お兄様ですか?勇者さま。
ルチアが言う。
「勇者樣はファリスの街は初めてなんですか?」
「じゃあ街を案内しますね♪、、あとお婆様のファリス教団本部も♪」
感情が豊かな子だなとは思ったけど、検問の時より輪を掛けて
テンションが高い気がする。
押し切られて明日、案内してもらう事になる。
・・・まあ王都に行く期限はまだ先だから大丈夫だよね、という皮算用の上で。
今日の宿がまだ決まっていないので探さなきゃ、という話をすると
神官の宿舎が有るので大丈夫ですよ…と即断されてしまう。
「こっち、こっち」…こうして見ると普通の女の子にしか見えない。
今日の内に街を少し案内しておきたいと言うのでお願いして街中を散策する事になった。
こういう時に一番はしゃぎそうなミヤだが、
『ちょっと行きたい所が有るにゃん』と珍しく別行動している。
「勇者樣、勇者樣!、早く行きましょ!」
…うっ、人目の多い街中で『勇者樣』と連呼されるのは少々、
というか大分、、痛いよね。。
「ねぇ、ルチア。勇者樣って呼ぶの止めない?」
結局、街中に出る前に以前のミヤと同じくだりを繰り返す事になった。
そして…最終的に『お兄様』に落ち着いた。
「ふふふ…お兄様、ね♪」
なんだか楽しそうだし、嬉しそうだからいいか。。
街中に出ると「あのお店のお菓子が美味しい」とか「あのお店が見たい」とか
…普段忙しくてあまり来れないのかな?と勝手な想像をする。
ガルンでは怖い思いをしたのだし、ご褒美だと思って楽しんでくれるといいな、
と思う。
またフェン自身も楽しそうにしているルチアを見ていると何だか嬉しかったのだ。
「お兄様、こっち、こっち」、、、と、その時、
ルチアの脇を何の特徴もない普通の荷馬車が通り過ぎた。
「きっ、きゃーーーー!!!」
突然ルチアが悲鳴を上げてしゃがみこんだのだ。
『な、何が、、、?』
フェンも咄嗟に戦闘体制をとる、、、が、馬車に当たった訳でもなく、
周囲には敵も異常も見受けられない。
「ル、ルチア?」
「い、嫌、嫌ーーーっ」
「大丈夫、大丈夫だよ。」
ガクガクと青ざめ震えるルチアを抱き締めて言う。
「お、お兄、、様、、?」
「大丈夫だよ、ルチア。どうしたの?」
しばらくすると少し落ち着いたのか小さな声を洩らす。
「違うの…ご、ごめんなさい…」
どこか具合でも悪いのかな?
気を使いルチアに言う。
「案内は明日お願いするよ。今日は宿舎じゃなくて『自宅』に帰ったらどう?」
「僕とミヤも宿屋を探すからさ。」
「ルチアの家はどこ?お父さん、お母さんは?」
先程の様子から…家まで送った方が良い様に思ったのだ。
「ううん、宿舎で大丈夫。今、えっと…両親とは別に暮らしているの、、、」
『家庭の事情か…』これ以上聞くのも無神経に思えるので、
話を切り上げる事にした。
「今日はもう疲れたし、宿舎に戻って休もうよ。」
「うん。」…ルチアのテンションも急降下していた。
しばらく歩くと神官達の宿舎が見えて来る。
神官樣の宿舎、なんて聞くと本来なら閉鎖的な所を思い浮かべるかもしれないが、
ここファリスの神官宿舎は違う。
元々、基本的に『誰でも受け入れる』事を理念にしている教えから、
宿舎は神官樣達の他に初めて街に来て行き場の無い人や、旅人、
何か問題を抱える人のシェルター的なポジションの建物なのだ。
宿舎に入るとルチアが言う。
「付いて来て。」
言われるがままに付いて行く、、、大分奥の部屋だ。
一番奥の部屋まで来て『ここかな?』と思っていると、
「こっち」…更に廊下を曲がり奥へ進む。
「ここ、私の部屋、、。」
建物の一番奥の角部屋だった。
周りに部屋も無く完全な個室…言い換えれば『隔離』されているような部屋だった。
「受付で私の名前を言えば部屋に案内してくれます。食事も用意して貰えるはずです」
「うん。じゃあ明日。ゆっくり休んでね。」
なるべく優しく伝え、別れる。
言われた通り受付へ向かう途中、廊下で噂話しながら歩く神官樣とすれ違う。
「あの子、ガルンから戻ってから『もっとおかしく』なったんですって。」
…ガルンから戻った?…ルチアの事だ。
「すいません。今の話し、ルチア神官の事を詳しく聞かせて貰えませんか?」
渋られながらも熱心に頼んで教えて貰えた。
要約すると、、、
ルチアには家族は無く、その家族はルチアの前でモンスターに殺され、
そして、食べられてしまったらしい。
…まさか家も家族も居ないなんて…
『別に暮らしている』っていうのは心配を掛けたく無かったのかな?
今までも急に叫び出したり、泣き出したりする事が有ったのだそう。
夜中にもあるので仕方なく今の部屋になったのだ。
それがガルンから戻ってから悪化している、頻繁になったのだそう。
暗い場所やふと影が過るとフラッシュバックで発作がおこるらしい。
…そんな、、あんなに頑張り屋さんで明るく良い子なのに。
ふと思った。
なぜルチアは自分の部屋を教えてくれたのだろう?
フェンの部屋は受付で聞くなら入口で説明すれば済んだはず、、、
、、、それをわざわざ、、?
口には出さないけど、助け…て欲しいのかな?
『孫の一人も助けられずに何が勇者だと笑われるわ。』…爺ちゃんは言った。
俺も…『女の子一人助けられなきゃ勇者じゃないよね?』
受付で自分の部屋の確認だけ済ませると、すぐにルチアの部屋へ引き返した。
ルチアの部屋まで戻って来ると声を掛ける。
「ルチア、居る?フェンだよ。」…何の返事も無い。
『疲れて眠っちゃったのかな?』…本当に?
耳を澄まして聞くと小さく、カタカタと音がする。
…それよりも小さく消え入りそうな声が聞こえた『助けて…』と。
「ルチア、入るよ!」
部屋に踏み込む。
見渡しても居ない様に見えたが、ベッドの脇の床でへたりこんでいるルチアを見付けた。
「来ないで、来ないで・・・助けて…『勇者樣っ…』」
「ルチア!」
「勇者…樣、、勇者樣!」
ルチアが抱き付いて来る。『もう離さない』とばかりにしがみつく。
フェンも抱き締め、頭を撫で、背中をさする。
「大丈夫だよ、大丈夫だからね」
…本来なら親の役目だろうけどルチアにはそれが居ない。
最年少で神官になれたのも誰にも頼れず一人で生きて行く為に
必死に頑張った結果なのではないのか?
…それを『優秀だから』の一言で周りは済ませていたのではないだろうか。
『もっと褒められ、もっと認められても良いはずだ』、ルチアなら。
小さい頃、フェンもずっとでは無いが爺ちゃんが依頼で長期に留守にした
時などは寂しくて仕方なかった程だったのに。
「頑張ったね、ルチア。」
手を添えながら床下からベッドの上に誘導し寝かし付ける。
「ゆっくり、ゆっくりでいいから、安心しておやすみ…」
結局、手を離して離れると震えだしてしまうので一晩中、手を添える事となった。
本来なら『女の子と一晩一緒に』となれば、もっとドキドキする物かと
勝手に想像し、思っていたが、、、全然ドキドキしなかった。
ただ『今は、ゆっくり休んで欲しい』という気持ちしか湧かなかった。
次の朝は耳元の元気な声で起こされた。
「おはようございます、勇者さ…お兄様。」
「おはよう、ルチア」
「もう…大丈夫です。私には『お兄様』が居るのですから。」
言葉とは裏腹にルチアは握った手をなかなか離そうとしてくれなかった。
「今日も無理しなくて良いからね。本当に大丈夫?」
「うん。大丈夫だよ。」
抱き付いて胸に顔を埋めながらもう一度ルチアは言う。
「大丈夫。今日も一日、良い日になるよ。」
…まるで自分に言っているようだった。
「神官様の宿舎って何かドキドキするね。。」
「そんな昼ドラみたいな事、期待しても起きませんよ。」
「それならミヤがお相手するにゃ!」
「キャーーーー!! 耳、耳の有る大きな影が、、、。」
「ビクっ!、、、宿舎じゃなくてルチアにドキドキするね(汗)」




