表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

30/40

第30話 家名を奪う仮相続人

ベアトリクスは待ってくれなかった。


 その三日後、公爵府へ正式な申立書が届く。銀鉱町旧アルヴェルト知行地における仮相続権の確認、未確定家族の住居整理、学舎補助金対象世帯の暫定縮小。紙の上で読めば冷たいほど整っていた。


「ずいぶん欲張りですね」


 私は申立書を机へ置く。


「住宅、補助金、街道費、鉱区管理。全部まとめて持っていく気です」


 クラウスは最終頁へ目を走らせた。


「後ろ盾は西方マルシュ伯だな」


 そこには、ベアトリクス単独ではなくマルシュ伯家の後援印があった。西方街道の整備費を長年欲しがっている家だ。ノルトハイムの世帯数が減れば、浮いた予算をそちらへ回す理屈が立つ。


「血筋ごっこで終わらないわけです」


 私が言うと、クラウスが頷いた。


「王都の補助金と鉱区を同時に狙っている。辺境を『人の少ない土地』にしてしまえば都合がいい」


 その夜、ハンナたちを公爵邸へ呼び、状況を説明した。ハンナは怖がったが、逃げるとは言わなかった。エーミールの方が先に口を開く。


「僕、ここに残りたいです。父さんの名前も、母さんの家も、消されたくない」


「消させません」


 私は少年の目を見て答えた。


「ただし、そのためにはあなたの家がここで生きていた証拠を、もっと揃える必要がある」


 ハンナが胸に手を当てる。


「なんでも出します。昔の食札も、マルクスの仕事靴も、婚礼の日の布切れでも」


「布切れは後で見せてください。そこに礼拝堂の刺繍が残っていれば、席次表と合うかもしれないので」


 説明が仕事の話へ滑ると、ハンナが少し笑った。緊張をほどくには、それが一番いい。


 会が終わったあと、私は窓辺に立つクラウスへ近づく。


「旦那様」


「なんだ」


「辺境伯会議では、あなたに公爵として立ってもらいます。でも壊すのは私の仕事です」


 クラウスは振り向き、私の額に短く触れた。


「知っている。だから私は、君が壊す前に壊されないよう立つ」


 夫婦というのは、どうやら便利な共同経営らしい。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ