4.モニカについて
この章では視点が状況解説→モニカ→モニカの父親と切り替わります。
モニカは南の辺境領ロンデルの出身だ。
ロンデル辺境伯の長女、モニカ・アリアナ・ロンデル。
長女ではあるが、上には二人の兄がいる。
父親も兄達も屈強な武人、母親も魔法を使いこなして、隣国との境界を守り、時たま現れるはぐれ魔獣を撃退したりもする。
そのような環境で育ったモニカは上位貴族とは言え王都の令嬢達とは一味違う。
外遊びが好きで、よく走り回ったり木に登ったりしていた。
普通の令嬢がするような室内で長時間座って作業する刺繍とかは苦手。
辺境という外敵らの脅威が多い土地柄ゆえ、剣も体術も攻撃魔法も乗馬も出来たし、それらを学ぶのは楽しいし好きだった。
毎日自然の中を駆け回って、遊んで心から笑って元気に楽しく過ごしていた。
その日常が変わったのは、一つの出逢い。
モニカが九歳の時、王都から辺境に視察に訪れた同い年の皇太子ジョナスとの交流だった。
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黒髪でサファイアのような青い眼を持つ、子供ながらに既に完成された美貌を持つジョナスにじっと見つめられると、心臓がドキドキして顔が熱くなる。
そんな外見だけではなく、王太子という言わば最上位の立場にありながら、権威を誇示するわけでなく誰にでも温厚に応対する姿に心惹かれていった。
決定的だったのは、はぐれ魔獣が出た時。
はぐれものは、普段は森の奥深くで穏便に暮らしている同じ種類の群れから何らかの理由で追い出されて、人間の住む領域に来てしまう個体だ。
それほど頻繁に出る訳ではないので、油断してジョナスと一緒に森付近に散歩に向かった時、森の入り口付近にはぐれ魔獣が出た。
それも普通は一匹だけなのに、三匹いる。
グリガンベアー。
元々は普通のクマだったが、住んでいた近辺に魔素溜まりが出来て高濃度の魔素に晒されている内に魔獣に変化してしまう。
普通のクマでも危険なのに、魔獣と化したグリガンベアーは普通のクマの十倍以上の力を持ち、体格も倍以上。
討伐するのは一苦労だが、コイツの肉は美味い。
なぜか臭みもほとんど無く、豚肉よりももっと深みのある味わいがある。
なので実は我が領の特産品なのだ。
また魔獣化すると、その体内に魔石ができる。
魔石はアクセサリーにしたり魔術の媒体にしたり用途が多岐に渡るので、とても重宝される。
もちろん私達二人だけではなく、護衛の騎士が七人ついてきている。
皆が臨戦体制をとる。
もちろん私も慣れたもので、舌舐めずりをして剣を握ろうとしたのだが、そんな私の前に守るように立ち塞がったのは王太子だ。
いやいや、あなたが一番守られるべき存在ですよ、と心の中で突っ込んでいたが、眦をキリリと上げ、騎士達に「お前は左のヤツを受け持て」「お前は弓でまず先制攻撃を行え」と普段の優しい顔からは想像できない果敢な姿で次々と迅速に指示を飛ばす。
自分も討伐に参加しようという感じだったので、「殿下、ここはお付きの騎士達に任せましょう」と私も討伐参加は諦め、二人で騎士達の活躍を見守った。
一時間位の戦いの末、死者も出ず無事に三匹の討伐を終えた。
私はジョナスの凛々しい姿に、一気に惹かれていった。
そして視察が終わった最終日にジョナスから嬉しい申し出があった。
「モニカ、最初に顔を合わせた時、君の屈託のない太陽のような笑顔がすごく魅力的に見えた。
君には王都の令嬢達とは違う生命力が感じられて、そんな君が側にいてくれれば、将来国王になった時重い責任に押し潰されそうになっても立ち上がれそうな気がする。どうか僕の婚約者になってくれないか?」
ジョナスは私の笑顔が好きみたいだけど、それは薄っぺらな外見の評価ではなくて、笑顔を通して私の内面を好ましいと思ってくれているようで、とても嬉しかった。
もちろんジョナスに好意を抱いている私は、間髪入れず「はい。こんな私でよろしければ・・・」と返答した。
もちろん正式な婚約は、両家の両親が話し合ってから決まる。
将来の王妃になる事とかその為に必要な能力が自分にあるかとかは全く頭に浮かんでこなかった。
何しろまだ九歳だった。
王都の上位貴族の令嬢ならば王妃になる事への心構えとかを言い聞かせられているのだろうが、一切その大変さは分からなかった。
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領地は財政も安定し、有能な時期辺境伯候補の息子が二人もいる。だから特に娘に政略結婚をさせる必要はない。
モニカは貴族令嬢としては色々欠点はあるが、それを許容して、彼女の天真爛漫な性質を矯正しようとはしない寛容な男性を見つけてほしい。身分はどうでもいい。そしてそんな男性と恋愛結婚して自分の思うように楽しく幸せに生きてほしい、そう思っていた。
それがまさかの王太子との婚約話。
何もかもが自分達の考えていた理想とは逆張りである。
まあ王太子は確かに娘の令嬢らしからぬ所が好ましいと思ってくれているみたいなので、そこはいいのだが。
しかし王太子の周りは絶対にそれを許してはくれない。
モニカが苦労するのは目に見えている。
なのでお断りしたいが、それが出来るはずもなく。
何よりモニカが王太子に好意を寄せているのだ。
あんなに男の子を意識している姿は初めて見た。
モニカに問うてみる。
「モニカ、結婚するまで、いや結婚した後の方が大変か? とにかくジョナス殿下と一生を共にするとなると、これから辛く困難な道が待っていると思うぞ。
それでも婚約しようという気持ちは変わらないか?」
モニカはあっさり「はい。お父様もお母様も私は根性があるっていつも誉めてくださるじゃないですか。だから大丈夫です」と答えた。
いやいや、きっと想像よりもはるかに苦しい茨の道だぞーと思うけれど、我が子のド根性にも期待している気持ちはある。
妻も心配そうな表情をしているが、モニカの自分で決めたことに一直線に進んでいく気性は分かっているので、婚約話を断る事は出来ないのなら、娘の頑張りに期待しようと思っていたと後日聞いた。
そんな訳で九歳で婚約を結んで、十歳になった時点で、王立学院に入学するに先立って、侍女と数人のメイドと共に王都に移り住んで王太子妃教育が始まった。
貴族学院中等部入学は十三歳からだ。
もちろん婚約以前から教育はしてきた。
しかし淑女に必要な教育は最低限。
体幹がしっかりしているので、綺麗なカーテシーは出来るし、運動神経がいいからダンスも上手だ。
言葉遣いも公式の場ではしっかり令嬢言葉を使いこなす。
しかし、マナーや礼儀の習熟度は、せいぜい下位貴族なみ。
そして刺繡が下手。
手先が不器用な訳ではないが、本人が練習を怠るのだ。
学業関係は良好。
じっと座っているのが好きではないので、勉強時間は短いのだが一度聞いた事は忘れない。
特に地理、数学、化学、各国の言葉など興味を持つ学科にはずば抜けた成果をみせる。
いやいや、令嬢にそんな学問必要?世界を旅する錬金術師とか目指してるの?と思うが、皮肉なもので王妃になるかもしれなければ、有用な知識になるかもしれない。
十歳から十八歳までの八年間、きっととてつもなく大変だっただろう。
だが、モニカは耐え抜いて、卒業パーティの日を迎えたのだ。
本文ではモニカの家族の名前がまったく出てきませんので、ここに書いておきます。
ロンデル家当主・・・デイブ・バリー・ロンデル辺境伯
ロンデル家当主夫人・・・シルビア・ローゼ・ロンデル辺境伯夫人
ロンデル家長男・・・テオニス・ジーク・ロンデル
ロンデル家二男・・・パリス・ラウル・ロンデル
そしてやっとちょっとだけだけど、魔法と魔術という言葉が出てきます。(ソレスの紹介の時に少し出てるけど)
やっぱり異世界には必須ですよね。
この世界は魔法も魔術も存在しています。




