9.オリアーナの回想
最終話です。
なんとか着地しました。
オリアーナは、前世で異世界小説を読んでいる時、文句をつけたい場面があった。
それは、婚約者の男性が婚約破棄をする理由を、笑顔がないとか、冷たい態度が気に入らないと言っている場面だ。
淑女として振舞うようにと教育を受けているのに、受ける前の声を立てて笑う事など出来るはずがないだろうが。
冷たい態度も、貴族女性は感情を露わにしてはいけないと言われているのだ。
一生懸命婚約者に恥をかかせないよう、その立場に相応しい令嬢になろうとしているのに、それを非難されればどうすればいいのだ。
男性の隣にいる男爵令嬢は、貴族のマナーが身についていないか、またはあざとく貴族らしからぬ笑顔と言動をわざとしているかのどちらかだ。
そんなのにまんまと引っかかって、馬鹿な男だなーと思っていた。
そこからの異世界転生。
前世の記憶が蘇る前は、王妃って大変だけど仕方がないわね、と考えていた。
それでも外交の場で数人の他の国の王妃と話す機会があった際、国政に関する事には携わっていないと
皆が言っていて「あら、我が国と違うのね」と少し疑問に思った。
私は記憶が蘇ってから、代々の王妃の覚え書きやら王宮記録やらを読み漁った。
そして判明した事がある。
この国の王妃のやる事が多くなったのは、四代前から。
どうも「真実の愛」を宣言して婚約を破棄して、男爵令嬢と結婚した王太子がいたようだ。
結婚に先立ち、将来王妃になるのだから、それに相応しい振る舞いを身につけるよう毎日厳しい教育が行われた。
教育係の教師陣は、男爵令嬢を自分達の身分よりも下の貴族のくせに、と馬鹿にしていて嫌がらせも兼ねて、とても厳しく指導した。
それまで下位貴族向けの教育しか受けた事がない男爵令嬢は、それはそれは苦労した。
さて、人間には色々な考え方の者がいる。
辛い出来事があった時、他の人には自分と同じ苦しみを受けてほしくない、と考える者と、私だけ苦しいなんて不公平だ、後進の者も同じ苦しみを受けるべきだと考える者に別れると私は思っている。
残念ながら、男爵令嬢は後者の考え方の人間だった。
そして王妃になるような令嬢は普通上位貴族だろうから、私と同じ教育を受けてもそこまで苦痛には感じないだろう、ならば王の片腕となるべく政務の全てに精通する、という名目で国政にも関与できるだけの実力を持たせる為の教育を施すようにしてやる、と考えた。
国王の側に常にいて、耳元で自分の知識や情報を小声で教える。
大臣や官僚から話を聞くより、いつも身近にいる王妃なら普通の会話をしているようにも見えて体裁が良い。
そのような訳で王妃の過酷業務は四代前から始まり、それ以前は普通の執務量だったようだ。
頭の中でそんな事を考えてから、声に出して言った。
「私はね、この国の王太子妃教育とか王妃の執務を変えようと思うの」
私は三年前に王太子妃から王妃になった。
それまでは王太子妃という立場だったから、私の意見に賛同するものは少数だった。
だけど三年前に前国王が王位を息子に譲ったので、私の夫は国王となった。
その時点で王妃となって以来、三年間着々と力をつけてきた。
今なら王妃および王太子妃の役割を昔に戻せる。教育する内容も変える。
そしてその変更はオリアーナとモニカにも適用されるようにした。
こうして私達は異常な忙しさから解放された。
━ ━ ━
それから一年後、ジョナスとモニカは無事結婚し、仲睦まじく幸せそうに過ごしている。
モニカのお腹に新たな生命が宿るのも、そう遠い未来ではないだろう。
側近の三人は、変わらずジョナスの後ろに控え、忠実にジョナスに仕えている。
マリアンは、念願の復讐を果たし、愛するピーターの元に戻って結婚し、幼かった頃思い描いた夢を実現させてこちらも幸せそうだ。
モニカの心の支えとなっていた刺繍の先生のセイラ伯爵夫人。
彼女とお茶会で仲良く話す姿を何回も見かけている。
王太子妃にとても気に入られていると伯爵家も彼女自身も評価がうなぎ上りだ。
もう一人の心の支えだった用務員のマンデルさん。
実はモニカの父親と知り合いで、昔マンデルさんが困った事態に陥った時、父親が助けたみたいで恩義を感じているようだ。
モニカが王太子と婚約を結んで王立学院に入学するという話を聞いて、何かできる事があれば力を貸すぞ、と申し出てくれたそうだ。
その言葉に甘えて、モニカの父はモニカの学院生活を見守っていてほしいとお願いした。
マンデルさんの正式名はガウス・マンデル・グレイ。
元グレイ侯爵閣下だ。
王立貴族学院の学院長とも知り合いで、用務員として雇うようゴリ押しした。
はれて用務員となったマンデルさんはモニカを陰から見守っていたが、日に日に生気がなくなっていくモニカの姿を目にする事になる。
これはワシの出番だな、とばかりにモニカに声をかけ、少しでも休息を取れるように用務員室で昼食を摂るよう提案した。(ちなみに用務員室は学長の配慮により入口付近は元のままだが、カーテンで仕切られ奥の部屋は豪華に改装された。その為モニカと学長以外は立ち入り禁止だ)
モニカの父は、マンデル閣下が学院長と親しいことを知っていたので、学院長からモニカの様子を聞いてもらおうとだけ考えていたが、まさか用務員となってモニカの近くで見守るとは思ってもいなかったので、ものすごく焦った。
しかし閣下は自分の願いだけではなく、モニカ自身を気に入ってくれたようで、それは親身に世話を焼いてくれた。
父は心からマンデル閣下に感謝した。
ここまでは幸せな道をたどった人達の話だが、不幸せな人生に落ちた人達もいる。
もちろんロイズ男爵家の面々。
平民に落とされ、ほとんど財産もなく、王都の片隅でひっそりと暮らしているようだ。
そしてイザベラ・クロッシュ伯爵夫人。
モニカの最初の天真爛漫な姿が気に食わず、必要以上に厳しく指導した。
そしてモニカに「ちゃんとした淑女にならなければ、ジョナス殿下に見限られるから、今は親交を深めるよりもある程度距離を置いて、マナーが完璧に身についた時にお会いすれば、驚かれて更に愛が深まりますよ」とモニカに吹き込んだ。
当然淑女教育の教師を辞めさせた。
王族にクビにされたという噂が、あっという間に広がり、以降彼女に淑女教育を依頼する貴族はいなくなった。
今は屋敷に引きこもっている。
まあ、全員収まる所に収まったと言えるだろう。
私も今後は産まれるであろう孫に、関われる時間が持てそうだ。
ああ、これからの人生楽しみだ。
━ ━ ━
ある夜、夢を見た。
前世の私の息子、蓮が出てきた。
「母さん、今僕ね、少しずつだけど映画に出演できるようになったんだよ。今後最終的な夢を叶える事が出来るのかどうか分からないけど、やるだけやってみるね」
「こんなに早く別れの時がくるなんて思ってもみなかったから、母さんにいつまでも甘えて反抗的な態度をとっていたんだ。すごく後悔してる。親孝行全然出来なくてごめんね」
そう言って、蓮は泣いた。
むしろ私の方が謝りたいわ。あなたの成長を高校生までしか見守れなかった事。
だからいいのよ、あなたが産まれてきて元気で育ってくれた事だけで、もう孝行は済んでいるわ。
大事な大事な私の宝物。
どうか悔いのないように自分の力を出し切って人生を送ってちょうだい。
そう思ったところで夢は終わった。
蓮とジョナスの幸せを祈って、私は改めて眠りについた。




