いがするにゃん。」
「て、店員さん??」
「ごめんねー。店員さんじゃなくて。盗賊なのよ、あ・た・し♡」
「猫ちゃんの反応だと、余程のお宝が入ってるんだよねー、この荷物。」
『うーん、そんなお宝持って無いし、、、」
『やっぱりミヤが何か大事な物を入れてたのかな?』
貴重なアイテムに心当たりが無いフェン。
「悪いけど依頼のついでに、お宝も戴いていかせてもらうよ、イーストノエルのフェン」
「なぜ名前を?それに依頼って?…誰に依頼されたの?」
「依頼人の事なんて言う訳ないじゃん。間抜けな勇者様。」
「でも可哀想な勇者樣に依頼内容位は教えてあげようか♪」
「私が頼まれたのは王都への到着を遅らせる事よ。」
「あと勇者樣は貴重なアイテムを持ってるから、それは好きにして良い、とね」
「それじゃ、さよな…」
「「待つにゃ!!!」」
ミヤが言い切る前に止める。
「私、、私の大切な・・・」
「ねこみみフードを返すにゃ!!!」
「「 ・・・は?・・・ 」」
同時にフェンも女盗賊も頭の中が?マークだらけだ。
「ご、ごめん。聞き間違いかな…ミヤ?大切な物ってまさか…。」
「ねこみみフードにゃ!!」
・・・・
無言のまま、荷物の中を調べ始める女盗賊さん・・・
「・・・!?、、、なによこれー!」
『えっと、、見まごう事なき、それが『ねこみみフード』です女盗賊さん』
心の中でフェンは叫ぶ。
被害者なのに女盗賊さんに対して何か『スミマセン』という気持ちになった。
「ちっ!!」
吐き捨てると女盗賊は、ねこみみフードを崖下へ投げ捨てる。
瞬間、何の躊躇もなく、ミヤが崖下へ飛び込む。
「「 あっっ 」」
なんていう間もなくフェンも体を崖下へ躍らせていた。
そして女盗賊も鞭を唸らせていた…。
「…ったく、どうなってんだい!今日日の勇者樣ってのは!!」
「いや、ありがとうございます。」
「ありがとう、じゃないよ! そっちの猫娘も!!」
「猫娘じゃないにゃ。ミヤはミヤだにゃ。」
「言っとくけど、あたしは、殺しと非道だけはしない主義なんだよ。」
「危うく、ねこみみフードを奪う為に勇者を殺した女盗賊になる所だったじゃないか!!」
『はい。端から聞くと、救いようが無い変態女盗賊さんにしか聞こえません(笑)』
…本人には言わないけど。
「じゃあミヤ?、お前もお前だよ。」
「何で『ねこみみフード』一着の為に崖に飛び込んだりしたんだい?」
「だってこれは…フェンさまの、、フェンさまからの初めての、、、」
「ミヤへのプレゼントなんですにゃ!!」
「ミヤ・・・」
…って、おい!何だか良い話で纏めようとしてるけど僕が買ってあげたのって
『ねこみみローブ』だよね?…フードはお店のオマケで貰った物だったよね?
「フェンさまから貰った『ムフフな物』は命よりも大切にゃ!!」ニヤリッ。
・・・『これでいつの日かフェンさまと、、、』
「そうか…そんなに大切な物だったなんて…盗ろうとして済まなかったな(涙)」
おーい。女盗賊さんまで。ミヤに騙されちゃ駄目ですよー。
でも二人共、全然フェンの話を聞いてくれなかった(泣)
「お姉さま・・・いい響きじゃないか。」
「ずっと男の子に『お姉様』って呼ばせてみたかったんだ!」
「で、ねこみみフードまで着せて、あんにゃ事やこんにゃ事・・・」
「立派な『変態女盗賊』にゃ。」
「おい、ち、違うからな!!そんな気は決して、、、いいかも?」
「・・・お姉様、、、ドン引きです(泣)」
「ないない。嘘だってば。フェンくーん!!」




