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第8話 本物を名乗る聖女候補

 セラフィナからの手紙は、香油の匂いが強すぎた。


 白い封筒を開くと、流麗な筆致でこう書かれている。『本物のベルンの血を汚した件、王都にて正式に悔い改めなさい』。


「本物、ね」


 私は鼻で笑った。こちらを偽物扱いしたいのはわかるが、自分から本物を名乗るあたり、ずいぶん焦っている。


 同封されていたのは白曜慈善会の査察通知だった。ノルトハイム公爵領で慈善配給が適切に使われているか確認するという名目で、王都の修道官たちが来るらしい。


「査察ではなく牽制だ」


 クラウスが通知を読み、机へ置いた。


「断れば隠していると言われる」


「受けましょう。むしろ好都合です」


 私は慈善会の推薦状を並べた。架空世帯に付いていたものと同じ書式、同じ封蝋。王冠の欠け方がやはりおかしい。


「この印、私の偽造出生証と同じ癖があります」


「なら敵は一つだな」


 査察当日、クラウスは玄関前で私の手を取った。人前でそうするのは契約通りだ。なのに体温が予想以上に近い。


「紹介しよう」


 彼は修道官たちへ向けて言った。


「彼女は私の婚約者、リーゼロッテ・ヴァルターだ。今後、領内の戸籍と救恤台帳は彼女が管理する」


 修道官の顔が固まる。セラフィナは、私が逃げると思っていたのだろう。


 私は微笑んで一礼した。


「帳簿も封蝋も、丁寧に見せて差し上げます」


 査察官の一人が、推薦状をめくった瞬間に視線を泳がせた。やはり中身を知らないのではない。知っていて来ている。


 私は手紙をたたみ、引き出しにしまった。


 本物か偽物かを決めるのは、声の大きさではない。残された記録だけだ。


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