第12話 8月6日- 翼の領域
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第12話です。
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妖怪は、幽霊と同じように普通の人間には見えない。
見ることのできる人間は、大きく分けて三種類いると言われている。
霊感というものを持つ人間。
幽霊・妖怪自身が見てもらいたいと思った人間。
そして、なにかしらの異能を持つ人間。
四ツ橋の人間は妖化しているとき、限りなく妖怪と近い存在になる。即ち、普通の人間には観測できなくなる。
四ツ橋の秘技、妖化。妖怪の力を自分の体に纏うことで、鎧や衣服として顕れ、防具や武器の役割を果たす。
妖化の範囲が広いほど妖怪との同期率は高まり、力も増す。だがその分、妖力の消耗も大きい。
ちなみに五行五木の能力、五獣の力も妖化が由来している。
榊橋鳥居は逸美原市の上空、高度約一キロメートルにいた。雷獣の案内でここまで来たが未だに何ら発見できていない。
その脚には雷獣の妖化、白と黄の鎧。近いものとすれば、脛当てという方がイメージしやすいだろうか。
雷獣は空に住まい、空を駆ける。その脚ならば空中歩行は可能だ。
落下は別として、あくまでも歩行・走行速度でしか移動はできない。
もっともその走力も妖化によって強化され、人間の世界記録は優に超えている。
(本当になんかいたのか、ってかお前こんなとこまで来てたんだな)
鳥居は問いかける。雷獣は思った以上に熱心に探索をしていたらしい。
(いた、さっきは、お話し、遅く、なった、動いた)
(……悪かったよ)
雷獣の思念は会話文ではなく、途切れ途切れに並べられる。それでいてこちらの言っていることを理解しているから不思議なものだ。
他の妖怪もこうなのだろうか、人型妖怪なら普通に会話できそうだ。今度会ったら同じような獣の妖怪を従えている、獅子に聞いてみよう。ただ、あいつのは神、だったか。
空の上では何かを考えるか、雷獣と会話するくらいしかやることがない。眼下の光景に目を輝かせたのも昔の話だ。雷獣も口が達者ならいいのだが、そうでもない。
(ご主人、上)
雷獣は何かに気が付いたようで、鳥居も上を見やる。異形。翼の生えた狼がいた。
獅子や先ほどの五木少年が言っていた悪魔だろう。向こうもこちらに気が付いたらしく落下を始めた。
両腕、指先から肩までを妖化させる。基本的な戦闘はこの両腕の妖化で事足りる。空中では脚も妖化せざるを得ないが。
雷獣の妖化。その特筆すべき能力は二つ。
一つは空中歩行。翼による飛行、ではなく歩行。とはいえ、空中を駆ける能力を持つ四ツ橋の人間はそう多くない。
もう一つ、雷獣の主な力。自身の妖力を電気へ変換し、電気を体に纏う。電撃を放つこともできる強力な能力だ。
鳥居は体を傾け、落下してくる狼に正面で向き合う。空中での自由な機動がなせる技だった。
牙をむいた狼に拳を突き出す。右のストレートパンチは狼の鼻先から顔を砕いた。
(鼻、痛そう。かわいそう)
雷獣の声。姿が似ているから共感でもしたのだろうか。
狼は落下し、途中で光と化した。
この程度なら問題はない、鳥居は思った。今ここでいくら倒しても金にならないのが残念だ。
「ほう、我にここまで接近するとは」
声が聞こえた。雷獣のものではない。
いつの間にか前後左右上下、全方位を翼の生えた狼に囲まれていた。
(ご主人、やばい)
(わかってる)
すぐに襲い掛かる様子はない。
「騎士団にはここまで来ることのできる人間はいない。お前はなんだ?」
声を発しているのは他の狼に比べ一回り大きい個体だった。そして他と明らかに違うのが、その尾が蛇の頭というところだ。
「通りすがりのビジネスマンだ」
それだけ返事をする。右腕に妖力を集中し、電力へ変換させる。
「お主を喰えば、我が主も少しの間安泰よの」
「俺は食べ物じゃないんだがな」
「喰う喰わぬはさておき、お前はここで死ぬ」
多数の狼がこちらを目掛け空を駆けてくる。その数は百を超えている。数えている余裕はない。
全方位からの牙。
脚の妖化を解く。落下が始まる。
上空千メートル。地面までおよそ二十秒。
二秒ほどで下から向かってくる狼と接触する。
真下へ拳を突き出す。目的は先ほどのパンチではない。その動きで雷を放つ。
妖力から変換され、右腕の鎧に蓄えられていた雷が空を走った。
白い稲妻は多数の狼を焼き、道が開く。
追手の狼は鳥居の落下速度よりも早い。その翼ゆえだろうか。
(追いつかれるよ)
(わかってる……!)
高度はおよそ三百メートル。最初の三分の一以下まで来た。
空を駆ける雷獣の力を借りていても墜落の衝撃で死んでしまうところは他の生物と変わらない。
妖化の範囲を広げる。腕と脚だけ、ではない。全身だ。人体では落下からの空中静止の衝撃に耐えられない。
妖化の装束。それは武者の具足に似ていた。兜には幾重にも枝分かれした稲妻があしらわれている。各所に付けられた雷獣の毛で空気抵抗を生み出す。落下速度が落ち始める。
翼の生えた狼は尚も追跡をやめない。
上方向へ腕を突き出す。放電。
妖力を電気へ変換しきれておらず、威力は低い。少し痺れてもらう程度でいい。
残りは百メートルくらいか。着地先は山の山林だ。
落下速度はかなり落ちた。脚に妖力を流す。
雷獣の特性が発揮され、そのまま見えない階段を駆け下りるように走った。
山林に入り、ようやく一息つける。
追手は来ない。おそらく、深追いして人目に姿を晒すことを避けているのだろう。
木々の枝を折ってしまうことをそっと詫びる。いまだ追手の気配は感じられない。
翼をもつ狼の姿をした悪魔、その分身の大本が、空に潜んでいることを伝えねばならない。
まずは社長に報告か。守銭奴のあいつのことだから、色の騎士団に情報を売るだろう。
情報提供の特別手当てを期待しよう。
期待を抱き、鳥居は会社、アヤタイのオフィスを目指した。
社長は騎士団からそれなりの額をせしめたらしいが、鳥居に特別手当が支給されることはなかった。
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次回、約束通り現れた騎士団は何を語るのか。
「第13話 8月6日-3 色の騎士団」




