第6話 消えた救恤金の受領印
現地確認は、倉庫から始まった。
配給用の麦袋は帳簿上では昨日二十袋減っている。だが実際には十三袋しか動いていない。差額七袋。しかも受領書には存在しない世帯名が並んでいた。
「こちらのミナ・ルスト、カール・ルスト夫妻は?」
私が倉庫番に問うと、五十歳の男は困った顔をした。
「その名前、去年の疫病で亡くなっております」
私は受領書を机へ置く。そこには確かに、昨日の日付で受け取りの印が押されていた。
ブルーノが割り込む。
「現場の記憶違いでは」
「亡くなった夫婦が昨日麦を受け取りに来たのなら、幽霊ですね」
クラウスが静かに言った。
「続けろ」
私は別の帳票も出した。救恤金銀貨の払い出し記録。架空世帯への支給欄に、財務送金記号が同じ癖で記されている。王都財務局時代、何度も見た略記だった。
「この記号はフェルナー班のものです」
オスカーがかつて束ねていた係の内部符号。私は忘れていない。
倉庫の奥で音がした。若い事務員が裏口から逃げようとして、衛兵に取り押さえられた。懐から出てきたのは、未使用の受領印と白曜慈善会の推薦状。
ブルーノの喉が鳴る。
「そ、それは現場が勝手に……」
「勝手に公爵家の支給印を使えたのですか?」
私は彼を見た。ブルーノは視線を逸らした。
クラウスが命じる。
「架空世帯への支給を本日付で停止。実在確認の済んだ家だけへ再配分する」
私は頷き、受領書を束ねた。失われたのは金だけではない。生きた人間の食糧と冬を越す時間だ。
そしてその差額の先には、元婚約者の影が確かに伸びていた。




