第9話 夜更けの書庫で見つけた削除頁
その夜、私は書庫に籠もった。
昼間の査察で、修道官たちは必要以上に古い家門台帳へ目をやっていた。誰かが、ここにあるはずの何かを探している。そう確信したのだ。
「一人で探すつもりか」
振り返ると、クラウスが灯りを持って立っていた。
「公爵は寝る時間では」
「婚約者が夜更けに梯子へ登るなら、止める役がいる」
止めると言いながら、彼は梯子を支えてくれた。上段の棚には、王都から送られてきた過去の照会箱が並んでいる。私はその一つに、妙な重さを感じた。
蓋の裏板を外すと、薄く折り畳まれた紙が滑り出た。
補正頁だ。
私の出生登録台帳から抜き取られた、本来の訂正記録。父が戦地から戻った後、正式な認知と家名継承が行われたことを記す頁だった。署名は当時の筆頭登録官、封蝋も本物。私が偽物でない証拠そのもの。
「あった……」
指先が震えた。ようやく、私の人生から削り取られた一枚を取り戻したのだ。
だが箱の中にはもう一通、王都聖務院からの照会文も入っていた。差出人は白曜慈善会、名義人はセラフィナ・ベルン。私の補正頁のみを指定して持ち出すよう求めている。
「聖女候補が戸籍補正頁を欲しがる理由は一つですね」
「君を偽物にして、自分を本物に見せるためだ」
梯子を降りる時、足を滑らせかけた私の腰をクラウスが支えた。距離が一気に縮まり、心臓が変な音を立てる。
「……ありがとう」
「礼は証拠が揃ってからでいい」
低い声が耳元に落ちる。私は慌てて一歩下がった。
まだ終わっていない。けれど、これで戦える。




