第10話 辺境市の戸口調査
台帳の嘘を潰すには、机から離れるのが一番早かった。
私はヨハン、衛兵隊長ディーター、町役場の書記ヘルガとともに、辺境市の戸口調査へ出た。ヘルガは三十二歳の実務家で、初対面から私に敬礼ではなく帳簿を差し出してきた。信用できる。
「この通り、死んだ家の名前がまだ残っています」
彼女が案内したのは川沿いの古い石畳区画だった。名簿上では七世帯が住んでいることになっているが、実際に戸を叩くと空き家が四つ、倉庫が二つ、酒場の裏口が一つしかない。
「冬の前、白曜慈善会の連中が来ました」
酒場の女将が教えてくれた。
「疫病で亡くなった人の名を『供養のためにも残しましょう』って書き写していたよ」
供養ではなく、搾取だ。
次に訪ねた粉挽き小屋では、五十代の職人が帳簿を見て吹き出した。
「この家の主人なら三年前に埋めた。墓まで案内しようか?」
私は墓標の年号を控え、支給記録の月と突き合わせる。死後三年、毎月きっちり麦と銀貨が出ていた。
ヘルガが別の紙束を出した。慈善会の名簿写しだ。
「この筆跡、財務局から来た男のものに似てます」
見覚えがある。オスカーの係で使う数字の崩し方だった。
日が暮れる頃には、架空世帯は四十一どころか五十三まで増えていた。紙の上で生かされた死人たちが、王都の懐を温めていたのだ。
「王都へ帰る理由が増えたな」
クラウスが結果表を受け取り、静かに言う。
「ええ。でも帰る時は、追い出された時とは違う顔をします」




