6.さあ、答え合わせをしましょう②
「だってイザベラ先生が・・・」
「イザベラ・・・イザベラ・クロッシュ伯爵夫人、淑女教育担当ね」
オリアーナはイザベラの姿を思い出す。
ひっ詰めた色気も何も感じられない髪型。
銀縁の眼鏡。
前世の自分が中学生の時のオールドミスの国語の先生にそっくりだ。
モニカには王太子妃教育の為、淑女教育の先生、各学問の先生、刺繍の先生など、総勢七名の教師が付いている。
その中で、イザベラは淑女のあるべき姿、心構え、マナーなどを教えている。
「イザベラ先生が、私の立ち居振る舞いは全然王家の基準に達していない。もっと一生懸命学ばないとジョナスとの結婚式まで間に合わないし、そうするとジョナスに恥をかかせる事になるので、今は他の事に気を取られないで、必死にマナーを学びなさい、っておっしゃるんです」
「だから言われた通りに必死にやっているんですが、もう毎日他の授業の兼ね合いや学院での課題もあって忙しすぎてジョナスと会って話したいのに、ジョナスも忙しくて時間は合わないし、どんどん頭の中がグチャグチャになっていってしまって・・・」
あ~これはアレだ。
本人は気づいていないかもしれないが、心を病み始めている。
うつ病と病名がつく一歩手前だ。
月に一回、国王陛下も交えて夜の食事会を開いて会ってはいたのだが、その時はモニカは厚化粧で顔色の悪さを隠していたようだ。そして淑女教育の賜物で疲れた様子を微塵も見せず、こちらから教育はきつくない?大丈夫?と問うても、大丈夫です、と言うので安心していた。
でも、気付くべきだったのだ。。
ジョナスとの会話もどんどん少なくなっていって、当たり障りのない話題を時たまするだけ。
国王陛下も同席しているので、二人で話してばかりいてはいけない、と考えていると思っていた。
オリアーナはモニカの事を気に入っていたのに、忙しいとは言え、どうしてもっと気を配ってあげられなかったのか。
― ― ー ー ー
モニカは疲れていた。
とてもとても疲れていた。
淑女教育は、一生懸命学んでいるし、自分では相当淑女らしく振舞えるようになってきたと思えるのに、
王族に嫁ぐにはまだまだ足りないと先生は言う。
とても厳しい指導で、先生もすぐ癇癪を起し、一時も気を抜けない。
これ以上どうすればいいのか分からない。
淑女教育の時間は、苦痛でしかない。
それとは逆に、刺繍指導のセイラ・アイビス伯爵夫人は穏やかな女性でモニカの拙い技術を見ても、
「これから何枚も刺繍していけば、慣れて上手くなっていきますよ」と励ましてくれる。
「刺繍した小物などは、孤児院のバザーなどに出して孤児院の収入源とするのです」
「ご婦人方とのお茶会などの場でも、よく話題に上りますので社交にとても有効ですわよ」
「そして王太子殿下に刺繍したハンカチなど差し上げたら、とても喜ばれると思います」
刺繍を上達させるメリットを三つも教えてもらえて、モニカは俄然やる気が出た。
やる気を出したモニカの集中力はすごい。
メキメキ刺繍の腕を上達させた。
あんなに苦手だった刺繍が、そして優しいセイラ夫人に習う時間が、モニカにとって一番の癒しの時となった。
他の授業も問題なくこなしていたが、とにかく覚えることが多すぎる。
しかも学院の課題もあるのだ。
ジョナスにどこで昼食を摂っているんだ、と言われたが実は学院の用務員室で左手にパンを、右手に教科書を持って学院の課題を片付けている。
こんな姿は、決して外には見せられないし、こんな事をしているから、どこからかお行儀の悪い雰囲気が滲み出て淑女教育で先生のお墨付きが貰えないのかもしれない。
それでもモニカには時間が足りないのだ。
モニカが学院の課題を片付ける時間は朝と昼休みの時間しかとれない。
学院内で勉強する方が捗るので、毎朝早くから登校していたら、学院の用務員さんと仲良くなった。
六十代くらいのマンデルという名前のお爺さんだ。
平民だけど頼み込んでこの貴族学院の用務員にさせてもらった、と言っているが、どことなく品を感じさせる。
仲良くなった用務員さんはモニカが昼食の時間も削って勉強している話を聞いて、
「もし嫌じゃなかったら、用務員室においで。
片手でつまめる野菜と肉を挟んだパンを用意しておくから、それを食べながら勉強するといい」
「もちろんそこでの振る舞いは誰にも話さないし、安心していい」
と言ってくれた。
初めは辞退していたモニカも、用務員さんに押し切られ、それからは昼食時はいつも用務員室に向かっていた。
用務員室はとても綺麗に片付けられていて、豪華そうなソファセットまで置いてある。
「古ぼけた家具なんかは学院が下げ渡してくれるんだよ。ありがたい」
そんな設備の整った静かな環境でモニカの学習は捗り、とても助かった。
その内昼休みだけではなく、授業の合間に時間があれば用務員室で過ごした。
セイラ先生とマンデル用務員さん。
この二人がいてくれたから、何とか辛い毎日も耐える事が出来た。
そして卒業パーティの日。
その日はさすがに学院の課題は出されてないし、王太子妃教育も全部お休みだ。
ジョナスが家まで迎えに来てくれた。
「綺麗だ」と私のドレス姿を褒めてくれた。
学院のホールに入る際はエスコートしてもらって、その後ファーストダンスも踊って、一緒に卒業生達と会話した。
私は今まで怖れていたのだ。
ジョナスと会話している内に婚約解消の話が出るのではないかと。
高等部の二年の時から一学年下の男爵令嬢と仲良くしていると聞いている。
不安だけど聞けなくて、長く一緒にいて会話していれば、婚約の話になるかもしれないと。
だけど今日のジョナスはちゃんと私を大事に扱ってくれた。
不安な心が安定していく、その矢先、
ジョナスが男友達と歓談してくると別行動を取った後に、私の元に戻ってきた時、その横には噂の男爵令嬢、そして後ろに側近三人を引き連れてきていて、話を聞いてほしいと言う。
そしてジョナスが決定的な言葉を言おうとしている時に、曲者が飛び込んできたのだ。
こんなに話が長くなる予定ではなかったんです。
書いている間に矛盾点が見つかって、説明を入れたり、思わぬエビソードを思いついたり・・・
やっぱり慣れない内は全部書き上げてから投稿した方がいいですね。




