8.王妃オリアーナの裁定
このエビソードを投稿し忘れて、先に最終話を投稿してしまいました。
訂正しましたが、もし先に最終話を読んだ方がいらっしゃいましたら、申し訳ありません。
マリアンは語り終わった。
悪役男爵令嬢→普通の男爵令嬢(だから髪がピンク色じゃなかったのか)→腹黒男爵令嬢とマリアンに対しての評価はオリアーナの中で変わっていった。
敵意がこちらに向いていないだけで、認定した敵には容赦ない罠を仕掛ける。
まあ、善意だけでは貴族社会は渡れないしね。あ、貴族じゃなくなるのか。
でも社会生活を乗り切っていくには、必要かもね。
私も色々画策したわよ。
一番はジョナスが婚約破棄なんかしないように対策する事。
その最たるものがジョナスの側近を私の味方につける事。
近衛騎士団長の息子、カーク・ハイゼル。
彼をジョナスの護衛騎士として側近に取り立て、万が一の場合の対処を王家の影と一緒に打ち合わせる。
そして卒業パーティの日、ジョナスが「だから僕は」と言った時点で、話の流れから婚約破棄を口にするのではないかと危惧したカークは、待機していた王家の影に魔術道具でシグナルを送り、影が暗殺者に扮して会場に飛び込んだのだ。
ジョナスを守ろうと前に出たカークの行動は自然。
そして打合せ通り、暗殺者から攻撃を受けて膝を折り、そこから立ち上がる際にカークの頭がジョナスの顎にヒットして慌てたカークは会場からジョナスを連れ出す、暗殺者もどきは適当な所で逃げ去る、そんな作戦だった。
実は、昏倒するほど強く頭をぶつける想定ではなかった。
本番が来るとは思わず、緊張したカークが少しパニクって勢いをつけすぎたのだ。
なので私もジョナスの身体を心配したが、医師の診察によってどこも異常がないと分かって安心した。
これで全ての答え合わせ完了。
━ ━ ━
さて、では私から今回の件について各々へ言い渡す事があります。」
「ロイズ男爵令嬢。貴女には望み通り不敬の罪で男爵家全体を平民に落としましょう」
マリアンはこの上なく嬉しそうな笑顔を見せた。
「カーク近衛団長子息。貴方はジョナスを手違いで昏倒させましたが、ジョナスを果敢に守ろうとした姿勢、また初めての対人戦闘と言う事を勘案して、差し引きゼロ。お咎めなしです。」
皆の前では、こう言い渡したが、私の命令をよく聞いて実行に移した褒美を後から渡そう。
良かった、一安心、と言う表情を浮かべている所もプラスポイントよ。
「そして、セルジュ宰相子息とソレス統括長子息、貴方がたはジョナスの命令で変顔を披露せねばならず、貴族としてのプライドがとても傷ついたと思います。
だけど私はジョナスへのその忠誠心を評価したい。
後日褒章をとらせます」
はっきり言って二人は蚊帳の外。
でも、あんな場で変顔をさせられたのが、気の毒でせめて褒美を、と思った。
二人は私の言葉を聞いて、嬉しそうにしている。
「そして最後にジョナス。」
私は今回採決の本番に入った。
「貴方ね、どうしてモニカが昔みたいに微笑むことができなくなったと思う?」
「え・・・それは淑女教育が辛くて、王都での暮らしが肌に合わなくて・・・」
「そうね、当たっているけどそれは一部分のみ。」
「確かに淑女教育は辛いし、そしてその教育では貴族女性は扇の影で微笑むのが笑顔だと教えられるわ。」
「でも淑女教育だけじゃないのよ。覚える事が多すぎるのよ。それに加えて学院の課題もこなさなくてはいけない」
「ねぇ、ジョナス。貴方は国王はどのように国を統治すればいいと教わった?」
「あ・・・国王は『統率し、決断し、支持を与える』役割だと教わりました。」
「そうよね、政策立案、予算編成、法案審議、外交案件、そういった事はそれぞれ宰相や財務大臣やその他の大臣と部下か対処する。
国王は彼らエキスパートの意見を聞き、方針を決定し、命令を下す。だから広く知識は持っているけど、深く細かい知識は必要ない、そんな感じよね」
「でもね、王妃と王太子妃はそれらの案件を詳しく記憶しなければいけないのよ。
だから財務の帳簿は不正があったら見つける所まで読めるようにならねばならないし、国の法律は全て覚えなければならない。
自国の貴族のみならず、他国の重要貴族の顔と名前と爵位を頭に叩き込まねばいけない。
それがどんなに過酷な事か分かる?」
「ジョナス、貴方が婚約破棄や解消を望んでいないのは分かったわ。
でも、貴方がマリアンの笑顔が消えたのは、淑女教育だけのせいと思っていたとしたら、婚約破棄を告げようと思った場合と同じように、いいえなお一層『王太子妃教育の刑』を受けてもらいます」
皆の頭の中に「?」が浮かんだ。
「王太子妃教育の刑?何それ?」
「ジョナス、一週間モニカと同じ教育を受けてごらんなさい。その後に貴方の感想を聞かせてほしいわ」
その日から一か月後に刑は執行され、一週間続いた。
━ ━ ━
「どう、感想を聞かせて」
「どうもこうも・・・毎日の予定の過密さに精も根も尽き果てましたよ。過酷すぎます」
「言っておくけど、貴方は王族としてマナーも国際情勢も主要貴族の名前も幼いころから学んでいるし、知っている。でもモニカはほぼ一から学ばなければいけなかったし、学院の課題までこなさなければならなかった。
貴方の二、三倍大変だったと思いなさい。」
二、三倍と聞いてジョナスは青くなった。
何年間もあの教育を受けていた。
そんな状態で、笑顔が出るはずもない。
「笑顔が出ない理由が分かった?
それでもモニカは諦めないで、教育を受け続けたのよ。
貴方に相応しい淑女になって、貴方の執務の助けになろうと思って」
僕が感想を述べた場にはモニカも同席していた。
僕はたまらず、モニカの側に近寄り、彼女を抱きしめた。
「ありがとう。僕の為にあんな過酷な教育に耐えてくれていたなんて。
気付かなくてすまない。本当に本当にすまない。
僕を許してくれるかい?」
「自分で選んだ事ですもの。
まあ想像よりだいぶ過酷だった事は確かですが。
愛する殿下の側にいる為と頑張りました」
モニカは、王太子妃教育が終わり、王太子妃になるまでの間、結婚式の準備以外の事はしない毎日を送っていた。
なので、徐々に体力気力ともに回復し、瞳のきらめきを取り戻してきていた。
ただ、正式に王太子妃、その後王妃になれば、また過酷な王妃業務が待ち受けている。
だからオリアーナは、常々考えていた事を実行に移す事にした。




