第24話 焼けた礼拝堂の写し簿
翌朝、私はクラウスとヘルガを連れて、北門町外れの焼けた礼拝堂跡へ向かった。
石壁だけが残った建物には、今は仮祭壇と小さな倉庫がある。管理を任されている老助祭トビアスは六十二歳、灰だらけの鍵束を大事そうに握っていた。
「原本はほとんど駄目になりましたが、写し簿なら少し」
地下保管庫から出てきた箱は、煙の匂いを吸ったままだった。私は手袋をはめ、一冊ずつ開く。婚姻予告簿、献金簿、洗礼補助簿。火の手はひどかったのに、肝心の数頁だけが妙にきれいに抜き取られている。
「ここです」
私は空白の継ぎ目を指差した。ハンナとマルクスが式を挙げたとされる月の頁だけ、根元から切り取られていた。その次の冊子では、エーミールの養子縁組記録があるはずの欄に薄く剥がし跡が残っている。
「火事でこんなふうにはなりません」
ヘルガが頷いた。
「刃を入れてから持ち去ってます」
さらに奥から出てきた献金簿には、婚姻献金の一覧が残っていた。そこに『マルクス・バウアー、ハンナ・ケストナー』の名がある。日付も、ハンナの銀札と一致する。
「半分は取れましたね」
私は頁を写し取った。
その時、クラウスが床に落ちていた封蝋の欠片を拾う。白地に青い花の紋様。王都の高位貴族が使う私印だ。
「礼拝堂に来るには場違いだな」
「来たのでしょう。欲しい頁があったから」
トビアス神父が目を細める。
「火事の後にも、一度だけ王都の使いが来ました。妙に高い香りのする女で」
ベアトリクスだ。
私は欠片を布へ包んだ。焼けた礼拝堂に残っていたのは灰ではない。誰かがここまで来て、わざわざ家族を紙の上から殺した証拠だった。




