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歴史の陰 無口が世界で愛されるのには理由がある  作者: かづ


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89/91

4.13


夜行性の蛇たちは、サッタを襲った奴も含めて、昼間の奴らより体がデカい。

その分毒性は弱く、締め付け相手を弱らせるタイプらしい。


そういうことが、蛇と話をした訳ではないが分かってしまう。


自我と呼ばれるものを消し、体の、環境のすべてに合わせた意識状態でいると、世界の在り方が分かるというか流れ込んでくるというか、把握している。

これが世に言うアカシックレコードなのかもしれない。


アカシックレコードとは宇宙図書館と言われたりするが、宇宙創成からのすべての記憶が刻まれているとか未来も含めすべての情報があるとか言われるものだ。


全ての情報かどうかは知らないが、この体をつないでくださったご先祖様の記憶や情報がこの体には入っている。それがDNAである。

その体にある情報を理解できるのは所謂アカシックレコードにアクセスしているのと変わらないと思うが、もっと壮大で、もっと神秘的で、もっとロマンあふれる最上級の情報のように崇めている人には物足りない話だとは思う。


それでも現状、この地の多くのことを直観的に感じ取り、生物、無生物の内面を分かち合い同化させ整えることができるように感じる今の状態はとても心地の良い状態であった。


それでもこの状態はまだ悟りではないと分かった。

それは先程、説明したときに口にした言葉が出た途端、間違っていると感じたからだ。


悟りはこれではないらしい。


何だか全て分かった気になっているから、アカシックレコードと言われることを読み取れたから、これが悟りだと思ったが、これではないと感じる。


自我を消した今はそれが全てであった。

良いも悪いもないし、善も悪もない。感じたことが全てである。自我が消えるとはそういうことだ。

だから直観したことが全てだと言い切れる。

何も判断しない状態が、無我の境地である。



夜行性の蛇たちは、幾分体温の上昇を求めて生物に巻き付きたがる傾向があるようだ。

強烈に締め付けはしないが、多くのものが俺に纏わりつき、俺から暖を取って気持ちよさそうにしている。

だから、姿勢を保つことが難しい位の今の状況は、はたから見たらヤマタノオロチの様な化け物に見えるのかもしれない。


()があれば、何か、重いとか苦しいとかの感情から、今の状況をどうだと判断して、次の行動をとるためにどうするべきかを考えるのかもしれないが、今はそれを超えた心境にあった。


人は状況を言葉で説明することで、次の動作の理由を考え、合理的な行動を取っているのだ。

だから逆に、その状況を状況のまま見ている時には人は動くことができない。突発的な事故の時に多くの人が行動を取ることができないのはその為だろう。


今はそういう言葉から離れて、状況をただ受け入れているだけだから調和することが容易に出来ているのだ。



そうやって蛇と戯れ、遊んでいると、次第に薄日が差し込んでくるようになった。


終わってみるとなんだか寂しいようにも感じるほど余裕が残る。


もっと続いてもまだ限界には達しえないな、などと考えるとすぐに生意気なことを考えてしまったという後悔とは違うが、お叱りがふと湧き上がる。


確かにまだ悟ってはいないのだな。と実感を籠って感じた。




日の出が確認できているが、未だ迎えというか終了を告げる騎士たちがやってこない。


既に周りには夜行性の蛇たちではなく、昼行性の蛇たちの群れに変わっていた。

蛇も夜明けや夕方などの境目では姿を現さなかったのだが、既に周りに集まっているくらい、陽は高く昇っていて、少なくとも朝食の時間はとうに過ぎ、太陽の位置から考えてもブランチと言える時間帯だろうと思った。



その時、バサバサと鳥が何羽も飛び立ち、森に緊張感が走った。


何かと思い、想念を凝らすと、麓の周囲に人が集まっているのを感じた。

もう既にこの麓の森は自分の手足のように全てを見通すことができ、見る必要なく感覚で分かる。

数は多い。凡そ50名くらい、小隊だろう。それぞれ武器も携帯していた。


特に殺気立った感じはしなかったが、森に踏み込む足取りには警戒の色が濃いようだ。

人は自我がある分、自然とは明らかに違う何かを持っている。それを動物は敏感に感じ取っているのだろう。


これだけの人数が一度に入ってくるとなると、自分が中和させていた緊張が一気に高まるのは止められそうにない。

その緊張は森全体に、そして周囲の蛇たちにも広がり、警戒の空気が強まると、周囲の蛇は巣穴へと散って行ってしまった。


それに相手が武器を携帯した騎士である。こちらも無手で対応するのはよろしくない様に思えた。

これは森全体の空気がそう変わったから、こちらも反応するように警戒した行動だった。


取り敢えず、武器になりそうなものを探す。

まだ相手は森へと踏み込んだばかりである。ここまでの道のりはそれなりに時間がかかるはずだ。


木の枝、石を拾い集め、出方によっては、どうやって対応するか、または回避し逃げるかを考える。

相手は森の中を行軍中である。隊列はそれなりに長くなっている。


分隊を作って展開しこちらを包囲殲滅するような陣形ではないことを考えるとこちらを攻撃する意図はないのかもしれない。


それでも、試験の終わりを告げるには人数が多い上、装備もしている物々しい対応であり、普通とは違う状況を感じる。


昨日のように二人くらいであれば、無手でも対処できるという気持ちから、空気を落ち着かせることができるが、この数は流石に手に負えないと判断せざるを得なかった。

つまり、戦うのであれば、撤退を視野に入れ、できうる限り衝突を避けるような行動が必要だと結論を出した。


受験者で集まって迎撃することも一瞬頭を過ったが、多勢に無勢で、変わらないこともあって、それぞれが生き延びられる可能性に賭け、散り散りになった方が合理的に思えた。


岩陰に隠れ、隊列を組んでいたメンツを見ると、昨日試験官として来ていた二人を含む小隊であった。

少し耳を澄ませると会話が聞こえてきた。

「おっかしいな、確かここのはずなんだけど」

「ああ、間違いない、ここにいらっしゃったようだ。まだ地面に温かさがほん僅かだが残っている。何かあって外しているのかもしれない」

「でも隊長たちが言っていたような不思議な感覚はありませんけどね。いつもと変わらないと思います」

「いやよく見ると、蛇の這った後が、無数に確認できる。蛇の大繁殖があった可能性は高い。隊長が考えるように早いうちに対処してしまった方が、人への被害を抑えられるだろう」


ここに小隊を連れてきたのは蛇たちを狩るためだったようだ。


その為に大勢でここに来たと分かれば、隠れている必要はない。

姿を見せることにした。


俺が動き、ガサガサという物音にすぐに反応し発見から声が上がる。

「あ!レオナルド様だ!」

「おお、ご無事で何よりです」

皆それぞれ騎士ではあるが、家格から自分のことを様付で敬意を持って接してくれるし、気も優しい人間性を持っていた。

一言で言えば、良い奴らなのだ。

「ああ、ありがとう」

「これでこの試験は終わりです。・・・それで相談なのですが、もう一度蛇たちを集めていただけませんでしょうか。昨日見た蛇たちの個体数があまりにも多くいましたので・・・、その数を減らしておいた方が良いのではないかと思いまして、頭数を揃えてここにやって来たのです。どうかもう一度レオナルド様のお力で蛇を呼び出してほしいのですが・・・」

試験官に試験の終了を告げられた後、すぐに予想通りの頼みごとに、やっぱりなと思いすぐに返事を返した。

「それなんだが、ちょっとできない。・・・ああ、いや、別に意地悪で言っているんじゃなくて、皆、それぞれ身構えているだろ、これだと難しいんだよ。蛇も警戒しちゃっているし、皆もなんとなくわかるだろ、穏やかであれば蛇も集められるだろうが、ここにいる全員がさ、同じようになれと言われてすぐになれるなんて、出来ないだろ。だから出来なんだよ」

「ふむ、つまり、人数と心の問題ですか。昨日我々が来た時は出来ていたことを考えると絶対にできないという訳ではないのでしょ。何人であればいけますか?」

「・・・・結論から言えば、蛇たちが確実にお前たちに負けないと思えるくらいと言えばいいか、つまり、駆除を思っているのであれば、上手く行かないというか、死を覚悟して挑めというか、・・・・諦めた方が良いんじゃないか?蛇たちは普段から集団で狩りをする訳ではないのだし、ここに近づく人が怪我をしないための予防としては、良いと言えるが、その為に騎士が何人か亡くなるなんて、計算が可笑しいだろ」

この言葉は効いたようで、押し黙った後、諦めてくれた。


「そうですね、見たからにはなんとかせねばと思いましたが、近づく者たちに注意を促すことの方がよさそうです。正直知らなければ、やろうとすることは無かったわけですし」

「ああ、おそらく蛇が増える時期もあれば、それを捕食するものが増える時期もあるという循環だろうから、俺たちが懸命にならずともそれで生態系は守られるんだ、現実は。今までもそうだったのだろうし。俺たちは人の領域まで来る動物から人民を守ることだろ。領分を守ることがそれぞれの命を守ることになるんだ」

「そうかもしれませんね。・・・それじゃ、別の受験者の所に向かいましょうか」



そしてそれぞれの受験者の所に向かい、試験の終わりを通知した。


受験者全員が揃ったところで改めて、試験担当の騎士が合格を通知する段になって、ブランビッラ家長男のエリックから意義申し立てがあった。

「本当に全員が合格するのか?」

「ん?どういうことだ?」

「だって、一日目の夜、俺じゃない誰かが、叫び声をあげていたぞ。そいつは少なくとも何かあったのだと思ったのだが、違うのか?本当に無事に試験を乗り越えたのか?しっかり調べた方が良いんじゃないか?」


このエリックの申し立てであからさまに顔色を変えたのがサッタだった。

誰も疑ってはいなくとも自ら申し開きを始めた。

「そ、それは俺が声をあげちまったんだ。ちょいと驚いてさぁ、で、でもなんともなかったんだ。本当だ。無事に、事なきをえている。不信に思うなら、な、何なら調べてもらっても構わねぇ」

目は少し泳いでいたが、隊長が号令を出して、小隊の皆が調べ出した。

人数もいるからサッタだけでなく、全員調べられたが、特に問題が無かった。


虫刺されさえも許さないという訳ではないにしても、結構入念に調べられたが、誰も怪我らしい怪我はしていなかった。


「問題ないみたいだな。では全員が合格で・・・」

とこの瞬間に今度はブランビッラ家次男のリカルドが声を挙げた。

「いやいや、ちょっと待ってくれ、俺は見たんだ。その一日目の夜にサッタが蛇に襲われている所を。それをレオナルドが助けていたのも見たんだ。そんな他人の力を借りて合格するのはありなのか?それで受かって恥ずかしくないのか?それに助けるのは良いのか?試験は一人で受けるものだろ。俺はおかしいと思うぞ、こんなの」


年齢から言ったら随分小さいことを気に掛ける奴だなと思いながら、試験官の方へ顔を向け対応を待った。

小隊隊長が代表して応え始めた。

「試験に関して不服があるようだが、この試験はお前の考えるような試験ではないぞ」

「え?他人の力を借りるのは不正だろ。こんなの当たり前だろ?」

「他人の力を借りるのが駄目であれば、お前ら全員合格できなくなるがそれでもいいか?」

「え」

「自分一人で試験を受けている訳ではないのは最初から分かっていた事だろ、それぞれがそれぞれのやり方で試験を受け、その影響を与え合って今に至っているんだ。離れたところにいるからと言って、関係ないとか、影響が何もないなどあり得ないだろ。お前の言う試験のやり方だと一人だけしか森に入ることは許されないというやり方でなければ成り立たないじゃないか?これはそうではない事は最初から分かっているだろ。だから別にレオナルド様が助けようが、お前が助けようが構わない。試験官が張り付いてお前たちを見ないのは試験官は助けないという前提があるだけだ。それ以外は助け合って何が悪い。実際の現場では知っての通り、全員が助け合うことが前提だ。仲間を見捨てるような奴が騎士に成れると思うな。このことで一番評価を落としたのはサッタではなく、お前だと理解しているか?」

「え」

「物陰に隠れ、一連を見ているだけで、後から告げ口のように状況を報告するなど、恥ずかしい行為だろ。お前はそれで受かって恥ずかしくないのか?それらを理解していない者が、同じ騎士になるというのは私は甚だ遺憾に感じるが」

「なんだよ、それ!言っていることは分かるが・・・・、俺だって別に告げ口をしたかった訳じゃないんだ、ただ、ズルいような気がしたし、一人で全てを解決できる人間が騎士には相応しいと思っただけなんだ、悪気はなかったんだよ」

「ああ、分かっている。お前の言わんとしていることは。だから今回のことでお前を不合格にすることは無い。それに知っていると思うが騎士とは死ぬまで精進あるのみだ。助けられた者は次は助ける側に成れるように精進し続けなければならないし、己の行動が常に本当に良かったのかを内省することが必要なのだ。こんなところ最低限の通過点でしかないのだから、満足することなくより一層努力し続けることが重要なんだ。今回は結果全員が達成したことには変わりない。よって合格とする。そしてここから一層励む様に。以上」


試験というものは、受ける側は越えられるか分からないような崇高で高く聳え立った壁に見えるが、試験を超えたことがある者から見れば、取るに足らない通過点でしかない。

実際この試験は通過点としての意味合いが大きい。

騎士として、人々に見せられる最低限の能力と精神が備わっているかどうかを見ているだけだ。


それが通過する前には良く分からない。

自分の力が認められていないのだと肩に力が入り自分に集中するから、見られている自分を意識できない。

この試験は一般人に見せられる、見せても恥ずかしくない様な人間を通すためにあると言えた。


だから威張れるわけではないし、誇りに思う事すら憚られる程度の出来事だと思えるようでなければならない。


それがこの世界の試験の役割であった。



そして屋敷に帰り、報告をしようと思って父上の執務室の前に通りかかると、青い顔をしたマリーナが部屋から出て来た。

俺に気付くことなくいそいそと部屋に向かってしまった。


どうしたのだろうかと思いながらも自分の用事を先に済ませようと執務室に許しを得て入れてもらい、話をしようと思ったら、父上からため息交じりに先に話があった。

「レオナルド、帰ったか。落ち着いて聞いてくれ、マリーナとの婚約が破棄されることになった。彼女は帝国へと嫁に出すことにしたそうだ」


意味が分からず、今まで得たすべてのことが一瞬でデリートされた感覚になった。

最後まで読んでくださり、誠にありがとうございます。

精鋭の読者のお陰で続けられています。

本当にありがとうございます。


喜怒哀楽の何か感じたら、評価、ブックマークをお願いします。

今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます。

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