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事実ですか?勇者さま。






ガルンの正門まで来た軍は見るまでもなく王国軍だろう。


王国から、ラ・クジャールと同じく決戦の為、進軍していたはず。


…なら、このタイミングでの到着も不思議ではない。



当然ながら指揮官らしき人物が名乗りを上げる。



「私は王国軍総指揮官ロベルトである。王命により来た、開門」



確かに事前に来た指令書には行軍に際してはロベルト公が


指揮を執ると記されてはいた。



ガルンの指揮官も喜びはしたものの、戦時中である。


名乗られて『はい、そうですか』と信じる様な無能ではない。



まずは本物かどうかの確認…王国の装備品を着けているか?、良し。


王国の旗を掲げているか?、良し。あとは『面通し』である。



指揮官の名前は『ロベルト』と指令書の通り。


確か王家の第何継承者だか忘れたが、そんな名前の人物が居たはずだ。


誰か顔を知っている者はいるか?と問い掛けると、直ぐに見つかった。


実は結構『有名人』らしい。



ガルンの指揮官は変わり者で権力闘争には興味が無かった為、


王族など国王樣以外は意に介していなかった為に顔も定かでなかっただけだ。


信用出来る部下の「本人に間違い御座いません」との言で初めて信用し、


あれがロベルト公か、と顔を覚えたくらいだった。



モンスターが押し寄せる前に国王軍の本隊が来てくれるなんて何て幸運だろう。


やっと安心し、正門を開き王国軍を迎え入れた。



念の為に集会場に避難させていた住民にも早く聞かせて安心させてやらなければ


・・・と、神官樣、ルチアに依頼しようとした、、、、



途端に空気が一変した。


ロベルト公の攻撃指示により、味方のはずの王国軍が散開して、


ガルンの兵士を攻撃し始めたのだ。



「なぜ、なぜこんな事を?」



ロベルト公の答えは単純明快だった…「この街の人間は皆殺し」だ。


こちらとて黙って殺られる訳にはいかない。



兵士だけでなく『皆殺し』と言っている以上、街の住民も助けなければならない。


ここには神官樣も居る。


ファリス教の神官樣を失う事だけは避けなければならない。



ガルンの指揮官はやむを得ず攻撃、反撃を指示する。



「押し返せ!!」



戦争まではいかなくとも、隣国と常に小競り合いの様な戦闘を繰り返す職場。


個々が腕に自信を持つ自慢の部下達である。味方だからと受け身ではなく、


一度攻撃に転じれば中央の兵など比ではなく、強かった。


すぐさま形勢は逆転して行く。



ただ、、、まだこの時点でさえ、ガルンの指揮官は『甘かった。』



『劣勢になればこちらの話しも聞いてくれるだろう』と期待していたのだ。



…が、違った。



ロベルト公が命令を下すと、劣勢になった国軍が一気に退いていく、、、



『これで話を、、』と思っていると、撤退した国軍の兵士と入れ代わりに…



「モ、モンスター!?」


なぜモンスターが?運悪く同時に攻めて来た、なんて事は有り得ないだろう。


と、いう事は、このモンスターは国軍の兵士、兵器だという事だ。



形勢はまたもや一気に国軍側へ傾く。


いや、傾く程度なら良かったのだが違った。


一気に虐殺の場に変わったのだ。



余裕になったロベルトは副官に聞く。



「勇者ジンへの使者の偽装兵は?」



「はっ。予定通り出立しております。」



「そうか。では勇者到着までに、こちらの仕事を済ませておこう。」



ロベルトは、一際巨大な荷車の前に立ち、魔導師に命令を下す。



「我とウォーロードの同調を開始せよ!!」





ガルンの指揮官は覚悟を決める…生き残れない、と。


だが住民だけでも助けなくてはならない。



「神官樣!」



指揮官の頼みは集会場に避難させている住民の退避だ。



退くのも困難だが、ファリス教団の神官樣が引き連れているなら


『あるいは』見逃してくれるのでは、、という期待も込めて。



「指揮官樣は?」


「自分はここで出来る限りの時間稼ぎを致します、さらば。」



敵モンスターに向かって行く…。



もう反論する隙もない強制的な『お願い』だった。


ルチアもただ「必ず。」と伝えるのがやっとだった。



ルチアも行動を開始する。行動と言っても集会場へ向けて一心に走るだけである。



『速く、もっと速く…』


人生で自分の脚がこれ程もどかしかった事は無かった。



集会場へ近付くにつれて異変が伝わってくる。


見えて来た集会場は…周囲をモンスターに囲まれ、阿鼻叫喚だった。


扉は壊されモンスターが中に乱入し住民を撲殺しているのだ。


…のみならず、住民達は食べられていた。


今まで聞いて来た嫌な音など比ではない、、、


本能的に拒絶したくなる音が響いている。


人の悲鳴、嗚咽、そして…ペキバキ、グチャグチャ、カリッゴリッ、ズルズチャ、


…聞きたくない音を無理矢理に掻き集めた様な音だった。



ルチアは自分の身体の中に生まれた悪寒、汚物を拒絶するかの様に


自然と吐き出していた。



『・・・そんな、、なんで、なんでこんな事に、、、』



もう、ガルンの指揮官の願いが叶う事は無い、という事実しか無かった。


ふらふらと立ち上がるルチアを一匹のギガントオーガが目の端に見つけ唸る。


その目に映したのは『ルチアという人間』ではなく、ただの『食べ物』である。


ルチアは逃げ出した。


道々に有る血溜まりに足を取られ転倒し泥まみれになりつつ、


それでも逃げた・・・。


ガルンの指揮官との約束も守れず、ファリス教の教えも今は助けてくれない。


自分の脚に全てが掛かっているのだ。


ルチアは生まれて初めてと思う速さで走った。


・・・だが、それでもギガントオーガは付いて来た。


歩幅も違うし、それは哀れな獲物を見て楽しんでいる様な光景にも見えた。



やがて力尽きたルチアは一軒の家屋の脇で座り込んでしまう。



『もう走れない…私も皆のように殺されて食べられてしまうの?』


『いや、生きたまま食べられてしまうのかも…』



モンスターに『齧り付かれ骨までしゃぶられる』イメージしか湧かない。



ルチアは逃れられない死神の前の供物の様に…『諦め』に心を委ねる。



「親愛なるファリス樣、只今、御許へ参ります」


静かに祈りを捧げ、その時を待った。



ギガントオーガの足音が近付いてくる。


もう足音なのか自分の心臓の音なのか判らなくなっていた…。



、、、しかし、その音は、どちらの物でもなく第三者の物だった。



刹那、馬が脇をすり抜ける。


ギガントオーガに向かって一直線に。そしてギガントオーガの首が落ちた。



「大・・丈・・・? 助け・・・した。」


誰かの声が聞こえた、、、気がする。



ルチアは『夢かな?』と場違いに、ぼーっとそれを眺めていた。



「「大丈夫ですか?助けに来ました!!」」



声が聞こえた。ぼーっとした視線を動かす。


そこには若い冒険者が居た。


段々感覚が戻り、実感が湧いてくる。



『今この人は何て言ったの?』



『助けに…来た』と?



『あんなモンスター相手に助けられる訳が無いじゃない!!』



と絶望から『助かる』現実が受け入れられない。



だが、見ればもう一人の馬に乗った冒険者がギガントオーガを物ともせず


次々に倒しているのが見える。



「う、そ、、、。助かるの?、私、、、」



抑えていた感情が溢れだす。



「私は大丈夫です…。」


「でも、、みんな、みんな、食べられてしまったの、、、」



それがフェンとルチアの出会いだった。





…その後、一緒に爺ちゃんを追い、ルチアを建物の陰に隠して別れたのだ。


『あの』お願いをして。


フェンはその後のガルンでの出来事は知らないのである。


クロネの魔法で転移させられてしまったからだ。




ルチアが語り始める。


フェンと離れた後、依頼された通りに状況を観察し続けた。


声までは聞こえないが状況は確認出来たそう。



敵と思われる兵士に冒険者が刺され、巨大なモンスターに凪ぎ払われた。


若い冒険者さんも殺られると思われた瞬間・・・


先ほど殺られたと思われた冒険者が立ち上がり、敵兵士を倒した。



その後、頭の中に直接響くような声が聞こえたのだそう。



「ガルンの民よ。勇者ジンだ。これから魔法を使う。」


「邪悪な者にしか効かない魔法だ。安心して祈りを。」


と。



ここで、先程まで倒す事など不可能と思われたギガントオーガを


切り伏せていた冒険者こそ『勇者ジン』だという事を知ったのだそうだ。



その後、巨大な光の帯が街全体を覆い、それが消えた後には敵兵士もモンスターも


勇者ジン樣も…それに『あなた』も消えて無くなっていたのだそう。



唯一の救いは犠牲になった街の住民の遺体も跡すら残さず消えた事だった。


モンスターに食い散らかされた家族や知り合いの遺体など普通の人の神経では


耐えられないだろうから…。




「…あっ。」急にルチアが声を出す。


そして、また泣き出した。



「そうだった、私、、私、、もうおしまいなんだ…」


何が『おしまい』だと言うのだろう?



止め処なく、涙がぽろぽろと流れる。



「何がおしまいなの?理由を聞かせてよ。僕が原因なの?」


聞くフェンにルチアはしゃくり上げながら答える。



「だって私『勇者樣と一緒に居た若い冒険者も死亡した』と嘘の報告を


 教団にしてしまったんですもの、、、もう私はおしまいです、、、」




嘘偽りを許さないファリス教らしい理由だった。



でも…。



「じゃあ、君の、ファリス教の神官樣としての『力』は消えてしまったの?」



「…いいえ。検問であなたの連れていた獣人の方の悪意を見抜く能力は使えました。」


「けど、、いずれ能力が使えなくなるんです。」




『…そうなのかな?』


フェンは『直感』だけども『確信』を持って告げる。




「落ち着いてよ。君が報告したのは『若い冒険者』が死んだって話しだよね?」


「はい。」


「じゃあ、あながち間違ってないよ。」


「えっ?だってこうして生きているじゃないですか?」


「冒険者の僕はあそこで亡くなったんだよ。今は冒険者じゃなく『勇者』になったんだ」



爺ちゃんから勇者を継承させられた件を説明した。



「でも…それって、こじつけなんじゃ、、、」



「ううん。きっと大丈夫だよ。お婆ちゃんも、こんな事で能力を奪ったりしないよ。」



…会った事は無いけど、優しい母さんの、そのお母さんなんだから、、、


そんな酷い事はするはず無いよね。



「お婆ちゃん?…フェンさんのお婆様って一体?」



「え?ファリスお婆ちゃんだけど。」



「えっ?・・・えーーーーーーー。」



ルチアの目が点になる。



…神格化されているファリス樣のお孫様?、と言うか、勇者ジン樣の孫?


どれだけ凄い家系なのやら…。ルチアは呆れる。


そして『おわりだ』とか思ってたのが可笑しく感じた。



「あの…もう大丈夫です。何か大丈夫な気がして来ました。


「、、、と言うか、絶対大丈夫です。」



ルチアの中で何かが吹っ切れた様だ。




「それで、また一つお願いが有るんだけど…」



「いいですよ。勇者樣の頼みなら何でも聞いちゃいますよ♪」


やっと年齢相当の無邪気な笑顔が見れた気がする。



「じゃあ、改めまして。私はファリス教神官のルチアです。宜しくお願いします。」


ペコリと頭を下げる。


「僕はフェン。勇者ではまだ無いと思っているけど一応、勇者見習いって事で。」


お互いに笑う。



「で、お願いだけど、あの日ガルンに居た事は秘密にしなきゃなんだ。秘密にして貰えるかな?」



「お安いご用です。だってあの時、私が見たのは正体不明の若い冒険者さんなのですから…。」



またお互いに笑った。



ミヤは退屈そうに欠伸をしていた、、、ごめん、ミヤ。








「私、食べられちゃうのね、、、」

 「うーん、どうかな?、、、年齢的に。」

「むしゃぶりつかれるのよっ!」

 「ルチアはもう少し大きくなってからにしようね。」

「そうにゃ。この泥棒猫!」

 「フェンさま。食べるならミヤをにゃ!」

「はい、ミヤそこまで。」


 

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