2.学院での日常
セントディア王立貴族学院高等部の卒業パーティー。
最後の無礼講の場。
今までは全員が学生の身で、学院長の「身分は考慮せず一学生として公平に扱う」と言う言葉通り、例え下位貴族が上位貴族に対して、不敬な行動・言動をしても「不敬だ」と断罪できない事になっている。
あくまでどちらの行動や言い分が正しいかを調査して、教師陣が注意をするような形だ。
とは言っても、学院を卒業してから同じ事をしたら不敬罪で罰せられるし、学院内では罰せられなくとも社会に出た時、学院でのもめ事を根に持っている上位貴族がいたら、後日仕返しされるかもしれない。
だから学院の生徒は、学院長の言葉を額面通りには受け取っていない。
いないのだが、学院内だけしか下位の者は上位の者と交流を持てないだろうと考えているので、恐る恐る下位の者から上位の者へ勇気をもって話しかける。(対話の際、普通は最初に上位貴族から話しかけない限り、下位貴族から口を開いてはいけない)
勿論生徒は公平との建前を信じず、敬語を使って。
ただ慣習を重んじている上位貴族の者には、決してこちらから話しかけはしない。
許されているとは言え、不快に感じられたら後々どうなる事か分からない。
普段の対応を見て、また上位貴族の方から「遠慮せず同じ学び舎の学徒として、接してほしい」みたいな事を言ってくれるような人物に声をかける。
案外、そう言ってくれる人は多く、その中でも断トツ人気は王太子殿下だった。
彼は元々色んな階級の人と触れ合いたいと考えていた。
だから王太子殿下からも声をかけるし、その逆もしかり。
様々な生徒が話しかけるが、その中で特に気安く話しかける女子生徒がいた。
マリアン・ロイズ男爵令嬢。
王太子ジョナスの婚約者である、モニカ・アリアナ・ロンデル辺境伯令嬢と同じ燃えるような深紅色の髪、碧色の瞳を持つとても可愛らしい顔をした女子だ。
彼女は学院長の言葉をまともに受け取っているのか、ジョナスに対して敬語を使わず友達同士のような口調で話しかける。
そして、貴族女性には珍しく、嬉しいと心から思っていると読み取れる満面の笑顔をジョナスに向けるのだ。
ジョナスはと言えば、もっとフレンドリーに皆にも振舞ってほしいと思っているのに、さすがに王太子という立場の者に対して、普通の感覚の者は、そこまでざっくばらんには付き合えない。
話しかけられるだけでも光栄なのに、それ以上親密に振舞うのは失礼すぎる。
だが、マリアンは違った。
ありのままの感情で、友達言葉で話してきて、とうとう「ジョナス殿下」から「ジョナス様」に。最終的に「ジョナス」と敬称なしで呼びかけるまでになった。
周りにいる人々は「うわ、やっちゃったよ」「ないわ~、どうなっても知らないよ」みたいな反応を見せているのだが、本人は全く気にしていない。
それどころか敬称なしで呼ばれたジョナス自身は、とても嬉しそうである。
それを見て他の生徒達も、もっと親密に接してもいいのかも?という考えが一瞬頭の中をよぎるが、貴族としての常識が身に染み付いていて、とてもじゃないができない。
何とか上位貴族が「ジョナス様」呼びをするのが、精一杯で限界だ。
そして二人はどんどん仲良くなっていった。
あわせてジョナスの側近候補の、近衛騎士団長の息子カーク、宰相の息子セルジュ、魔法庁の長官の息子ソレスとも仲良くなっていく。
そんな状況を冷静に見つめる目がある。
ジョナスの婚約者、モニカだ。
見つめるだけで、何か苦言を呈する訳でもなく、さっと踵を返して歩みを進め、ジョナス達と離れていく。
モニカは、とても気になるが、構っている時間はない。
一分一秒が惜しい。
毎日をそんな切羽詰まった環境で過ごしているモニカであった。




