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第34話 国勢調査日の長い列

国勢調査当日の朝、民政館の前には開館前から列ができていた。


 商人、鉱夫、未亡人、鍛冶屋、教師、養父母、そして子どもたち。『自分の家を数えに来た人』の列だった。私は入口で一人ずつ名を呼び、ヘルガと控え書きを回し、アグネスが確認印を押していく。


「ハンナ・バウアー、エーミール・バウアー」

「在住継続、扶養継続、学齢対象」


 声に出して読み上げるたび、人の背筋が少しずつ戻っていくのが見えた。


 昼過ぎ、ベアトリクスがやって来た。今日は淡い白金のドレスで、いかにも『正統』を装っている。


「まあ。こんな即席の証言で国勢調査を?」


「即席ではありません。生活の積み重ねです」


 私は並んだ箱を示した。献金簿、母印帳、賃金帳、戸口札、学用品札、診療控え。豪華さはないが、どれも毎日使われた記録だ。


「国はこれほど雑な証拠で動きませんわ」


「国が動かなくても、私は動かします。ノルトハイムの台帳なので」


 彼女の後ろでは、ルードルフが青い顔で立っていた。盗みが失敗した上に、今は証人側へ回されている。


 列の最後尾にいた小さな女の子が、私の袖を引いた。


「おばさま。わたし、学校へ行ってもいいの?」


 私はしゃがみ込み、目線を合わせる。


「もちろんです。あなたの席は、最初からありました」


 その言葉を聞いた周囲が静かにざわめいた。数字の話をしていたはずなのに、人は時々、たった一言で自分の場所を思い出す。


 夕刻、仮集計が出る。四百二十九世帯、学齢児童四百二十八名。王都へ送られていた数字より、家も子どももきちんと多かった。


 私は署名欄へ自分の名を書いた。


 明日は辺境伯会議。ここで数えた全員を、今度は公の場で守りきる。


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