表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/7

第6話 消えた救恤金の受領印

 現地確認は、倉庫から始まった。


 配給用の麦袋は帳簿上では昨日二十袋減っている。だが実際には十三袋しか動いていない。差額七袋。しかも受領書には存在しない世帯名が並んでいた。


「こちらのミナ・ルスト、カール・ルスト夫妻は?」


 私が倉庫番に問うと、五十歳の男は困った顔をした。


「その名前、去年の疫病で亡くなっております」


 私は受領書を机へ置く。そこには確かに、昨日の日付で受け取りの印が押されていた。


 ブルーノが割り込む。


「現場の記憶違いでは」


「亡くなった夫婦が昨日麦を受け取りに来たのなら、幽霊ですね」


 クラウスが静かに言った。


「続けろ」


 私は別の帳票も出した。救恤金銀貨の払い出し記録。架空世帯への支給欄に、財務送金記号が同じ癖で記されている。王都財務局時代、何度も見た略記だった。


「この記号はフェルナー班のものです」


 オスカーがかつて束ねていた係の内部符号。私は忘れていない。


 倉庫の奥で音がした。若い事務員が裏口から逃げようとして、衛兵に取り押さえられた。懐から出てきたのは、未使用の受領印と白曜慈善会の推薦状。


 ブルーノの喉が鳴る。


「そ、それは現場が勝手に……」


「勝手に公爵家の支給印を使えたのですか?」


 私は彼を見た。ブルーノは視線を逸らした。


 クラウスが命じる。


「架空世帯への支給を本日付で停止。実在確認の済んだ家だけへ再配分する」


 私は頷き、受領書を束ねた。失われたのは金だけではない。生きた人間の食糧と冬を越す時間だ。


 そしてその差額の先には、元婚約者の影が確かに伸びていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ