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第33話 夜の民政館と盗まれた箱

証拠が揃う頃になると、敵はたいてい夜を好む。


 辺境伯会議の二日前、民政館の裏口錠がこじ開けられた。私は物音で目を覚まし、外套も羽織らず二階へ走る。保管室の戸は半開きで、証拠箱が一つ消えていた。


「リーゼロッテ!」


 背後からクラウスが追いつく。私は床を指差した。割れた蝋、泥の付いた車輪跡、そして箱を引きずった細い筋。


「急いでます。中身を選り分ける時間もなく持ち出した」


 ディーター率いる衛兵が庭へ散り、私は残った蝋片を拾った。青い花紋。礼拝堂で見つけたものと同じ私印だ。


 さらに床には、粉のような白い石灰が落ちている。銀鉱町の倉庫床で使われるものだ。


「北門ではなく銀鉱町側へ抜けたわね」


 私は即座に言った。


「車輪幅も細い。荷馬車ではなく書類運搬用の軽車です」


 クラウスが頷き、命じる。


「西門を閉じろ。銀鉱街道へ回る軽車を全部止める」


 一時間後、街道詰所から報せが入った。ルードルフ・カイナーが軽車で抜けようとし、止められたと。荷台からは証拠箱のほか、未使用の国勢調査印まで出てきた。


 連行されたルードルフは最初こそ黙っていたが、アグネスが監査印つきの尋問書を見せると青ざめた。


「ベアトリクス様は……ただ、先に整理しておけと」


「何を」


「人数の弱い家をです。会議までに箱がなければ、補助証拠は散ると」


 私は彼を見下ろした。


「散るのは、あなた方の方です」


 箱は戻った。中身も無事だった。けれど一つだけ、家系図の比較用複写紙が抜かれていた。


 相手も、そこが一番痛いと知っている。なら会議では、その継ぎ目を真正面から剥がしてやればいい。


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